2016年11月19日に行われたジネコ 妊活セミナーより
AMHセミナー 卵子の真実
2016年11月19日(土)、広島市内で「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、Fineピア・カウンセラーの鳥家華代さんに「不妊治療を体験して~そして今伝えたいこと~」についてお話いただきました。今回は、第2部の内容の一部をお届けします。
晩婚化に伴い、不妊治療は年々拡大
妊娠を希望している女性にとって一番気になるのは、「ご自身の妊娠率」ではないでしょうか。なかなか妊娠できないまま年を取っていくことに焦りを感じている妊活中の女性も多いことでしょう。40歳代の有名人の出産をニュースなどで見聞きすることが増え、「40歳を過ぎても産めるのが普通」と感じる人も多いかもしれません。しかし、実際はそうではありません。個人差はありますが、やはり年齢の壁はあります。女性の社会進出が定着してきたことなどもあり、「20歳代はバリバリ仕事がしたい。出産は35歳になってから」と計画をたてておられる方もいるかも知れません。
(グラフ:総出生時数と体外受精による出生時数の年次推移)
体外受精の治療周期数の推移をみてみると、2004年は11万6604周期でしたが、10年後の2014年は39万3745周期で、年々うなぎのぼりに増加しています。それに伴い、体外受精で産まれた赤ちゃんも、グラフを見ての通り年々増加しており、20年前は4576人、10年前は1万8168人で、2014年には4万人を超えました。出生数は年々減っていますが、体外受精による出生数は増えており、2014年の時点では21人に1人が体外受精によって生まれたということです。これは、例えば小学校のクラスに1~2人という計算になります。つまり、体外受精による出産は、今や決して珍しいものではなくなって来ました。
卵子の老化
体外受精が増加している背景には、妊娠しようと考え始める方の高齢化、つまり、卵子の老化が考えられています。では、どうして卵子の老化だけが問題となり、精子の老化は問題とはされないのでしょうか。まず最初に、精巣と卵巣の違いについて考えてみましょう。実は、精巣は“精子をつくるところ”ですが、卵巣は“卵子をつくるところ”ではありません。ただ単に、“卵子を保存しているところ”に過ぎないのです。
精子は、毎日1億2300万個が作られ続けており、約3カ月かけて成熟した精子になります。つまり、妊娠に挑む時、精子はいつも作りたてなのです。一方、卵子はお母さんのお腹の中の赤ちゃんの時(胎生5カ月頃)には卵子を作る源の細胞が消えてしまい、それ以降はもう卵子が作られることはありません。つまり、卵子はご自身と同じ歳月が経過しているのです。20歳の方は20年経過した卵子、30歳の方は30年経過した卵子、40歳の方は40年経過した卵子で妊娠をトライせねばならないのです。そのため、精子と違って卵子は老化が問題とされるのです。卵子が老化すると、染色体不分離による染色体の数の異常、遺伝子発現の不具合、ミトコンドリアの機能障害などが生じるため、妊娠率が低下して、流産率は逆に増加してしまいます。
(グラフ:ART妊娠率・生産率・流産率2014)
卵子の減少
卵子は胎生5カ月以降、急速に減少し、出生時には200万個まで減っています。出生後も減少を続け、初めての月経(初経)の頃には30万個まで減っています。その後も毎日30個の卵子が消えていきます。残念ながら、卵子は減少するのみで、決して増えることはありません。そして、この卵子の減少は、自分で気づくことは困難です。たとえ月経周期が規則的であっても、卵子の数が十分あるとは言えないのです。月経周期と卵子の数とは無関係です。そこで、卵子の数を知る手段として、AMHが注目されているのです。
AMHについて
AMHとは、アンチミューラリアンホルモンの略で、初期の発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。その値は、卵巣内にどれくらいの数の卵が残っているか、つまり卵巣の予備能がどれほどかを反映すると考えられており、近年話題になり注目されてきております。
(グラフ:年齢とAMH)
AMHは決して年齢と相関していません。20歳代、30歳代は個人差が大きくバラバラです。ただし、40歳代の方は低い値の方が多いということだけは言えそうです。誤解のないようにあらためて申し上げますが、AMH値が低くても、妊娠率が低いわけでもなく、受精卵ができれば年齢相応の妊娠率が得られます。ただし、不妊治療ができる期間が限られているということです。そして、卵巣予備能はAMHを計ってみないと分からないのです。
「私はまだ若いから大丈夫」ではなく、「私のAMHはいくつあるから大丈夫」というように、自分のAMH、卵巣予備能を正しく理解してほしいと思います。卵巣予備能を知ることは、不妊治療がいつまでできるかの目安ともなります。AMHを調べるタイミングは、“既婚・未婚に拘わらず、30歳をすぎたら” “未婚の方でも「いつかは妊娠したい」と思ったとき” “新婚ホヤホヤの方でも「なかなか妊娠しないな」と思ったとき” ではないかと考えています。
最後に、“いい妊娠のため” には以下のことが大切だと思っています。
「いい卵巣刺激」により卵子を充分に成熟させて、
「いい受精卵」を作り
「いい胚培養環境」により胚を優しく育てて
「いい胚移植」により胚をそっと子宮の中にお戻しする。
妊娠の主役は「たまご」です。お二人のたまごの能力を最大限に引き出すため、全ての過程において、「たまご」に優しく接することに努めています。
IVFクリニックひろしま 院長 滝口修司先生
山口大学医学部医学科卒業。山口大学医学部附属病院、済生会山口総合病院、正岡病院などの勤務を経て、2012年より浅田レディースクリニックに勤務。2017年1月、故郷・広島の玄関口である広島駅前に「IVFクリニックひろしま」を開院。
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