不妊治療への融資制度と子育て支援計画を語る1 ┃ 不妊治療への融資制度と子育て支援計画を語る2
『子育て支援は、子どもを望むすべての家庭のためのもの。』
子どもを望むすべての家庭のために
文京区では今年4月から、不妊治療への融資制度をスタートさせました。『ジネコ』読者にとって、これは大きな朗報です。
成澤:文京区では今年、「子育て支援計画」を策定したのですが、その目的に「子どもを望む、すべての家庭が、安心して子どもを産み、育て、子育てに喜びを感じることができること」と謳っています。つまり、キーワードは「子どもを望む、すべての家庭」なのです。私は「子育て支援策」とは、「子どもを望む、すべての家庭」にとってのものでなければならないと思っています。けっして、子どもが産まれた家庭だけに、子育て支援があるわけではありません。
不妊治療への融資制度も、「子どもを望む、すべての家庭」を支援していこうという発想に立てば、至極当然のことで、子育て支援という、一つの流れのなかにあります。もともと、私のマニフェストの中にも、「特定不妊治療の助成を充実していく」という項目は入っていたのですが、どのように実現していくか、そのやり方にはいろいろな手法があるわけで、国や都の助成制度に上乗せしていくのが、一番単純なやり方ですが、それだけではないんだろうなと、常に考えていました。
これは、全国の自治体では初めての、高額な費用がかかる不妊治療に対する融資制度となります。詳しい内容としては、体外受精など、一般的に30万円以上かかる不妊治療を区民が受ける場合、信用金庫を通じて、1回に50万円まで融資するというもの。所得制限はなく、最大で5回、計250万円まで融資を受けることができ、返済期間は5年で、利子の一部を文京区が負担するとのこと。
いろいろな手法のなかで、融資というやり方を選んだ理由を教えてください。
成澤:最初は、とくに不妊治療に限ったことではなく、医療に関わる、個人向けの生活支援の仕組みを作りたいという思いが私にはありまして、それが出発点になっています。
生活支援、という視点なのですね。
経済的な理由で諦めないでほしい
成澤:たとえば不妊治療だけでなく、承認前の抗がん剤や高度先進医療など、実際、この国には保険適用にならない医療がずいぶんあります。そして、その医療に関わる場面で、さまざまなコストが発生し、その個人的な負担の大きさが、当事者を圧迫しているのが現状です。
私は「お金の切れ目が子づくりの切れ目」になってはいけないと思いますし、がん治療の場合はそれこそ、お金の切れ目が命の切れ目になってはいけない。そこで、少なくとも、一時的に必要となる資金を、自治体がなんらかの形で、まかなうことができるような制度設計はできないのかと考えた、これがこの制度のスタートです。
たとえば中小企業には、銀行から融資を受けた際、「利子補給」という、利子の一部を区が肩代わりする制度があります。これを個人向けに転用できないかと考え、区内の信用金庫を中心に検討をお願いしたのです。
全国の自治体や国も対応すべき事業では
不妊治療には、国が定めた助成金制度もありますが。
成澤:国の助成金制度はありますが、これには所得制限と回数の制限があります。文京区に限っていえば、共働きの夫婦は、所得制限で対象外になる場合が多い。それでも子どもが欲しい、あるいは2人目、3人目が欲しいと思っている人たちは確実にいるはずで、そういう人たちに対して、裾野の広い制度ができないかと思ったのです。
信用金庫の検討の結果、高度先進医療は医療保険の対象と判断され、不妊治療に限って施行するという結論が出て、こうして今春、日本初の制度となりました。
不妊治療は、いまだ確立したガイドラインがなく、いろいろな問題もあります。その点はいかがですか。
成澤:あまり詳しくありませんが、技術的な水準がクリアでないなど、問題があることは聞いています。しかし、それは国の役割で、しっかり取り組んでほしいと思っています。
私たちは実際に治療を受けている人たちが、経済的な理由で子どもを断念することがないよう、生活を支援していきたいと考えています。
融資制度は4月1日からスタートされたということですが、実際の反応はいかがですか。
成澤:今日までで(4月21日現在)、5人の方が窓口に書類を取りに来られ、うち3人は近々申し込みをされるそうです。わずか1ヶ月間で、これだけの反応があるということは、全国の自治体や国や都道府県が、しっかり対応していく事業にしなければいけないのではと思いますね。区の予算としては、この制度にかかる金額は、今のところ、わずか100万円です。区が負担するのは利子の一部ですから、億単位のお金がかかるわけではありません。
皆さん、いろいろな悩みを抱えて治療を続けていらっしゃるでしょうから、せめて〝経済的な理由で諦めないで”というメッセージは、この事業にしっかり込めたという思いはあります。
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