高齢妊娠・出産ではどのような点に注意が必要ですか?
コラム 不妊治療
高齢妊娠・出産ではどのような点に注意が必要ですか?
高齢になるほど増えるとされる、妊娠・出産のリスクには、どのようなものがあるのでしょうか? また、その対処法は? かしわざき産婦人科の柏崎祐士先生に伺いました。
年齢は目安に過ぎない35歳以下も油断は禁物
日本産科婦人科学会では、35歳以上の初産婦(初めて子どもを産む妊婦)を「高齢出産」と定義しています。1993年までは30歳以上でしたが、30歳以上の初産婦が増えたこと、またWHO(世界保健機関)をはじめ、諸外国の定義にならって引き上げられました。
男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年で、それ以降キャリアウーマンが増え、20代で妊娠する女性が急激に減りました。今の時代に30歳以上を高齢出産と定義したら、ほとんどの方が高齢出産になってしまう可能性がありますからね。
でも、「高齢出産」というのはあくまでも定義です。1993年以降に女性の体が妊娠しやすく変化したわけではありませんし、35歳を境に急激に妊娠しにくくなるというわけでもない。少しずつ年齢を重ねるごとに卵子が老化するのは、今も変わりはないのです。「35歳以上は高齢出産になりますから気をつけて」という一応の目安であり、逆を言えば「35歳以下だからまだ安心」とは考えてほしくないですね。
仕事にやりがいを覚えると結婚や出産を後回しにしがちですし、結婚しても「まだ子どもはしばらくいいかな」と先延ばしする方もいます。もちろん、人それぞれ理想とするライフスタイルに違いがあることとは思いますが、もしも「いずれは子どもが欲しい」と願うなら、早いうちに検討されるに越したことはないと思います。医学的には、年齢を重ねるごとに妊娠しにくくなり、出産にもリスクが増えるということは覚えておいてください。
若くても、高齢でも、リスクはゼロではない
精子と違い、卵子の数は生まれた時から、というか胎児の時から決まっています。いわば、作り置きされている状態で、数にも限りがあるのです。ホルモン分泌の安定していない10代前半の妊娠にもリスクがありますが、作り置きされた卵子ですから、どうしても加齢にともなって質が劣化してしまいます。
まず卵子の質が低下することで起こりやすいのは、流産や早産です。染色体異常が何らかの原因と考えられますが、今の医学では決定的な改善策や予防策はありません。
また、35歳以上になると、先天異常の発症率も高くなり、25~29歳で1・88%、35~39歳で2・02%、40歳以上では2・38%というデータもあります。加齢が影響しやすいのは、先天異常の中でもやはり染色体異常で、ダウン症の発症率も20代が0.1%未満なのに対し、35歳以降は0.3%、40歳以上になると1%にまで上がります。
不妊治療によりようやく妊娠しても、高齢だと出産までのリスクも多くなります。常位胎盤早期剥離や癒着胎盤といった胎盤異常が増えるのは間違いなく、重症の場合は胎児だけでなく母体の命を脅かすこともあります。
妊娠後期には、かつて妊娠中毒症と呼ばれていた妊娠高血圧症候群を発症するリスクも高くなります。もともと血圧の高い方、肥満ぎみの方、ストレスが多い方などが罹りやすい傾向にあるとされているので、妊娠前から注意しましょう。
肥満、ストレスは高齢妊娠・出産に限らず悪影響を及ぼしますので、ぜひ妊活中に改善してください。
高齢を理由に諦める必要ナシ!
高齢出産の場合、帝王切開になる可能性が高くなります。産婦人科ではなく、不妊治療専門のクリニックで治療した場合は、産院を紹介してもらうことになりますが、リスクが高いと一般の産院では受け入れに難色を示すことも少なくありません。リスクが高い場合は各自治体の周産期母子医療センターなどが対処しますが、受け入れられる人数には限界があります。そこで、トリアージ方式(患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと)が採られ、高齢でも出産にそれほど危険がないだろうと見なされた場合は、一般の産院に移されるというケースも生じます。
こうした措置は患者さん側からすると“たらい回し”にされる印象を受けるかもしれませんが、いたしかたないこととご理解ください。
まれなケースですが、不妊治療専門のクリニックからの紹介を受けられず、「お好きなところで産んでください」と言われることもあるようです。その場合は、ご近所の産院に相談してください。各産院は周産期母子医療センターと連携し、出産リスクが高い妊婦がいる場合はあらかじめ伝えますし、要望や必要があれば周産期母子医療センターへの紹介状も書きますので安心してください。
妊娠や出産においては、年齢が高いと確かにリスクは増えますが、だからといって諦める必要はありません。ただ、若い方よりも少し気を使う必要があるということだけ。高血圧や糖尿病の引き金になる肥満を避け、ストレスを溜めず、規則正しい生活を心がけてください。
柏崎先生より まとめ
40代の方に限らずストレスは大敵。あせる気持ちは抑え、ご夫婦仲良く過ごしてください。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer
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