顕微授精で本当に妊娠するの?
実際に、顕微授精で妊娠した方にその経緯を伺いました。
子宮頸がんの疑い、男性更年期障害、家族の介護と別れ…。数々の壁を乗り越え待望の命を授かった容子さんご夫婦。二人のこれまでを振り返ります。
早く結婚して妊娠したい…その思いが運命の出会いに
35歳の時、勤務先の定期検診がきっかけで、医師から子宮頸がんの一歩手前であることを告げられた小林容子さん(39歳)。「がんになっても切除すれば完治できる。でもふつうの妊娠・出産は望めなくなってしまう」。頭が真っ白になったといいます。医師には「この先、お子さんを望むのであれば、早く結婚して妊娠を」といわれるものの、当時お付き合いしている男性もいませんでした。「もう子どもは望めないかも」。つらい現実と向き合う容子さんとは対照的に、周りの友人はすでに結婚し、子育ての真っ最中。そんな友人とは距離を置くようになり、「嫌な自分でした」と振り返ります。
しかし、2年後に思いがけない出会いがおとずれます。休日にたまたま手伝っていた実家のお店で、18歳年上のご主人から食事の誘いを受け、交際に発展。2回デートを重ねた後、容子さんはご主人に、子宮頸がんの疑いで通院中であること、早く結婚して子どもを望んでいることなど、心の内をすべて打ち明けました。それを聞いたご主人は、容子さんの通院に付き添い、医師の話を聞くと「それなら早く結婚して、子どもをつくろう」とプロポーズしたといいます。
お互いを思いやり二人三脚での不妊治療
その5カ月後、二人は結婚。同時に不妊治療をはじめます。しかし、2回のタイミング法と3回の人工授精にチャレンジするも思うような結果が出ません。実は、ご主人が結婚前から男性の更年期障害を患い、ホルモン治療を受けていたために、精子の形成がむずかしくなっていました。さらにご主人のお母さまの介護も重なり、不妊治療への負担は大きかったといいます。
「主人は自分のせいで結果が出ないと思い、はがゆさを感じていたようでした。心身ともにつらかったと思います」。一方、容子さんも不妊治療への期待が大きく、結果を聞くたびに落ち込みました。そんな時、「できないものはしょうがない。次でいいじゃない」。容子さんのお母さまとお姉さまの明るい励ましに支えられ、気持ちを切り替えられたといいます。「先生を信頼していれば大丈夫」その思いを支えに、漢方やサプリメントを取り入れたり、食事を工夫して夫婦で体質改善に取り組みました。「とにかく夫婦で必死でした。主人は私のお願いをなんでも聞いてくれる人。大変な思いをさせているぶん、主人のためにできることをしようと思いました」。更年期障害や介護の負担を和らげるため治療の話をなるべく控えたり、時には、容子さんが実家に行き、ご主人が一人になれる時間をつくるようにしました。
顕微授精の大きな決断まさかの偶然が…
そして1年後、顕微授精にステップアップします。すると1回目の治療で妊娠が判明。さらに妊娠がわかった日は、ご主人のお誕生日。「もっと時間がかかると思っていたし、あまりの偶然にびっくりしました」。早速、ご主人に電話で結果を伝えると、一気に力が抜けた様子だったとか。実は、少し前にお母さまを亡くし、大きな喪失感と喜びに同時に直面することになったご主人。そんなご主人の複雑な思いを察し、「つわりでつらくても主人の前では弱音を吐かないようにしていました。私が子どもを欲しくて望んだことだから」と容子さん。そして安定期に入ると、ようやく容子さんの体調とご主人の気持ちも安定。二人で赤ちゃんを迎える準備を楽しめるようになったといいます。
一時は、二人が高齢であることに不安を感じ、羊水検査を考えたこともありました。そんな時、「ここまで不妊治療を続けてきて、簡単に子どもを諦められる? もっとどんと構えて」。友人の言葉にはっとさせられたといいます。「何があっても受け止めよう。でも大丈夫。元気に産まれてくれる」。お腹をさすり、赤ちゃんにこう話しかけています。妊娠9カ月になったいま、容子さんは笑顔でいいます。「私たちは恋愛期間もなく、これまで不妊治療や家族の介護で、夫婦らしい時間がほとんど持てませんでした。いまこうして二人で産まれてくる子を待つ時間がすごく幸せ。主人に感謝しています」
from ドクター 治療を振り返って(俵IVFクリニック 俵 史子 先生)
顕微授精への早い決断が成功の分かれ目に
小林さんは38歳の時、月経不順と排卵障害を理由に、他の機関からの紹介で当院にお見えになりました。最初の検査で、上記のほかに片側卵管閉塞が認められました。また、ご主人の精液所見は基準値を下回ることも多く、人工授精3回目では回収後運動精子数が当院の人工授精の基準に達することができませんでした。そこで顕微授精をご提案しました。顕微授精に至っては、小林さんの排卵誘発剤の反応がよく、良好な卵子も採れました。結果、精子所見と卵管障害に対して、ピンポイントで治療できたと思います。もし排卵障害に対して、一般不妊治療で排卵誘発を長期的に行っていたら、卵巣に負担をかけ卵子の質の低下をまねく可能性もありました。顕微授精を早く決断してくれたことで卵巣に負担をかけることなく、スピード感を持って治療できました。小林さんは、お子さんが欲しいという思いが強く、サプリメントで体質改善を行ったり、治療一つひとつにまじめに向き合っている印象を受けました。そして自然妊娠にこだわらず、顕微授精というハードルを越えてくれたことが結果につながりました。私たちを信頼くださり、お互いのコミュニケーションがスムーズだったことも良かったのかもしれません。
出典:jineko2015 夏号
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