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教えて!「卵子の質」×「ミトコンドリア」のこと

コラム 不妊治療

教えて!「卵子の質」×「ミトコンドリア」のこと

2017春 P70-71

2017.5.31

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教えて!「卵子の質」×「ミトコンドリア」のこと


IVF JAPAN CEO森本 義晴 先生(HORACグランフロント大阪クリニック)




 


近年、卵子の質を改善する働きがあると注目されている「ミトコンドリア」。卵子とミトコンドリアのかかわりについて、HORACグランフロント大阪クリニックの森本義晴先生にくわしくお話を聞きました。




Q:卵子の質を上げたいです


原因不明の不妊です。医師からは、私の年齢と卵子の質が問題かも…といわれています。鍼灸? ザクロ? ミトコンドリア? これから先どうやって卵子の質を上げたらいいかアドバイスをお願いします。(うささん・40歳)






Q:卵子の質が悪くても希望をもちたい


初めての顕微授精が陰性でした。新鮮胚も凍結胚もダメだった場合、ショート法にチャレンジしましょうとのことでしたが、培養士さんに聞くと「ミトコンドリア」の話をされました。卵子の質は変わるものですか。(みっちゃんさん・28歳)



 



人の生命維持に欠かせないミトコンドリアとは?


 


ミトコンドリアは500万年前のカンブリア紀に存在していた原核細胞で、もともと外の世界で暮らしていました。その頃、自然界では光合成がはじまり酸素が存在するようになります。酸素は私たちにはなくてはならないものですが、原核細胞には毒になります。そこで原核細胞は外の世界から生物の体内に入り込んで寄生するようになりました。

体内に棲みついたミトコンドリアは独自のDNAをもち、すべての細胞に存在しています。そして、電子伝達系で、“生体のエネルギー通貨”といわれるATP(アデノシン三リン酸)を合成しています。この特性を生かしてミトコンドリアは細胞の一部となり、ATPは人間の生命維持に欠かせないものになっています。

一般的にミトコンドリアは「緑色で俵型」というイメージが強いですが、最近の研究では無色透明で細長く、他のミトコンドリアとつながっていることがわかってきました。また、どの臓器にもミトコンドリアは存在しますが、形はそれぞれ異なります。いずれも高速で内部構造が変化したり、伸縮したりしているため、なかなか研究できなかったのですが、当院のミトコンドリアの研究部門で共焦点レーザー顕微鏡を使い、世界で初めて卵子のミトコンドリアの動きをとらえることに成功しました。


卵子と精子の活動にもミトコンドリアの働きが重要


 


卵子にはDNA数で10万〜20万のミトコンドリアが存在し、それが生み出すATPによって成熟します。また、精子も先端部分にあるミトコンドリアによって、卵子にたどり着くことができます。さらに受精・分割・着床までのすべてにミトコンドリアの存在は欠かせません。

その反対にミトコンドリアが機能しないと、受精卵の分割などがうまくいかなくなります。このような場合、一般的な不妊治療施設では卵子の質が不良という診断がつきます。そして良い結果が出るまで体外受精を繰り返しますが、卵子が10個、20個採れても受精卵にフラグメント(胚の一部が崩れて泡状になること)が多かったり、分割が少ない、胚盤胞にならないなどで妊娠にいたりません。結局、有効な手段が見つからず、治療を諦めてしまう人がほとんどでした。今までは卵子の数を増やすことはできても、卵子の質を確実に改善することができなかったからです。

実は、ミトコンドリアは活性酸素に弱いことがわかっています。活性酸素は加齢、ストレス、喫煙、紫外線、大気汚染、食品添加物などで発生したり、増加し、人の体内で老化の原因になる物質をつくったり、細胞や組織を酸化、変質させさまざまな不調を引き起こします。同じようにミトコンドリアも活性酸素が増えるとたちまち機能異常を起こします。その結果、ATPを生み出すことができず、卵子の質、精子の機能低下を招きます。そこで当院では、おもに卵子の質の改善を目的として、活性酸素を減らし、卵子のミトコンドリアを活性化させる統合医療に力を入れています。


食事や運動を組み合わせ活性酸素をコントロール


 


統合医療は西洋医学による診療と心理療法、栄養療法、運動療法、代替療法などを組み合わせ、本来、人に備わっている自然治癒力を引き出す治療法です。

まず当院では、患者様の活性酸素量(d—Rom)、活性酸素に対抗する力(BAP)を測定します。検査結果によって、生殖栄養カウンセラーが活性酸素を減らす作用のある食材を組み合わせたレシピを作成します。これに基づいて食事改善を行っていただきます。緑茶・玉ねぎ・ルイボス茶などの食品の中には活性酸素を消去する「スカベンジャー」という成分を多く含むものがあります。また「アスタキサンチン」を含む、えび・かに・鮭、活性酸素に対抗する力を高める「ビタミンE」を多く含むナッツ類もおすすめしています。さらに、ミトコンドリアを活性化させるためには「Lーカルニチン」「メラトニン」「コエンザイムQ10」などの良質のサプリメントをうまく取り入れることも大切です。

そして何よりも重要なのが、これらの有効成分を細胞内に取り込むための運動です。当院ではミトコンドリアを活性化させする独自のウォーキング法「ミトコンウォーク」を提唱しています。1日30分(準備体操5分間、早歩き15分間、スローダウン約10分間)の3パートで構成された簡単なウォーキング法ですが、これによりLーカルニチンなどの栄養素が細胞に取り込まれやすいことがわかってきました。

また、生殖心理カウンセラーによる心理療法などで、もっとも多く活性酸素をつくり出す脳のストレスを軽減することも大切です。その他、低出力レーザー・鍼灸・リフレクソロジー・アロマテラピーなど代替療法を取り入れ、ミトコンドリアの活性化につなげています。その結果、当院では卵子の質・着床・胚盤胞の改善を示すさまざまなデータが出ており、成果を上げています。

 




卵子の質を改善する最新治療法「オーグメント療法」とは?



近年、ミトコンドリアの働きを応用した不妊治療法として、世界でも注目されているミトコンドリア移植法「AUGMENT療法(オーグメント療法)」。有効な手段がない胚の質が不良の人のための治療法として米国・ボストンで開発されました。本人の卵巣組織から採取した卵子前駆細胞のミトコンドリアを、顕微授精時に精子とともに卵子の内部に注入することで卵子の質を改善し、妊娠の可能性を高めるというものです。現在、世界11施設で運用され、カナダ、スペインなどで実施した約250症例のうち、31名の赤ちゃんが誕生。HORACグランフロント大阪クリニックでも2016年からこの治療法をスタートし、現在5名の方が妊娠されています。



 




「ミトコンウォークスタジオ」



HORACグランフロント大阪クリニック内には「ミトコンウォーク」専用のスタジオを併設しています。ミトコンドリアの活性化に効果的な「ミトコンウォーク」は、1日30分のウォーキングで体への負担が少なく、活性酸素の発生をほどよく調整できる理想的なメソッド。ウォーキング前のストレッチ法、歩くスピード、姿勢、スローダウンなど、運動カウンセラーが一人ひとりの体力やペースに合わせてサポートするので、運動が苦手な人も安心して続けられます。



 



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お話を伺った先生のご紹介





IVF JAPAN CEO森本 義晴(HORACグランフロント大阪クリニック)


関西医科大学卒業、同大学院医学研究科修了。1998年に「IVF大阪クリニック」、2003年に「IVFなんばクリニック」を開院。2014年「HORACグランフロント大阪z」を開院。卵子の質の改善を目的とした、ミトコンドリア研究に長年携わる。ミトコンドリア活性化のため、西洋医学に心理療法、運動療法、栄養療法などを組み合わせた統合医療を実践。2016年からミトコンドリア移植法「AUGMENT療法(オーグメント療法)」の臨床研究をスタートし注目を集めている。


≫ IVF JAPAN



出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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