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プロゲステロン腟剤のこと、詳しく教えて!
凍結胚移植に使用する黄体ホルモン剤の役割は? 国内で使用可能となったプロゲステロン腟剤について知っておくべき薬の特性は? ウィメンズクリニックふじみ野の林先生に伺いました。 プレママの体に優しい凍結胚移植が主流に 現在、日本のET(胚移植)では、新鮮胚移植より凍結胚移植のほうが断然多くなっています。いくつか理由がありますが、まずひとつは単純に成績の良さが挙げられます。胚(受精卵)は採卵周期で戻すか、またはいったん凍結保存してから別の周期に融解して戻すかのいずれかで移植しますが、凍結保存してから移植した場合のほうが、妊娠率が高いと考えられています。 もうひとつの理由としては、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を防げることにあります。採卵前に、すでに高刺激で目いっぱい卵巣を刺激して排卵誘発していますから、直後の新鮮胚移植で妊娠が成立した場合にはOHSSが起こりやすいのです。せっかく妊娠してもつらい症状をともなうので、妊婦さんにとってはどうしても“優しくない”。それもあり、卵巣が落ち着いてから戻す凍結胚移植が多く選択されることとなりました。 妊娠を望む女性の体がしっかり整うのを待ってから、胚を戻すことができるのが凍結胚移植。妊娠率の高さも、ここに理由があるのかもしれません。 プロゲステロンは着床・妊娠維持において重要なホルモン 子宮内膜は月経終了後にエストロゲンの働きによって増殖しながら厚みを増していきますが、排卵後は黄体から分泌されるプロゲステロンが子宮内膜をふかふかのベッドに変化させ、胚が子宮内膜に着床するための準備をします。妊娠7、8週頃にはプロゲステロンの分泌源は黄体から胎盤へと移行していくことがわかっています。ART(生殖補助医療)においては一般的にさまざまなホルモン剤を使用することによって黄体機能を抑制してしまうことから、体外からプロゲステロンを補充することによって着床・妊娠維持を促す必要があります。 国内で使用可能となった「プロゲステロン腟剤」という黄体ホルモン製剤 凍結胚を移植する方法は大きく分けて2つあります。患者さん自身の月経周期に合わせて胚を移植する自然周期移植と、エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤を用いて着床期の体内におけるホルモン動態を人工的につくり出して移植を行うホルモン調節周期です。どちらも妊娠率において大きな差はないと考えられていますが、薬剤を使用するホルモン調節周期の移植は胚移植のスケジュールが立てやすいというメリットがありますし、また排卵障害がある方や採卵を行った翌周期での移植を希望する方ではホルモン調節周期のほうが良いのではないかと思います。一方でホルモン調節周期によって移植する場合は、もともと卵巣内の黄体から分泌されるプロゲステロンがつくれなくなりますので、妊娠10週くらいまでプロゲステロンを体外から投与する必要があります。 ホルモン調節周期において使用されるホルモン製剤は、国内においてはこれまで体内で分泌されるホルモンとは少し異なる作用を示す、いわゆる合成型の製剤等が標準的に使用されてきました。しかし、近年では安全性の面から、可能な限り体内ホルモンとまったく同じ作用を示す天然型の製剤を使用することが望ましいという考え方が主流になっているように思われます。 プロゲステロン製剤はいくつかの種類がありますが、日本においてはこれまで合成型の経口剤(飲み薬)や筋肉注射剤がメインでした。経口剤は腸管や肝臓を介して、筋注剤は血液を介して子宮内膜に薬剤が届けられるため、薬物移送はあまり効率がよいとは言えません。また筋注剤は筋肉に注射するため痛みがあり、薬剤投与のための通院が必要になります。しかし、数年前から国内にてARTにおける黄体補充の適応症を取得して承認された天然型のプロゲステロン腟剤が使用できるようになりました。腟剤は患者さん自身が直接腟の中に挿入します。できるだけ子宮に近い場所(腟の奥1/3くらい)まで入れたほうが効果的であるといわれています。承認された腟剤の中には専用の腟内挿入補助具(アプリケータ)が付属されているものもあり、慣れれば手を汚さずにどなたでも簡単に使うことができると思います。しかし、腟剤は使用中に薬剤の添加物がおりものに混じって腟外に漏れ出ることで下着を汚したりすることがあります。念のため、おりものシートやナプキンなどを備えておくことをすすめています。このような天然型のプロゲステロン腟剤は国内では登場して間もないのですが、海外では数十年前から使用されており、現在では黄体補充の80%くらいが腟剤を標準的に使用しています。 知っておきたいプロゲステロン腟剤の特性 ホルモン調節周期にプロゲステロン腟剤を使用するうえで、子宮内膜に十分なプロゲステロンが届けられているかどうかを知るために、胚移植日に血液検査を行って血中プロゲステロン濃度を調べることが多くの施設で行われてきました。施設によっては血液検査の結果を見て、値が低ければ経口剤や筋注剤を加えて治療法を変更することもあるようですが、当院では基本的にプロゲステロン腟剤以外の黄体ホルモン剤を同時に使用することはありません。当院で調査したデータでは、胚移植日の血中プロゲステロン値は妊娠率と何ら関係を示しておりませんでした。かなり低い値を示していても、妊娠が継続されている方が多くいらっしゃいました。当院と同様の調査結果も全国の施設から多数報告されているようです。腟剤を挿入した場合は経口剤や筋注剤のように全身の血液を通って子宮内膜組織に薬剤が届けられるわけではなく、腟から子宮内膜に直接薬剤が届けられますので、血中濃度を測定しても意味はないと考えられます。極端な場合、たとえば使用方法を間違えていて血中プロゲステロン値が0でない限りは、値が低い場合であっても高い場合であっても不安になる必要はありません。また腟剤投与中におりものシートに点状の軽度の出血を経験される方もおられますが、基本的に妊娠との関連性は低いことが明らかにされていますので、安心してご使用になられていいと思います。 体外受精において妊娠できるかどうかはさまざまなメカニズムが成立する必要がありますが、特に受精卵の質が重要になると考えられています。ホルモン調整周期の凍結胚移植ではプロゲステロン製剤の使用によって、着床しやすい子宮内膜をつくることが重要になりますが、国内で使用可能となったプロゲステロン腟剤は海外で既に有効性が証明されているものですので、仮に妊娠しなかった場合の原因について考える際は、プロゲステロン製剤の効果というよりも受精卵や他の因子に着目するほうが私は正しいと思います。 不妊治療の分野は日進月歩で、薬も新しいものが開発されています。プロゲステロン腟剤による黄体補充法も、「快適に治療をするためのひとつの選択肢」と、とらえてもらえればいいのではないかと思います。 長年地域の方々に親しまれてきたミューズレディスクリニックから移行し、2017年5月に新規開院。泌尿器科医も加入し、これまで以上の良質な治療を提供しています。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 林 直樹 先生(ウィメンズクリニックふじみ野) 1983年、東京大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療センター(川越市)などを経て、現職。「体外受精、顕微授精も高いクオリティで対応していますが、できる限り自然に近い不妊治療をご提供したいと考えています。患者さんはそれぞれお悩みも違いますから、どんなことでもまずご相談を。時にはご要望に沿えず、厳しいことを申し上げるかもしれませんが、常に患者さんにとってベストな治療法をご一緒に見出したいと思っています」。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 凍結胚移植に使用する黄体ホルモン剤の役割は? 国内で使用可能となったプロゲステロン腟剤について知っておくべき薬の特性は? ウィメンズクリニックふじみ野の林先生に伺いました。 プレママの体に優しい凍結胚移植が主流に 現在、日本のET(胚移植)では、新鮮胚移植より凍結胚移植のほうが断然多くなっています。いくつか理由がありますが、まずひとつは単純に成績の良さが挙げられます。胚(受精卵)は採卵周期で戻すか、またはいったん凍結保存してから別の周期に融解して戻すかのいずれかで移植しますが、凍結保存してから移植した場合のほうが、妊娠率が高いと考えられています。 もうひとつの理由としては、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を防げることにあります。採卵前に、すでに高刺激で目いっぱい卵巣を刺激して排卵誘発していますから、直後の新鮮胚移植で妊娠が成立した場合にはOHSSが起こりやすいのです。せっかく妊娠してもつらい症状をともなうので、妊婦さんにとってはどうしても“優しくない”。それもあり、卵巣が落ち着いてから戻す凍結胚移植が多く選択されることとなりました。 妊娠を望む女性の体がしっかり整うのを待ってから、胚を戻すことができるのが凍結胚移植。妊娠率の高さも、ここに理由があるのかもしれません。 プロゲステロンは着床・妊娠維持において重要なホルモン 子宮内膜は月経終了後にエストロゲンの働きによって増殖しながら厚みを増していきますが、排卵後は黄体から分泌されるプロゲステロンが子宮内膜をふかふかのベッドに変化させ、胚が子宮内膜に着床するための準備をします。妊娠7、8週頃にはプロゲステロンの分泌源は黄体から胎盤へと移行していくことがわかっています。ART(生殖補助医療)においては一般的にさまざまなホルモン剤を使用することによって黄体機能を抑制してしまうことから、体外からプロゲステロンを補充することによって着床・妊娠維持を促す必要があります。 国内で使用可能となった「プロゲステロン腟剤」という黄体ホルモン製剤 凍結胚を移植する方法は大きく分けて2つあります。患者さん自身の月経周期に合わせて胚を移植する自然周期移植と、エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤を用いて着床期の体内におけるホルモン動態を人工的につくり出して移植を行うホルモン調節周期です。どちらも妊娠率において大きな差はないと考えられていますが、薬剤を使用するホルモン調節周期の移植は胚移植のスケジュールが立てやすいというメリットがありますし、また排卵障害がある方や採卵を行った翌周期での移植を希望する方ではホルモン調節周期のほうが良いのではないかと思います。一方でホルモン調節周期によって移植する場合は、もともと卵巣内の黄体から分泌されるプロゲステロンがつくれなくなりますので、妊娠10週くらいまでプロゲステロンを体外から投与する必要があります。 ホルモン調節周期において使用されるホルモン製剤は、国内においてはこれまで体内で分泌されるホルモンとは少し異なる作用を示す、いわゆる合成型の製剤等が標準的に使用されてきました。しかし、近年では安全性の面から、可能な限り体内ホルモンとまったく同じ作用を示す天然型の製剤を使用することが望ましいという考え方が主流になっているように思われます。 プロゲステロン製剤はいくつかの種類がありますが、日本においてはこれまで合成型の経口剤(飲み薬)や筋肉注射剤がメインでした。経口剤は腸管や肝臓を介して、筋注剤は血液を介して子宮内膜に薬剤が届けられるため、薬物移送はあまり効率がよいとは言えません。また筋注剤は筋肉に注射するため痛みがあり、薬剤投与のための通院が必要になります。しかし、数年前から国内にてARTにおける黄体補充の適応症を取得して承認された天然型のプロゲステロン腟剤が使用できるようになりました。腟剤は患者さん自身が直接腟の中に挿入します。できるだけ子宮に近い場所(腟の奥1/3くらい)まで入れたほうが効果的であるといわれています。承認された腟剤の中には専用の腟内挿入補助具(アプリケータ)が付属されているものもあり、慣れれば手を汚さずにどなたでも簡単に使うことができると思います。しかし、腟剤は使用中に薬剤の添加物がおりものに混じって腟外に漏れ出ることで下着を汚したりすることがあります。念のため、おりものシートやナプキンなどを備えておくことをすすめています。このような天然型のプロゲステロン腟剤は国内では登場して間もないのですが、海外では数十年前から使用されており、現在では黄体補充の80%くらいが腟剤を標準的に使用しています。 知っておきたいプロゲステロン腟剤の特性 ホルモン調節周期にプロゲステロン腟剤を使用するうえで、子宮内膜に十分なプロゲステロンが届けられているかどうかを知るために、胚移植日に血液検査を行って血中プロゲステロン濃度を調べることが多くの施設で行われてきました。施設によっては血液検査の結果を見て、値が低ければ経口剤や筋注剤を加えて治療法を変更することもあるようですが、当院では基本的にプロゲステロン腟剤以外の黄体ホルモン剤を同時に使用することはありません。当院で調査したデータでは、胚移植日の血中プロゲステロン値は妊娠率と何ら関係を示しておりませんでした。かなり低い値を示していても、妊娠が継続されている方が多くいらっしゃいました。当院と同様の調査結果も全国の施設から多数報告されているようです。腟剤を挿入した場合は経口剤や筋注剤のように全身の血液を通って子宮内膜組織に薬剤が届けられるわけではなく、腟から子宮内膜に直接薬剤が届けられますので、血中濃度を測定しても意味はないと考えられます。極端な場合、たとえば使用方法を間違えていて血中プロゲステロン値が0でない限りは、値が低い場合であっても高い場合であっても不安になる必要はありません。また腟剤投与中におりものシートに点状の軽度の出血を経験される方もおられますが、基本的に妊娠との関連性は低いことが明らかにされていますので、安心してご使用になられていいと思います。 体外受精において妊娠できるかどうかはさまざまなメカニズムが成立する必要がありますが、特に受精卵の質が重要になると考えられています。ホルモン調整周期の凍結胚移植ではプロゲステロン製剤の使用によって、着床しやすい子宮内膜をつくることが重要になりますが、国内で使用可能となったプロゲステロン腟剤は海外で既に有効性が証明されているものですので、仮に妊娠しなかった場合の原因について考える際は、プロゲステロン製剤の効果というよりも受精卵や他の因子に着目するほうが私は正しいと思います。 不妊治療の分野は日進月歩で、薬も新しいものが開発されています。プロゲステロン腟剤による黄体補充法も、「快適に治療をするためのひとつの選択肢」と、とらえてもらえればいいのではないかと思います。 長年地域の方々に親しまれてきたミューズレディスクリニックから移行し、2017年5月に新規開院。泌尿器科医も加入し、これまで以上の良質な治療を提供しています。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 林 直樹 先生(ウィメンズクリニックふじみ野) 1983年、東京大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療センター(川越市)などを経て、現職。「体外受精、顕微授精も高いクオリティで対応していますが、できる限り自然に近い不妊治療をご提供したいと考えています。患者さんはそれぞれお悩みも違いますから、どんなことでもまずご相談を。時にはご要望に沿えず、厳しいことを申し上げるかもしれませんが、常に患者さんにとってベストな治療法をご一緒に見出したいと思っています」。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.21
コラム 不妊治療
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胚の成長を観察したり、記録したりできるって本当? タイムラプスのこと、教えて!
体外受精したあと受精卵はどうなっている? 採取された卵子は培養液に移され、精子と合わせられて受精します。受精した卵子は受精卵、または胚と呼ばれています。胚を培養する時にも培養液を使います。培養液に浸された受精卵は、お母さんのお腹の中の環境をできるだけ再現したインキュベーターという機器に入れられます。インキュベーターの中は温度や湿度、二酸化炭素、酸素の濃度が一定の状態にコントロールされています。この中で受精卵は細胞分裂を繰り返しながら成長していきます。 正常な胚は2細胞、4細胞、8細胞…と分割していきますが、なかには異常な分割をする胚があります。たとえば1つの細胞から3つに分割したり、一度分割した胚が再び融合したりすることがあります。良好胚は見た目で判断しますが、同じように見える胚でもこのような過程で成長したものを移植すると、妊娠率が下がるといわれています。 動画のように胚の成長を記録できるタイムラプス タイムラプスは5分ごとや10分ごとなどの一定間隔で写真を撮影して、その写真を連続で映すことにより動画のように見る技術です。この技術は植物の成長や天体観測など、撮影に長時間かかるものを短時間で見るために使われていました。 最近、このタイムラプスの技術が不妊治療の世界で活用され、注目を集めています。観察するためにインキュベーターから出された胚は、温度も空気もまったく違う環境で、生命活動の危機にさらされます。宇宙空間に出された人間と同じ状況です。タイムラプスインキュベーターの中で胚を撮影することで、外に取り出すことなく観察することができます。胚にストレスがかからず、扉の開閉によるインキュベーター内の環境の変化も起こりません。また、今まで見ることができなかった胚の成長の動きをすべて確認できるようになり、不妊治療における培養技術の向上に大きな効果が期待されています。 タイムラプスのメリット ①胚にやさしい 胚が順調に成長しているかを顕微鏡で確認するために扉を開けて取り出すと、インキュベーター内の温度や酸素濃度などが変化してしまいます。タイムラプスを使えばインキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境を向上させることができます。 ②妊娠に至るまでの時間を短縮 胚の成長をタイムラプスで調べると、正常に発育する胚とそうでない胚との違いがわかります。より多くの観察情報をもとに、従来の観察方法ではわからない異常な分割や成長速度の胚を見つけることができます。正常に発育する胚を優先して移植することや、常に監視されている胚に何か問題があった場合の早期の発見と対応は、安心な管理の実現と妊娠に至るまでの時間を短縮することができると言われています。 ③タブレットで胚の成長を確認できる タイムラプス技術により、移植する胚の説明を受ける時にPCやタブレットで動画を見ることができます。凍結保存した胚を融解して移植する時も過去の動画にアクセスして見ることができ、胚の選択に利用することができます。 ドクターに聞きました! 「タイムラプスの魅力とは」 胚の培養には低酸素環境を維持することが大切です。当院では、そのために早くから培養環境の改善に取り組んできました。 2006年の段階で通常の加湿型インキュベーターでは多人数の胚を入れて、頻回に扉の開閉を行うため、庫内の低酸素環境を維持することに限界を感じていました。個別スペースで培養できるインキュベーターを探し2008年から新型の個別スペースの無加湿型インキュベーターの導入を始め、2010年にはすべて入れ替えて、当院の全受精卵に低酸素環境を維持した培養を実施できました。 しかし、それでも培養途中の培養液交換や胚観察のため、低酸素環境を完全には維持できていませんでした。そこで、2012年にいち早く初期型のタイムラプスを導入しました。タイムラプスのメリットは連続撮影機能により通常培養士が行っていた顕微鏡での直接観察が不要になったことです。さらに正確な受精判定にタイムラプスを利用し、絶大な効果を発揮しました。 2016年に新型タイムラプスが日本に導入され、当院も利用を開始しました。新型ではこれまで6症例だった培養症例数が15症例まで増加しています。今後は受精確認から胚の発生、そして移植まで、全症例がタイムラプス化することが必須です。体内環境を再現するうえで、必要な機器となることは間違いありません。 タイムラプス利用者の声 Aさん 不妊治療を始めたばかりで不安でいっぱいでしたが、先生から胚の動きを見ながらわかりやすく説明していただいて、今後の治療を続けるうえでとても勉強になりました。また、妊娠前に出会えた我が子に感動しました! 赤ちゃんに会えるのが楽しみです。 Bさん 頑張る妻の糧になってほしいと思い、タイムラプスシステムを使用しましたが、映像に食いつく妻の姿を見て、使用して良かったと思っています。不妊治療の進捗がとてもよくわかるので、素晴らしい技術だと思いました。 確実な観察で妊娠をサポート 浅田レディースクリニック 培養室長 福永憲隆氏 タイムラプスによる連続撮影は受精卵を空気にさらす顕微鏡観察を省けるので、胚の質を落とさずに胚移植まで培養することを可能にしてくれます。また、一番効果を発揮する利用法は、タイムラプス撮影することにより受精のタイミングの見逃しを避け、確実な受精判定をすることです。タイムラプス観察はこれまで見ることのできなかった胚の成長を逃すことなくとらえ、患者さんの妊娠により近づける画期的なシステムです。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 体外受精したあと受精卵はどうなっている? 採取された卵子は培養液に移され、精子と合わせられて受精します。受精した卵子は受精卵、または胚と呼ばれています。胚を培養する時にも培養液を使います。培養液に浸された受精卵は、お母さんのお腹の中の環境をできるだけ再現したインキュベーターという機器に入れられます。インキュベーターの中は温度や湿度、二酸化炭素、酸素の濃度が一定の状態にコントロールされています。この中で受精卵は細胞分裂を繰り返しながら成長していきます。 正常な胚は2細胞、4細胞、8細胞…と分割していきますが、なかには異常な分割をする胚があります。たとえば1つの細胞から3つに分割したり、一度分割した胚が再び融合したりすることがあります。良好胚は見た目で判断しますが、同じように見える胚でもこのような過程で成長したものを移植すると、妊娠率が下がるといわれています。 動画のように胚の成長を記録できるタイムラプス タイムラプスは5分ごとや10分ごとなどの一定間隔で写真を撮影して、その写真を連続で映すことにより動画のように見る技術です。この技術は植物の成長や天体観測など、撮影に長時間かかるものを短時間で見るために使われていました。 最近、このタイムラプスの技術が不妊治療の世界で活用され、注目を集めています。観察するためにインキュベーターから出された胚は、温度も空気もまったく違う環境で、生命活動の危機にさらされます。宇宙空間に出された人間と同じ状況です。タイムラプスインキュベーターの中で胚を撮影することで、外に取り出すことなく観察することができます。胚にストレスがかからず、扉の開閉によるインキュベーター内の環境の変化も起こりません。また、今まで見ることができなかった胚の成長の動きをすべて確認できるようになり、不妊治療における培養技術の向上に大きな効果が期待されています。 タイムラプスのメリット ①胚にやさしい 胚が順調に成長しているかを顕微鏡で確認するために扉を開けて取り出すと、インキュベーター内の温度や酸素濃度などが変化してしまいます。タイムラプスを使えばインキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境を向上させることができます。 ②妊娠に至るまでの時間を短縮 胚の成長をタイムラプスで調べると、正常に発育する胚とそうでない胚との違いがわかります。より多くの観察情報をもとに、従来の観察方法ではわからない異常な分割や成長速度の胚を見つけることができます。正常に発育する胚を優先して移植することや、常に監視されている胚に何か問題があった場合の早期の発見と対応は、安心な管理の実現と妊娠に至るまでの時間を短縮することができると言われています。 ③タブレットで胚の成長を確認できる タイムラプス技術により、移植する胚の説明を受ける時にPCやタブレットで動画を見ることができます。凍結保存した胚を融解して移植する時も過去の動画にアクセスして見ることができ、胚の選択に利用することができます。 ドクターに聞きました! 「タイムラプスの魅力とは」 胚の培養には低酸素環境を維持することが大切です。当院では、そのために早くから培養環境の改善に取り組んできました。 2006年の段階で通常の加湿型インキュベーターでは多人数の胚を入れて、頻回に扉の開閉を行うため、庫内の低酸素環境を維持することに限界を感じていました。個別スペースで培養できるインキュベーターを探し2008年から新型の個別スペースの無加湿型インキュベーターの導入を始め、2010年にはすべて入れ替えて、当院の全受精卵に低酸素環境を維持した培養を実施できました。 しかし、それでも培養途中の培養液交換や胚観察のため、低酸素環境を完全には維持できていませんでした。そこで、2012年にいち早く初期型のタイムラプスを導入しました。タイムラプスのメリットは連続撮影機能により通常培養士が行っていた顕微鏡での直接観察が不要になったことです。さらに正確な受精判定にタイムラプスを利用し、絶大な効果を発揮しました。 2016年に新型タイムラプスが日本に導入され、当院も利用を開始しました。新型ではこれまで6症例だった培養症例数が15症例まで増加しています。今後は受精確認から胚の発生、そして移植まで、全症例がタイムラプス化することが必須です。体内環境を再現するうえで、必要な機器となることは間違いありません。 タイムラプス利用者の声 Aさん 不妊治療を始めたばかりで不安でいっぱいでしたが、先生から胚の動きを見ながらわかりやすく説明していただいて、今後の治療を続けるうえでとても勉強になりました。また、妊娠前に出会えた我が子に感動しました! 赤ちゃんに会えるのが楽しみです。 Bさん 頑張る妻の糧になってほしいと思い、タイムラプスシステムを使用しましたが、映像に食いつく妻の姿を見て、使用して良かったと思っています。不妊治療の進捗がとてもよくわかるので、素晴らしい技術だと思いました。 確実な観察で妊娠をサポート 浅田レディースクリニック 培養室長 福永憲隆氏 タイムラプスによる連続撮影は受精卵を空気にさらす顕微鏡観察を省けるので、胚の質を落とさずに胚移植まで培養することを可能にしてくれます。また、一番効果を発揮する利用法は、タイムラプス撮影することにより受精のタイミングの見逃しを避け、確実な受精判定をすることです。タイムラプス観察はこれまで見ることのできなかった胚の成長を逃すことなくとらえ、患者さんの妊娠により近づける画期的なシステムです。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.21
コラム 不妊治療
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ウソ! ホント? 妊娠にまつわるウワサの真相
ウソ! ホント? 妊娠にまつわるウワサの真相 俵 史子 先生(俵IVFクリニック) 「○○したら妊娠できた」「○○はNG!」といった妊娠にまつわる噂や俗説……。ウソなのか、ホントなのか、俵IVFクリニックの俵史子先生に医師の立場から解説していただきます。 Q:出産後は妊娠しやすいってホントですか? 1年半も不妊治療をして体力的にも精神的にも大変だったので、出産後すぐに2人目を希望しています。産後は妊娠しやすくなると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。妊娠しやすくなっているなら自然妊娠を願っていますが、厳しいですかね……。私も旦那も33歳です。(ココちゃんさん・33歳) A:1人目ART後に2人目を自然妊娠する確率は20%程度ですが、科学的根拠はありません 調べてみると、「1人目をARTで妊娠・出産した人が、2人目を自然妊娠する確率はどのくらいあるか」という論文が海外で結構多く存在しています。だいたいどの論文でも、全体の20%程度は2人目のお子さんを自然妊娠しているという結果に。 自然妊娠した方たちの不妊背景を見ると、男性因子や卵管因子はなく、原因不明というケースが多いようです。それはどういうことかというと、原因がわからなくて高度な不妊治療に進み、1人目ができたけれど、もしかしたら治療をしなくても妊娠していたかもしれない。つまり、もともと自然妊娠できる力が備わっていた可能性もあります。 基本的には、1人目より2人目のほうが年齢が高くなることで、妊娠の条件は厳しくなると思います。前回の時よりホルモンの状態が良くなるとは思えませんし、妊娠・出産により子宮環境が変わることはあると思いますが、それが次の妊娠に良い影響を与えるというのは医学的に証明されていません。 結論としては、「1人目を出産した後に2人目を妊娠しやすくなる」という説に根拠はないということですね。全体の20%というのはあくまでもデータ上のことで、どなたでも自然妊娠できるとはいえません。楽観するのは良くないでしょう。 ただ、医学的ではなく、環境的なことで妊娠につながるケースもあるかもしれません。不妊治療中はそれがストレスになってなかなか結果を出せず、治療をお休みしている間に自然な形で妊娠したという方もいらっしゃいます。ココちゃんさんは33歳で時間に少し余裕があるので、まずはひと通りの検査を受けて異常がなければ、しばらく普通に夫婦生活をもたれて、自然にタイミングをみてみるのもいいのではないかと思います。 Q:不妊治療は双子になりやすい? 今、排卵誘発剤を使って治療中です。まだ治療を始めたばかりなんですが、やっぱり、もし幸い妊娠できたとしても双子になる確率って高いのでしょうか? 「双子になるのかな」と思うと正直な気持ち、やはり不安です。(チョコチさん) A:多胎のリスクは1~20%程度。極力避けるように調整していきます 排卵誘発剤を使用すると当然、複数の卵胞が発育するので、過排卵が起きることは十分考えられます。多胎になる確率は刺激の強さによって異なりますが、飲み薬のセキソビット®なら自然周期とほぼ変わらず、1%程度。クロミフェンになると約5%、FSHやHMGなどの注射を使うと20%くらいといわれています。 これは一般不妊治療における教科書的な数値で、やや高めに感じますが、実際は不妊治療を専門に行う施設ではそこまでの頻度ではないと思います。多胎になる人は1年に1人いるかいないか程度の割合です。 多胎のリスクは念頭に置きつつも排卵障害があると誘発剤を使わざるを得ないケースもあります。そこで、なるべくリスクを回避するために、薬の反応がいいのか悪いのか個々に見極めて、量を少なくしたり、使う期間を短くするなどして、極力過排卵にならないようにコントロールしています。 それでも結果として過排卵になってしまったら、多胎を防ぐために排卵をキャンセルさせて、今周期は生理を待つという決断をする時も。 繰り返し過排卵になる人は、体外受精という選択肢もあります。一般不妊治療の段階だと、注意しても100%コントロールすることはできません。体外受精は現在、胚の1個移植が原則となっているので、多胎のリスクを抑えることができると思います。 Q:排卵日に仲良くすると男の子ができやすい? いつも楽しく勉強させていただいています。こんな質問はどうかと思ったのですが、やはり気になるので伺います。それは「排卵日に仲良くすると男の子ができやすい」と聞きましたが、本当でしょうか。2日前だと女の子なんですよね? 性別は受精の瞬間に決まるので、そんなに単純ではない気がするのですが……。(とびこさん) A:昔からそのような説はありますが、その逆や「変わらない」という報告も インターネットを検索すると、性別の産み分けについてさまざまな方法が記載されています。とびこさんがおっしゃるように、「排卵日の性交渉で男の子、排卵日2日前の性交渉で女の子の産み分けができる」という内容をよく目にしますね。 文献的にみると、確かに1970年代や1980年代の海外の論文でこの産み分けを支持するものは存在しますが、反対に「排卵日の性交渉で女の子が生まれる確率が高くなる」という報告もありますし、「変わらない」という報告も。それは現在のデータでも同様のようです。 どうやらこの産み分けの理屈は、X染色体を運ぶ精子とY染色体を運ぶ性質の違いからきているようです(Y染色体精子はX染色体精子に比べて小さく、酸性に弱いなど)。 たとえば、排卵前の腟内環境は基本的に酸性に傾いており、排卵日になるとアルカリ性に傾く。Y染色体は酸に弱く、X染色体を運ぶ精子はアルカリに弱いとされています。すなわち、腟内環境が酸性であればY染色体よりもX染色体の精子が多く生き残り、アルカリに傾いていればX染色体よりY染色体が多く生き残るといった具合で選択され、結果として一方の染色体をもつ精子が卵子に到達する確率が高くなり、一方の性が生まれやすくなる……ということで、理屈的には説明できるかもしれません。 しかし、受精するのは何百万、何千万といる中の1個の精子。多少そこで振り分けがあったとしても、確実にその条件をもった精子が残って受精するとは限りません。 不妊治療の専門医は、妊娠するためにはどの時期が最も適しているかを考えて治療しています。ですから、根拠がはっきりしていないことに振り回されるよりも、まずは「妊娠する」という目的を一番に考えていただきたいと思います。 俵先生よりまとめ 「1人目出産後は妊娠しやすい」「こうしたら男女の産み分けができる」といった噂は多くあり、実際に学会で報告されたものも存在していますが、そのほとんどは確率、つまり単なる数字的なデータであり、医学的にはっきり証明された根拠はありません。お一人お一人不妊の背景や薬の反応は異なりますから、1つの方法がみんなに効果的とはいえないでしょう。やはり、検査や治療の結果をその都度見ながら、ご自身に合ったやり方で進めていくことが大切だと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 俵 史子 先生(俵IVFクリニック) 浜松医科大学臨床准教授。2004年愛知県の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。2007年、静岡に俵IVFクリニックを開業。2015年静岡駅前に移転しリニューアルオープン。各専門医が担当する専門外来が充実。不妊治療後の妊娠初期管理を行う生殖周産期外来、精神科専門医によるメンタルヘルス外来を新たに開設。 ≫ 俵IVFクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら ウソ! ホント? 妊娠にまつわるウワサの真相 俵 史子 先生(俵IVFクリニック) 「○○したら妊娠できた」「○○はNG!」といった妊娠にまつわる噂や俗説……。ウソなのか、ホントなのか、俵IVFクリニックの俵史子先生に医師の立場から解説していただきます。 Q:出産後は妊娠しやすいってホントですか? 1年半も不妊治療をして体力的にも精神的にも大変だったので、出産後すぐに2人目を希望しています。産後は妊娠しやすくなると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。妊娠しやすくなっているなら自然妊娠を願っていますが、厳しいですかね……。私も旦那も33歳です。(ココちゃんさん・33歳) A:1人目ART後に2人目を自然妊娠する確率は20%程度ですが、科学的根拠はありません 調べてみると、「1人目をARTで妊娠・出産した人が、2人目を自然妊娠する確率はどのくらいあるか」という論文が海外で結構多く存在しています。だいたいどの論文でも、全体の20%程度は2人目のお子さんを自然妊娠しているという結果に。 自然妊娠した方たちの不妊背景を見ると、男性因子や卵管因子はなく、原因不明というケースが多いようです。それはどういうことかというと、原因がわからなくて高度な不妊治療に進み、1人目ができたけれど、もしかしたら治療をしなくても妊娠していたかもしれない。つまり、もともと自然妊娠できる力が備わっていた可能性もあります。 基本的には、1人目より2人目のほうが年齢が高くなることで、妊娠の条件は厳しくなると思います。前回の時よりホルモンの状態が良くなるとは思えませんし、妊娠・出産により子宮環境が変わることはあると思いますが、それが次の妊娠に良い影響を与えるというのは医学的に証明されていません。 結論としては、「1人目を出産した後に2人目を妊娠しやすくなる」という説に根拠はないということですね。全体の20%というのはあくまでもデータ上のことで、どなたでも自然妊娠できるとはいえません。楽観するのは良くないでしょう。 ただ、医学的ではなく、環境的なことで妊娠につながるケースもあるかもしれません。不妊治療中はそれがストレスになってなかなか結果を出せず、治療をお休みしている間に自然な形で妊娠したという方もいらっしゃいます。ココちゃんさんは33歳で時間に少し余裕があるので、まずはひと通りの検査を受けて異常がなければ、しばらく普通に夫婦生活をもたれて、自然にタイミングをみてみるのもいいのではないかと思います。 Q:不妊治療は双子になりやすい? 今、排卵誘発剤を使って治療中です。まだ治療を始めたばかりなんですが、やっぱり、もし幸い妊娠できたとしても双子になる確率って高いのでしょうか? 「双子になるのかな」と思うと正直な気持ち、やはり不安です。(チョコチさん) A:多胎のリスクは1~20%程度。極力避けるように調整していきます 排卵誘発剤を使用すると当然、複数の卵胞が発育するので、過排卵が起きることは十分考えられます。多胎になる確率は刺激の強さによって異なりますが、飲み薬のセキソビット®なら自然周期とほぼ変わらず、1%程度。クロミフェンになると約5%、FSHやHMGなどの注射を使うと20%くらいといわれています。 これは一般不妊治療における教科書的な数値で、やや高めに感じますが、実際は不妊治療を専門に行う施設ではそこまでの頻度ではないと思います。多胎になる人は1年に1人いるかいないか程度の割合です。 多胎のリスクは念頭に置きつつも排卵障害があると誘発剤を使わざるを得ないケースもあります。そこで、なるべくリスクを回避するために、薬の反応がいいのか悪いのか個々に見極めて、量を少なくしたり、使う期間を短くするなどして、極力過排卵にならないようにコントロールしています。 それでも結果として過排卵になってしまったら、多胎を防ぐために排卵をキャンセルさせて、今周期は生理を待つという決断をする時も。 繰り返し過排卵になる人は、体外受精という選択肢もあります。一般不妊治療の段階だと、注意しても100%コントロールすることはできません。体外受精は現在、胚の1個移植が原則となっているので、多胎のリスクを抑えることができると思います。 Q:排卵日に仲良くすると男の子ができやすい? いつも楽しく勉強させていただいています。こんな質問はどうかと思ったのですが、やはり気になるので伺います。それは「排卵日に仲良くすると男の子ができやすい」と聞きましたが、本当でしょうか。2日前だと女の子なんですよね? 性別は受精の瞬間に決まるので、そんなに単純ではない気がするのですが……。(とびこさん) A:昔からそのような説はありますが、その逆や「変わらない」という報告も インターネットを検索すると、性別の産み分けについてさまざまな方法が記載されています。とびこさんがおっしゃるように、「排卵日の性交渉で男の子、排卵日2日前の性交渉で女の子の産み分けができる」という内容をよく目にしますね。 文献的にみると、確かに1970年代や1980年代の海外の論文でこの産み分けを支持するものは存在しますが、反対に「排卵日の性交渉で女の子が生まれる確率が高くなる」という報告もありますし、「変わらない」という報告も。それは現在のデータでも同様のようです。 どうやらこの産み分けの理屈は、X染色体を運ぶ精子とY染色体を運ぶ性質の違いからきているようです(Y染色体精子はX染色体精子に比べて小さく、酸性に弱いなど)。 たとえば、排卵前の腟内環境は基本的に酸性に傾いており、排卵日になるとアルカリ性に傾く。Y染色体は酸に弱く、X染色体を運ぶ精子はアルカリに弱いとされています。すなわち、腟内環境が酸性であればY染色体よりもX染色体の精子が多く生き残り、アルカリに傾いていればX染色体よりY染色体が多く生き残るといった具合で選択され、結果として一方の染色体をもつ精子が卵子に到達する確率が高くなり、一方の性が生まれやすくなる……ということで、理屈的には説明できるかもしれません。 しかし、受精するのは何百万、何千万といる中の1個の精子。多少そこで振り分けがあったとしても、確実にその条件をもった精子が残って受精するとは限りません。 不妊治療の専門医は、妊娠するためにはどの時期が最も適しているかを考えて治療しています。ですから、根拠がはっきりしていないことに振り回されるよりも、まずは「妊娠する」という目的を一番に考えていただきたいと思います。 俵先生よりまとめ 「1人目出産後は妊娠しやすい」「こうしたら男女の産み分けができる」といった噂は多くあり、実際に学会で報告されたものも存在していますが、そのほとんどは確率、つまり単なる数字的なデータであり、医学的にはっきり証明された根拠はありません。お一人お一人不妊の背景や薬の反応は異なりますから、1つの方法がみんなに効果的とはいえないでしょう。やはり、検査や治療の結果をその都度見ながら、ご自身に合ったやり方で進めていくことが大切だと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 俵 史子 先生(俵IVFクリニック) 浜松医科大学臨床准教授。2004年愛知県の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。2007年、静岡に俵IVFクリニックを開業。2015年静岡駅前に移転しリニューアルオープン。各専門医が担当する専門外来が充実。不妊治療後の妊娠初期管理を行う生殖周産期外来、精神科専門医によるメンタルヘルス外来を新たに開設。 ≫ 俵IVFクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.21
コラム 不妊治療
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初めての人もこれを読めば安心! 徳岡先生の不妊治療AtoZ (3)
不妊の原因がわからないといわれた時、女性の年齢によって治療方法は変わってくるのでしょうか。妊娠に近づくための年代による治療法の違いと理由について、とくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に詳しくお聞きしました。
2017.8.21
コラム 不妊治療
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受精後、胚盤胞に育ちません。顕微授精を続けるべき?
受精後、胚盤胞に育ちません。顕微授精を続けるべき? 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 相談者:ばろんさん(41歳) 胚盤胞移植について 2人目不妊で治療中です。1人目はタイミング法で妊娠し、40歳で出産しました。AMHは0.6~1.1ng/ml程度です。低刺激系かつ胚盤胞移植のクリニックに通い、2回、自然周期で採卵、顕微授精しました。でも、2回とも3~4個が受精したものの胚盤胞まで育たず、移植に至っていません。採卵、受精はできているので、良好な卵子ができるまで採卵の数をこなすべきかとも思いますが、低AMHの場合でもショート法をする病院もあると聞き、このまま今のクリニックで採卵を続けるか、ショート法を試してくれるクリニックに転院するかを考えています。また、初期胚の移植も考慮すべきでしょうか? 胚盤胞まで育たない時、考えられることは何でしょうか? 年齢から低AMHというのは明らかですが、41歳にして0.6~1.1ng/mlという数字が出ているので、もう少し刺激したら、卵子がちがう育ち方をするかもしれません。3~4個の受精卵があるなら、採卵の回数を重ねるというのもあるし、胚盤胞を待たずに初期胚の段階での移植もあるだろうし、初期胚を凍結してから移植する方法もあるでしょう。別の方法を試して、その結果でまた次を考えるということだと思います。ばろんさんに関しては、まだほかのプランがありそうな気がしますよ。 内田クリニックでは、どのような治療を提案しますか? 僕は、顕微授精で胚盤胞にならなくても、体外受精ならちがうかもしれないという考え方をします。まずはスタンダードな方法で、卵子数が仮に2個だとしたら、1回目には体外受精をします。それで受精卵にならなかったら、2回目は、おそらく同じ方法に近い内容で排卵誘発剤を使い、その時に卵子の数が2個であれば、顕微授精にするでしょう。結果、卵子数がやはり少ないということになれば、次は低刺激でと変えていきます。僕は、特に採卵周期、卵子を育てる周期にはできるだけ同じことの繰り返しにならないよう心がけています。注射薬の種類や排卵誘発剤の内服薬を変えてみる、点鼻薬を使っていなかったら、今度は使ってみようかとか、何かを変えてみることを伝えます。 ばろんさんは、このまま今のクリニックで採卵を続けるべきか迷っています。 限られた治療法のなかで、ばろんさんが別の方法を模索するのも無理はないと思います。今のクリニックでは、AMHの状況を考えると大きくは変えられないからということかもしれませんが、「変わらないかもしれないことを前提として、別の治療もやってみたいのですが」という提案の仕方はあると思います。今のクリニックの先生から別のプランの提案がないとしたら、ばろんさんから別プランがあるかどうかを先生に確認し、提案があればそれでやってみてもいいですし、なければ、相談のできる施設に転院することもありでしょう。いずれにしても、年齢のことを考えると、決断はできるだけ早いほうがいいと思います。 まずは、抱いた疑問を担当医に伝えることでしょうか? そうですね。疑問を抱いても、それを聞けずにいるという人は意外と多いようです。転院を考える前に、今、通院している施設の先生に相談することは大切なこと。わからないことがあったら勇気を出して聞いてみましょう。施設の治療方針、別の方法などを聞くことで、転院をするかどうかの判断もできるのではないでしょうか。 内田先生より まとめ ●胚盤胞にならなくても、初期胚での移植も試してみてはいかがでしょうか。 ●転院を考える前に、別の方法などを相談してみましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カウンセリングをもって現在のクリニックの完成形としている。今年は開院20周年を迎え、「島根県で初めて、不妊治療中心の婦人科クリニックを35歳で開業し、皆さんに支えられてきました。これからも、与えられた使命を全うするべく前に進みます」と、気を引き締める内田先生です。 ≫ 内田クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 受精後、胚盤胞に育ちません。顕微授精を続けるべき? 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 相談者:ばろんさん(41歳) 胚盤胞移植について 2人目不妊で治療中です。1人目はタイミング法で妊娠し、40歳で出産しました。AMHは0.6~1.1ng/ml程度です。低刺激系かつ胚盤胞移植のクリニックに通い、2回、自然周期で採卵、顕微授精しました。でも、2回とも3~4個が受精したものの胚盤胞まで育たず、移植に至っていません。採卵、受精はできているので、良好な卵子ができるまで採卵の数をこなすべきかとも思いますが、低AMHの場合でもショート法をする病院もあると聞き、このまま今のクリニックで採卵を続けるか、ショート法を試してくれるクリニックに転院するかを考えています。また、初期胚の移植も考慮すべきでしょうか? 胚盤胞まで育たない時、考えられることは何でしょうか? 年齢から低AMHというのは明らかですが、41歳にして0.6~1.1ng/mlという数字が出ているので、もう少し刺激したら、卵子がちがう育ち方をするかもしれません。3~4個の受精卵があるなら、採卵の回数を重ねるというのもあるし、胚盤胞を待たずに初期胚の段階での移植もあるだろうし、初期胚を凍結してから移植する方法もあるでしょう。別の方法を試して、その結果でまた次を考えるということだと思います。ばろんさんに関しては、まだほかのプランがありそうな気がしますよ。 内田クリニックでは、どのような治療を提案しますか? 僕は、顕微授精で胚盤胞にならなくても、体外受精ならちがうかもしれないという考え方をします。まずはスタンダードな方法で、卵子数が仮に2個だとしたら、1回目には体外受精をします。それで受精卵にならなかったら、2回目は、おそらく同じ方法に近い内容で排卵誘発剤を使い、その時に卵子の数が2個であれば、顕微授精にするでしょう。結果、卵子数がやはり少ないということになれば、次は低刺激でと変えていきます。僕は、特に採卵周期、卵子を育てる周期にはできるだけ同じことの繰り返しにならないよう心がけています。注射薬の種類や排卵誘発剤の内服薬を変えてみる、点鼻薬を使っていなかったら、今度は使ってみようかとか、何かを変えてみることを伝えます。 ばろんさんは、このまま今のクリニックで採卵を続けるべきか迷っています。 限られた治療法のなかで、ばろんさんが別の方法を模索するのも無理はないと思います。今のクリニックでは、AMHの状況を考えると大きくは変えられないからということかもしれませんが、「変わらないかもしれないことを前提として、別の治療もやってみたいのですが」という提案の仕方はあると思います。今のクリニックの先生から別のプランの提案がないとしたら、ばろんさんから別プランがあるかどうかを先生に確認し、提案があればそれでやってみてもいいですし、なければ、相談のできる施設に転院することもありでしょう。いずれにしても、年齢のことを考えると、決断はできるだけ早いほうがいいと思います。 まずは、抱いた疑問を担当医に伝えることでしょうか? そうですね。疑問を抱いても、それを聞けずにいるという人は意外と多いようです。転院を考える前に、今、通院している施設の先生に相談することは大切なこと。わからないことがあったら勇気を出して聞いてみましょう。施設の治療方針、別の方法などを聞くことで、転院をするかどうかの判断もできるのではないでしょうか。 内田先生より まとめ ●胚盤胞にならなくても、初期胚での移植も試してみてはいかがでしょうか。 ●転院を考える前に、別の方法などを相談してみましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カウンセリングをもって現在のクリニックの完成形としている。今年は開院20周年を迎え、「島根県で初めて、不妊治療中心の婦人科クリニックを35歳で開業し、皆さんに支えられてきました。これからも、与えられた使命を全うするべく前に進みます」と、気を引き締める内田先生です。 ≫ 内田クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療
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黄体ホルモンを開始して8日目の移植は遅すぎる?
「『着床の窓』は黄体ホルモンを開始してからの日数で決まるのでしょうか? それとも移植するときのP4値で決まるのでしょうか?」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか?
移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:とよさん(28歳) 凍結胚盤胞移植後の血液データに関して 生理開始4日目よりホルモン補充をしながら、D16に6日目凍結胚盤胞を1個移植しました。移植後10日目の判定で、ホルモン数値はHCG:99.8mIU/ml、E2:132.9pg/ml、P4:5.6ng/mlでした。診察時は勉強不足で医師に質問できませんでしたが、帰宅後、調べてみると、全体的に数値が低い気がします。特にP4やE2が低い気がするのですが、移植後10日目にこの数値で妊娠を継続できる可能性はあるのでしょうか。エコー検査はしていないので、子宮内膜の厚さなどはわかりません。薬は移植前からジュリナ®、プレマリン®、ルトラール®、ウトロゲスタン®腟錠を使用しています。 移植後10日目のホルモン数値が低いのではないかと気にされていますが。 特にP4(黄体ホルモン)とE2(卵胞ホルモン)について心配されているようですが、それほど気にする必要はないのでは。当院では、妊娠判定時にこの2つのホルモン値の計測はしていません。もちろん計測をする施設もあると思います。結果を見て、「平均からみると低めなので対策しましょう」と、ホルモン補充を考える場合もあるかもしれません。 この点については施設ごとに見解が異なってくるかと思います。当院ではこの時期に特に補充は考えず、このまま様子をみていくという形になると思いますね。不安でしたら、担当医の先生に相談されてみてはいかがでしょうか。 HCGの値についてはどう思われますか。 HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胚が着床すると絨毛という組織から分泌されるホルモンです。普段は女性の体内に存在しないので、このホルモンが増加しているかどうかで妊娠を判定することができるんですね。 とよさんは99・8 mIU/mlとのこと。当院では100 mIU/mlを妊娠の継続可能なボーダーラインとしているので、それからみると「やや低めかな」という感はありますが、ほぼ問題はないと思います。妊娠継続の可能性については、75%くらいが継続し、残りが流産になるという、体外受精の一般的な割合を目安にしていただければいいのではないでしょうか。 妊娠継続は厳しいというHCG値のボーダーラインは? 施設によって基準としている数値は異なると思いますが、当院では25 mIU/ml以下だと妊娠の継続は厳しく、出産までいく可能性はかなり少ないのではないかと考えています。 ただし、最初は分泌が遅く、その後増加し、10日くらいかけて通常の数値になってくるという方も。ホルモン分泌の上昇のしかたには個人差があると思うので、妊娠判定の基準値も絶対とはいえません。当院ではHCG値が9.1 mIU/ml、学会の報告では5.1 mIU/mlで出産までいった方もいましたから。 結論としては、何もせず、このまま様子をみていって問題はないということですか。 当院の見解ではそう思います。特に流産する確率が高くなっているとか、危機が非常に大きいという印象はありません。 担当の先生から何も提案がなかったので、患者さんからすると「これで大丈夫かな」という感じがしたのかもしれませんね。ただ、体外受精まで行っている専門施設のようですから、問題があればすぐに対応しているはずです。ホルモンも厳しい数値なら、補充を提案しているでしょう。 この時点ではあまり心配せず、先生を信じて、このまま様子をみていっていいと思いますね。 北村先生より まとめ ●P4とE2値は計測しない施設も。補充は必要ないと思います。 ●HCG値はほぼ基準のライン。特に大きな問題はありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。普段多忙なので、夏と冬、年に最低2回は家族と旅行することを決めているという北村先生。お子さんたちも楽しみにされているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:とよさん(28歳) 凍結胚盤胞移植後の血液データに関して 生理開始4日目よりホルモン補充をしながら、D16に6日目凍結胚盤胞を1個移植しました。移植後10日目の判定で、ホルモン数値はHCG:99.8mIU/ml、E2:132.9pg/ml、P4:5.6ng/mlでした。診察時は勉強不足で医師に質問できませんでしたが、帰宅後、調べてみると、全体的に数値が低い気がします。特にP4やE2が低い気がするのですが、移植後10日目にこの数値で妊娠を継続できる可能性はあるのでしょうか。エコー検査はしていないので、子宮内膜の厚さなどはわかりません。薬は移植前からジュリナ®、プレマリン®、ルトラール®、ウトロゲスタン®腟錠を使用しています。 移植後10日目のホルモン数値が低いのではないかと気にされていますが。 特にP4(黄体ホルモン)とE2(卵胞ホルモン)について心配されているようですが、それほど気にする必要はないのでは。当院では、妊娠判定時にこの2つのホルモン値の計測はしていません。もちろん計測をする施設もあると思います。結果を見て、「平均からみると低めなので対策しましょう」と、ホルモン補充を考える場合もあるかもしれません。 この点については施設ごとに見解が異なってくるかと思います。当院ではこの時期に特に補充は考えず、このまま様子をみていくという形になると思いますね。不安でしたら、担当医の先生に相談されてみてはいかがでしょうか。 HCGの値についてはどう思われますか。 HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胚が着床すると絨毛という組織から分泌されるホルモンです。普段は女性の体内に存在しないので、このホルモンが増加しているかどうかで妊娠を判定することができるんですね。 とよさんは99・8 mIU/mlとのこと。当院では100 mIU/mlを妊娠の継続可能なボーダーラインとしているので、それからみると「やや低めかな」という感はありますが、ほぼ問題はないと思います。妊娠継続の可能性については、75%くらいが継続し、残りが流産になるという、体外受精の一般的な割合を目安にしていただければいいのではないでしょうか。 妊娠継続は厳しいというHCG値のボーダーラインは? 施設によって基準としている数値は異なると思いますが、当院では25 mIU/ml以下だと妊娠の継続は厳しく、出産までいく可能性はかなり少ないのではないかと考えています。 ただし、最初は分泌が遅く、その後増加し、10日くらいかけて通常の数値になってくるという方も。ホルモン分泌の上昇のしかたには個人差があると思うので、妊娠判定の基準値も絶対とはいえません。当院ではHCG値が9.1 mIU/ml、学会の報告では5.1 mIU/mlで出産までいった方もいましたから。 結論としては、何もせず、このまま様子をみていって問題はないということですか。 当院の見解ではそう思います。特に流産する確率が高くなっているとか、危機が非常に大きいという印象はありません。 担当の先生から何も提案がなかったので、患者さんからすると「これで大丈夫かな」という感じがしたのかもしれませんね。ただ、体外受精まで行っている専門施設のようですから、問題があればすぐに対応しているはずです。ホルモンも厳しい数値なら、補充を提案しているでしょう。 この時点ではあまり心配せず、先生を信じて、このまま様子をみていっていいと思いますね。 北村先生より まとめ ●P4とE2値は計測しない施設も。補充は必要ないと思います。 ●HCG値はほぼ基準のライン。特に大きな問題はありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。普段多忙なので、夏と冬、年に最低2回は家族と旅行することを決めているという北村先生。お子さんたちも楽しみにされているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療
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34歳から4度の稽留流産。“別れ”続きで、先が見えない
34歳から4度の稽留流産。“別れ”続きで、先が見えない 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 相談者:助けてくださいさん(39歳) 妊娠はするものの流産を繰り返すのはなぜ 29歳で自然妊娠、健常な女児を出産しました。しかし、その後は34歳で無脳症のため安定期で死産したのを始まりに、4回稽留流産しました。不育症を疑って検査しましたが異常は見つからず、あるとすれば「夫婦の相性的なもの」とのことでした。妊娠はするものの育たず、つらいお別れが続き、どうしていいのかわかりません。「次に妊娠反応があった場合は、不育症的な措置をしつつ、経過を見ましょう」と言われましたが、今の病院は不育症は専門外で、並行して他県の病院への通院をすすめられました。負担が大きく、先が見えません。 4度稽留流産を経験され、不育症検査でも問題はなく、あるとすれば「夫婦の相性的なもの」と告げられたそう。今後はどのようにすればいいですか。 10年前にすでに自然妊娠でお子さんを授かっているのですから、不育症の検査で告げられた、“ご夫婦の相性的なもの”が原因とは考えにくいと思いますし、万が一そうであったとしても、相性が悪いからとパートナーを変えるわけにはいきませんよね。究極の選択として精子や卵子提供を受けるといったこともできないことはありませんが、そこまでしてお子さんを望まれるかははなはだ疑問です。結論から先に言えば、これからも淡々と治療を続けるしかないと思います。検査で問題がなかったのですから、不育症の治療のためにわざわざ通院する必要もありません。 流産の原因と考えられるのは。 原因のひとつとして“卵子の老化”は否めませんが、不妊の原因はそれだけでは片づけられません。他の要因も複雑に絡み合うのが不妊で、特効薬がないのがもどかしいところです。 情報が乏しいのでわかりませんが、質問者さんの場合は体外受精といったものではなく、自然妊娠のようですよね。流産したということは、よく考えれば妊娠反応はあったということでもあります。女性にとって流産がどれほどおつらいことか想像するに難くありませんが、ある程度の確率で流産は起こるものと思ってください。質問者さんに限ったことではないのです。無脳症といった障がいがある場合は、自力で生きられないので自然淘汰されてしまうことも多い。4回の流産で諦めるのは早いですよ。5回目、6回目に授かることもあると信じ、納得がいくまでトライし続けてほしいですね。 「先が見えません」と悲観されています。先生からアドバイスを。 無脳症は葉酸不足、糖尿病、高血圧などで発症率が高まるといった報告もあるので、食生活を見直し、不足があればサプリメントなどで補充し、妊娠の妨げとなる持病がないかといったことも調べておくと安心材料になるでしょう。 ただ、文面からして、流産を繰り返したことでのストレスが強く見受けられます。ストレスは妊娠にとって大敵ですから、気持ちを切り替えて少しお休みしてはいかがかとも思います。ご主人は、「どうしてももう1人か2人、子どもが欲しい!」とおっしゃっているのでしょうか。不妊治療はどうしても女性側への負担が大きいので、ご自分はどれほど不妊で悩んでいるかなどを話し合うことも必要です。 まずはご夫婦の仲が良く、そしてそれなりに性交渉があれば、これからもいくらでもチャンスはあると思います。40歳を超えてからの妊娠・出産はリスクも増えてくるので、そういったことも踏まえ、いつまで希望をもち続けるか、体外受精に踏み切るべきか、といったことも話し合われてみてはいかがでしょうか。 岡先生より まとめ ●流産は誰にでも起こりうること。別れはつらいけれど、自分を責めないで。 ●自然妊娠を望むなら、夫婦仲良く! 性交渉が多ければチャンスも多いはず。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。その後、同大学産婦人科に入局。不妊症・不育症の研究治療を行い、「ローズレディースクリニック等々力」院長を経て、2000年に不妊症専門クリニック「東京HARTクリニック」を開院。2005年アメリカ生殖医学会にて、ヒト胚盤胞のガラス化保存法とASの有効性についてHARTグループとして発表し、日本人で初めて表彰される。紀元前3800年頃にメソポタミア文明を創り上げた“シュメール人”に興味津々の岡先生。「人類は、彼らが遺伝子操作してできた労働力、という説もある。他の星から来た宇宙人によって、地球人は生まれたのかも」と目を輝かせて語る様はまるで少年のよう! ≫ 東京HARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 34歳から4度の稽留流産。“別れ”続きで、先が見えない 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 相談者:助けてくださいさん(39歳) 妊娠はするものの流産を繰り返すのはなぜ 29歳で自然妊娠、健常な女児を出産しました。しかし、その後は34歳で無脳症のため安定期で死産したのを始まりに、4回稽留流産しました。不育症を疑って検査しましたが異常は見つからず、あるとすれば「夫婦の相性的なもの」とのことでした。妊娠はするものの育たず、つらいお別れが続き、どうしていいのかわかりません。「次に妊娠反応があった場合は、不育症的な措置をしつつ、経過を見ましょう」と言われましたが、今の病院は不育症は専門外で、並行して他県の病院への通院をすすめられました。負担が大きく、先が見えません。 4度稽留流産を経験され、不育症検査でも問題はなく、あるとすれば「夫婦の相性的なもの」と告げられたそう。今後はどのようにすればいいですか。 10年前にすでに自然妊娠でお子さんを授かっているのですから、不育症の検査で告げられた、“ご夫婦の相性的なもの”が原因とは考えにくいと思いますし、万が一そうであったとしても、相性が悪いからとパートナーを変えるわけにはいきませんよね。究極の選択として精子や卵子提供を受けるといったこともできないことはありませんが、そこまでしてお子さんを望まれるかははなはだ疑問です。結論から先に言えば、これからも淡々と治療を続けるしかないと思います。検査で問題がなかったのですから、不育症の治療のためにわざわざ通院する必要もありません。 流産の原因と考えられるのは。 原因のひとつとして“卵子の老化”は否めませんが、不妊の原因はそれだけでは片づけられません。他の要因も複雑に絡み合うのが不妊で、特効薬がないのがもどかしいところです。 情報が乏しいのでわかりませんが、質問者さんの場合は体外受精といったものではなく、自然妊娠のようですよね。流産したということは、よく考えれば妊娠反応はあったということでもあります。女性にとって流産がどれほどおつらいことか想像するに難くありませんが、ある程度の確率で流産は起こるものと思ってください。質問者さんに限ったことではないのです。無脳症といった障がいがある場合は、自力で生きられないので自然淘汰されてしまうことも多い。4回の流産で諦めるのは早いですよ。5回目、6回目に授かることもあると信じ、納得がいくまでトライし続けてほしいですね。 「先が見えません」と悲観されています。先生からアドバイスを。 無脳症は葉酸不足、糖尿病、高血圧などで発症率が高まるといった報告もあるので、食生活を見直し、不足があればサプリメントなどで補充し、妊娠の妨げとなる持病がないかといったことも調べておくと安心材料になるでしょう。 ただ、文面からして、流産を繰り返したことでのストレスが強く見受けられます。ストレスは妊娠にとって大敵ですから、気持ちを切り替えて少しお休みしてはいかがかとも思います。ご主人は、「どうしてももう1人か2人、子どもが欲しい!」とおっしゃっているのでしょうか。不妊治療はどうしても女性側への負担が大きいので、ご自分はどれほど不妊で悩んでいるかなどを話し合うことも必要です。 まずはご夫婦の仲が良く、そしてそれなりに性交渉があれば、これからもいくらでもチャンスはあると思います。40歳を超えてからの妊娠・出産はリスクも増えてくるので、そういったことも踏まえ、いつまで希望をもち続けるか、体外受精に踏み切るべきか、といったことも話し合われてみてはいかがでしょうか。 岡先生より まとめ ●流産は誰にでも起こりうること。別れはつらいけれど、自分を責めないで。 ●自然妊娠を望むなら、夫婦仲良く! 性交渉が多ければチャンスも多いはず。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。その後、同大学産婦人科に入局。不妊症・不育症の研究治療を行い、「ローズレディースクリニック等々力」院長を経て、2000年に不妊症専門クリニック「東京HARTクリニック」を開院。2005年アメリカ生殖医学会にて、ヒト胚盤胞のガラス化保存法とASの有効性についてHARTグループとして発表し、日本人で初めて表彰される。紀元前3800年頃にメソポタミア文明を創り上げた“シュメール人”に興味津々の岡先生。「人類は、彼らが遺伝子操作してできた労働力、という説もある。他の星から来た宇宙人によって、地球人は生まれたのかも」と目を輝かせて語る様はまるで少年のよう! ≫ 東京HARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療
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移植後の内服薬の説明書に疑問。薬は飲み続けるべき?
「先日、移植後の内服薬の説明書を確認したところ、「自分で判断せず、薬は使い続けてください。自然妊娠と異なり、薬をやめてしまうと妊娠していてもすぐに流産してしまいます」と記載がありました。」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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凍結初期胚を移植するか、採卵しなおすか迷っています
「保管期間は1年なので、使うかどうかわからなくても延長して、先生と相談するべきでしょうか。通院に片道2時間かかります。仕事もしているので、通院は最低限にしたいと思います。」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか?
卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか? 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 相談者:みゅうさん(27歳) 卵子の質について 夫の乏精子症が発覚し、アンタゴニスト法で顕微授精を行いました。先生に「若いから、2人目もこの採卵でいけるかも」と言われ、私も期待していました。しかし、実際は採卵15個、そのうち成熟卵は7個。顕微授精では6個受精、残りの1個も受精しました。ほかは未成熟な卵子でした。そして、分割が遅く黒くなってしまい、胚盤胞になったのは5日目の4CC1つだけでした。先生にがっかりしたと言われ、私も落ち込んでいます。卵子の質が悪い体質なのでしょうか。先生も次の刺激法のアレンジは多少すると言ってくださっていますが悩んでおられました。卵子の質が悪い人は何度やっても結果同じなのでしょうか。まだ望みはありますか? みゅうさんは卵子の質に問題があるのでしょうか。 採卵した15個のうち成熟卵は7個で、結果的に顕微授精できなかったのだと思います。確率としてはかなり低いですね。たとえば、この方が40歳ぐらいであればアンチエイジングのサプリメントなどを併用して、卵子のクオリティを上げることも検討するかもしれませんが、まだ27歳とお若いです。早発閉経でもないかぎり、卵子の質について語るのは早い気がします。実際のAMHの値がわからないのですが、卵巣刺激法が合っていない可能性も考えられます。まずは方法を変えてみてはいかがでしょうか。 どのような卵巣刺激法がいいのでしょうか。 方法としては3つあります。ひとつがロング法です。月経の約1週間前から点鼻薬+注射剤で自然排卵を抑制しながら卵子をゆっくり成熟させて採卵する方法です。比較的年齢が若い方が対象で、複数個の卵子が均一に育ちやすいというメリットがあります。 もうひとつはアンタゴニスト法のアレンジです。アンタゴニスト法は、月経3日目から注射剤+アンタゴニスト製剤で自然排卵を抑制しながら卵子を育てる方法です。従来よりも1〜2日長く刺激をして採卵を遅らせることで、前回よりも成熟した卵子を採取できる可能性があります。 さらに、レトロゾールやアロマターゼ阻害剤と注射剤を併用しながら、マイルドに刺激して成熟した卵子を確実に採卵する方法もあります。15個といった複数個の卵子を一度に採卵するのではなく、採卵数を減らす代わりに卵子の成熟度を上げることができます。 また、そのほかの方法もあります。アンタゴニストでの刺激周期中に血液検査をすると、まれにLH(黄体形成ホルモン)が基準値よりも極度に低い方がいます。このような方は卵子の成熟度も低い可能性があります。現在はLHを補う薬がないのですが、当院ではLHと同様の成分をもつHCG注射を希釈して投与し、卵子の成熟度を上げる高度な治療も行っています。この方の詳しいデータがわかりませんが、刺激周期中にLH、FSH、エストロゲンの値を調べて補充していくのもひとつの方法かもしれません。 最後にアドバイスをお願いします。 いきなり卵子の質を変えるのはむずかしいので、まずは先ほどお話しした刺激法を試されるといいと思います。この方は月経周期28日型で身長153㎝・体重41㎏でBMIは高くありませんから、卵子の質にも影響を及ぼすPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性は低いでしょう。むしろ痩せすぎが気になりますので、甲状腺ホルモンの検査を受けられてもいいかもしれません。それで問題がなければ、当院ではロング法をおすすめします。 あとはご主人の乏精子症の度合いによりますが、場合によっては体外受精だけでなく、人工授精を受けることができます。毎月の体外受精は大変だと思いますので、体外受精にこだわりすぎず、合間に試してみるものひとつの選択です。 山下先生より まとめ ●刺激法が合っていない可能性もあるので、まずは方法を変えてみては。 ●乏精子症の度合いによっては、合間に人工授精を試されるのもひとつ。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や腹腔鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。各患者様の背景に配慮した“オーダーメイド治療”をめざす。日本産科婦人科学会認定医、生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴルフ・映画鑑賞・ピアノ。女性、男性ともに利用しやすいクリニックをめざし、「うめだファティリティークリニック」としてスタートして、はや5カ月。毎週木曜と毎月第1土曜に男性不妊外来を開設し、MD-TESEに対応しています。「ご夫婦はもちろん、1人で来院される男性が増えました」と山下先生。 ≫ うめだファティリティークリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか? 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 相談者:みゅうさん(27歳) 卵子の質について 夫の乏精子症が発覚し、アンタゴニスト法で顕微授精を行いました。先生に「若いから、2人目もこの採卵でいけるかも」と言われ、私も期待していました。しかし、実際は採卵15個、そのうち成熟卵は7個。顕微授精では6個受精、残りの1個も受精しました。ほかは未成熟な卵子でした。そして、分割が遅く黒くなってしまい、胚盤胞になったのは5日目の4CC1つだけでした。先生にがっかりしたと言われ、私も落ち込んでいます。卵子の質が悪い体質なのでしょうか。先生も次の刺激法のアレンジは多少すると言ってくださっていますが悩んでおられました。卵子の質が悪い人は何度やっても結果同じなのでしょうか。まだ望みはありますか? みゅうさんは卵子の質に問題があるのでしょうか。 採卵した15個のうち成熟卵は7個で、結果的に顕微授精できなかったのだと思います。確率としてはかなり低いですね。たとえば、この方が40歳ぐらいであればアンチエイジングのサプリメントなどを併用して、卵子のクオリティを上げることも検討するかもしれませんが、まだ27歳とお若いです。早発閉経でもないかぎり、卵子の質について語るのは早い気がします。実際のAMHの値がわからないのですが、卵巣刺激法が合っていない可能性も考えられます。まずは方法を変えてみてはいかがでしょうか。 どのような卵巣刺激法がいいのでしょうか。 方法としては3つあります。ひとつがロング法です。月経の約1週間前から点鼻薬+注射剤で自然排卵を抑制しながら卵子をゆっくり成熟させて採卵する方法です。比較的年齢が若い方が対象で、複数個の卵子が均一に育ちやすいというメリットがあります。 もうひとつはアンタゴニスト法のアレンジです。アンタゴニスト法は、月経3日目から注射剤+アンタゴニスト製剤で自然排卵を抑制しながら卵子を育てる方法です。従来よりも1〜2日長く刺激をして採卵を遅らせることで、前回よりも成熟した卵子を採取できる可能性があります。 さらに、レトロゾールやアロマターゼ阻害剤と注射剤を併用しながら、マイルドに刺激して成熟した卵子を確実に採卵する方法もあります。15個といった複数個の卵子を一度に採卵するのではなく、採卵数を減らす代わりに卵子の成熟度を上げることができます。 また、そのほかの方法もあります。アンタゴニストでの刺激周期中に血液検査をすると、まれにLH(黄体形成ホルモン)が基準値よりも極度に低い方がいます。このような方は卵子の成熟度も低い可能性があります。現在はLHを補う薬がないのですが、当院ではLHと同様の成分をもつHCG注射を希釈して投与し、卵子の成熟度を上げる高度な治療も行っています。この方の詳しいデータがわかりませんが、刺激周期中にLH、FSH、エストロゲンの値を調べて補充していくのもひとつの方法かもしれません。 最後にアドバイスをお願いします。 いきなり卵子の質を変えるのはむずかしいので、まずは先ほどお話しした刺激法を試されるといいと思います。この方は月経周期28日型で身長153㎝・体重41㎏でBMIは高くありませんから、卵子の質にも影響を及ぼすPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性は低いでしょう。むしろ痩せすぎが気になりますので、甲状腺ホルモンの検査を受けられてもいいかもしれません。それで問題がなければ、当院ではロング法をおすすめします。 あとはご主人の乏精子症の度合いによりますが、場合によっては体外受精だけでなく、人工授精を受けることができます。毎月の体外受精は大変だと思いますので、体外受精にこだわりすぎず、合間に試してみるものひとつの選択です。 山下先生より まとめ ●刺激法が合っていない可能性もあるので、まずは方法を変えてみては。 ●乏精子症の度合いによっては、合間に人工授精を試されるのもひとつ。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や腹腔鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。各患者様の背景に配慮した“オーダーメイド治療”をめざす。日本産科婦人科学会認定医、生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴルフ・映画鑑賞・ピアノ。女性、男性ともに利用しやすいクリニックをめざし、「うめだファティリティークリニック」としてスタートして、はや5カ月。毎週木曜と毎月第1土曜に男性不妊外来を開設し、MD-TESEに対応しています。「ご夫婦はもちろん、1人で来院される男性が増えました」と山下先生。 ≫ うめだファティリティークリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療
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タイミングのとり方が合っているかモヤモヤします
「HCG当日も伸びるおりものは出ましたが、前日より量は少なかった気がします。言われたように当日夜にタイミングはとったのですが、ずっとモヤモヤしています。」
2017.8.17
コラム 不妊治療
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お腹の張りや卵胞径の変化。自然排卵したのでしょうか?
「この場合、どのようなことが起きていると考えられますか? 自然排卵したとすれば、妊娠の可能性はあるのでしょうか。」
2017.8.17
コラム 不妊治療
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通水検査の結果が微妙。自然妊娠は可能ですか?
「今の状態で自然妊娠するのは難しい? 3mlの水が戻ってくるというのは、どのような原因がありますか?」
2017.8.17
コラム 不妊治療
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子宮内膜症が見つかりました。不妊クリニックに行くべき?
「婦人科に行ったら、また嚢胞がありました。痛みは嚢胞によるものだったのでしょうか。消えたものが、また現れることはありますか?」
2017.8.17
コラム 不妊治療
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重度のPCOSと診断。体外受精に進むべき? ほかには?
重度のPCOSと診断。体外受精に進むべき? ほかには? 山口 剛史 先生(醍醐渡辺クリニック) 相談者:なすがままさん(33歳) 今後の治療法について 薬を飲まないと生理がこない重度の生理不順でPCOSと診断され、クロミッド®、自己注射も効かず、1年前にドリリングしました。それでも自然排卵せず、注射で育て3回AIH。ほかの月は卵胞が育たずキャンセルに。今回も75単位で自己注射するも育たずキャンセルで、体外受精をすすめられました。年齢のことや卵子が育たないこと、生理期間も3〜4日と短くなっているのが気になります。PCOSは卵子の質が悪いと聞くので、このまま体外受精に進んでいいのか、ほかにやれることはないのか悩んでいます。 この方のPCOSについてどう思われますか。 PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、生殖年齢の人のなかで最も多くみられる内分泌疾患です。結論からお話しすると、この方はPCOSのなかでも、なかなか薬が効きにくいクロミフェン抵抗性タイプかもしれません。ドリリングの効果は1〜2年といわれており、この間に効果が出なければ体外受精に進まれるのがいいと思います。 体外受精に進む前にできることはありますか。 4つのオプションが考えられます。一つ目はインスリン抵抗性の検査です。一般的にPCOSの人は多毛や肥満といった傾向がありますが、この方のBMIは20・06で、基準値の25未満ですので肥満に当てはまりません。PCOSでも痩せ型の人にみられるインスリン抵抗性(耐糖能異常)が隠れているかもしれません。インスリン抵抗性はHOMA指数でわかり、1.6未満が正常、2.5以上を抵抗ありとしています。数値が高い場合はクロミッド®にメトホルミンを併用するといいと思います。 二つ目は、高プロラクチン血症の検査です。該当する場合はドーパミンアゴニストを併用することでプロラクチンが低下し、排卵しやすい環境が整います。 三つ目は、現在の治療の見直しです。クロミッド®を投与する前にカウフマン療法やOC(経口避妊薬)を服用すると、クロミッド®による排卵率、妊娠率の改善が期待できるといわれています。それでも卵胞が育ちにくい場合はFSH低用量漸増療法やドリリングを行います。 四つ目は、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)を用いる方法です。しかし、第一選択のクロミッド®に代わる第二選択として用いるべきで、クロミフェン抵抗性の人には効果がないと結論づける学者もいます。その一方で、PCOSの人にはクロミッド®よりレトロゾールのほうが排卵率や生産率が優れているという意見もあります。 最後にアドバイスをお願いします。 体外受精に躊躇されるのでしたら、まずはインスリン抵抗性、高プロラクチン血症を調べてみるのがひとつ。さらにカウフマン療法かOCを内服したうえで、クロミッド®の一日量を増やしたり、FSH低用量漸増療法を行ってみてはどうでしょうか? ただ、この方は治療歴が5年と長く、精子も少なめとのことですので、精子数が2000万/ml未満、運動率が40%未満であれば体外受精をおすすめします。調節卵巣刺激法で卵胞が育ちやすくなる可能性もあります。PCOSの方は採卵個数が多い傾向はありますが、卵子の質が悪くなるということはありませんので安心してください。 山口先生より まとめ ●PCOSの詳しい検査や現在の治療を見直すこともひとつです。 ●調節卵巣刺激法で卵胞が育つ可能性があるので体外受精の検討も。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山口 剛史 先生(醍醐渡辺クリニック) 奈良県立医科大学卒業。2007年京都府立医科大学大学院医学研究科統合医科学専攻、同博士課程修了。公立南丹病院、京都府立与謝の海病院産婦人科医長などを経て、2010年より醍醐渡辺クリニック勤務。O型・天秤座。もともと産婦人科医として活躍されていた先生。大学院で生殖医療の研究をしていたことから、30代後半で「年齢的にも最後のチャンス」と、渡辺先生のもとで生殖医療について必死に学ばれたそう。そして今年、日本生殖医学会生殖医療専門医に。今後ますますのご活躍に期待しています。 ≫ 醍醐渡辺クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 重度のPCOSと診断。体外受精に進むべき? ほかには? 山口 剛史 先生(醍醐渡辺クリニック) 相談者:なすがままさん(33歳) 今後の治療法について 薬を飲まないと生理がこない重度の生理不順でPCOSと診断され、クロミッド®、自己注射も効かず、1年前にドリリングしました。それでも自然排卵せず、注射で育て3回AIH。ほかの月は卵胞が育たずキャンセルに。今回も75単位で自己注射するも育たずキャンセルで、体外受精をすすめられました。年齢のことや卵子が育たないこと、生理期間も3〜4日と短くなっているのが気になります。PCOSは卵子の質が悪いと聞くので、このまま体外受精に進んでいいのか、ほかにやれることはないのか悩んでいます。 この方のPCOSについてどう思われますか。 PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、生殖年齢の人のなかで最も多くみられる内分泌疾患です。結論からお話しすると、この方はPCOSのなかでも、なかなか薬が効きにくいクロミフェン抵抗性タイプかもしれません。ドリリングの効果は1〜2年といわれており、この間に効果が出なければ体外受精に進まれるのがいいと思います。 体外受精に進む前にできることはありますか。 4つのオプションが考えられます。一つ目はインスリン抵抗性の検査です。一般的にPCOSの人は多毛や肥満といった傾向がありますが、この方のBMIは20・06で、基準値の25未満ですので肥満に当てはまりません。PCOSでも痩せ型の人にみられるインスリン抵抗性(耐糖能異常)が隠れているかもしれません。インスリン抵抗性はHOMA指数でわかり、1.6未満が正常、2.5以上を抵抗ありとしています。数値が高い場合はクロミッド®にメトホルミンを併用するといいと思います。 二つ目は、高プロラクチン血症の検査です。該当する場合はドーパミンアゴニストを併用することでプロラクチンが低下し、排卵しやすい環境が整います。 三つ目は、現在の治療の見直しです。クロミッド®を投与する前にカウフマン療法やOC(経口避妊薬)を服用すると、クロミッド®による排卵率、妊娠率の改善が期待できるといわれています。それでも卵胞が育ちにくい場合はFSH低用量漸増療法やドリリングを行います。 四つ目は、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)を用いる方法です。しかし、第一選択のクロミッド®に代わる第二選択として用いるべきで、クロミフェン抵抗性の人には効果がないと結論づける学者もいます。その一方で、PCOSの人にはクロミッド®よりレトロゾールのほうが排卵率や生産率が優れているという意見もあります。 最後にアドバイスをお願いします。 体外受精に躊躇されるのでしたら、まずはインスリン抵抗性、高プロラクチン血症を調べてみるのがひとつ。さらにカウフマン療法かOCを内服したうえで、クロミッド®の一日量を増やしたり、FSH低用量漸増療法を行ってみてはどうでしょうか? ただ、この方は治療歴が5年と長く、精子も少なめとのことですので、精子数が2000万/ml未満、運動率が40%未満であれば体外受精をおすすめします。調節卵巣刺激法で卵胞が育ちやすくなる可能性もあります。PCOSの方は採卵個数が多い傾向はありますが、卵子の質が悪くなるということはありませんので安心してください。 山口先生より まとめ ●PCOSの詳しい検査や現在の治療を見直すこともひとつです。 ●調節卵巣刺激法で卵胞が育つ可能性があるので体外受精の検討も。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山口 剛史 先生(醍醐渡辺クリニック) 奈良県立医科大学卒業。2007年京都府立医科大学大学院医学研究科統合医科学専攻、同博士課程修了。公立南丹病院、京都府立与謝の海病院産婦人科医長などを経て、2010年より醍醐渡辺クリニック勤務。O型・天秤座。もともと産婦人科医として活躍されていた先生。大学院で生殖医療の研究をしていたことから、30代後半で「年齢的にも最後のチャンス」と、渡辺先生のもとで生殖医療について必死に学ばれたそう。そして今年、日本生殖医学会生殖医療専門医に。今後ますますのご活躍に期待しています。 ≫ 醍醐渡辺クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.17
コラム 不妊治療
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多嚢胞でタイミング療法中。自然妊娠できますか?
「過去に自己タイミングで妊娠しなかった経緯があるため、薬を飲まないと無理ではないかと思ってしまいます。PCOSでも完全に自然妊娠できるのでしょうか。」
2017.8.17
コラム 不妊治療
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閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません
閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) Mikaさん(会社員/33歳)からの相談 ●男性不妊、顕微でも受精しません 夫は閉塞性の無精子症で、TESEで精巣精子を採り5本凍結しました。術後、医師には精巣精子にしては良好で妊娠できる可能性は高いと言われましたが、受精がうまくいきません。私はAMH値が異常に高く、刺激をすると卵胞が育ちすぎる以外は特に不妊原因を指摘されていません。1回目は低刺激にて9個採卵のうち成熟卵子6個。顕微授精で受精卵は7分割グレード3が1個しかできなかったため、新鮮胚を移植するも陰性。2回目はアンタゴ(中刺激)にて25個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子12個で6個受精。卵巣が腫れたため、胚盤胞まで培養し、結果グレードBCの胚盤胞が1つでき、翌月アシストハッチングした5BCの胚盤胞を移植するも陰性。3回目はHMG+アンタゴ(中刺激)にて28個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子13個で4個受精。培養5日目に胚盤胞に到達しそうな胚はないとのことで移植はキャンセルに。また、これまでにも卵胞が育ちすぎて急にLHサージとなり、採卵キャンセルになったことがありました。凍結した精子は残り2本。これがダメだった場合は、また精巣を切る手術をしないといけません。重度の男性不妊の場合、こちらのクリニックでは限界があるのかなとも思い、培養技術に力を入れているクリニックに転院するべきか迷っています。 精巣上体精子を回収するMESAのほうが負担が少ない 閉塞性無精子症というのは、精巣内で精子はつくられているけれども精管が閉塞しているために精液中に精子が出てこない状態。この場合、手術によって精子を回収するのですが、ご主人がTESEを行ったというのがまず気になります。 閉塞性無精子症の場合、当院ではMESAという精巣上体から精子を回収する方法を採用しています。TESEのように睾丸を切る必要がないため手術による負担が少なく、精子の数や質も高いといわれています。ただ、技術的にはTESEのほうが簡単なため、MESAを行う医師自体が少ないのは事実です。また、精巣精子でも精巣上体精子でも運動精子でさえあれば、数の多少にかかわらず、顕微授精での受精率に変わりはありません。 良い成熟卵子があってこそ受精率も妊娠率も上がる Mikaさん自身においては、AMHが高く多嚢胞性卵巣症候群だと思われますが、大切なのは、きちんとした成熟卵子を採ることです。 成熟卵子は極体の放出という見た目で定義されていますが、同じ赤いリンゴでも甘いものや酸っぱいものがあるように、同じ見た目の成熟卵子にも中身の遺伝子の発現には差があります。 きちんとした成熟卵子というのは、遺伝子の発現が良い卵子であり、そういった成熟卵子に精子を入れて初めて受精率も妊娠率も上がります。つまり、まずは良い材料としての成熟卵子が必要なのです。 AMHが高い人ほど最後の成熟段階の刺激に工夫を 人の卵子は本来、半年くらいかかって育ち、最終的に大きい卵胞が残って、ほかはしぼんでいって単一排卵になるという仕組みです。ところが、多嚢胞性卵巣症候群は、その最後の成熟段階がうまくいかず、全部の卵胞の成長が途中で止まってしまいます。そして、そこに刺激を加えるとすべての卵胞が一斉に育ってきてしまうため、多くの医師は、卵巣過剰刺激症候群などの副作用を懸念して早めに採卵しがちに。それが失敗の原因ともなります。 また、AMHは卵子の成熟の最終段階のホルモンにも関与しているといわれ、AMHが高い人は卵胞が成熟しにくいとも考えられます。ですから、特にAMH値が10 ng/ml以上あるような場合は、熟すのを少し待つような、最後の仕上げ的な刺激を工夫するのが秘訣です。 さらに、LHサージを抑えるためのアンタゴニスト法でもあるわけですから、それで採卵キャンセルというのも残念な話ですね。たとえば、アンタゴニスト法で最後にHCGを使わず、GnRHアゴニストをトリガーにすれば、まず副作用なしで数多くの成熟卵子が採れると思います。 受精卵ができれば女性の年齢相応の妊娠率が出る ほかにも受精障害にはカルシウムイオノフォアよりもエレクトロポレーションという電気刺激のほうがいいなど、Mikaさんのケースにはいろいろな要素が満載ですが、勘違いしてほしくないのはMikaさんの卵子が悪いわけではないということです。 良い成熟卵子を採るためには、卵胞が何㎜になったからHCGをというような単純なことではなく、AMH値と年齢も加味した刺激やタイミングを測ることが大切ですし、良い成熟卵子が採れて運動精子があれば、その後の受精率は顕微授精の技術の差で決まります。むしろ卵子の数が採れる分、1回目の妊娠はもちろん、2人目、3人目のための受精卵をつくって凍結しておくことだって可能です。 男性不妊の場合、男性側に精子が少ないから自然妊娠できないだけであって、受精卵ができれば女性側の年齢に相応の妊娠率はきちんと出るのです。 あと2本の凍結精子があるということですが、少なくとも技術に心配があるならば転院してはいかがでしょうか。その際にはやはり、体外受精や顕微授精の経験が豊富な専門クリニックを選ぶことが大切だと思います。 TOPIC 顕微授精の時、精子はどうやって選ぶの?基本的には運動精子であることが一番大事。精子の頭形やフラグメンテーション、奇形などで判断する説もありますが、それらは精子内のDNAには無関係です。なぜかといえば、DNAというのは通常、傷ついても常に修復されて正常を保つのですが、精子内のDNAはコンパクトにまとまる分、壊れても修復する余地がなく、DNAが壊れている=精子は動かないという判断ができるから。実際に見た目の悪い精子でも顕微授精で妊娠します。つまり精子は生きて、動いていれば、現在の高度生殖医療において受精卵ができるのは当たり前なのです。 浅田先生より まとめ 運動精子と良い成熟卵子があれば受精するか否かは技術の問題です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。2017年6月には『よくわかるAMHハンドブック ~女性を診るすべての医師へ~』(協和企画・税別1000円)を上梓した先生。今回のような男性不妊のケースにも役立つ医療者向けの内容です。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) Mikaさん(会社員/33歳)からの相談 ●男性不妊、顕微でも受精しません 夫は閉塞性の無精子症で、TESEで精巣精子を採り5本凍結しました。術後、医師には精巣精子にしては良好で妊娠できる可能性は高いと言われましたが、受精がうまくいきません。私はAMH値が異常に高く、刺激をすると卵胞が育ちすぎる以外は特に不妊原因を指摘されていません。1回目は低刺激にて9個採卵のうち成熟卵子6個。顕微授精で受精卵は7分割グレード3が1個しかできなかったため、新鮮胚を移植するも陰性。2回目はアンタゴ(中刺激)にて25個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子12個で6個受精。卵巣が腫れたため、胚盤胞まで培養し、結果グレードBCの胚盤胞が1つでき、翌月アシストハッチングした5BCの胚盤胞を移植するも陰性。3回目はHMG+アンタゴ(中刺激)にて28個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子13個で4個受精。培養5日目に胚盤胞に到達しそうな胚はないとのことで移植はキャンセルに。また、これまでにも卵胞が育ちすぎて急にLHサージとなり、採卵キャンセルになったことがありました。凍結した精子は残り2本。これがダメだった場合は、また精巣を切る手術をしないといけません。重度の男性不妊の場合、こちらのクリニックでは限界があるのかなとも思い、培養技術に力を入れているクリニックに転院するべきか迷っています。 精巣上体精子を回収するMESAのほうが負担が少ない 閉塞性無精子症というのは、精巣内で精子はつくられているけれども精管が閉塞しているために精液中に精子が出てこない状態。この場合、手術によって精子を回収するのですが、ご主人がTESEを行ったというのがまず気になります。 閉塞性無精子症の場合、当院ではMESAという精巣上体から精子を回収する方法を採用しています。TESEのように睾丸を切る必要がないため手術による負担が少なく、精子の数や質も高いといわれています。ただ、技術的にはTESEのほうが簡単なため、MESAを行う医師自体が少ないのは事実です。また、精巣精子でも精巣上体精子でも運動精子でさえあれば、数の多少にかかわらず、顕微授精での受精率に変わりはありません。 良い成熟卵子があってこそ受精率も妊娠率も上がる Mikaさん自身においては、AMHが高く多嚢胞性卵巣症候群だと思われますが、大切なのは、きちんとした成熟卵子を採ることです。 成熟卵子は極体の放出という見た目で定義されていますが、同じ赤いリンゴでも甘いものや酸っぱいものがあるように、同じ見た目の成熟卵子にも中身の遺伝子の発現には差があります。 きちんとした成熟卵子というのは、遺伝子の発現が良い卵子であり、そういった成熟卵子に精子を入れて初めて受精率も妊娠率も上がります。つまり、まずは良い材料としての成熟卵子が必要なのです。 AMHが高い人ほど最後の成熟段階の刺激に工夫を 人の卵子は本来、半年くらいかかって育ち、最終的に大きい卵胞が残って、ほかはしぼんでいって単一排卵になるという仕組みです。ところが、多嚢胞性卵巣症候群は、その最後の成熟段階がうまくいかず、全部の卵胞の成長が途中で止まってしまいます。そして、そこに刺激を加えるとすべての卵胞が一斉に育ってきてしまうため、多くの医師は、卵巣過剰刺激症候群などの副作用を懸念して早めに採卵しがちに。それが失敗の原因ともなります。 また、AMHは卵子の成熟の最終段階のホルモンにも関与しているといわれ、AMHが高い人は卵胞が成熟しにくいとも考えられます。ですから、特にAMH値が10 ng/ml以上あるような場合は、熟すのを少し待つような、最後の仕上げ的な刺激を工夫するのが秘訣です。 さらに、LHサージを抑えるためのアンタゴニスト法でもあるわけですから、それで採卵キャンセルというのも残念な話ですね。たとえば、アンタゴニスト法で最後にHCGを使わず、GnRHアゴニストをトリガーにすれば、まず副作用なしで数多くの成熟卵子が採れると思います。 受精卵ができれば女性の年齢相応の妊娠率が出る ほかにも受精障害にはカルシウムイオノフォアよりもエレクトロポレーションという電気刺激のほうがいいなど、Mikaさんのケースにはいろいろな要素が満載ですが、勘違いしてほしくないのはMikaさんの卵子が悪いわけではないということです。 良い成熟卵子を採るためには、卵胞が何㎜になったからHCGをというような単純なことではなく、AMH値と年齢も加味した刺激やタイミングを測ることが大切ですし、良い成熟卵子が採れて運動精子があれば、その後の受精率は顕微授精の技術の差で決まります。むしろ卵子の数が採れる分、1回目の妊娠はもちろん、2人目、3人目のための受精卵をつくって凍結しておくことだって可能です。 男性不妊の場合、男性側に精子が少ないから自然妊娠できないだけであって、受精卵ができれば女性側の年齢に相応の妊娠率はきちんと出るのです。 あと2本の凍結精子があるということですが、少なくとも技術に心配があるならば転院してはいかがでしょうか。その際にはやはり、体外受精や顕微授精の経験が豊富な専門クリニックを選ぶことが大切だと思います。 TOPIC 顕微授精の時、精子はどうやって選ぶの?基本的には運動精子であることが一番大事。精子の頭形やフラグメンテーション、奇形などで判断する説もありますが、それらは精子内のDNAには無関係です。なぜかといえば、DNAというのは通常、傷ついても常に修復されて正常を保つのですが、精子内のDNAはコンパクトにまとまる分、壊れても修復する余地がなく、DNAが壊れている=精子は動かないという判断ができるから。実際に見た目の悪い精子でも顕微授精で妊娠します。つまり精子は生きて、動いていれば、現在の高度生殖医療において受精卵ができるのは当たり前なのです。 浅田先生より まとめ 運動精子と良い成熟卵子があれば受精するか否かは技術の問題です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。2017年6月には『よくわかるAMHハンドブック ~女性を診るすべての医師へ~』(協和企画・税別1000円)を上梓した先生。今回のような男性不妊のケースにも役立つ医療者向けの内容です。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 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2017.8.16
コラム 不妊治療
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凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい?
凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい? 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) junさん(主婦/40歳)からの相談 ●今後の移植法について 無精子症のため、凍結精子を使用して顕微授精をしていました。顕微授精ができたのはこの1年に4回、1個は胚盤胞凍結、その他は10細胞、桑実胚で分割が止まってしまいました。採卵数は1〜3個で受精はすべてしています。いまの病院は胚盤胞しか移植しないため、まだ移植をしたことがありません。先生に分割胚の凍結も一度聞いてみたんですが、体の負担があるのでやめたほうがいいとのことでした。今回で凍結精子がなくなってしまったので、次回は移植をする予定ですが。もしダメだったらまたTESEをしなければなりません。しかし、TESEをする前に転院したほうがいいか考えております。TESEをしたら転院はできないと思うので(泣)。そこで、 ①分割胚を移植できるように転院すべきかどうか。それとも今のまま胚盤胞を育てるか。 ②移植までにしておいたほうがいいことは? この2つについてアドバイスをいただければと思います。①については両方の意見があると思います。私も各々の意見、経験談もいろいろ伺ってどちらもわかるので、決めかねているのもあります。 採卵当日に精子が準備できない場合に有効な凍結精子 重度の乏精子症や無精子症などで採卵当日に精子が見つからない可能性がある場合、あらかじめ射出精子やTESE(精巣内精子採取術)などで採取した生存精子を凍結保存して顕微授精に用います。また、悪性腫瘍、白血病などの抗がん剤治療で無精子症になる可能性がある場合、治療前に精子を凍結保存することもあります。 凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、長い歴史があり安全性は医学的にまったく問題ありません。無精子症でもTESEで生存精子が見つかれば妊娠の可能性は十分あります。 胚盤胞になりにくい人は長期の体外培養が合わない可能性が。分割胚移植の検討も この方の場合、胚盤胞までなかなか達しないような印象を受けます。胚盤胞になりにくい場合は分割胚の移植を検討します。症例によっては長期の体外培養が胚細胞にとってストレスになり、正常な胚であっても成長しない可能性があるからです。担当医の方に「分割胚の凍結は体の負担があるから」といわれたということですが、お話に行き違いがあったのかもしれません。凍結融解胚移植でも新鮮胚移植でも、分割胚移植と胚盤胞移植では体への負担は変わりません。 いずれにしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工夫が必要です。当院では2つの方策をとっています。(1)分割胚移植を選択する、(2)顕微授精の時に卵子を活性化するカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞までの培養を試みる方法です。カルシウムイオノフォアはあまりなじみがないかもしれませんので、少しご説明いたします。 本来の働きを応用し、受精卵の分割を活性化させるカルシウムイオノフォア カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内にある小胞体からカルシウムイオンの放出を促す薬剤です。顕微授精後の卵子活性化に用いられる薬剤で、受精障害の場合に有効とされていましたが、胚細胞の分割が進行することにも効果があるという報告も出てきています。 その原理を簡単に説明しますと、卵子が受精や細胞分裂する時、小胞体からカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度の上昇と下降が波状に起こります。その波状の変化がエネルギーとして次の過程に伝わり、受精や分裂につながっていくと考えられています。 つまり、卵子のカルシウム濃度の上昇が不十分だと卵子が不活性な可能性があり、その場合、カルシウムイオノフォアが有効です。また、受精卵が分割する時もカルシウム濃度の波状の変化が必要なので、受精卵の成長が止まってしまう場合にもカルシウムイオノフォアが有効です。 当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合にカルシウムイオノフォアを使ってみたところ、胚盤胞到達率が高まり、妊娠率が向上しました。この結果を最近学会報告しております。 現状で分割胚移植が不可能であれば転院も。TESEでの精子凍結後も転院は可能です この方の施設は「胚盤胞しか移植しない」方針だそうですが、たしかに胚盤胞まで成長しない分割胚を移植しても結果につながらないという考え方もあります。一方で、症例によっては長期の体外培養が胚細胞のストレスになるので、胚盤胞にならない場合は分割胚移植のほうがいいという考え方もあります。 当院のデータでは、40歳以上の方の胚盤胞の形成率は30〜40%程度です。なかなか胚盤胞になりにくい方は、前核期胚という受精直後の段階で凍結し内膜を整えてから融解し、前核期胚から分割胚まで培養して移植する方法をとることもあり、良好な結果が出ています。前核期胚は凍結に一番強いといわれていますので、このような方法もいいと思います。 いまの施設で分割胚移植がどうしてもできないのであれば、転院はやむを得ないと感じます。受精卵・精子の凍結後でも移送できますので転院は十分に可能です。通院されている施設でもう一度TESEを行っても、凍結精子を移送することは一般的には可能だと思います。 たとえば当院では同じグループ系列で移入・移出をよく行っており、転勤される方などが利用されています。 「移植までにしておいたほうがいいことは?」というご質問はよく受けるのですが、とくに妊娠率を上げる秘策はありません。無理をせず、ストレスにならないよう体調を整えて普段通りの生活でかまいません。 なによりも一番大事なことは、ご自身が納得できる方法で治療を続けられることです。 TOPIC 採卵当日に精子を準備できない人に有効凍結精子は採精した精子をマイナス196℃の液体窒素中で、凍結・保存することをいいます。精子を凍結するのは、採卵当日に精子が準備できない場合に使用するためです。乏精子症や無精子症などで採精当日に精子が見つからない可能性がある場合、TESEなどで採精し、凍結保存します。また、悪性腫瘍や白血病などで抗がん剤治療を行う場合、将来の無精子症に備えておきたい場合にも有効です。凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、安全性は医学的に立証されています。 中村先生より まとめ 分割胚移植の選択または顕微授精の時にカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞まで培養を [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。先生の一番のストレス解消法は「滝行」。お父様の代から参拝している山口県周南市のお寺に月1回行き、15分ほど滝に打たれるそう。「新幹線とタクシーを乗り継いで3〜4時間かかりますが、この滝行が一番スキッとし、思い悩んでいたことが浄化される感じがします」。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい? 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) junさん(主婦/40歳)からの相談 ●今後の移植法について 無精子症のため、凍結精子を使用して顕微授精をしていました。顕微授精ができたのはこの1年に4回、1個は胚盤胞凍結、その他は10細胞、桑実胚で分割が止まってしまいました。採卵数は1〜3個で受精はすべてしています。いまの病院は胚盤胞しか移植しないため、まだ移植をしたことがありません。先生に分割胚の凍結も一度聞いてみたんですが、体の負担があるのでやめたほうがいいとのことでした。今回で凍結精子がなくなってしまったので、次回は移植をする予定ですが。もしダメだったらまたTESEをしなければなりません。しかし、TESEをする前に転院したほうがいいか考えております。TESEをしたら転院はできないと思うので(泣)。そこで、 ①分割胚を移植できるように転院すべきかどうか。それとも今のまま胚盤胞を育てるか。 ②移植までにしておいたほうがいいことは? この2つについてアドバイスをいただければと思います。①については両方の意見があると思います。私も各々の意見、経験談もいろいろ伺ってどちらもわかるので、決めかねているのもあります。 採卵当日に精子が準備できない場合に有効な凍結精子 重度の乏精子症や無精子症などで採卵当日に精子が見つからない可能性がある場合、あらかじめ射出精子やTESE(精巣内精子採取術)などで採取した生存精子を凍結保存して顕微授精に用います。また、悪性腫瘍、白血病などの抗がん剤治療で無精子症になる可能性がある場合、治療前に精子を凍結保存することもあります。 凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、長い歴史があり安全性は医学的にまったく問題ありません。無精子症でもTESEで生存精子が見つかれば妊娠の可能性は十分あります。 胚盤胞になりにくい人は長期の体外培養が合わない可能性が。分割胚移植の検討も この方の場合、胚盤胞までなかなか達しないような印象を受けます。胚盤胞になりにくい場合は分割胚の移植を検討します。症例によっては長期の体外培養が胚細胞にとってストレスになり、正常な胚であっても成長しない可能性があるからです。担当医の方に「分割胚の凍結は体の負担があるから」といわれたということですが、お話に行き違いがあったのかもしれません。凍結融解胚移植でも新鮮胚移植でも、分割胚移植と胚盤胞移植では体への負担は変わりません。 いずれにしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工夫が必要です。当院では2つの方策をとっています。(1)分割胚移植を選択する、(2)顕微授精の時に卵子を活性化するカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞までの培養を試みる方法です。カルシウムイオノフォアはあまりなじみがないかもしれませんので、少しご説明いたします。 本来の働きを応用し、受精卵の分割を活性化させるカルシウムイオノフォア カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内にある小胞体からカルシウムイオンの放出を促す薬剤です。顕微授精後の卵子活性化に用いられる薬剤で、受精障害の場合に有効とされていましたが、胚細胞の分割が進行することにも効果があるという報告も出てきています。 その原理を簡単に説明しますと、卵子が受精や細胞分裂する時、小胞体からカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度の上昇と下降が波状に起こります。その波状の変化がエネルギーとして次の過程に伝わり、受精や分裂につながっていくと考えられています。 つまり、卵子のカルシウム濃度の上昇が不十分だと卵子が不活性な可能性があり、その場合、カルシウムイオノフォアが有効です。また、受精卵が分割する時もカルシウム濃度の波状の変化が必要なので、受精卵の成長が止まってしまう場合にもカルシウムイオノフォアが有効です。 当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合にカルシウムイオノフォアを使ってみたところ、胚盤胞到達率が高まり、妊娠率が向上しました。この結果を最近学会報告しております。 現状で分割胚移植が不可能であれば転院も。TESEでの精子凍結後も転院は可能です この方の施設は「胚盤胞しか移植しない」方針だそうですが、たしかに胚盤胞まで成長しない分割胚を移植しても結果につながらないという考え方もあります。一方で、症例によっては長期の体外培養が胚細胞のストレスになるので、胚盤胞にならない場合は分割胚移植のほうがいいという考え方もあります。 当院のデータでは、40歳以上の方の胚盤胞の形成率は30〜40%程度です。なかなか胚盤胞になりにくい方は、前核期胚という受精直後の段階で凍結し内膜を整えてから融解し、前核期胚から分割胚まで培養して移植する方法をとることもあり、良好な結果が出ています。前核期胚は凍結に一番強いといわれていますので、このような方法もいいと思います。 いまの施設で分割胚移植がどうしてもできないのであれば、転院はやむを得ないと感じます。受精卵・精子の凍結後でも移送できますので転院は十分に可能です。通院されている施設でもう一度TESEを行っても、凍結精子を移送することは一般的には可能だと思います。 たとえば当院では同じグループ系列で移入・移出をよく行っており、転勤される方などが利用されています。 「移植までにしておいたほうがいいことは?」というご質問はよく受けるのですが、とくに妊娠率を上げる秘策はありません。無理をせず、ストレスにならないよう体調を整えて普段通りの生活でかまいません。 なによりも一番大事なことは、ご自身が納得できる方法で治療を続けられることです。 TOPIC 採卵当日に精子を準備できない人に有効凍結精子は採精した精子をマイナス196℃の液体窒素中で、凍結・保存することをいいます。精子を凍結するのは、採卵当日に精子が準備できない場合に使用するためです。乏精子症や無精子症などで採精当日に精子が見つからない可能性がある場合、TESEなどで採精し、凍結保存します。また、悪性腫瘍や白血病などで抗がん剤治療を行う場合、将来の無精子症に備えておきたい場合にも有効です。凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、安全性は医学的に立証されています。 中村先生より まとめ 分割胚移植の選択または顕微授精の時にカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞まで培養を [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。先生の一番のストレス解消法は「滝行」。お父様の代から参拝している山口県周南市のお寺に月1回行き、15分ほど滝に打たれるそう。「新幹線とタクシーを乗り継いで3〜4時間かかりますが、この滝行が一番スキッとし、思い悩んでいたことが浄化される感じがします」。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
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