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受精卵が残り2個に。このまま移植を続けるべき?
「自然周期はキャンセルになる可能性があり、ホルモン補充は精神状態や体調が悪くなるため、もうやりたくありません。」
2017.11.20
コラム 不妊治療
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無痛分娩について
無痛分娩について 2017/11/20 牛丸 敬祥 先生(ガーデンヒルズウィメンズクリニック) 無痛分娩とは。その方法など 30年以上前の無痛分娩とは、単に睡眠薬を飲ませて、妊婦がもうろうとした時に出産させるというものだったり、吸入麻酔による出産でした。吸入麻酔では使用する麻酔薬が肝臓機能への負担が大きすぎるということで徐々にすたれ、現在、世界中の無痛分娩の主流は「硬膜外麻酔」です。硬膜外麻酔とは、背中から脊髄近くの硬膜の外側の硬膜外腔にカテーテルを挿入し、そのカテーテルから、麻酔薬をゆっくりと出産まで、長時間注入する方法です。分娩は長くて5日かかる人もいます。そんな方には、長時間の陣痛の痛みを我慢しながらのご出産は負担が大きいと思われます。 硬膜外麻酔は世界的にも最も多く使われている安全な無痛分娩の方法なのです。 無痛分娩は人工的で危険なのでは?というイメージも未だにあるそうですが、実は立派な自然分娩の方法のひとつです。特に当院では陣痛促進剤はなるべく使わず、すなわち計画分娩は行わず、自然に起こる陣痛を待ってから処置を行いますので極めて安全な無痛分娩です。お産は自然が一番安全です。なるべく人工的な処置を加えないお産が安全なので、そのように対応しています。 無痛分娩のメリット、デメリットは? 無痛分娩の痛みは通常の出産の痛みのわずか1/10程度と言われているだけでなく、陣痛の痛みを軽減することによって、副交感神経が優位になり、リラックスできますので、産道が広がりやすく分娩時間も半分ほどで済み、赤ちゃんも母体もストレスが少ないのが特徴。余裕を持って出産に挑むことができます。自然分娩にこだわるあまり、痛みで食事もとれず恐怖でパニックになり過呼吸で苦しむなど、せっかくの新しい命の誕生前に修羅場のような状態で果たして良いのでしょうか。 また、出産時には、痛みのために血圧の数値が、通常よりも40~60mmHGほど上がると言われています。通常の血圧150mmHGの人が200mmHGを超えたら脳出血などの危険性が高まります。また、無痛分娩の場合、痛みで出産時に呼吸を止めるようなことがほぼないので赤ちゃんへ酸素が充分に行き渡り、お母様も赤ちゃんも苦しさが大幅に減少します。 さらに、自然分娩時には早くこの痛みから逃れたいという辛さから、いきんではいけない時にいきんでしまい、会陰裂傷がひどくなる場合があります。しかし無痛分娩時は母体も落ち着いているので医師や看護師の指示をしっかり聞いてくれ、裂傷が最小限に抑えられた出産になります。出血も少なく、快復も早く良いことずくめ。30〜40年ほど前は、日本で年間300~400人の女性が「産後の失血」で命を落としていました。それを考えると安全な無痛分娩が享受できるいまのお母さんたちは本当に幸せです。 デメリットといえば、自然分娩より少し余分に費用がかかることくらい。また、昨今無痛分娩の事故のニュースが世間を騒がせています。当院は院長が、産婦人科医でも有り、麻酔医でもありますのでみなさん安心して出産を迎えられます。麻酔に不安がある方は、事前にじっくりと医師と相談したり、クリニックが行う無痛分娩教室などで納得いくまで知識を得ることも大切です。 無痛分娩ができない場合はある? ほとんどありませんが、神経や血液疾患、感染症に罹患している方などは事前に主治医にご相談ください。自然でも無痛でも言えることですが、安産のためには「肥満は避ける」こと。そして医師の指示はちゃんと聞くこと。患者さんに「先生は厳しかった。でも言うことを聞いて良かった」と言われますよ(笑) 先日90kgオーバーの妊婦の無痛分娩を行いました。どんな方にもおすすめできますが、中でも高齢出産や血圧に不安がある人などは、出産時の危険性を減らすためにも積極的に無痛分娩を考えてみてはいかがでしょう。 分娩方法に悩んでいるママにメッセージを 欧米では60%、お隣韓国でも20%の妊婦が無痛分娩を選ぶ現代社会において、日本での無痛分娩率はわずか5.2%という低さです。そんな「お腹を痛めて産まないと」という考えはもやは時代錯誤でナンセンス。あなたは麻酔なしで手術を受けることができますか? お産の痛みも、手術の痛みも同じ痛みだと思います。陣痛の痛みは、「男性ならば気絶するくらいの強い痛みだと言われています」楽しく、疲れない出産があるのになぜ自ら苦しむの? という価値観の家族が増えてきました。不安要素をひとつずつ潰しながら、最終的には産むあなたが納得できる分娩方法を決めてください。出産を最初から最後まで笑顔で楽しめることを願っています。 お話を伺った方のご紹介 牛丸敬祥先生(ガーデンヒルズウィメンズクリニック) 長崎大学医学部卒。長崎大学産婦人科入局後、産婦人科医療や体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究を行うなど研鑽を重ね、現在まで15,000例以上の出産を経験。2007年「ガーデンヒルズウィメンズクリニック」を開院。小児科、麻酔科での経験も生かし、安心できる新生児の管理と硬膜外麻酔による無痛分娩を得意とする。 ≫ ガーデンヒルズウィメンズクリニック 無痛分娩について 2017/11/20 牛丸 敬祥 先生(ガーデンヒルズウィメンズクリニック) 無痛分娩とは。その方法など 30年以上前の無痛分娩とは、単に睡眠薬を飲ませて、妊婦がもうろうとした時に出産させるというものだったり、吸入麻酔による出産でした。吸入麻酔では使用する麻酔薬が肝臓機能への負担が大きすぎるということで徐々にすたれ、現在、世界中の無痛分娩の主流は「硬膜外麻酔」です。硬膜外麻酔とは、背中から脊髄近くの硬膜の外側の硬膜外腔にカテーテルを挿入し、そのカテーテルから、麻酔薬をゆっくりと出産まで、長時間注入する方法です。分娩は長くて5日かかる人もいます。そんな方には、長時間の陣痛の痛みを我慢しながらのご出産は負担が大きいと思われます。 硬膜外麻酔は世界的にも最も多く使われている安全な無痛分娩の方法なのです。 無痛分娩は人工的で危険なのでは?というイメージも未だにあるそうですが、実は立派な自然分娩の方法のひとつです。特に当院では陣痛促進剤はなるべく使わず、すなわち計画分娩は行わず、自然に起こる陣痛を待ってから処置を行いますので極めて安全な無痛分娩です。お産は自然が一番安全です。なるべく人工的な処置を加えないお産が安全なので、そのように対応しています。 無痛分娩のメリット、デメリットは? 無痛分娩の痛みは通常の出産の痛みのわずか1/10程度と言われているだけでなく、陣痛の痛みを軽減することによって、副交感神経が優位になり、リラックスできますので、産道が広がりやすく分娩時間も半分ほどで済み、赤ちゃんも母体もストレスが少ないのが特徴。余裕を持って出産に挑むことができます。自然分娩にこだわるあまり、痛みで食事もとれず恐怖でパニックになり過呼吸で苦しむなど、せっかくの新しい命の誕生前に修羅場のような状態で果たして良いのでしょうか。 また、出産時には、痛みのために血圧の数値が、通常よりも40~60mmHGほど上がると言われています。通常の血圧150mmHGの人が200mmHGを超えたら脳出血などの危険性が高まります。また、無痛分娩の場合、痛みで出産時に呼吸を止めるようなことがほぼないので赤ちゃんへ酸素が充分に行き渡り、お母様も赤ちゃんも苦しさが大幅に減少します。 さらに、自然分娩時には早くこの痛みから逃れたいという辛さから、いきんではいけない時にいきんでしまい、会陰裂傷がひどくなる場合があります。しかし無痛分娩時は母体も落ち着いているので医師や看護師の指示をしっかり聞いてくれ、裂傷が最小限に抑えられた出産になります。出血も少なく、快復も早く良いことずくめ。30〜40年ほど前は、日本で年間300~400人の女性が「産後の失血」で命を落としていました。それを考えると安全な無痛分娩が享受できるいまのお母さんたちは本当に幸せです。 デメリットといえば、自然分娩より少し余分に費用がかかることくらい。また、昨今無痛分娩の事故のニュースが世間を騒がせています。当院は院長が、産婦人科医でも有り、麻酔医でもありますのでみなさん安心して出産を迎えられます。麻酔に不安がある方は、事前にじっくりと医師と相談したり、クリニックが行う無痛分娩教室などで納得いくまで知識を得ることも大切です。 無痛分娩ができない場合はある? ほとんどありませんが、神経や血液疾患、感染症に罹患している方などは事前に主治医にご相談ください。自然でも無痛でも言えることですが、安産のためには「肥満は避ける」こと。そして医師の指示はちゃんと聞くこと。患者さんに「先生は厳しかった。でも言うことを聞いて良かった」と言われますよ(笑) 先日90kgオーバーの妊婦の無痛分娩を行いました。どんな方にもおすすめできますが、中でも高齢出産や血圧に不安がある人などは、出産時の危険性を減らすためにも積極的に無痛分娩を考えてみてはいかがでしょう。 分娩方法に悩んでいるママにメッセージを 欧米では60%、お隣韓国でも20%の妊婦が無痛分娩を選ぶ現代社会において、日本での無痛分娩率はわずか5.2%という低さです。そんな「お腹を痛めて産まないと」という考えはもやは時代錯誤でナンセンス。あなたは麻酔なしで手術を受けることができますか? お産の痛みも、手術の痛みも同じ痛みだと思います。陣痛の痛みは、「男性ならば気絶するくらいの強い痛みだと言われています」楽しく、疲れない出産があるのになぜ自ら苦しむの? という価値観の家族が増えてきました。不安要素をひとつずつ潰しながら、最終的には産むあなたが納得できる分娩方法を決めてください。出産を最初から最後まで笑顔で楽しめることを願っています。 お話を伺った方のご紹介 牛丸敬祥先生(ガーデンヒルズウィメンズクリニック) 長崎大学医学部卒。長崎大学産婦人科入局後、産婦人科医療や体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究を行うなど研鑽を重ね、現在まで15,000例以上の出産を経験。2007年「ガーデンヒルズウィメンズクリニック」を開院。小児科、麻酔科での経験も生かし、安心できる新生児の管理と硬膜外麻酔による無痛分娩を得意とする。 ≫ ガーデンヒルズウィメンズクリニック
2017.11.20
コラム 妊娠・出産
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卵子の質が悪く多嚢胞も。今後も同じ治療を続けるべき?
「医師からは、「またチャレンジしよう」と言われますが、今後も同じ治療を繰り返して質の良い卵子が採れるのを待つしかないのでしょうか。」
2017.11.17
コラム 不妊治療
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卵管閉塞で自然妊娠を希望。FTは効果がありますか?
卵管閉塞で自然妊娠を希望。FTは効果がありますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:コリラさん(40歳) 卵管形成術について 2人目を希望し、2カ月前から治療を開始。卵管の両側閉塞で、できれば自然妊娠でという希望があり、卵管形成術を検討しています。いくつかの病院のHPを調べると「ひだの状態を確認でき、自然妊娠が可能な卵管かを判断できる」とあったのですが、主治医によると「解像度が悪すぎて見えない。通過したかどうかしかわからない」とのこと。病院によって使用しているファイバースコープの精度が違うのでしょうか。また、術後、子宮外妊娠は2割くらいと説明されたのですが、他の病院のHPでは2%程度と記載されていました。本当はどうなのでしょうか。FTがかなり効果的といっている病院もあれば、有用性があるとはいえないという記事もあり、情報の違いに悩んでいます。 コリラさんが検討しているFTとはどんな施術なのでしょうか。 FT(卵管鏡下卵管形成術)は、片側、もしくは両側の卵管が閉塞している人に行う治療です。麻酔をした後、内視鏡を内蔵した細いカテーテルを腟から子宮へ挿入して卵管内へ進み、カテーテルのバルーンを膨らませて詰まっている部分を押し広げます。日帰りでできる手術なので体への負担が少なく、保険適用の治療なので、ハードルはそれほど高くないと思います。 卵管に詰まりが認められた場合、当院ではまず子宮鏡下で通水を行って疎通をはかり、それでも通らない場合はFTを実施している本院や大学病院をご紹介しています。 臨床の印象では、FTまで進まなければいけないケースはそれほど多くなく、通水をすれば閉塞はほとんど解消し、7~8割の方は通るようになりますね。 コリラさんの主治医の先生がおっしゃるように、「解像度が悪くて通過の確認しかできない」ということはあるのですか。 そのようなことはないと思いますね。国内ではほとんど同じメーカーの機器を使っていると思うので、施設によって解像度に大きな差があるというのも考えにくいと思います。 卵管は収縮しますから、検査時のコンディションや病態によっては瞬時に細部を確認できなかったり、検査する医師の技量によって正確な観察や診断ができないこともあるかもしれません。ですが、ほとんどの場合はきれいに見えて、通過性も確かめることができると思います。 FTに関しては先生や施設によっていろいろな考え方があると思います。FTを受けて一度開通しても、また閉塞してしまうこともあるので、その点では「とても有効とは言えない」と考える先生もいるかもしれません。もしかしたら担当の先生もそのように思っているから、否定的な発言になったともとれます。 ただ自然妊娠を望んでいる方にとっては、今まで通っていなかった卵管が通ることで何割か妊娠率の上昇を期待できるので、FTを受けてみる意味はあると思いますね。 子宮外妊娠の確率については? FTを受けた方の2割が子宮外妊娠するという解釈は正しくないのでは? おそらく100人の方がFTを受けて、そのうち20人の方が妊娠されて、20人の中の2割程度が子宮外妊娠するということではないでしょうか。 それもFTを受けたから子宮外妊娠するのではなく、閉塞を起こす人はもともと子宮外妊娠を起こしやすい卵管なので、通してあげればそのようなリスクもないとはいえないという程度だと思います。これに関しては、あまり神経質に考えなくてもいいのではないでしょうか。 北村先生より まとめ ●施設によって精度が大きく変わることはなく、画像もきれいに見えます。 ●FTを受けたことで子宮外妊娠を起こすということはありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。腱鞘炎を起こしてしまい、湿布とサポーターで治療中という北村先生。趣味のゴルフはしばらくできませんが、その分、プールで泳ぐことで体力作りをしているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 卵管閉塞で自然妊娠を希望。FTは効果がありますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:コリラさん(40歳) 卵管形成術について 2人目を希望し、2カ月前から治療を開始。卵管の両側閉塞で、できれば自然妊娠でという希望があり、卵管形成術を検討しています。いくつかの病院のHPを調べると「ひだの状態を確認でき、自然妊娠が可能な卵管かを判断できる」とあったのですが、主治医によると「解像度が悪すぎて見えない。通過したかどうかしかわからない」とのこと。病院によって使用しているファイバースコープの精度が違うのでしょうか。また、術後、子宮外妊娠は2割くらいと説明されたのですが、他の病院のHPでは2%程度と記載されていました。本当はどうなのでしょうか。FTがかなり効果的といっている病院もあれば、有用性があるとはいえないという記事もあり、情報の違いに悩んでいます。 コリラさんが検討しているFTとはどんな施術なのでしょうか。 FT(卵管鏡下卵管形成術)は、片側、もしくは両側の卵管が閉塞している人に行う治療です。麻酔をした後、内視鏡を内蔵した細いカテーテルを腟から子宮へ挿入して卵管内へ進み、カテーテルのバルーンを膨らませて詰まっている部分を押し広げます。日帰りでできる手術なので体への負担が少なく、保険適用の治療なので、ハードルはそれほど高くないと思います。 卵管に詰まりが認められた場合、当院ではまず子宮鏡下で通水を行って疎通をはかり、それでも通らない場合はFTを実施している本院や大学病院をご紹介しています。 臨床の印象では、FTまで進まなければいけないケースはそれほど多くなく、通水をすれば閉塞はほとんど解消し、7~8割の方は通るようになりますね。 コリラさんの主治医の先生がおっしゃるように、「解像度が悪くて通過の確認しかできない」ということはあるのですか。 そのようなことはないと思いますね。国内ではほとんど同じメーカーの機器を使っていると思うので、施設によって解像度に大きな差があるというのも考えにくいと思います。 卵管は収縮しますから、検査時のコンディションや病態によっては瞬時に細部を確認できなかったり、検査する医師の技量によって正確な観察や診断ができないこともあるかもしれません。ですが、ほとんどの場合はきれいに見えて、通過性も確かめることができると思います。 FTに関しては先生や施設によっていろいろな考え方があると思います。FTを受けて一度開通しても、また閉塞してしまうこともあるので、その点では「とても有効とは言えない」と考える先生もいるかもしれません。もしかしたら担当の先生もそのように思っているから、否定的な発言になったともとれます。 ただ自然妊娠を望んでいる方にとっては、今まで通っていなかった卵管が通ることで何割か妊娠率の上昇を期待できるので、FTを受けてみる意味はあると思いますね。 子宮外妊娠の確率については? FTを受けた方の2割が子宮外妊娠するという解釈は正しくないのでは? おそらく100人の方がFTを受けて、そのうち20人の方が妊娠されて、20人の中の2割程度が子宮外妊娠するということではないでしょうか。 それもFTを受けたから子宮外妊娠するのではなく、閉塞を起こす人はもともと子宮外妊娠を起こしやすい卵管なので、通してあげればそのようなリスクもないとはいえないという程度だと思います。これに関しては、あまり神経質に考えなくてもいいのではないでしょうか。 北村先生より まとめ ●施設によって精度が大きく変わることはなく、画像もきれいに見えます。 ●FTを受けたことで子宮外妊娠を起こすということはありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。腱鞘炎を起こしてしまい、湿布とサポーターで治療中という北村先生。趣味のゴルフはしばらくできませんが、その分、プールで泳ぐことで体力作りをしているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.17
コラム 不妊治療
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PCOS、卵管留水腫の疑い。結果しだいでは手術すべき?
PCOS、卵管留水腫の疑い。結果しだいでは手術すべき? 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 相談者:ぽんさん(33歳) 多嚢胞性卵巣症候群・卵管留水腫の疑い 3年前に卵巣嚢腫の腹腔鏡手術をし、両方嚢腫のみの摘出手術をしました。皮様嚢腫でした。今月5月から不妊専門病院に通院、血液検査の結果、多嚢胞性卵巣症候群と診断されました。生理は順調だったので驚きました。左の卵巣に4㎝ほど水が溜まっているかも、癒着しているかも、卵管留水腫かもしれないと言われ、MRIを受ける予定です。卵管造影検査では異常なしと言われたのに、なぜでしょう? MRIで異常が見つかった場合は手術しかありませんか? 次周期から人工授精を始めるつもりですが、ステップアップが早くて不安です。 血液検査で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されました。 PCOSは、卵巣の超音波検査と、血液中のホルモン検査で診断されたのだと思います。PCOSとは、卵巣内に卵胞がたくさんでき、ある程度の大きさにはなるのですが、排卵が起こりにくくなる病態です。しかし、PCOSの卵巣でも排卵があり、月経周期が順調な場合も多々あります。ご相談者のぽんさんの場合はそのような状態で、特に心配はないと推測します。 卵管造影検査では異常なしと言われましたが、卵管留水腫かもしれないとのことでMRIを受けるご予定です。 子宮卵管検査で、卵管留水腫の診断は可能です。ただし、子宮卵管造影検査も、単に造影剤を流し入れるだけで終了しては、確定診断はできません。造影剤を注入してから、少なくとも1時間後には再度撮影を行うことが大事です。卵管留水腫は、何らかの原因で卵管開口部、卵管采が閉鎖されてしまったことで、卵管内の粘液分泌細胞から産生された卵管液が、卵管膨大部に貯留した状態を言います。ただ、この卵管液の産生は、女性ホルモンによって制御されるため、月経周期によって卵管内に貯留する液量も変動することが考えられます。ぽんさんの場合、最初の子宮卵管造影検査では異常なしでしたが、その後卵管留水腫かもしれないとのこと。やはり、ご担当医にしたがって、念のためMRIを受けられると良いと思います。 MRIで異常が見つかった場合は、手術が必要ですか。 MRIでも正常卵管は映し出されませんが、卵管液が卵管膨大部に貯留している場合は容易に判断ができます。また、卵巣嚢腫であれば、卵巣嚢腫の判断も容易にできます。もし、卵管留水腫であった場合でも、必ずしも手術が必要とは限りません。卵管留水腫の場合、卵管開口部が閉じているために、当然排卵した卵子が受け取られないピックアップ障害となります。治療としては、卵管開口術、卵管切除術などがありますが、大量のおりものや感染による下腹部痛、発熱などがある場合は手術を考える必要があります。ぽんさんのように一般不妊治療(タイミング、人工授精)の場合は、卵管留水腫の卵管は使えませんので、健常な卵管での受精となります。したがって、健常な卵管側での排卵が必要となりますので、卵巣刺激(経口の排卵誘発剤)を検討すべきでしょう。 ステップアップの早さに戸惑いがあるようですが、33歳で「できるだけ早く妊娠したい」とあれば、妥当だと思います。 福田先生より まとめ ●卵管造影検査で卵管留水腫の診断は可能ですが、念のためにMRIを受けて! ●35歳を過ぎると妊娠率が低下するので、不安がらずにステップアップを。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア大学産婦人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人科学教室講師を経て、1993年福田ウイメンズクリニック開院。女性スタッフばかりですし、できるだけ長く勤めていただきたいので、当院にも“働き方改革”が必要かもしれないと、模索している最中です。これからも、患者さんにも、スタッフにも、女性に優しいクリニックを目指したいですね。 ≫ 福田ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら PCOS、卵管留水腫の疑い。結果しだいでは手術すべき? 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 相談者:ぽんさん(33歳) 多嚢胞性卵巣症候群・卵管留水腫の疑い 3年前に卵巣嚢腫の腹腔鏡手術をし、両方嚢腫のみの摘出手術をしました。皮様嚢腫でした。今月5月から不妊専門病院に通院、血液検査の結果、多嚢胞性卵巣症候群と診断されました。生理は順調だったので驚きました。左の卵巣に4㎝ほど水が溜まっているかも、癒着しているかも、卵管留水腫かもしれないと言われ、MRIを受ける予定です。卵管造影検査では異常なしと言われたのに、なぜでしょう? MRIで異常が見つかった場合は手術しかありませんか? 次周期から人工授精を始めるつもりですが、ステップアップが早くて不安です。 血液検査で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されました。 PCOSは、卵巣の超音波検査と、血液中のホルモン検査で診断されたのだと思います。PCOSとは、卵巣内に卵胞がたくさんでき、ある程度の大きさにはなるのですが、排卵が起こりにくくなる病態です。しかし、PCOSの卵巣でも排卵があり、月経周期が順調な場合も多々あります。ご相談者のぽんさんの場合はそのような状態で、特に心配はないと推測します。 卵管造影検査では異常なしと言われましたが、卵管留水腫かもしれないとのことでMRIを受けるご予定です。 子宮卵管検査で、卵管留水腫の診断は可能です。ただし、子宮卵管造影検査も、単に造影剤を流し入れるだけで終了しては、確定診断はできません。造影剤を注入してから、少なくとも1時間後には再度撮影を行うことが大事です。卵管留水腫は、何らかの原因で卵管開口部、卵管采が閉鎖されてしまったことで、卵管内の粘液分泌細胞から産生された卵管液が、卵管膨大部に貯留した状態を言います。ただ、この卵管液の産生は、女性ホルモンによって制御されるため、月経周期によって卵管内に貯留する液量も変動することが考えられます。ぽんさんの場合、最初の子宮卵管造影検査では異常なしでしたが、その後卵管留水腫かもしれないとのこと。やはり、ご担当医にしたがって、念のためMRIを受けられると良いと思います。 MRIで異常が見つかった場合は、手術が必要ですか。 MRIでも正常卵管は映し出されませんが、卵管液が卵管膨大部に貯留している場合は容易に判断ができます。また、卵巣嚢腫であれば、卵巣嚢腫の判断も容易にできます。もし、卵管留水腫であった場合でも、必ずしも手術が必要とは限りません。卵管留水腫の場合、卵管開口部が閉じているために、当然排卵した卵子が受け取られないピックアップ障害となります。治療としては、卵管開口術、卵管切除術などがありますが、大量のおりものや感染による下腹部痛、発熱などがある場合は手術を考える必要があります。ぽんさんのように一般不妊治療(タイミング、人工授精)の場合は、卵管留水腫の卵管は使えませんので、健常な卵管での受精となります。したがって、健常な卵管側での排卵が必要となりますので、卵巣刺激(経口の排卵誘発剤)を検討すべきでしょう。 ステップアップの早さに戸惑いがあるようですが、33歳で「できるだけ早く妊娠したい」とあれば、妥当だと思います。 福田先生より まとめ ●卵管造影検査で卵管留水腫の診断は可能ですが、念のためにMRIを受けて! ●35歳を過ぎると妊娠率が低下するので、不安がらずにステップアップを。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア大学産婦人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人科学教室講師を経て、1993年福田ウイメンズクリニック開院。女性スタッフばかりですし、できるだけ長く勤めていただきたいので、当院にも“働き方改革”が必要かもしれないと、模索している最中です。これからも、患者さんにも、スタッフにも、女性に優しいクリニックを目指したいですね。 ≫ 福田ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.17
コラム 不妊治療
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単角子宮に加え軽度のPCOSも。クロミッドⓇの連続服用が心配
「1年前から不妊治療を開始し、卵管造影検査により単角子宮が発覚しました。その後クロミッド®とHMGの注射でタイミング療法をしています。」
2017.11.17
コラム 不妊治療
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多嚢胞性卵巣症候群は薬が効きにくいのでしょうか?
多嚢胞性卵巣症候群は薬が効きにくいのでしょうか? 佐藤 雄一 先生(高崎ARTクリニック) 相談者:やんさん(31歳) クロミッド®が効きません 不妊治療を始めました。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されました。1周期目はクロミッド®を1日2錠服用。卵胞が4つ育ちましたが、妊娠に至りませんでした。2周期目もクロミッド®を1日2錠服用。前回と同じ時期に受診しましたが卵胞は育っておらず、その日にHMG注射を打ち3日後に受診。しかし卵胞は育っておらず、またHMG注射を打ちました。次は3日後に受診予定です。クロミッド®とHMG注射をしても効かない時は、次の周期で同じことをしても効かないのでしょうか? 次は効くことはありますか? 1周期目は卵胞が育ったのに落ち込んでいます。20歳から生理不順のため10年間ピルを服用。身長158㎝、体重41㎏です。 やんさんはクロミッド®が効きにくい体質なのでしょうか? 周期目はきちんと卵胞が育ったということなので、薬が効きにくい体質ではないと思います。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は卵胞が排卵できる大きさに育たない状態のことで、肥満型の女性に多いのですが、この方のような痩せ型の女性にもみられます。 PCOSの疾患がベースにあって痩せ型で生理不順の体質の場合、薬の効き具合が体調によって大きく左右されることがあります。薬を使っても卵胞が成長しないのは、頭からのホルモン分泌指令がうまくいかないのかもしれません。その周期の体調が影響した可能性が考えられます。 薬の効きについては、心配しなくていいですか。 はい、不安になる必要はないと思います。 医師としては、この方の食事や生活習慣はどうだったのかが気になります。ダイエットや日々の忙しさで栄養が偏ってしまったのか、強いストレスがあって体調を崩していたのか…。そういう時に薬や注射をたくさん使っても、卵巣は反応せず卵胞が成長しないことも多いんです。 ですから、体調を良くすることで、次は同じ薬が効く可能性はあると思います。 今の治療薬をどのくらい続けるといいですか。 一般的には5~6周期と言われていますが、最近は3~4周期行って結果が出なければ、別の治療薬を検討することも多いです。 現在、レトロゾールという新しいタイプの薬がありますので、それを試してみるのもいいでしょう。 その薬の特徴を教えてください。 レトロゾールは多胎妊娠のリスクが低いと言われている薬です。 PCOSは、排卵できない卵胞がいくつも卵巣にたまっている状態です。薬を使うと、いくつもある卵胞が一気に育ち、その分、多胎妊娠のリスクも高まります。レトロゾールはクロミッド®より、少ない数の卵胞を育てるメカニズムをもっています。 ただ、PCOSでも不妊治療の第一選択薬は、保険適用になるクロミッドⓇが主流です。レトロゾールは保険適用外の薬になるため、医師とよく相談してから使用してください。治療費もやや高額になります。 今後のアドバイスをお願いします。 繰り返しになりますが、体調によって薬効が出ない周期もあります。極端なダイエットやストレスは卵巣のはたらきを悪くするので、正しい生活習慣を心がけてください。 そして不妊の治療中は精神的なストレスも強くなりがちです。主治医の先生と信頼関係をつくりながら、リラックスして前向きに治療をしてほしいと思います。 佐藤先生より まとめ ●やんさんの体調によって、薬が効かない周期も。 ●1周期目は薬が効いたので、次に効く可能性はあります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 佐藤 雄一 先生(高崎ARTクリニック) 医学博士・産婦人科専門医・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医・日本生殖医学会生殖医療専門医。佐藤病院院長・高崎ARTクリニック理事長を務める。最近、テレビCMでも話題のトレーニングジムに入会したという佐藤先生。目的はダイエットではなく、2カ月で3〜5kgの筋肉増加。マラソン、ヒルクライム、トライアスロンときて次はムキムキ!? 周囲から「いったい何を目指しているんだ?」と聞かれるのだとか。 ≫ 高崎ARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 多嚢胞性卵巣症候群は薬が効きにくいのでしょうか? 佐藤 雄一 先生(高崎ARTクリニック) 相談者:やんさん(31歳) クロミッド®が効きません 不妊治療を始めました。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されました。1周期目はクロミッド®を1日2錠服用。卵胞が4つ育ちましたが、妊娠に至りませんでした。2周期目もクロミッド®を1日2錠服用。前回と同じ時期に受診しましたが卵胞は育っておらず、その日にHMG注射を打ち3日後に受診。しかし卵胞は育っておらず、またHMG注射を打ちました。次は3日後に受診予定です。クロミッド®とHMG注射をしても効かない時は、次の周期で同じことをしても効かないのでしょうか? 次は効くことはありますか? 1周期目は卵胞が育ったのに落ち込んでいます。20歳から生理不順のため10年間ピルを服用。身長158㎝、体重41㎏です。 やんさんはクロミッド®が効きにくい体質なのでしょうか? 周期目はきちんと卵胞が育ったということなので、薬が効きにくい体質ではないと思います。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は卵胞が排卵できる大きさに育たない状態のことで、肥満型の女性に多いのですが、この方のような痩せ型の女性にもみられます。 PCOSの疾患がベースにあって痩せ型で生理不順の体質の場合、薬の効き具合が体調によって大きく左右されることがあります。薬を使っても卵胞が成長しないのは、頭からのホルモン分泌指令がうまくいかないのかもしれません。その周期の体調が影響した可能性が考えられます。 薬の効きについては、心配しなくていいですか。 はい、不安になる必要はないと思います。 医師としては、この方の食事や生活習慣はどうだったのかが気になります。ダイエットや日々の忙しさで栄養が偏ってしまったのか、強いストレスがあって体調を崩していたのか…。そういう時に薬や注射をたくさん使っても、卵巣は反応せず卵胞が成長しないことも多いんです。 ですから、体調を良くすることで、次は同じ薬が効く可能性はあると思います。 今の治療薬をどのくらい続けるといいですか。 一般的には5~6周期と言われていますが、最近は3~4周期行って結果が出なければ、別の治療薬を検討することも多いです。 現在、レトロゾールという新しいタイプの薬がありますので、それを試してみるのもいいでしょう。 その薬の特徴を教えてください。 レトロゾールは多胎妊娠のリスクが低いと言われている薬です。 PCOSは、排卵できない卵胞がいくつも卵巣にたまっている状態です。薬を使うと、いくつもある卵胞が一気に育ち、その分、多胎妊娠のリスクも高まります。レトロゾールはクロミッド®より、少ない数の卵胞を育てるメカニズムをもっています。 ただ、PCOSでも不妊治療の第一選択薬は、保険適用になるクロミッドⓇが主流です。レトロゾールは保険適用外の薬になるため、医師とよく相談してから使用してください。治療費もやや高額になります。 今後のアドバイスをお願いします。 繰り返しになりますが、体調によって薬効が出ない周期もあります。極端なダイエットやストレスは卵巣のはたらきを悪くするので、正しい生活習慣を心がけてください。 そして不妊の治療中は精神的なストレスも強くなりがちです。主治医の先生と信頼関係をつくりながら、リラックスして前向きに治療をしてほしいと思います。 佐藤先生より まとめ ●やんさんの体調によって、薬が効かない周期も。 ●1周期目は薬が効いたので、次に効く可能性はあります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 佐藤 雄一 先生(高崎ARTクリニック) 医学博士・産婦人科専門医・日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医・日本生殖医学会生殖医療専門医。佐藤病院院長・高崎ARTクリニック理事長を務める。最近、テレビCMでも話題のトレーニングジムに入会したという佐藤先生。目的はダイエットではなく、2カ月で3〜5kgの筋肉増加。マラソン、ヒルクライム、トライアスロンときて次はムキムキ!? 周囲から「いったい何を目指しているんだ?」と聞かれるのだとか。 ≫ 高崎ARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.17
コラム 女性の健康
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教えて!「バースプラン」ってどういうもの?
教えて! 「バースプラン」ってどういうもの? 2017/11/17 大塩 達弥先生(おおしおウィメンズクリニック 院長) 「バースプラン」で何ができるの? 「バースプラン」とは、出産・産後の入院期間中、どのように過ごしたいかという希望を、私たち医師や助産師に伝える、いわば“お産のリクエスト”です。昔、アメリカのサンタクルーズにある病院を見学した際、ドクターと妊婦さんが、出産というイベントに向けて自分がどうしたいかと話し合い、理想のお産をしている姿を見て、これはまだ日本にないシステムだと感じました。そこで、当院では1997年の開設時から、妊婦さんには必ず「バースプラン」を書いてもらっています。「お産なんてみんな一緒でしょ?」と最初は驚かれる方もいますが、詳しく説明していくと「自分はお産の時にこういうことをしたい」という希望がだんだんと見えてきます。 具体的に何を書いたらいいの? そうは言っても、特に初産の場合、一体何をリクエストしたら良いのかわからない方がほとんどです。当院では、マタニティクラスに参加してもらったり、助産外来に来てもらい、助産師さんと「バースプラン」を決めていくことがほとんどです。 例えば、陣痛、出産のとき、誰に立ち会ってもらいたい、好きな音楽をかけたい、アロマをたきたい、へその緒を自分で切りたい、会陰切開はできるだけ避けたい…、そんなリクエストから始まり、当院であれば、無痛分娩か普通分娩か、また、自分が一番楽な姿勢で出産するフリースタイル分娩を選ぶこともできます。そして、産後は生まれたらすぐにカンガルーケアをしたい、母乳で育てたいなど、助産師さんから具体的に話を聞くと自分の理想とするお産が見えてくるはずです。当院では外国の方も多く出産されるので、胎盤を持ち帰りたい、自分の胎盤を食べたい……などのリクエストまでありますよ! 「バースプラン」がない病院の場合、どうしたらいいの? 個人的には「バースプラン」は書いてもらったほうが、妊婦さんの個性が分かって良いのですが、助産院は別として、クリニックによっては「バースプラン」の用紙が用意されていないことも多いでしょう。用意されていない場合は「バースプラン」を提出していいかを聞いてみても良いと思います。リクエストによっては、施設やスタッフの都合で「これはできません」と断られることもあるかもしれませんが、それを知っておくことも大切です。出産は人生のビッグイベントでもあります。ぜひ「バースプラン」を立てて、理想の出産をしてください。 お話を伺った先生のご紹介 大塩 達弥先生(おおしおウィメンズクリニック 院長) 日本大学医学部卒業 横須賀市立市民病院産婦人科、川口市立市民病院、関東逓信病院産婦人科、セントマーガレット病院産婦人科部長を経て、平成9年おおしおウィメンズクリニックを開設。クリニックは産科、婦人科だけでなく、不妊外来、胎児ドック、ピル外来、産後の美容・エステなど、女性をトータルでサポートしてくれる。日本産科婦人科学会専門医、日本母性衛生学会会員 母体保護法指定医 日本受精着床学会評議員 日本不妊学会会員。ほか、日本大学医学部産婦人科兼任 講師としても活躍中。 ≫ おおしおウィメンズクリニック 教えて! 「バースプラン」ってどういうもの? 2017/11/17 大塩 達弥先生(おおしおウィメンズクリニック 院長) 「バースプラン」で何ができるの? 「バースプラン」とは、出産・産後の入院期間中、どのように過ごしたいかという希望を、私たち医師や助産師に伝える、いわば“お産のリクエスト”です。昔、アメリカのサンタクルーズにある病院を見学した際、ドクターと妊婦さんが、出産というイベントに向けて自分がどうしたいかと話し合い、理想のお産をしている姿を見て、これはまだ日本にないシステムだと感じました。そこで、当院では1997年の開設時から、妊婦さんには必ず「バースプラン」を書いてもらっています。「お産なんてみんな一緒でしょ?」と最初は驚かれる方もいますが、詳しく説明していくと「自分はお産の時にこういうことをしたい」という希望がだんだんと見えてきます。 具体的に何を書いたらいいの? そうは言っても、特に初産の場合、一体何をリクエストしたら良いのかわからない方がほとんどです。当院では、マタニティクラスに参加してもらったり、助産外来に来てもらい、助産師さんと「バースプラン」を決めていくことがほとんどです。 例えば、陣痛、出産のとき、誰に立ち会ってもらいたい、好きな音楽をかけたい、アロマをたきたい、へその緒を自分で切りたい、会陰切開はできるだけ避けたい…、そんなリクエストから始まり、当院であれば、無痛分娩か普通分娩か、また、自分が一番楽な姿勢で出産するフリースタイル分娩を選ぶこともできます。そして、産後は生まれたらすぐにカンガルーケアをしたい、母乳で育てたいなど、助産師さんから具体的に話を聞くと自分の理想とするお産が見えてくるはずです。当院では外国の方も多く出産されるので、胎盤を持ち帰りたい、自分の胎盤を食べたい……などのリクエストまでありますよ! 「バースプラン」がない病院の場合、どうしたらいいの? 個人的には「バースプラン」は書いてもらったほうが、妊婦さんの個性が分かって良いのですが、助産院は別として、クリニックによっては「バースプラン」の用紙が用意されていないことも多いでしょう。用意されていない場合は「バースプラン」を提出していいかを聞いてみても良いと思います。リクエストによっては、施設やスタッフの都合で「これはできません」と断られることもあるかもしれませんが、それを知っておくことも大切です。出産は人生のビッグイベントでもあります。ぜひ「バースプラン」を立てて、理想の出産をしてください。 お話を伺った先生のご紹介 大塩 達弥先生(おおしおウィメンズクリニック 院長) 日本大学医学部卒業 横須賀市立市民病院産婦人科、川口市立市民病院、関東逓信病院産婦人科、セントマーガレット病院産婦人科部長を経て、平成9年おおしおウィメンズクリニックを開設。クリニックは産科、婦人科だけでなく、不妊外来、胎児ドック、ピル外来、産後の美容・エステなど、女性をトータルでサポートしてくれる。日本産科婦人科学会専門医、日本母性衛生学会会員 母体保護法指定医 日本受精着床学会評議員 日本不妊学会会員。ほか、日本大学医学部産婦人科兼任 講師としても活躍中。 ≫ おおしおウィメンズクリニック
2017.11.17
インタビュー 妊娠・出産
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バランスの良い食生活にサプリメントも活用!
アキコさんが「そろそろ赤ちゃんが欲しい」と思いはじめた3年と少し前、お仕事は激務で睡眠時間も短く、食事も満足にとれる時間がないという生活でした。自分の体のことが気になりつつも病院さえ満足に通えない苦しい毎日。そんな状況から自分たちを見つめ直し、だんなさまと二人で生活を変え、信頼できるクリニックを探し当てた途端、不妊治療は驚くほど順調に進んでいきました。彼女がどのように生活を改善していったのか、その粘り強い取り組みを紹介します。 妊活の必要性に気づいても、忙しすぎてストレス増大 アキコさんが妊娠について考えたのは、結婚して3カ月経った頃に見たドラマでのブライダルチェックのシーンがきっかけです。 「10代の頃から、生理不順や重い生理痛があって気になっていました」 近くの産婦人科を受診したところ、通常のままでは妊娠のチャンスが少ないとわかり、そのまま治療開始。しかしその頃の彼女の仕事は激務そのものでした。 「先輩が辞めて次第に忙しくなってしまい、朝は6時半に出勤、後輩からお昼休憩をまわしていたら自分の昼休みは夕方に…。夜はかろうじて頑張って自炊しても、それ以外はコンビニ中心で、睡眠も5時間とられたらよいという毎日でした」 肝心の妊活は、勤務先近くの産婦人科に。病院が開いている時間帯に昼休憩を取ってサッと受診して戻る。お昼ご飯をかき込んでまた夕方まで頑張る…。このような生活が1年半近く続きました。 夫婦で子どもをもつことをもう一度じっくり考える このままではダメだと思い始めたアキコさん。「仕事に代わりはいても、私の体や夫の体を気づかうのは私にしかできない」と思い直し、退職して不妊治療も専門クリニックで再スタート。しかしその治療の進め方には疑問が。「私と夫は治療方針に対して『なぜこの治療がいいのか?』と確認しながら進めたかった。でもその説明をしていただけなくて」 人工授精も5回を数え、そろそろ体外受精もと先生からお話があった頃、夫婦で話し合うことに。 「夫はそこで治療を続けるのは反対。そこで新たに病院を探し、候補となった2つの病院に夫婦で診察をお願いしました」 妊活中の女性にとって、夫が協力的かどうかは大きな問題。アキコさんはご主人とどのように話し合ったのでしょう。 「夫も最初は治療に対する温度差があり、クリニックに行くのも気が進まないようでした。男性が検査を受けることに抵抗があるのはわかりますが、それは女性も同じ。内診台に上がるのも最初はすごく抵抗があったし、注射も採血もすごく痛い。『それでも治療しているのは、単に子どもが欲しいだけじゃない。大事な人との子どもを授かりたいから頑張っているんだ』という私の気持ちをじっくり聞いてもらいました。そこでようやく夫も『それだけの思いで頑張ってくれているのなら、体外受精に進むと金額もかかるので、病院選びもしっかり考えないと』と思い直してくれました」 受診して夫婦で決めた病院は、英ウィメンズクリニック。「メモに書きためた質問に1つ1つ答えてくださった。こういう先生がいらっしゃる病院なら頑張れる。先生のお力を借りたいと思いました」。 以前に子宮鏡検査をした時、少し内膜にでこぼこがあると言われたものの治療でのフォローがなく気になっていたアキコさん。今回早速検査をしてみると、ストレスのせいか岩山のようにたくさんポリープができていました。ホルモンの補充をしながら採卵を進め、その間にポリープの切除をして、次に受精卵を移植するという形で、時間の無駄なく治療スケジュールが組まれました。 妊娠に向けて生活を変える。サプリの効果も実感して 退職後の生活で一番大切にしたのは食生活。 「外で買ってくる食べものでは添加物が心配でしたが、自分で作る時間ができました。夫の体重が増加ぎみだったので、好物の揚げ物も調理法を工夫して油を減らしたり、朝は苦手だけど朝ご飯も食べるようになったり」 勤務先では不自然な姿勢でのパソコン業務や、強い冷房に悩まされていたので、整体に通いながら体を温めるよう心がけました。また、外に出なくても運動ができるようにとエアロバイクを購入し、夫婦で毎日続けているそうです。 さらに、サプリメントが心強い味方に。 「英の先生に葉酸などを摂っていないことを相談すると、『これからはしっかり摂っていったほうがいい。不足しやすい栄養素をサプリで補うといいでしょう』と院長先生が共同開発されているサプリを勧めていただき、これなら安心して飲める、と決めました」 採卵が終わった頃から女性用のサプリを飲み始めたところ、検査で内膜が厚くなっていることや体の巡りが良くなっていることが実際に数値でわかり、体にいいものがしっかり摂れているのだと安心したといいます。 その後、不足しがちなビタミンやミネラルを補えるベーシックサプリも取り入れ、ポリープ切除をして移植に臨んだところ、気持ちが安定したことも幸いしたのか、妊娠が判明しました。クリニックを替えてから数カ月のことでした。 「前の仕事を続けたまま病院に任せきりの治療をしていたら、私の場合はうまくいかなかったかもしれない。時間も費用もかかったけど、その間に夫とたくさん話し合い、自分たちで生活を変えたことは大きかったです」 バランスの良い食事をし、運動・睡眠と、生活の基本を見直し、さらに安心して治療できる環境を得てストレスがみるみる減っていったといいます。 「周囲に夫をはじめ、理解者が増えました。不妊治療の経験者である先輩たちにはたくさんアドバイスをもらうことができ、『妊娠はまだ?』と尋ねられても『今、治療を頑張っているので、しばらくその話題はすみません』と言えるようになりました。周りとの関係を作り、自分が少し強くなる時間があり、そのうえで信頼できる先生方と出会い、それで赤ちゃんが来てくれたのだろうと思います」 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら アキコさんが「そろそろ赤ちゃんが欲しい」と思いはじめた3年と少し前、お仕事は激務で睡眠時間も短く、食事も満足にとれる時間がないという生活でした。自分の体のことが気になりつつも病院さえ満足に通えない苦しい毎日。そんな状況から自分たちを見つめ直し、だんなさまと二人で生活を変え、信頼できるクリニックを探し当てた途端、不妊治療は驚くほど順調に進んでいきました。彼女がどのように生活を改善していったのか、その粘り強い取り組みを紹介します。 妊活の必要性に気づいても、忙しすぎてストレス増大 アキコさんが妊娠について考えたのは、結婚して3カ月経った頃に見たドラマでのブライダルチェックのシーンがきっかけです。 「10代の頃から、生理不順や重い生理痛があって気になっていました」 近くの産婦人科を受診したところ、通常のままでは妊娠のチャンスが少ないとわかり、そのまま治療開始。しかしその頃の彼女の仕事は激務そのものでした。 「先輩が辞めて次第に忙しくなってしまい、朝は6時半に出勤、後輩からお昼休憩をまわしていたら自分の昼休みは夕方に…。夜はかろうじて頑張って自炊しても、それ以外はコンビニ中心で、睡眠も5時間とられたらよいという毎日でした」 肝心の妊活は、勤務先近くの産婦人科に。病院が開いている時間帯に昼休憩を取ってサッと受診して戻る。お昼ご飯をかき込んでまた夕方まで頑張る…。このような生活が1年半近く続きました。 夫婦で子どもをもつことをもう一度じっくり考える このままではダメだと思い始めたアキコさん。「仕事に代わりはいても、私の体や夫の体を気づかうのは私にしかできない」と思い直し、退職して不妊治療も専門クリニックで再スタート。しかしその治療の進め方には疑問が。「私と夫は治療方針に対して『なぜこの治療がいいのか?』と確認しながら進めたかった。でもその説明をしていただけなくて」 人工授精も5回を数え、そろそろ体外受精もと先生からお話があった頃、夫婦で話し合うことに。 「夫はそこで治療を続けるのは反対。そこで新たに病院を探し、候補となった2つの病院に夫婦で診察をお願いしました」 妊活中の女性にとって、夫が協力的かどうかは大きな問題。アキコさんはご主人とどのように話し合ったのでしょう。 「夫も最初は治療に対する温度差があり、クリニックに行くのも気が進まないようでした。男性が検査を受けることに抵抗があるのはわかりますが、それは女性も同じ。内診台に上がるのも最初はすごく抵抗があったし、注射も採血もすごく痛い。『それでも治療しているのは、単に子どもが欲しいだけじゃない。大事な人との子どもを授かりたいから頑張っているんだ』という私の気持ちをじっくり聞いてもらいました。そこでようやく夫も『それだけの思いで頑張ってくれているのなら、体外受精に進むと金額もかかるので、病院選びもしっかり考えないと』と思い直してくれました」 受診して夫婦で決めた病院は、英ウィメンズクリニック。「メモに書きためた質問に1つ1つ答えてくださった。こういう先生がいらっしゃる病院なら頑張れる。先生のお力を借りたいと思いました」。 以前に子宮鏡検査をした時、少し内膜にでこぼこがあると言われたものの治療でのフォローがなく気になっていたアキコさん。今回早速検査をしてみると、ストレスのせいか岩山のようにたくさんポリープができていました。ホルモンの補充をしながら採卵を進め、その間にポリープの切除をして、次に受精卵を移植するという形で、時間の無駄なく治療スケジュールが組まれました。 妊娠に向けて生活を変える。サプリの効果も実感して 退職後の生活で一番大切にしたのは食生活。 「外で買ってくる食べものでは添加物が心配でしたが、自分で作る時間ができました。夫の体重が増加ぎみだったので、好物の揚げ物も調理法を工夫して油を減らしたり、朝は苦手だけど朝ご飯も食べるようになったり」 勤務先では不自然な姿勢でのパソコン業務や、強い冷房に悩まされていたので、整体に通いながら体を温めるよう心がけました。また、外に出なくても運動ができるようにとエアロバイクを購入し、夫婦で毎日続けているそうです。 さらに、サプリメントが心強い味方に。 「英の先生に葉酸などを摂っていないことを相談すると、『これからはしっかり摂っていったほうがいい。不足しやすい栄養素をサプリで補うといいでしょう』と院長先生が共同開発されているサプリを勧めていただき、これなら安心して飲める、と決めました」 採卵が終わった頃から女性用のサプリを飲み始めたところ、検査で内膜が厚くなっていることや体の巡りが良くなっていることが実際に数値でわかり、体にいいものがしっかり摂れているのだと安心したといいます。 その後、不足しがちなビタミンやミネラルを補えるベーシックサプリも取り入れ、ポリープ切除をして移植に臨んだところ、気持ちが安定したことも幸いしたのか、妊娠が判明しました。クリニックを替えてから数カ月のことでした。 「前の仕事を続けたまま病院に任せきりの治療をしていたら、私の場合はうまくいかなかったかもしれない。時間も費用もかかったけど、その間に夫とたくさん話し合い、自分たちで生活を変えたことは大きかったです」 バランスの良い食事をし、運動・睡眠と、生活の基本を見直し、さらに安心して治療できる環境を得てストレスがみるみる減っていったといいます。 「周囲に夫をはじめ、理解者が増えました。不妊治療の経験者である先輩たちにはたくさんアドバイスをもらうことができ、『妊娠はまだ?』と尋ねられても『今、治療を頑張っているので、しばらくその話題はすみません』と言えるようになりました。周りとの関係を作り、自分が少し強くなる時間があり、そのうえで信頼できる先生方と出会い、それで赤ちゃんが来てくれたのだろうと思います」 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.16
コラム 不妊治療
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情熱のカルテ いくたウィメンズクリニック 生田 克夫 先生
「経営者になりたいわけではありませんでした。自分で患者さんと向き合って診療するのが好きなだけで、ずっと現場の医者でありたかったのです。」
2017.11.16
コラム 不妊治療
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きちんと知りたい! 不育症のこと
きちんと知りたい! 不育症のこと 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 妊娠はしても何度もくり返す流産…。それは不育症である可能性も。不育症の原因や検査、治療法についてレディースクリニック北浜の 奥裕嗣先生に伺いました。 流死産の多くは染色体異常が原因 不育症とは、妊娠はしても流産、死産、早期新生児死亡などを2回以上くり返す場合をいいます。化学流産を回数に入れるかどうかは意見が分かれるところですが、個人的には入れたほうがいいと考えています。 妊娠経験がある方が流産する確率は38%といわれています。流産のおもな原因として染色体異常とそれ以外の原因がありますが、実は、その多くは受精卵の染色体異常(染色体の数の異常)です(図1)。染色体異常による流産の確率は、20代で約50%、30代で60〜70%、40代では80%以上(図2)。母体の年齢が高くなるほど増加する傾向にあります。つまり流産を2回以上くり返している40代の方は、染色体異常が原因である可能性が高くなります。 「染色体異常」「不育症」を判別できる絨毛染色体検査 そこで当院では、流産を1回でも経験された方に絨毛染色体検査をおすすめしています。これは、流産手術や死産の時に得られた検体から胎盤絨毛組織や胎児組織を採取・培養し、染色体の数や構造に異常が生じていないかを調べる検査です。 この検査によって「染色体異常」、または「それ以外の原因」のどちらかを判別することができます。たとえば、流産を2回以上くり返す方に染色体異常が見つかった場合、卵子の染色体異常がたまたま続いただけで、次に染色体異常でない卵子に出会えれば妊娠する可能性は十分あります。そのためそれ以外の原因である可能性は低くなります。一方で、1回の流産で染色体異常が見つからなかった場合は、母体側になんらかの原因が隠れていると考えられます。 不育症の原因は大きく5つ。原因によって治療が異なる 不育症の頻度は2〜5%で、その多くを流産が占めています。原因と検査はさまざまで、当院では大きく5つに分けています(表1)。(1)赤ちゃんを異物と勘違いする免疫の異常(2)赤ちゃんを養う血管・血液の異常(3)母体が赤ちゃんを攻撃する抗体の異常(4)染色体の構造に問題がある染色体の異常(5)そのほか甲状腺の異常などです。 そのなかでも頻度が高いのは、血管・血液の異常による抗リン脂質抗体症候群です。また、プロテインS欠乏症は報告によると10%程度の確率といわれていますが、当院では20%の確率で見つかっています。さらに、血液の循環に影響するアンチトロンビンⅢや、ロバートソン転座型とよばれる染色体異常(染色体の構造の異常)はご夫婦のどちらかに見つかることがあり、流産の原因の10%程度あります。 治療については不育症の原因によって異なります。たとえば、血管・血液の異常にはアスピリン療法やヘパリン療法を行います。とくにプロテインS欠乏症や抗リン脂質抗体症候群の場合はアスピリン療法、ヘパリン療法を単独で行うよりも、両方を同時に行ったほうが出産の確率は高くなるといわれています。また、免疫の異常にはプレドニン®というステロイドホルモンや、免疫を抑える働きがある柴苓湯(さいれいとう)という漢方薬を用いることもあります。免疫の異常には、NK(ナチュラルキラー)細胞活性を下げる効果がある加味逍遙散(かみしょうようさん)という漢方薬も有効です。 POINT ●流産の約60%は染色体異常の可能性が ●まずは絨毛染色体検査をおすすめします ●不育症の原因に応じた治療が必要です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992 年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopause にて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF 大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。タイで英才教育を受けていたポメラニアンのイージーちゃんが来日し、初対面した先生。今年、タイとフィリピンでチャンピオンになり、次は日本と欧米のチャンピンをめざすそう。先生とお家で暮らせる日はまだ先のようです。 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら きちんと知りたい! 不育症のこと 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 妊娠はしても何度もくり返す流産…。それは不育症である可能性も。不育症の原因や検査、治療法についてレディースクリニック北浜の 奥裕嗣先生に伺いました。 流死産の多くは染色体異常が原因 不育症とは、妊娠はしても流産、死産、早期新生児死亡などを2回以上くり返す場合をいいます。化学流産を回数に入れるかどうかは意見が分かれるところですが、個人的には入れたほうがいいと考えています。 妊娠経験がある方が流産する確率は38%といわれています。流産のおもな原因として染色体異常とそれ以外の原因がありますが、実は、その多くは受精卵の染色体異常(染色体の数の異常)です(図1)。染色体異常による流産の確率は、20代で約50%、30代で60〜70%、40代では80%以上(図2)。母体の年齢が高くなるほど増加する傾向にあります。つまり流産を2回以上くり返している40代の方は、染色体異常が原因である可能性が高くなります。 「染色体異常」「不育症」を判別できる絨毛染色体検査 そこで当院では、流産を1回でも経験された方に絨毛染色体検査をおすすめしています。これは、流産手術や死産の時に得られた検体から胎盤絨毛組織や胎児組織を採取・培養し、染色体の数や構造に異常が生じていないかを調べる検査です。 この検査によって「染色体異常」、または「それ以外の原因」のどちらかを判別することができます。たとえば、流産を2回以上くり返す方に染色体異常が見つかった場合、卵子の染色体異常がたまたま続いただけで、次に染色体異常でない卵子に出会えれば妊娠する可能性は十分あります。そのためそれ以外の原因である可能性は低くなります。一方で、1回の流産で染色体異常が見つからなかった場合は、母体側になんらかの原因が隠れていると考えられます。 不育症の原因は大きく5つ。原因によって治療が異なる 不育症の頻度は2〜5%で、その多くを流産が占めています。原因と検査はさまざまで、当院では大きく5つに分けています(表1)。(1)赤ちゃんを異物と勘違いする免疫の異常(2)赤ちゃんを養う血管・血液の異常(3)母体が赤ちゃんを攻撃する抗体の異常(4)染色体の構造に問題がある染色体の異常(5)そのほか甲状腺の異常などです。 そのなかでも頻度が高いのは、血管・血液の異常による抗リン脂質抗体症候群です。また、プロテインS欠乏症は報告によると10%程度の確率といわれていますが、当院では20%の確率で見つかっています。さらに、血液の循環に影響するアンチトロンビンⅢや、ロバートソン転座型とよばれる染色体異常(染色体の構造の異常)はご夫婦のどちらかに見つかることがあり、流産の原因の10%程度あります。 治療については不育症の原因によって異なります。たとえば、血管・血液の異常にはアスピリン療法やヘパリン療法を行います。とくにプロテインS欠乏症や抗リン脂質抗体症候群の場合はアスピリン療法、ヘパリン療法を単独で行うよりも、両方を同時に行ったほうが出産の確率は高くなるといわれています。また、免疫の異常にはプレドニン®というステロイドホルモンや、免疫を抑える働きがある柴苓湯(さいれいとう)という漢方薬を用いることもあります。免疫の異常には、NK(ナチュラルキラー)細胞活性を下げる効果がある加味逍遙散(かみしょうようさん)という漢方薬も有効です。 POINT ●流産の約60%は染色体異常の可能性が ●まずは絨毛染色体検査をおすすめします ●不育症の原因に応じた治療が必要です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992 年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopause にて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF 大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。タイで英才教育を受けていたポメラニアンのイージーちゃんが来日し、初対面した先生。今年、タイとフィリピンでチャンピオンになり、次は日本と欧米のチャンピンをめざすそう。先生とお家で暮らせる日はまだ先のようです。 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.16
コラム 不妊治療
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漢方で血流を良くする
西洋医学をメインに漢方薬を試すのもひとつ。 石川 弘伸 先生(醍醐渡辺クリニック) この季節になると気になる体の「冷え」。妊娠にとって「冷え」は良くないのでしょうか。また、西洋医学では「冷え」をどのようにとらえ、対処しているのでしょうか。醍醐渡辺クリニックの石川弘伸先生にお話を伺いました。 西洋医学には「冷え」という概念も病名もない!? 西洋医学には「冷え」という概念はなく、「冷え症」という病名もありません。「冷え」を訴える方の血流を調べても必ずしも異常が出るわけではなく、サーモグラフィーなどで温度低下を示すような症状は非常にまれです。また、動脈が詰まるような血流障害であれば、ほかの専門治療が必要になります。 「お腹が冷えると良くないですか?」と患者様から質問されることがあります。手足は冷えていても、体の深部の体温は常に適温に保たれています。この深部体温が簡単に変動してしまうと、さまざまな器官に影響が及び、体は大変なことになってしまいます。 ホルモン、栄養、酸素を運ぶ血流の改善は治療として有効 ホルモン、栄養、酸素を全身に運んでいるのは血液です。もちろん妊娠にも血流が大切であることは間違いありません。子宮の血流が悪くなると、子宮内膜の厚さや受精卵の成長に影響することが考えられます。そのため、体外受精の際や流産経験がある方には、アスピリンを投薬することはあります。これは血液自体をサラサラにして、子宮や受精卵に届く血管を詰まりにくくして血流を良くする作用がありますが、「冷え」の改善につながるものではありません。 西洋医学による治療をメインに漢方薬などを試すのも一つ 「冷え」を自覚する人に不妊症が多いというデータはなく、複数のお子さんがいる場合でも冷えでお困りの人はいらっしゃいます。当院では10年以上前から毎月、体外受精の成績を集計していますが、夏と冬を比較すると最初の数年間は冬の成績のほうが良くなっていました。その後、培養環境を見直すことで夏と冬の治療成績は変わらなくなりましたが、このことからも「冷え」が血流や不妊症と直接関連することは考えにくいと思います。患者様には「冷えをあまり気にすることはありませんよ」とお伝えしています。 それでも「冷え」を強く自覚される方には、なんらかの治療が必要です。そこで当院では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、真武湯、加味逍遙散、当帰芍薬散といった漢方薬をおすすめすることはあります。積極的な提案ではありませんが、運動、漢方、鍼灸、レーザー治療などで血流の改善を試みるのも一つの考え方だと思います。ただ、効果は実証されていませんので、妊娠を希望される方は、あくまでも西洋医学の治療が第一選択になります。 Doctor’s Advice 西洋医学には不妊症に直接関連する「冷え」という概念はありません●不妊と血流において「冷え」の影響は直結しにくい ●ホルモン、栄養、酸素を子宮に運ぶ血流は大切 ●西洋医学をメインに漢方などを取り入れるのはOK西洋医学の治療を優先し、漢方などを取り入れるといいでしょう [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 石川 弘伸 先生(醍醐渡辺クリニック) 1991年滋賀医科大学卒業、同大学院修了。泉大津市立病院副医長、水口市民病院産婦人科医長、野洲病院産婦人科部長を経て、2003年より醍醐渡辺クリニック副院長。大学院では生殖医学で着床の分野の研究に携わり、生殖医療の道を志す。大学で2年先輩である同クリニック院長の渡辺浩彦先生との縁で同クリニックへ。A型・射手座。最近気になりだしたお腹まわりを本格的に引き締めるため、時々プールに通っている先生。「学生の頃は1km以上泳いでいましたが、近頃はとてもとても(笑)」。1時間かけて400〜500mを泳ぎ、徐々に距離を伸ばしているそうです。 ≫ 醍醐渡辺クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 西洋医学をメインに漢方薬を試すのもひとつ。 石川 弘伸 先生(醍醐渡辺クリニック) この季節になると気になる体の「冷え」。妊娠にとって「冷え」は良くないのでしょうか。また、西洋医学では「冷え」をどのようにとらえ、対処しているのでしょうか。醍醐渡辺クリニックの石川弘伸先生にお話を伺いました。 西洋医学には「冷え」という概念も病名もない!? 西洋医学には「冷え」という概念はなく、「冷え症」という病名もありません。「冷え」を訴える方の血流を調べても必ずしも異常が出るわけではなく、サーモグラフィーなどで温度低下を示すような症状は非常にまれです。また、動脈が詰まるような血流障害であれば、ほかの専門治療が必要になります。 「お腹が冷えると良くないですか?」と患者様から質問されることがあります。手足は冷えていても、体の深部の体温は常に適温に保たれています。この深部体温が簡単に変動してしまうと、さまざまな器官に影響が及び、体は大変なことになってしまいます。 ホルモン、栄養、酸素を運ぶ血流の改善は治療として有効 ホルモン、栄養、酸素を全身に運んでいるのは血液です。もちろん妊娠にも血流が大切であることは間違いありません。子宮の血流が悪くなると、子宮内膜の厚さや受精卵の成長に影響することが考えられます。そのため、体外受精の際や流産経験がある方には、アスピリンを投薬することはあります。これは血液自体をサラサラにして、子宮や受精卵に届く血管を詰まりにくくして血流を良くする作用がありますが、「冷え」の改善につながるものではありません。 西洋医学による治療をメインに漢方薬などを試すのも一つ 「冷え」を自覚する人に不妊症が多いというデータはなく、複数のお子さんがいる場合でも冷えでお困りの人はいらっしゃいます。当院では10年以上前から毎月、体外受精の成績を集計していますが、夏と冬を比較すると最初の数年間は冬の成績のほうが良くなっていました。その後、培養環境を見直すことで夏と冬の治療成績は変わらなくなりましたが、このことからも「冷え」が血流や不妊症と直接関連することは考えにくいと思います。患者様には「冷えをあまり気にすることはありませんよ」とお伝えしています。 それでも「冷え」を強く自覚される方には、なんらかの治療が必要です。そこで当院では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、真武湯、加味逍遙散、当帰芍薬散といった漢方薬をおすすめすることはあります。積極的な提案ではありませんが、運動、漢方、鍼灸、レーザー治療などで血流の改善を試みるのも一つの考え方だと思います。ただ、効果は実証されていませんので、妊娠を希望される方は、あくまでも西洋医学の治療が第一選択になります。 Doctor’s Advice 西洋医学には不妊症に直接関連する「冷え」という概念はありません●不妊と血流において「冷え」の影響は直結しにくい ●ホルモン、栄養、酸素を子宮に運ぶ血流は大切 ●西洋医学をメインに漢方などを取り入れるのはOK西洋医学の治療を優先し、漢方などを取り入れるといいでしょう [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 石川 弘伸 先生(醍醐渡辺クリニック) 1991年滋賀医科大学卒業、同大学院修了。泉大津市立病院副医長、水口市民病院産婦人科医長、野洲病院産婦人科部長を経て、2003年より醍醐渡辺クリニック副院長。大学院では生殖医学で着床の分野の研究に携わり、生殖医療の道を志す。大学で2年先輩である同クリニック院長の渡辺浩彦先生との縁で同クリニックへ。A型・射手座。最近気になりだしたお腹まわりを本格的に引き締めるため、時々プールに通っている先生。「学生の頃は1km以上泳いでいましたが、近頃はとてもとても(笑)」。1時間かけて400〜500mを泳ぎ、徐々に距離を伸ばしているそうです。 ≫ 醍醐渡辺クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.16
コラム 不妊治療
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運動で血流を良くする
寒くなるこれからの時期、気になるのが体の「冷え」。妊娠にとって冷えは良くないといわれますが、どんな関係があるのでしょうか。また、冷え性を解消したり、予防するための対策法は? 仙台ARTクリニックの吉田仁秋先生に詳しいお話を伺いました。
2017.11.16
コラム 不妊治療
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食事で血流を良くする
冬は「冷え」が気になる季節。体が冷えることと血流(血行)はどう関係し、妊娠にどのような影響があるのでしょうか。血流を良くし、冷えを予防するための効果的な食事について神谷レディースクリニックの神谷博文先生にお話を伺いました。
2017.11.16
コラム 不妊治療
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PCOSの排卵誘発法、どんな方法がいいの?
PCOSの排卵誘発法、どんな方法がいいの? 田中 紀子 先生(田村秀子婦人科医院) 相談者:ことことさん(33歳)からの投稿 「PCOSの排卵誘発法について」不妊原因はPCOSと両卵管閉塞です。1人目は1回の採卵、移植で授かりました。2人目に挑戦して3年。採卵を8回していますが、良い受精卵がなかなか育たず、移植は3回です。排卵誘発法は薬と注射を組み合わせていろいろ試しました。PCOSということもあり、刺激は慎重に行ってもらっていました。ですが、なかなか結果が出ないので転院する予定です。転院先の有名な不妊専門クリニックで排卵誘発法を聞いてきました。生理2日目で左右各10個以上の卵胞がありましたが、5日目からFSH150単位を5日間、それからはアンタゴニストと必要であればHMGを追加すると言われました。OHSSを経験しているので、注射が強すぎるのでは? と確認しましたが、低刺激だと卵胞が育たないと言われました。どの排卵誘発法がいいかアドバイスをいただけますか? 治療歴やPCOSの程度により医師や施設の方針はさまざま PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは、月経不順の症状、それに超音波検査で小卵胞が10個以上みられ、血液検査では男性ホルモンが高値または月経中のLH高値かつ正常FSH値を満たすことから診断されます。卵胞の発育に時間がかかり、なかなか排卵できないため、不妊治療では内服薬や注射などの排卵誘発剤を使います。個人差はありますが、排卵誘発剤でも卵胞発育が遅い場合もあり、といって注射を使うと多数の卵胞発育が起こりやすく、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になる可能性が高まります。そのため、排卵誘発剤の種類や量に注意が必要になります。また、体外受精で排卵誘発をしても、卵子そのものはたくさん採取できるけれども、質の良い卵子が育ちにくいこともあります。 ことことさんは、以前の施設で薬と注射を組み合わせた排卵誘発法を試されたそうですが、きっとOHSSに注意しながら、慎重に排卵誘発剤を使っておられたのだと思うので、もしかしたら低刺激法だったのかもしれませんね。 そこで転院先の先生は、これまでの治療歴をみつつ、低刺激の方法で結果が出ていないことから、今までの方法からやり方を変えてみましょうと提案されたのでは。PCOSの程度にも個人差がありますので一様には言えませんが、アンタゴニスト法で注射の内容や量を微調整し、卵巣に適度な刺激を与えることで、成熟した卵子を複数個まとめて採卵できる可能性があります。ただ刺激を強めるとOHSSのリスクが出てくるので、注意は必要です。 PCOSの人にも使いやすいアンタゴニスト法 当院では、アンタゴニスト法、低刺激法、ロング法など、種々の排卵誘発法を用いていますが、その方の年齢、卵巣の機能(AMHやFSHの基礎値、前胞状卵胞数など)、これまでの治療での卵巣の反応の状態、PCOSの方ではOHSSの既往などから総合的に判断し、その方に合ったオーダーメイドの治療を提案しています。さらに他の施設から転院された方には、これまでの治療の内容、排卵誘発の方法、卵巣の反応状態などもお聞きし、参考にさせていただきます。近年は、卵巣機能が少し低下している30代後半以上の方も多く見受けられます。このような方の卵巣刺激には、当院ではアンタゴニスト法を選択することが多いですね。 アンタゴニスト法とは、採卵周期の3〜10日くらいまでFSH製剤やHMG製剤を使い、排卵を抑えるために途中からアンタゴニスト製剤を投与し、その後卵胞の大きさを見て、HCG製剤で卵子を成熟させて採卵する方法です。もともとご本人がもっている卵巣の力にお薬の力をプラスして、卵胞の発育と排卵をコントロールする方法なので、卵巣機能が少し低下している方にも適した方法です。また排卵誘発剤の注射の種類や量を微調整することにより、PCOSの方でも使うことはできます。PCOSの方は内因性のLHが高めなので、LHを含まないFSH製剤を中心に低用量から始めてもいいかも。 OHSSを回避しながら卵巣を適度に刺激する方法も ことことさんが一番心配されているのはOHSSのリスクですね。OHSSとは、排卵誘発剤により卵巣が過剰に刺激されて高エストロゲン状態になり、卵巣が腫れる、腹水がたまる、お腹が張るといった症状が起こります。重症化すると血液が濃縮され、血栓症のリスクも高まります。通常はHCG製剤の投与によって出現します。また同一周期に妊娠すると、特に重症化します。 採卵周期の場合、受精卵をすべて凍結し、採卵周期とは異なる別の周期に凍結融解胚移植をすることによって、重症化を回避することができます。また最近では、採卵前のHCGの代わりにGnRHアゴニストの使用や、採卵後に高プロラクチン血症の薬であるカベルゴリンの服用もOHSSのリスクを下げる効果が期待できます。 またアンタゴニスト法以外にも、内服の排卵誘発剤と注射を組み合わせて卵子をしっかり育てて採卵する方法もあります。クロミフェン以外の内服薬には、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)があります。レトロゾールはエストロゲンの過剰な分泌を抑えながら卵巣を刺激するのでOHSSの予防効果を示す報告もありますが、アンタゴニスト法と同様、卵巣の反応をみながら注射を微調整することは必要です。 あくまでもことことさんご本人の状態によりますが、OHSSのリスクを回避するような方法も取り入れながら、前回より少し強めの刺激法に挑戦されてもいいのかなと思いますね。 アンタゴニスト法を基準に状態に合わせてお薬の量などを微調整 どの排卵誘発法を選択するかは、ご本人の状態はもちろんのこと、治療歴、施設の方針やドクターの考え方によってそれぞれ異なります。卵巣機能が極端に低下している場合は別ですが、個人的にはアンタゴニスト法を基準にし、そのなかでお一人おひとりに合ったお薬の量を微調整しながら慎重に反応を見ていきます。それで結果が出ない場合は、低刺激やごく稀に刺激法(ロング法)に変えることもあります。 排卵誘発剤HMG/FSH製剤とは?! ●どんな排卵誘発方法で使用するの?体外受精で一度に複数の卵子を採卵する時に用いられます。ホルモン(FSHとLH)の含有量に違いがあり、ご本人の状態によって選択されます。 ●メリット、デメリットは?HMG製剤、FSH製剤は人の尿由来のため、精製方法やロットにより成分に少しバラつきがあります。リコンビナント製剤は遺伝子組み換えによって製造されているため、FSHとLHの混在がなく品質は安定していますが、費用は高めです。 ●使用されている製品例FSH製剤(ゴナピュール®、フォリルモンP®など)、HMG製剤(HMGフェリング®、HMGフジ®、HMGテイゾー®など)、リコンビナントFSH製剤(フォリスチム®、ゴナールエフ®) 田中先生より まとめ OHSSのリスクを回避しつつ前回より少し強めの刺激法もいいと思います [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 田中 紀子 先生(田村秀子婦人科医院) 京都府立医科大学医学部大学院修了。医学博士。2年間のアメリカ留学、扇町ARTレディースクリニック勤務を経て、2008 年3月より「田村秀子婦人科医院」勤務。生殖医療の現場に長年携わった経験から、近年は女性の心と体の健康をサポートする女性医療への関心が高まり、学会、勉強会などに積極的に参加。「留学中にアメリカで食べたあの味を再現したい!」と突然思い立ち、ベーグル作りにハマっているという先生。持ち前の探究心を発揮し、一人の世界に没頭できる時間は、日々のストレス解消にもなっているそうです。 ≫ 田村秀子婦人科医院 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら PCOSの排卵誘発法、どんな方法がいいの? 田中 紀子 先生(田村秀子婦人科医院) 相談者:ことことさん(33歳)からの投稿 「PCOSの排卵誘発法について」不妊原因はPCOSと両卵管閉塞です。1人目は1回の採卵、移植で授かりました。2人目に挑戦して3年。採卵を8回していますが、良い受精卵がなかなか育たず、移植は3回です。排卵誘発法は薬と注射を組み合わせていろいろ試しました。PCOSということもあり、刺激は慎重に行ってもらっていました。ですが、なかなか結果が出ないので転院する予定です。転院先の有名な不妊専門クリニックで排卵誘発法を聞いてきました。生理2日目で左右各10個以上の卵胞がありましたが、5日目からFSH150単位を5日間、それからはアンタゴニストと必要であればHMGを追加すると言われました。OHSSを経験しているので、注射が強すぎるのでは? と確認しましたが、低刺激だと卵胞が育たないと言われました。どの排卵誘発法がいいかアドバイスをいただけますか? 治療歴やPCOSの程度により医師や施設の方針はさまざま PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは、月経不順の症状、それに超音波検査で小卵胞が10個以上みられ、血液検査では男性ホルモンが高値または月経中のLH高値かつ正常FSH値を満たすことから診断されます。卵胞の発育に時間がかかり、なかなか排卵できないため、不妊治療では内服薬や注射などの排卵誘発剤を使います。個人差はありますが、排卵誘発剤でも卵胞発育が遅い場合もあり、といって注射を使うと多数の卵胞発育が起こりやすく、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になる可能性が高まります。そのため、排卵誘発剤の種類や量に注意が必要になります。また、体外受精で排卵誘発をしても、卵子そのものはたくさん採取できるけれども、質の良い卵子が育ちにくいこともあります。 ことことさんは、以前の施設で薬と注射を組み合わせた排卵誘発法を試されたそうですが、きっとOHSSに注意しながら、慎重に排卵誘発剤を使っておられたのだと思うので、もしかしたら低刺激法だったのかもしれませんね。 そこで転院先の先生は、これまでの治療歴をみつつ、低刺激の方法で結果が出ていないことから、今までの方法からやり方を変えてみましょうと提案されたのでは。PCOSの程度にも個人差がありますので一様には言えませんが、アンタゴニスト法で注射の内容や量を微調整し、卵巣に適度な刺激を与えることで、成熟した卵子を複数個まとめて採卵できる可能性があります。ただ刺激を強めるとOHSSのリスクが出てくるので、注意は必要です。 PCOSの人にも使いやすいアンタゴニスト法 当院では、アンタゴニスト法、低刺激法、ロング法など、種々の排卵誘発法を用いていますが、その方の年齢、卵巣の機能(AMHやFSHの基礎値、前胞状卵胞数など)、これまでの治療での卵巣の反応の状態、PCOSの方ではOHSSの既往などから総合的に判断し、その方に合ったオーダーメイドの治療を提案しています。さらに他の施設から転院された方には、これまでの治療の内容、排卵誘発の方法、卵巣の反応状態などもお聞きし、参考にさせていただきます。近年は、卵巣機能が少し低下している30代後半以上の方も多く見受けられます。このような方の卵巣刺激には、当院ではアンタゴニスト法を選択することが多いですね。 アンタゴニスト法とは、採卵周期の3〜10日くらいまでFSH製剤やHMG製剤を使い、排卵を抑えるために途中からアンタゴニスト製剤を投与し、その後卵胞の大きさを見て、HCG製剤で卵子を成熟させて採卵する方法です。もともとご本人がもっている卵巣の力にお薬の力をプラスして、卵胞の発育と排卵をコントロールする方法なので、卵巣機能が少し低下している方にも適した方法です。また排卵誘発剤の注射の種類や量を微調整することにより、PCOSの方でも使うことはできます。PCOSの方は内因性のLHが高めなので、LHを含まないFSH製剤を中心に低用量から始めてもいいかも。 OHSSを回避しながら卵巣を適度に刺激する方法も ことことさんが一番心配されているのはOHSSのリスクですね。OHSSとは、排卵誘発剤により卵巣が過剰に刺激されて高エストロゲン状態になり、卵巣が腫れる、腹水がたまる、お腹が張るといった症状が起こります。重症化すると血液が濃縮され、血栓症のリスクも高まります。通常はHCG製剤の投与によって出現します。また同一周期に妊娠すると、特に重症化します。 採卵周期の場合、受精卵をすべて凍結し、採卵周期とは異なる別の周期に凍結融解胚移植をすることによって、重症化を回避することができます。また最近では、採卵前のHCGの代わりにGnRHアゴニストの使用や、採卵後に高プロラクチン血症の薬であるカベルゴリンの服用もOHSSのリスクを下げる効果が期待できます。 またアンタゴニスト法以外にも、内服の排卵誘発剤と注射を組み合わせて卵子をしっかり育てて採卵する方法もあります。クロミフェン以外の内服薬には、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)があります。レトロゾールはエストロゲンの過剰な分泌を抑えながら卵巣を刺激するのでOHSSの予防効果を示す報告もありますが、アンタゴニスト法と同様、卵巣の反応をみながら注射を微調整することは必要です。 あくまでもことことさんご本人の状態によりますが、OHSSのリスクを回避するような方法も取り入れながら、前回より少し強めの刺激法に挑戦されてもいいのかなと思いますね。 アンタゴニスト法を基準に状態に合わせてお薬の量などを微調整 どの排卵誘発法を選択するかは、ご本人の状態はもちろんのこと、治療歴、施設の方針やドクターの考え方によってそれぞれ異なります。卵巣機能が極端に低下している場合は別ですが、個人的にはアンタゴニスト法を基準にし、そのなかでお一人おひとりに合ったお薬の量を微調整しながら慎重に反応を見ていきます。それで結果が出ない場合は、低刺激やごく稀に刺激法(ロング法)に変えることもあります。 排卵誘発剤HMG/FSH製剤とは?! ●どんな排卵誘発方法で使用するの?体外受精で一度に複数の卵子を採卵する時に用いられます。ホルモン(FSHとLH)の含有量に違いがあり、ご本人の状態によって選択されます。 ●メリット、デメリットは?HMG製剤、FSH製剤は人の尿由来のため、精製方法やロットにより成分に少しバラつきがあります。リコンビナント製剤は遺伝子組み換えによって製造されているため、FSHとLHの混在がなく品質は安定していますが、費用は高めです。 ●使用されている製品例FSH製剤(ゴナピュール®、フォリルモンP®など)、HMG製剤(HMGフェリング®、HMGフジ®、HMGテイゾー®など)、リコンビナントFSH製剤(フォリスチム®、ゴナールエフ®) 田中先生より まとめ OHSSのリスクを回避しつつ前回より少し強めの刺激法もいいと思います [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 田中 紀子 先生(田村秀子婦人科医院) 京都府立医科大学医学部大学院修了。医学博士。2年間のアメリカ留学、扇町ARTレディースクリニック勤務を経て、2008 年3月より「田村秀子婦人科医院」勤務。生殖医療の現場に長年携わった経験から、近年は女性の心と体の健康をサポートする女性医療への関心が高まり、学会、勉強会などに積極的に参加。「留学中にアメリカで食べたあの味を再現したい!」と突然思い立ち、ベーグル作りにハマっているという先生。持ち前の探究心を発揮し、一人の世界に没頭できる時間は、日々のストレス解消にもなっているそうです。 ≫ 田村秀子婦人科医院 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.15
コラム 不妊治療
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低AMHでモデレート法をすすめられたけど、ショート法にチャレンジしたい!
低AMHでモデレート法をすすめられたけど、ショート法にチャレンジしたい! 福井 敬介 先生(福井ウィメンズクリニック 相談者:はるさん(41歳)からの投稿 「ショート法かモデレート法?」39歳で自然妊娠を経て出産、流産を1回経験しており、FSH等のホルモン値は正常値内です。2人目不妊でタイミング療法を5回試して結果が出なかったので体外受精に進む予定です。病院の方針で初回は顕微なし凍結融解胚移植のショート法かモデレート法になり、私はAMHが0.16ng/ml以下と低いためモデレート法をすすめられました。ですが、私としてはショート法を試したいと思っています。医師診察後に看護師さんに「初回はショート法を試したい」と伝えたところ、「低AMHなので採卵数が少ないと思われるため、医師は費用が負担にならないようにモデレートをすすめた可能性があるが、希望すればショート法に変更できる」とのことでした。自分の不妊の原因は高齢による卵子の老化で、今は良い卵子を待っているところだと仮定して、検査の意味も含めてどこまで採卵し受精できるのか挑戦してみたいと思っています。そして、その後にモデレート法で回数を重ねればいいのではと考えています。この考えに問題はありますか。 ショート法は刺激周期モデレート法は低刺激周期 体外受精の採卵における排卵誘発には、ショート法、ロング法、アンタゴニスト法などいくつか方法があります。どれも薬を使って人工的に排卵周期を作り出します。はるさんのご相談にもあるショート法について少し説明しますと、採卵周期の1~3日目頃からGnRHアゴニスト製剤の点鼻薬を始めて、HMG製剤やFSH製剤の注射をして卵胞の発育を促した後、HCG製剤を投与したのち採卵します。 ロング法に比べると短期間で卵胞が育ちやすいため治療期間が短く、薬の使用量も少なくて済むため、時間的にも経済的にも負担が少ないほうだと思います。一方で、卵巣の機能が低下していると、卵胞が十分に発育しないというデメリットもあります。また、点鼻薬の効果がなかなか抜けないため、1回ショート法を行うと2~3周期は排卵誘発を行わず体を休める必要があります。 ショート法よりも刺激が少ない方法がモデレート法です。マイルド法や低刺激周期とも言われます。クロミッド®やフェマーラ®などの内服薬を投与し、HMG製剤を注射して低刺激で排卵を促す方法です。モデレート法は低刺激なのでショート法に比べると比較的作用が穏やかで、費用はもちろんですが体への負担が少ないのがメリットです。 まずは採卵に集中して移植に移行する方法も はるさんは、ご自身が低AMHなので刺激を与えたほうがたくさん採卵できると思われているのかもしれませんね。よく誤解をされる方が多いのですが、排卵誘発の刺激に応じて採卵数が増えるというわけではありません。特にAMHが低い方は、ショート法で刺激を与えて排卵誘発をしたとしても、採卵できる数はモデレート法とそれほど変わらないと思います。むしろ、刺激が強いので必要以上に卵胞が大きく育ってしまい採卵できずにキャンセルとなる可能性もあります。 また、ショート法の大きな欠点は、刺激が強いために毎周期の採卵ができないことです。41歳という時間のない状況で2~3周期も不妊治療をストップするのは、非常にもったいないですね。はるさんには、毎周期にわたって継続的に採卵できるモデレート法のほうが適していると思いますよ。モデレート法については、これといったデメリットはないと思います。まずはモデレート法をやってみて、その反応をみてからショート法を考えてはいかがでしょうか。 刺激の強さと採卵数は必ずしも比例しない また、40代の方や低AMHの方の不妊治療の計画として、少しでも若いうちに採卵して、良い受精卵をストックしておくという考え方があります。先にどんどん採卵をして胚盤胞を凍結し、次に凍結胚の移植に集中するということです。 モデレート法の場合、クロミッド®などを使うとどうしても子宮の内膜が薄くなるので、すぐに移植というわけにはいきません。ですから、凍結胚がたまるまでモデレート法を続けて、クロミッド®をやめる。子宮内膜がちゃんと元のように厚くなって、準備が整った時点で移植を始めればいいのです。時間のない方にはおすすめの不妊治療計画です。はるさんも凍結融解胚移植を予定されていますね。ちなみに、ショート法の場合は、子宮の環境が整っていれば新鮮胚移植と凍結融解胚移植どちらも選ぶことができます。 体に刺激の少ない方法から始めて原因と対策を考える これまでの話は、刺激を与えて排卵誘発をする採卵方法ですが、モデレート法よりさらに刺激のない方法として排卵誘発を行わない自然周期があります。私なら、モデレート法もしくは自然周期から始めることをおすすめします。自然周期とは、排卵誘発を行わずに、自然な月経周期の中で育ってくる卵子を採卵して受精させる方法です。この方法は、原則として新鮮胚で移植します。それで妊娠できるかもしれませんし、うまくいかなくてもできるだけ自然に近い方法なので、その間にホルモンや子宮環境を診ながら不妊の原因を探ったり次のステップを考えたりすることもできます。 もし、それでうまくいかなければ、モデレート法のように低刺激で排卵誘発を続けます。自然周期もモデレート法も毎周期続けてチャレンジできるので、治療をしながら原因と次の対策を練るという意味では、AMHが低い方や時間のない高齢の方にはとても有効だと思います。 排卵誘発法のファーストチョイスは(体外受精) 最初の2回までは自然周期で様子をみます。最初の2回までは自然周期から始めます。最初から薬で排卵誘発をするのもいいのですが、それでは不妊の原因がわかりづらいからです。また、当院のデータでは、自然周期で妊娠する人の多くが2回までで成功していることから、2回やってみてうまくいかなければ次のステップに進みます。自然周期なら治療をしながら排卵の環境を診るなどデータを取れるので不妊の原因を探ることができ、次の対策を考えやすい点で有効です。 クロミフェンについて よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?モデレート法などの低刺激療法で使用します。クロミフェン製剤の効果を補うためにHMG、HCGを投与する場合もあります。 ●副作用はあるの? 頭痛や吐き気を感じる場合があります。かすみ目の症状が出たら使用を中止して、主治医に知らせてください。 福井先生より まとめ まずはモデレート法で回数を重ねて次にショート法に進んでみては [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福井 敬介 先生(福井ウィメンズクリニック 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦人科に入局、愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として不妊カップルに提供したい」と、福井ウィメンズクリニックを開設する。今年から通い始めたジムのおかげでダイエットに成功し、現在は体型キープ中の福井先生の冬の楽しみは毎年好評のクリニックを彩るイルミネーション。今年は、新しいデザインで登場。クリスマスまで楽しめます。 ≫ 福井ウィメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 低AMHでモデレート法をすすめられたけど、ショート法にチャレンジしたい! 福井 敬介 先生(福井ウィメンズクリニック 相談者:はるさん(41歳)からの投稿 「ショート法かモデレート法?」39歳で自然妊娠を経て出産、流産を1回経験しており、FSH等のホルモン値は正常値内です。2人目不妊でタイミング療法を5回試して結果が出なかったので体外受精に進む予定です。病院の方針で初回は顕微なし凍結融解胚移植のショート法かモデレート法になり、私はAMHが0.16ng/ml以下と低いためモデレート法をすすめられました。ですが、私としてはショート法を試したいと思っています。医師診察後に看護師さんに「初回はショート法を試したい」と伝えたところ、「低AMHなので採卵数が少ないと思われるため、医師は費用が負担にならないようにモデレートをすすめた可能性があるが、希望すればショート法に変更できる」とのことでした。自分の不妊の原因は高齢による卵子の老化で、今は良い卵子を待っているところだと仮定して、検査の意味も含めてどこまで採卵し受精できるのか挑戦してみたいと思っています。そして、その後にモデレート法で回数を重ねればいいのではと考えています。この考えに問題はありますか。 ショート法は刺激周期モデレート法は低刺激周期 体外受精の採卵における排卵誘発には、ショート法、ロング法、アンタゴニスト法などいくつか方法があります。どれも薬を使って人工的に排卵周期を作り出します。はるさんのご相談にもあるショート法について少し説明しますと、採卵周期の1~3日目頃からGnRHアゴニスト製剤の点鼻薬を始めて、HMG製剤やFSH製剤の注射をして卵胞の発育を促した後、HCG製剤を投与したのち採卵します。 ロング法に比べると短期間で卵胞が育ちやすいため治療期間が短く、薬の使用量も少なくて済むため、時間的にも経済的にも負担が少ないほうだと思います。一方で、卵巣の機能が低下していると、卵胞が十分に発育しないというデメリットもあります。また、点鼻薬の効果がなかなか抜けないため、1回ショート法を行うと2~3周期は排卵誘発を行わず体を休める必要があります。 ショート法よりも刺激が少ない方法がモデレート法です。マイルド法や低刺激周期とも言われます。クロミッド®やフェマーラ®などの内服薬を投与し、HMG製剤を注射して低刺激で排卵を促す方法です。モデレート法は低刺激なのでショート法に比べると比較的作用が穏やかで、費用はもちろんですが体への負担が少ないのがメリットです。 まずは採卵に集中して移植に移行する方法も はるさんは、ご自身が低AMHなので刺激を与えたほうがたくさん採卵できると思われているのかもしれませんね。よく誤解をされる方が多いのですが、排卵誘発の刺激に応じて採卵数が増えるというわけではありません。特にAMHが低い方は、ショート法で刺激を与えて排卵誘発をしたとしても、採卵できる数はモデレート法とそれほど変わらないと思います。むしろ、刺激が強いので必要以上に卵胞が大きく育ってしまい採卵できずにキャンセルとなる可能性もあります。 また、ショート法の大きな欠点は、刺激が強いために毎周期の採卵ができないことです。41歳という時間のない状況で2~3周期も不妊治療をストップするのは、非常にもったいないですね。はるさんには、毎周期にわたって継続的に採卵できるモデレート法のほうが適していると思いますよ。モデレート法については、これといったデメリットはないと思います。まずはモデレート法をやってみて、その反応をみてからショート法を考えてはいかがでしょうか。 刺激の強さと採卵数は必ずしも比例しない また、40代の方や低AMHの方の不妊治療の計画として、少しでも若いうちに採卵して、良い受精卵をストックしておくという考え方があります。先にどんどん採卵をして胚盤胞を凍結し、次に凍結胚の移植に集中するということです。 モデレート法の場合、クロミッド®などを使うとどうしても子宮の内膜が薄くなるので、すぐに移植というわけにはいきません。ですから、凍結胚がたまるまでモデレート法を続けて、クロミッド®をやめる。子宮内膜がちゃんと元のように厚くなって、準備が整った時点で移植を始めればいいのです。時間のない方にはおすすめの不妊治療計画です。はるさんも凍結融解胚移植を予定されていますね。ちなみに、ショート法の場合は、子宮の環境が整っていれば新鮮胚移植と凍結融解胚移植どちらも選ぶことができます。 体に刺激の少ない方法から始めて原因と対策を考える これまでの話は、刺激を与えて排卵誘発をする採卵方法ですが、モデレート法よりさらに刺激のない方法として排卵誘発を行わない自然周期があります。私なら、モデレート法もしくは自然周期から始めることをおすすめします。自然周期とは、排卵誘発を行わずに、自然な月経周期の中で育ってくる卵子を採卵して受精させる方法です。この方法は、原則として新鮮胚で移植します。それで妊娠できるかもしれませんし、うまくいかなくてもできるだけ自然に近い方法なので、その間にホルモンや子宮環境を診ながら不妊の原因を探ったり次のステップを考えたりすることもできます。 もし、それでうまくいかなければ、モデレート法のように低刺激で排卵誘発を続けます。自然周期もモデレート法も毎周期続けてチャレンジできるので、治療をしながら原因と次の対策を練るという意味では、AMHが低い方や時間のない高齢の方にはとても有効だと思います。 排卵誘発法のファーストチョイスは(体外受精) 最初の2回までは自然周期で様子をみます。最初の2回までは自然周期から始めます。最初から薬で排卵誘発をするのもいいのですが、それでは不妊の原因がわかりづらいからです。また、当院のデータでは、自然周期で妊娠する人の多くが2回までで成功していることから、2回やってみてうまくいかなければ次のステップに進みます。自然周期なら治療をしながら排卵の環境を診るなどデータを取れるので不妊の原因を探ることができ、次の対策を考えやすい点で有効です。 クロミフェンについて よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?モデレート法などの低刺激療法で使用します。クロミフェン製剤の効果を補うためにHMG、HCGを投与する場合もあります。 ●副作用はあるの? 頭痛や吐き気を感じる場合があります。かすみ目の症状が出たら使用を中止して、主治医に知らせてください。 福井先生より まとめ まずはモデレート法で回数を重ねて次にショート法に進んでみては [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福井 敬介 先生(福井ウィメンズクリニック 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦人科に入局、愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として不妊カップルに提供したい」と、福井ウィメンズクリニックを開設する。今年から通い始めたジムのおかげでダイエットに成功し、現在は体型キープ中の福井先生の冬の楽しみは毎年好評のクリニックを彩るイルミネーション。今年は、新しいデザインで登場。クリスマスまで楽しめます。 ≫ 福井ウィメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.15
コラム 不妊治療
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40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます
40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 相談者:KiKiさん(41歳)からの投稿 「40代に有効な誘発法は?」これまでにAIHで稽留流産、化学流産を数回経験。半年前にIVFデビューしました。その時の検査でAMHは21、FSHも6前後、ほかの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案されました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。顕微授精で6個の受精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていないため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。 数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配です。クロミッド®などの低刺激も視野に入れていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうというリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出るとも聞きます。 初採卵で新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を抱える毎日です。 誘発法選択の指標はAMHとFSHの数値 今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは21、FSHは6前後とのことですが、ここでのAMHの単位はおそらくpMだと思います。現在、AMHの数値にはng/mlを採用していますので換算すると2・94ng/mlですね。40代としてはとてもいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。 現に、アンタゴニスト法で9個採卵できているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。 8分割の新鮮胚移植で化学流産したとのことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。40歳になれば胚盤胞まで到達する率は30%くらいです。 切り替えにスプレキュア®を用いたアンタゴニスト法なら副作用はほとんどない 以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。 アンタゴニスト法で結果が出なかったのですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、HCGを用いずにスプレキュア®というGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュア®は脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。 低刺激法をチョイスするなら専門のクリニックへ排卵リスクも経済面も安心 クロミッド®などの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。 低刺激法は体内で自然に分泌されるホルモンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを30分程度で測定できますので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。 40代でも粘り強い治療で結果は期待できる KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に30代でも卵巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり40歳を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は10~15%くらい、流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~10%くらいです。 当院のデータでは、40歳から治療を始められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は40%以上です。つまり、40歳になれば1回目の治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。 人工授精で稽留流産、化学流産を経験されているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。 排卵誘発法のファーストチョイスは? 40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できるという意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。 GnRHアゴニスト製剤とは? よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます ●副作用について アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えでスプレキュア®を使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。 中村先生より まとめ AMHとFSHが基準値内であれば誘発法はまだ十分に選択肢があります [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。「実は10年程前にEXILEのvocal battle auditionに応募しました。歌はダメなんですけど、マイケル・ジャクソン世代なので、ダンスには多少自信があったんですが。でも書類審査で落とされました。その時のオーディションで優勝したのが、TAKAHIROさんです。まあ、ファンの方と武井咲さんにとっては、YOSHIHIROではなくTAKAHIROでよかったでしょう(笑)」と先生。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 相談者:KiKiさん(41歳)からの投稿 「40代に有効な誘発法は?」これまでにAIHで稽留流産、化学流産を数回経験。半年前にIVFデビューしました。その時の検査でAMHは21、FSHも6前後、ほかの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案されました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。顕微授精で6個の受精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていないため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。 数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配です。クロミッド®などの低刺激も視野に入れていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうというリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出るとも聞きます。 初採卵で新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を抱える毎日です。 誘発法選択の指標はAMHとFSHの数値 今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは21、FSHは6前後とのことですが、ここでのAMHの単位はおそらくpMだと思います。現在、AMHの数値にはng/mlを採用していますので換算すると2・94ng/mlですね。40代としてはとてもいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。 現に、アンタゴニスト法で9個採卵できているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。 8分割の新鮮胚移植で化学流産したとのことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。40歳になれば胚盤胞まで到達する率は30%くらいです。 切り替えにスプレキュア®を用いたアンタゴニスト法なら副作用はほとんどない 以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。 アンタゴニスト法で結果が出なかったのですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、HCGを用いずにスプレキュア®というGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュア®は脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。 低刺激法をチョイスするなら専門のクリニックへ排卵リスクも経済面も安心 クロミッド®などの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。 低刺激法は体内で自然に分泌されるホルモンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを30分程度で測定できますので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。 40代でも粘り強い治療で結果は期待できる KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に30代でも卵巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり40歳を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は10~15%くらい、流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~10%くらいです。 当院のデータでは、40歳から治療を始められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は40%以上です。つまり、40歳になれば1回目の治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。 人工授精で稽留流産、化学流産を経験されているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。 排卵誘発法のファーストチョイスは? 40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できるという意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。 GnRHアゴニスト製剤とは? よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます ●副作用について アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えでスプレキュア®を使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。 中村先生より まとめ AMHとFSHが基準値内であれば誘発法はまだ十分に選択肢があります [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。「実は10年程前にEXILEのvocal battle auditionに応募しました。歌はダメなんですけど、マイケル・ジャクソン世代なので、ダンスには多少自信があったんですが。でも書類審査で落とされました。その時のオーディションで優勝したのが、TAKAHIROさんです。まあ、ファンの方と武井咲さんにとっては、YOSHIHIROではなくTAKAHIROでよかったでしょう(笑)」と先生。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.15
コラム 不妊治療
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排卵誘発法の選び方に「正解!!」はありますか?
「今回は4つしか採卵できていないのでリセットしてやり直すほうがいいのでしょうか。採卵は1回しかできないので迷っています。アドバイスをお願いします。」
2017.11.15
コラム 不妊治療
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ロング法とアンタゴニスト法、初めての体外受精で選ぶ誘発法は?
「ロング法のほうができる卵子も多いと聞きました。また、ロング法だと腫れる可能性もあることも聞きました。どちらの方法でもいいといわれましたが、余計わからなくて。」
2017.11.15
コラム 不妊治療
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ソフロロジー分娩について
ソフロロジー分娩とは? ソフロロジーとは本来精神科医によって創案された「プラス思考を進ませる学問」。これをフランス人の産婦人科医ジャンヌ・クレフ博士が初めて分娩法に取り入れたのがソフロロジー分娩です。前向きな分娩とは「心身ともにリラックス」したソフロリミナル状態が続くこと。ラマーズ法が呼吸などを元にした「テクニックが必要な分娩」と考えると、ソフロロジー法は哲学を元にした「母性による前向きな分娩」です。 ソフロロジー分娩には三要素あり「エクササイズ10%」「呼吸法10%」そして「イメージトレーニング80%」と言われています。そのイメージトレーニングの指導法はとても簡単で、同じ旋律が繰り返される環境音楽のような心地よいBGMを1日1回30分聞いて過ごします。繰り返し曲を聞くことで脳からβ波が出て心身ともにぼんやりとリラックスした状態になります。これを聞きながら、お腹の赤ちゃんとコミュニケーションをする時間をとります。赤ちゃんの存在をしっかりイメージしながら「母性」を育んでいくことがソフロロジー分娩に最も必要なトレーニングなのです。 ソフロロジーのメリット、デメリットは? 無痛ではなく減痛分娩と言われる分娩法なので出産の痛みはもちろんありますが、それでも麻酔によるリスクを避け、特別な機器のある施設でなくても分娩することができるのが一番のメリットです。母性を高め、リラックスしてお産に臨むので、パニックにならず母体の回復も早いと言われています。 デメリットは「指導や実践に手間がかかる」こと。大きい病院では大勢の妊婦を前にラマーズ法を指導するのが一番効率がよく手間がかからないという理由で続いていますが、小規模な病院ではひとりひとりと十分接する時間があるため、ソフロロジー教育が行き渡りやすく、一度ソフロロジーを経験した産婦は次の出産もソフロロジーを希望するほど母体に優しい分娩と言えます。毎日CDを聞いてイメージトレーニングをするということも「面倒くさい」と思う方にはデメリットなのかもしれません。 ソフロロジー分娩が向かない人は? 向いていないとされる条件はほとんどありません。しかし、トレーニングに最低1カ月、平均2~3カ月は必要とされるので、その時間が取れないほど忙しいという方には難しいかもしれませんね。しかしイメージトレーニングはすればするほど分娩時の前向き思考につながり、育児にも豊かな母性が続き、良い親子関係を築くことができます。初産婦さん、特に母性に自信のない女性こそ「自らの母性を高めてお産に集中できる」このソフロロジー法を取り入れてほしいと思っています。 分娩方法に悩んでいるママにメッセージを 当院の8割はパートナーも一緒の立会い分娩です。ソフロロジー式の場合は産婦がパニックにならない静かな分娩なので、パートナーの心の負担も減り、出産の感動もより大きく妻への愛情や感謝が高まると言われています。 母性を高めずに出産を迎えると、それが産後うつや虐待につながるケースも。今だから見直されている分娩法がソフロロジー法です。ラマーズ法、アクティブバースなど多彩な分娩法から、あなたが納得するスタイルを選び、楽しいお産を迎えてください。 お話を伺った方のご紹介 日高輝幸先生(エンゼルマタニティクリニック) 昭和大学医学部卒。日本産科婦人科学会専門医。母体保護法指定医。昭和大学医学部講師などを経て1991年「エンゼルマタニティクリニック」を開院。「自然分娩による安心のお産」をモットーとし、優秀なスタッフ体制や先端機器の導入と、快適なホスピタリティで新しい命を迎えるサポートを行う。 ≫ エンゼルマタニティクリニック ソフロロジー分娩について 2017/11/15 日高 輝幸 先生(エンゼルマタニティクリニック) ソフロロジー分娩とは? ソフロロジーとは本来精神科医によって創案された「プラス思考を進ませる学問」。これをフランス人の産婦人科医ジャンヌ・クレフ博士が初めて分娩法に取り入れたのがソフロロジー分娩です。前向きな分娩とは「心身ともにリラックス」したソフロリミナル状態が続くこと。ラマーズ法が呼吸などを元にした「テクニックが必要な分娩」と考えると、ソフロロジー法は哲学を元にした「母性による前向きな分娩」です。 ソフロロジー分娩には三要素あり「エクササイズ10%」「呼吸法10%」そして「イメージトレーニング80%」と言われています。そのイメージトレーニングの指導法はとても簡単で、同じ旋律が繰り返される環境音楽のような心地よいBGMを1日1回30分聞いて過ごします。繰り返し曲を聞くことで脳からβ波が出て心身ともにぼんやりとリラックスした状態になります。これを聞きながら、お腹の赤ちゃんとコミュニケーションをする時間をとります。赤ちゃんの存在をしっかりイメージしながら「母性」を育んでいくことがソフロロジー分娩に最も必要なトレーニングなのです。 ソフロロジーのメリット、デメリットは? 無痛ではなく減痛分娩と言われる分娩法なので出産の痛みはもちろんありますが、それでも麻酔によるリスクを避け、特別な機器のある施設でなくても分娩することができるのが一番のメリットです。母性を高め、リラックスしてお産に臨むので、パニックにならず母体の回復も早いと言われています。 デメリットは「指導や実践に手間がかかる」こと。大きい病院では大勢の妊婦を前にラマーズ法を指導するのが一番効率がよく手間がかからないという理由で続いていますが、小規模な病院ではひとりひとりと十分接する時間があるため、ソフロロジー教育が行き渡りやすく、一度ソフロロジーを経験した産婦は次の出産もソフロロジーを希望するほど母体に優しい分娩と言えます。毎日CDを聞いてイメージトレーニングをするということも「面倒くさい」と思う方にはデメリットなのかもしれません。 ソフロロジー分娩が向かない人は? 向いていないとされる条件はほとんどありません。しかし、トレーニングに最低1カ月、平均2~3カ月は必要とされるので、その時間が取れないほど忙しいという方には難しいかもしれませんね。しかしイメージトレーニングはすればするほど分娩時の前向き思考につながり、育児にも豊かな母性が続き、良い親子関係を築くことができます。初産婦さん、特に母性に自信のない女性こそ「自らの母性を高めてお産に集中できる」このソフロロジー法を取り入れてほしいと思っています。 分娩方法に悩んでいるママにメッセージを 当院の8割はパートナーも一緒の立会い分娩です。ソフロロジー式の場合は産婦がパニックにならない静かな分娩なので、パートナーの心の負担も減り、出産の感動もより大きく妻への愛情や感謝が高まると言われています。 母性を高めずに出産を迎えると、それが産後うつや虐待につながるケースも。今だから見直されている分娩法がソフロロジー法です。ラマーズ法、アクティブバースなど多彩な分娩法から、あなたが納得するスタイルを選び、楽しいお産を迎えてください。 お話を伺った方のご紹介 日高輝幸先生(エンゼルマタニティクリニック) 昭和大学医学部卒。日本産科婦人科学会専門医。母体保護法指定医。昭和大学医学部講師などを経て1991年「エンゼルマタニティクリニック」を開院。「自然分娩による安心のお産」をモットーとし、優秀なスタッフ体制や先端機器の導入と、快適なホスピタリティで新しい命を迎えるサポートを行う。 ≫ エンゼルマタニティクリニック
2017.11.15
コラム 妊娠・出産