不妊症の原因を見つけ、治療につなげるには、まず体の状態を把握することが不可欠です。そのために、初診から約1カ月をかけて、一般的な検査をします。同じ血液検査でも目的が異なる場合もありますから、何のための検査なのかを理解しておくと、治療への理解も深まるでしょう。また、一般的な検査の後、必要があれば精密検査をする場合もあります。
浅田レディースクリニック 浅田 義正先生
名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。浅田先生は国内でAMHをもとに治療方針を決めた先駆者。「2008 年にAMH 測定を始め、いろいろ測定法も変わってきましたが、メーカーもようやくAMHの普及に力を入れてきています。やっとここまで来たかと感無量です」。
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AMH(アンチミューラリアンホルモン)
卵巣の予備能を知り治療の可能性を探る検査
いくつかのホルモン検査の中でも近年注目されているのが、アンチミューラリアンホルモン(AMH)を測る検査です。AMHは抗ミュラー管ホルモンともいい、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。
AMH値は、卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているかを反映すると考えられています。
男性の場合、精子は睾丸でつくられていますので、いつも精子は新しく、いくつになっても精子はつくられ、年齢の影響をほとんど受けません。
一方、卵巣では卵子はつくられず、生まれる前につくられた卵子が保存されているだけです。
したがって生きた卵子はどんどん消滅して数が減少し、年齢とともに卵子自体も年をとり古くなります。卵子の質は、その古さ、年齢の影響を直接受け、卵子の数も年齢とともにどんどん減っていきます。その数は年齢以上に個人差が大きく、いざ子供が欲しいと思った時に卵子がないということも起こり得ます。
卵巣の予備能(卵巣内に残っている卵の在庫の目安)は今までのホルモン検査ではよくわかりませんでした。AMHはその最も良い指標であり、また他のホルモンと違い、生理周期に関係なくいつ測ってもよい血液検査です。
「私はいくつだから大丈夫」ではなく、「私のAMHはいくつあるから大丈夫」というように、正しい自分のAMH、卵巣予備能を知ってほしいと思います。みかけは若くても、卵巣の卵子が非常に早く減ってしまい、20代、30代で閉経する女性は多く見られます。また、何度も言うように寿命がどんどん長くなっても、女性の生殖年齢は昔と変わりません。
卵巣予備能を知ることは、不妊治療がいつまでできるかの目安ともなります。AMHによって出る結果は、妊娠できるかどうかではなく、どんな治療をすれば、残っている卵を有効に活用できるのかの判断に役立ちます。
まずはAMHをチェックしてから、ご自分の人生設計を立てることをお勧めします。
年齢と卵巣予備能は必ずしも比例しない
AMH(アンチミューラリアンホルモン)とは、卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているか(卵巣予備能)を反映する数値です。いくら年齢が若くても、AMH値が低いケースは意外にあります。それだけに、不妊治療を始める際にはまずAMHを測ることが大切です。
図は、年齢とAMH値の相互関係の表ですが、その相関の範囲によって選択する基本的な排卵誘発の方法(調節卵巣刺激法=体外受精において卵胞の発育を見ながら排卵誘発剤を計画的に使用する方法)と、治療の目安を示しています。基本的には、年齢が高くAMH値が低ければ、治療自体ができる時間は少なく、注射を打っても十分効かないため、排卵の誘発も簡易刺激法という薬を服用しての穏やかな方法しかできなくなります。一方で、年齢が20代でもAMH値が1ng/ml以下の方も同様です。この場合は早発閉経といって、年齢が若いにもかかわらず、卵巣機能は実年齢以上に衰えていて、最悪の場合は20代でも30代でも閉経が起こってしまうことがあるというケースです。
では、年齢が若くAMH値が高ければ高いほど良いかというとそうともいえません。図が示すようにその相関を示す範囲では、排卵が阻害されて卵巣内に多数の卵胞がたまり、月経異常や不妊原因となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われます。この場合は、卵巣を過剰に刺激しないように刺激法を工夫し、採れた卵は一旦凍結して保存し、卵巣の状態を整えてからしか受精卵を戻すことができなくなります。
このように年齢とAMH値の相関によって、不妊治療の方法も治療に費やせる時間も大きく変わります。そのことを正しく理解した上で、実際の患者さまのケースをご参照いただければと思います。
年齢とAMH値で見る治療の目安
出典:Asada with Jineko.net
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