現場の先生に聞く!PCOSの傾向と治療について
「藤野婦人科クリニックで聞く!」編
近年、注目を浴びているマイタケ由来の成分"グリスリン"。不妊原因の一つである多嚢胞性卵巣症候群の改善が期待される話題の天然成分です。今回は、本誌『ジネコ』でもおなじみ、藤野婦人科クリニックの藤野先生に、現場でどのように"グリスリン"を使用しているのか教えていただきます。
不妊原因の一つPCOSにみられる2つのタイプ
不妊原因の一つといわれる、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)。海外のデータでは、月経のある女性の10人に1人がPCOSともいわれています。また不妊症の原因になるばかりでなく、糖尿病、高脂血症、子宮内膜がんなどのリスクを高めるとの報告もあります。
しかし近年、PCOSが血糖の代謝に不欠なホルモンである、インスリンと深い関わりがあることがわかってきました。そして、このインスリンの働きを調整する成分とし注目されているのが、マイタケに含まれる成分“グリスリン”。そこで今回は現場で実際に“グリスリン”を使用されている、藤野婦人科クリニックの藤野祐司先生に、“グリスリン”の可能性についてお話を聞きました。
「PCOSの主な症状は、排卵障害と生理周期の異常、それにともなう不妊です。一般的にいわれているPCOSは肥満型ともいわれ、耐糖能異常の他、肥満、ニキビや多毛、低音声などの男性化症状といった特徴が挙げられます。しかし、日本人のPCOSには2つのタイプがあるんですよ。いわゆる肥満型とやせ型です」
肥満型PCOSに“グリスリン”天然成分だから副作用も安心
ひと口にPCOSといっても、タイプがあるのですね。
藤野 祐司 先生
大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科学教室講師を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。B型・おとめ座。
「実は、日本人のPCOSの約半数はやせ型です。このやせ型は、外見的にはやせていて、血糖やインスリンの数値にも異常が見当たらない。しかし卵巣や血液中のLHやFSH値を調べてみるとPCOSというケースです。やせ型で耐糖能異常のない人は、HMG注射で卵巣刺激を強くした場合に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性が高いと言われています。逆をいえば、OHSSのリスクファクターがやせ型であるともいえます」
やせている人でもPCOSになる可能性があるということですね。先生は、どのような理由で“グリスリン”を採用されたのですか。
「まず、アメリカの“グリスリン”の研究結果などから、肥満型のPCOSに対して、改善する力を秘めていると感じました。おそらくインスリンの抵抗を改善するメトホルミンに近い作用があるのではと思われます。そこで、これを前提に、僕はあえてやせ型のPCOSの人に処方しています。マイタケが主成分ですから、食生活の一環として安全性が高いこと、またクロミフェンやHMG製剤など、薬と併用できる点もいいですね。現在のところ、副作用の報告はありません」
もともと“グリスリン”は、メタボリックシンドロームの改善に有効として開発された成分。アメリカでは“グリスリン”のもとになるマイタケは、薬用キノコとして知られ、免疫活性作用、血糖降下、血清脂質効果、血圧降下、体重抑制といった作用が報告されていると聞きました。だから、耐糖能異常のある肥満型のPCOSには、安全な治療法として期待できるということですね。
やせ型PCOSの改善に期待“グリスリン”の秘めた可能性
しかし、あえてやせ型のPCOSの人に処方されているのは、なぜなのでしょうか。
「実は、やせ型のPCOSは有効で副作用の少ない治療法に悩む場合があります。まだ手探りの状態なのです。たとえば、クロミフェンは限られた人にしか効きませんし、HMG製剤という排卵誘発剤は、強力な作用で卵子を一度に排卵するため、卵巣が腫れ上がるといった副作用(OHSS)をともなうこともあります。残された選択肢として、いま期待しているのがフェマーラ®という薬ですが、それ以外の選択肢があってもいいと思いました。副作用の少ない植物由来の“グリスリン”がその役目を担ってくれると嬉しいですね」
まだ未知ではありますが、先生の所見から期待されている効果はありますか?
「“グリスリン”の予想される薬効とは異なるかもしれませんが、卵巣のホルモン代謝に微妙な影響を与えて、不妊原因の一つである月経異常に、いい兆しが現れるといいいですね」
妊娠に不可欠な排卵をつかさどっているのが、さまざまなホルモンの働きだそうですね。もしかすると“グリスリン”は、子宮内ホルモンを調整する可能性も秘めているかもしれないということでしょうか。
「卵巣のホルモン代謝を整える、あるいはホルモンバランスを調整する作用が見られればいいなと思っています。まだ処方して間もないので、これからの経過に期待しています」