妊活にも重要! 気になる体調不良は、亜鉛不足が原因かも!?
京野 廣一 先生(京野アートクリニック)
体の成長や味覚、免疫機能を正常にサポート
●亜鉛とはどのような栄養素ですか?
亜鉛は鉄やカルシウムと同じミネラルのひとつで、体の中に存在して、生命の維持を正常に保つために欠かせない栄養素です。また、300種類もある酵素の構成成分として、たんぱく質やDNAの合成に関わり、新しい細胞を作る働きをします。亜鉛はこのように重要な役割をもつ栄養素です。
●他にもある亜鉛の働きを教えてください。
亜鉛は新陳代謝が活発な器官にて活躍し、その器官が正常に機能するようにサポートしています。
代表的なのが舌にある味蕾という器官です。生殖器官も細胞の入れ替わりが多いところなので、男性の精子づくりを活発にします。また、体の中に侵入してきたウイルスや細菌を排除する免疫機能も正常にします。亜鉛の働きは、実に多彩です。
●亜鉛の上手な摂り方を教えてください。
亜鉛は体の中では作られないので、毎日食べ物から摂る必要があります。牡蠣や牛肉、豚レバーなどの魚貝類や肉類、豆類に豊富に含まれています。ビタミンCやクエン酸と一緒に摂ると、亜鉛の吸収を助けてくれます。牡蠣にレモン汁を添えるのは理にかなった食べ方なんですね。
亜鉛を多く含む食品
【魚貝類】
牡蠣、煮干し、するめ、ウナギ蒲焼き、たらこ等
【肉類】
ビーフジャーキー、豚・牛・鶏レバー、ラム・豚・牛肩肉等
【豆類・その他】
凍り豆腐、そら豆、レンズ豆、卵黄等
不足すると全身に影響。薬物治療になるケースも
●亜鉛が不足するとどのような問題が起こりますか?
新陳代謝の活発な器官ほどダメージを受けます。成長期の子どもでは、身長が伸びないといった問題が起こります。成人では舌や胃腸、肌などに影響が出て、皮膚炎、食欲低下、慢性下痢、味覚低下、風邪をひきやすく治りにくいなどの不調があらわれます。男性では生殖器官が正常に機能しにくくなります。
●治療が必要になるケースもありますか。
不足した状態が進行すると亜鉛欠乏症になり、成長障害や味覚障害、性腺機能不全や性腺発育障害などに罹ることもあります。その場合は、医療機関で薬物治療が必要です。今春から、医療用医薬品の亜鉛製剤が低亜鉛血症の方にも処方できるようになりました。これにより患者さんは保険内で治療を受けられるようになっています。
●体調不良も亜鉛不足が関わっているとは知りませんでした。
実は医療機関でもあまり認知されていません。特に異常がないと言われるのに体調不良が続いている場合は、主治医に亜鉛欠乏症について相談してみるとよいでしょう。
●健康維持に必要な量はどれくらいですか。
1日の摂取量は成人男性10㎎、女性8㎎、妊婦はプラス2~3㎎と厚労省が定めています。ですが実際は、1日平均6~8㎎程度しか摂れていないのが現状です(グラフ参照)。その理由として、動物性たんぱく質の摂取量が少ないことや、野菜中心の偏った食事、加工食品ばかり食べる食生活です。特に加工食品に入っている食品添加物は、亜鉛の吸収を妨げてしまうものがあるので、そればかり食べていると、亜鉛不足に陥ります。
最近、高齢者だけでなく20~30歳代の若い人たちに味覚障害が増えていることが問題になっています。
亜鉛はセックス・ミネラル。女性より男性に必要な栄養素
●『ジネコ』読者には、生殖機能と亜鉛の関わりが気になります。
昔から亜鉛にはセックス・ミネラルと呼ばれることもあり、活発な精子作りに関わっていると考えられています。亜鉛は骨や皮膚、肝臓、腎臓などに存在しますが、男性の精巣や前立腺にも多くあります。思春期に亜鉛が不足すると性腺の発育が遅れ、成人では生殖能力が衰えて、不妊症の原因になります。
ある大学病院の泌尿器科で行った調査では、不妊治療中の男性患者の精子濃度、運動率、奇形率に異常がある患者に亜鉛不足が認められたそうです。
また、韓国人に比べて日本人の精子濃度の低下も報告され、亜鉛不足が考えられています。
子どもを望む男性にとって亜鉛はとても大切で必要な栄養素といえ、当クリニックでも治療と併用して亜鉛を摂る男性患者さんは多いです。
●予防的に亜鉛サプリメントを摂る場合の注意点を教えてください。
亜鉛もそうですが、ミネラルは多すぎても健康によくありません。亜鉛により銅の吸収が減少することがあるので、過剰に摂ると銅欠乏症になることもあります。ほかにも1日150㎎以上の摂取でめまいや胃の不快症状、下痢などの報告もあるので、適量は主治医と相談しながら利用しましょう。
●最後に、メッセージをお願いします。
日本の食卓は、半数以上が加工食品で占められていますが、加工食品には亜鉛の吸収を妨げる成分が入っています。共働きのご家庭にとって毎日の食事づくりは負担ですが、健康を守るためにも、子どもを授かるためにも自炊をして、バランスの良い食生活を心がけましょう。また、肝臓でアルコールを分解する時にも亜鉛が使われるので、お酒をたくさん飲む人は亜鉛不足に気をつけましょう。
児玉浩子ほか: 日本臨床栄養学会雑誌、 38(2) : 104-148. 2016. より引用改変
菱田明ほか(監修) : 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版) : 286-342. 2015.
*推奨量は、1~6歳は男女ともに3~4㎎、7~14歳は男性が5~6㎎で女性が5~8㎎となっていますが、グラフは最大値に合わせています。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter
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