治療にあまり協力的じゃない夫 なぜ、不機嫌になるの?
コラム 不妊治療
治療にあまり協力的じゃない夫 なぜ、不機嫌になるの?
不妊治療での、このような妻と夫の温度差は、男性のどんな心理や意識から来ているのでしょうか。秋山レディースクリニックの秋山先生に、医師として、また男性代表としてご意見を伺ってみました。
採卵時は麻酔のためにフラフラになってしまうのに迎えに来てくれなかったり、一緒にクリニックに話を聞きに行くのを嫌がったり、治療のことを相談すると不機嫌になったり……。
「夫婦二人で頑張ろうと思っているのに、夫はあまり不妊治療に協力してくれない」という声をジネコの掲示板でもよく目にします。不妊治療での、このような妻と夫の温度差は、男性のどんな心理や意識から来ているのでしょうか。秋山レディースクリニックの秋山先生に、医師として、また男性代表としてご意見を伺ってみました。
- ジネコ:ジネラーさんからの投稿で、採卵時に麻酔で体調が悪くなるので、夫に「迎えに来てほしい」と頼んだら、「仕事があるから行けるかわからない」と返されて、その後どんどん不機嫌になってしまった、という話がありました。そのくらいは協力してほしいと頼むと「また俺が悪者か!」と怒ってしまったようです……。男性はなぜ、このような態度をとるのでしょうか?
- 秋山先生:女性の方には申し訳ありませんが、僕も男として、そのご主人の気持ちはよくわかります。不妊治療はご夫婦で協力していくことですが、その協力や役目は、一つの形だけではないと思うんです。不妊治療はお金がかかるものですから、ご主人は一生懸命仕事をして、経済面でしっかり支えていこうという気持ちがあるのかもしれません。
- ジネコ:その気持ちを素直に口に出してくれればいいんですけど……。
- 秋山先生:女性と違って、男性はなかなか気持ちを素直に口に出せないもの。心の中では感謝をしているし、「妻ばかりに痛い思いをさせてすまないな」と思っているはずですよ。でなければ、ここまで治療は進んでいないでしょう。なかには、体外受精を受けたいのにご主人はまったく耳を貸さず、いつまでも許しが出ないというケースもありますから。
- ジネコ:怒ってしまうのも女性には理解しがたいですが、男性なりの心理があるということでしょうか。
- 秋山先生:男性因子の不妊の場合は特に負い目を感じて、そのような態度をとってしまうこともあるでしょう。表面に出てくる言葉や態度だけではなく、ある程度心の中にあるものをくみとってほしい、というのは男のわがままかもしれませんが、もう少しご主人側の気持ちを思いやることも必要だと思います。
- ジネコ:夫の気持ちを無視したような一方的な言い方がよくないのですね。
- 秋山先生:たとえば、お迎えをお願いするのなら「もし都合がつくようなら来てくれる?」とワンクッション置くようにするとか。難しそうなら「来られないならいいよ。でも、来週は来てほしいな」と相手を思いやるようなお願いの仕方をすれば、ずいぶん反応は違うのではないでしょうか。
- ジネコ:なるほど。夫ばかりを責めるのは気の毒ですね。不妊治療中、このようにご夫婦の気持ちがすれ違っていかないようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?
- 秋山先生:このようなご夫婦の場合、治療の段階を上げていくなかで、ご主人が置いてきぼりになってしまっている可能性があります。奥様だけが治療の内容やスケジュール、費用などを把握して、ご主人はほとんど知らない。すると、治療に対するお互いの意識の温度差もどんどん広がっていってしまいますよね。
- ジネコ:となると、やはり病院にはご夫婦二人で一緒に通院したほうがいいんですね。
- 秋山先生:うちの医院で治療を受けられるご夫婦のなかには毎回、受診に付き添われるご主人もいますが、ほとんどの方は奥様一人でいらっしゃいます。やはり、仕事をしていると二人で通院するのは難しいというのが現状ですが、毎回ではなくても、ステップアップを考えるときなど、重要な区切りの時期にはご夫婦で説明を受けられるのが望ましいですね。そのようにされると、ご主人も「一緒に治療に参加している」という気持ちが生まれてくるはずですから。
- ジネコ:さらに家庭で話し合うことも……。
- 秋山先生:そうですね。もしかしたら、治療の過程で二人の価値観がずれてきてしまっているのかもしれません。奥様はステップアップしてでもすぐに妊娠したいけれど、ご主人は「仕事が急に忙しくなってきたので、もう少し先でもいいかな」と思い始めているかもしれない……。1週間のうちに1日でもいいですから、じっくりと時間をとって、二人の意識の確認をしてズレを修正していくことも大切だと思います。
- ジネコ:それでも、ご主人との間の距離が縮まらないようなら?
- 秋山先生:年齢的にまだ余裕のある方や不妊期間が短い方なら、僕は「少し治療をお休みしてみたら?」とおすすめしています。妊娠するために夫婦仲が悪化してしまったら、本末転倒ですから。旅行したり、共通の趣味を楽しんだりと、ご夫婦の気持ちが原点に戻れるように気分転換するのも一つの方法だと思います。
秋山 芳晃 先生
東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医科大学附属病院、国立大蔵病院に勤務後、父親が営んでいた産科医院を継ぎ、不妊専門病院として新たに開業。O型・やぎ座。「不妊治療は夫婦仲よく目標に向かっていくのが理想的」という秋山先生。看護師やカウンセラーとともに、そのお手伝いをこれからもしていきたいと願っている。