不妊治療といってもその治療方法はいろいろ。
ここでは高度不妊治療(ART)と呼ばれる体外受精の流れについて解説します。
英ウィメンズクリニック 塩谷 雅英先生
島根医科大学卒業。卒業と同時に京都大学産婦人科に入局。体外受精チームに所属し、不妊治療の臨床の傍ら研究を継続する。1994年から神戸市立中央市民病院に勤務し、顕微授精による赤ちゃん誕生に貢献。2000年3月、英ウィメンズクリニックを開院。
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体外受精の治療ステップ
高度生殖補助医療(ART)の中心をなす体外受精(IVF)は、1.排卵誘発、2.採卵、3.受精、4.胚培養、5.胚移植、6.黄体補充療法という6つのステップから構成されています。それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。
STEP 1 排卵誘発 良質の卵子を育てます
1回の治療あたりの妊娠率を高めるためには、よい卵子を育てることが大切です。そのため、排卵誘発を行う方法がよく用いられます。排卵誘発の方法は、排卵誘発剤を多めに使用して、複数個できれば4〜7個の卵子の発育を促す「一般的方法」と、排卵誘発剤の使用量を減らして体への負担を軽くする「低刺激法」との2つに分類されます。また、排卵誘発剤を使用せず自然の排卵を利用する「自然周期法」もあります。
一般的方法
卵子を用い、ひいては多くの受精卵を作ることを目標とする治療方法です。受精卵が4個以上育てば、1回で妊娠できる可能性が高くなります。また、治療で受精卵が余れば凍結保存しておくことができ、将来、2人目、3人目も期待できる場合もあります。排卵誘発には、卵子を育てるHMG/FSH製剤、卵子の成熟を開始させるHCG製剤・GnRHアナログ、自然排卵を抑えるGnRHアナログとGnRHアンタゴニストという4種類のホルモン剤を使います。GnRHアナログは通常、点鼻スプレーを使用します。この点鼻スプレーの使用期間の長短、有無によって「一般的方法」は下図の3通りに分類されます。
【一般的方法(1)ショート法】
月経開始日から点鼻スプレーを使用開始し、月経の3日目からHMG/FSH製剤の注射を、6日〜10日間連日行います。点鼻スプレーは原則として、1日3回、およそ8時間おきに、両方の鼻にスプレー(1日6噴射)をします。このスプレーは採卵2日前の夜まで続けます。排卵誘発作用が強く、年齢が高い方や、AMH低値、FSH高値の患者さまに向いています。
【一般的方法(2)ロング法】
治療前周期の黄体期(高温相)に点鼻スプレーを使用開始し、月経の3日目にHMG製剤の注射を6日〜10日間連日行います。点鼻スプレーは原則として、1日4回、およそ6時間おきに、片方の鼻にスプレー(1日4噴射)をします。このスプレーは採卵2日前の夜まで続けます。ショート法に比較すると排卵誘発作用はマイルドです。卵胞成熟に時間がかかる傾向がありますが、卵子の質が高まることが期待できる方法です。
【一般的方法(3)アンタゴニスト法】
月経周期3日目からHMG製剤の注射を開始して、卵胞が大きくなったところで排卵が起こらないよう、排卵を抑えるGnRHアンタゴニストの注射をします。
GnRHアンタゴニストには、セトロタイド(R)、とガニレスト(R)があります。作用はどちらもほぼ同じで、皮下注射の薬です。一般的方法のなかでも比較的排卵誘発作用が弱く、このアンタゴニスト法は比較的年齢の若い方、AMH高値、FSH低値の患者さまに向いています。
低刺激法
低刺激法は、クロミフェン法、マイルド法などとも呼ばれます。月経3日目から内服薬のクロミフェンを使用、途中で注射薬も少し使用して卵胞を発育させます。先ほどの一般的方法では平均採卵個数が9個くらいですが、この低刺激法では、3個くらいとなります。その結果、1回で妊娠できる可能性は一般的方法と比較すると低くなります。また受精卵が余って、余剰の受精卵を凍結できるケースも少なくなります。メリットは、通院の回数が少ないことや排卵誘発にかかる費用が少なくてすむこと、そして、時として一般的方法ではよい卵子ができなかったケースでもこの低刺激法ではよい卵子ができる方もいらっしゃることです。一般的方法でよい結果が出ない場合には試してみるといい方法です。また、この低刺激法は卵巣に対する負担が小さいため、あまり治療をお休みすることなく、毎月できるというメリットもあります。
自然周期法
排卵誘発剤を使用せず、自然に発育する卵子を利用して治療を進めます。薬のアレルギーが心配な方などにメリットがあります。また高齢であったり、AMH低値、FSH高値の方で、排卵誘発剤を使用してもよい卵子の発育がみられない時、「自然周期法」であればよい卵子の発育を期待できることがあります。
※これらのステップはあくまでも原則的なもので、状態により異なることがありますのでご了承ください。
体に優しい体外受精とは
低刺激法や自然周期法は、排卵誘発剤の注射をできるだけ使用せず、体が卵子を育む力を利用して治療する方法です。通院回数が減り、痛い注射は不要、薬代が少ないというメリットがあります。卵巣が腫れる卵巣過剰刺激症候群を起こす心配もありませんし、多胎の可能性も大変低くなります。そのため「体に優しい体外受精」と呼ばれることもあります。デメリットとしては、従来の体外受精と比べて1回あたりの妊娠率が低くなることですが、マイペースに毎月繰り返して治療を受けることができるというよさもあります。
出典:Hanabusa with jineko.net