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「排卵誘発剤」って何? 中村先生 教えて!たまごのこと

コラム 不妊治療

「排卵誘発剤」って何? 中村先生 教えて!たまごのこと

不妊治療ではよく使われている排卵誘発剤。どんな目的や種類、使われ方をする?中村嘉宏先生に教えていただきました。

2018.5.19

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不妊治療ではよく使われている排卵誘発剤。どんな目的や種類、使われ方をするのでしょうか?お薬にまつわる、さまざまな疑問について、なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生に教えていただきました。


※2018年5月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.38 2018 summer」の記事です。


 





POINT


★排卵をうながして妊娠率を高めるために使うお薬です。
★飲み薬と注射剤があります。一般不妊治療と体外受精のどちらでも使われます。
★排卵誘発法はおもに自然周期と刺激周期の2つに分けられます。
★排卵誘発法は卵巣の状態や年齢などを考慮して決められます。
★お薬の使用によって閉経が早まることはありません。



 


お話を伺った先生のご紹介

中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)


大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。2018年1月に培養室を大改装。受精卵の発育を動画で観察できるタイムラプスインキュベーターを導入。「患者さんからお預かりした大切な受精卵の成長過程を、ストレスの少ない環境下でモニタリングし、より多くの方の妊娠・出産をサポートしたいですね」。

≫ なかむらレディースクリニック

Q・なぜ排卵誘発剤が必要なの?


A・排卵を促したり、体外受精の妊娠率を高めるのが目的です。

自然排卵では一回に排卵する卵子は通常1個です。排卵障害などで一年あたりの排卵回数が少なくなったり、排卵がなかなか起きない人では、それだけ妊娠する確率が低くなります。そのような場合、排卵誘発剤が有効です。また、順調に排卵している人でも排卵数を増やしたり、排卵時期を調節して治療のスケジュールを立てやすくするためにも用います。排卵誘発剤は、タイミング療法から体外受精まで不妊治療のさまざまな段階で使われます。
排卵誘発剤は間接的に卵巣を刺激する「飲み薬」と直接卵巣を刺激する「注射剤」の2つに分かれます。



 



Q・飲み薬はどんな時に使うの?


A・おもにタイミング療法や人工授精など一般不妊治療で使われます。当院では、体外受精でも用います。

飲み薬は、卵巣に指令を出している脳の視床下部や下垂体に働きかけて、卵子を成熟させるFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を促して卵胞を成熟させていきます。排卵の時期が遅い人や排卵しにくいPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の人がおもな適応になり、タイミング療法や人工授精などの治療に使われます。お薬の種類にはクロミッド®、セキソビット®などがあり、一般的には生理5日目から5日間服用します。また、体外受精でも単独、あるいは注射と組み合わせて用います。飲み薬は作用がマイルドで副作用がほとんどありません。


Q・注射剤はどんな時に使うの?


A・体外受精で使うことが多いですが、一般不妊治療で効果を高めたい時にも用います。

注射剤は卵胞刺激ホルモンであるFSHが主な成分ですが、卵胞を破裂させる作用のあるLH(黄体化ホルモン)も含まれ、その配合の割合は注射剤の種類によって変わります。直接卵巣を刺激しますので強い効果がある一方で、多胎妊娠やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)などの副作用をともなうことがあります。
一般不妊治療では、クロミッド®の効果を高める目的で併用したりします。また、体外受精では成熟卵子を複数育てるために使われます。閉経女性の尿より抽出した成分でつくられる注射剤(HMG製剤)にはフェリング®などがあります。また、尿由来でLH成分がほとんど含まれないものをFSH製剤といい、ゴナピュール®があります。これらは、生物製剤に分類されていますが、抽出精製されているため感染症の心配は皆無です。遺伝子工学を使って生物由来原料を使っていないFSH製剤(リコンビナントFSH)もあります。その一つであるゴナールエフ®は専用のキットを用いて自己注射することもできます。


Q・体外受精の排卵誘発法にも種類があるの?


A・自然周期(低刺激周期)と刺激周期の2つに大別できます。

自然周期は、クロミッド®などの飲み薬を生理3日目から服用を始めて、さらに卵巣を刺激する注射剤を1〜2回併用して卵胞を育てます。成熟が確認できたら、主に点鼻薬(スプレキュア®)を用いて排卵の引き金となるLHサージを起こして卵子の最終成熟を促します。
一方、刺激周期は、連日注射剤を投与する方法です。自然排卵を抑制する薬剤を併用しますが、併用する薬剤の種類、投与方法により、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法に分けることができます。ロング法は体外受精の前周期から、ショート法は月経開始からGnRHアゴニストを毎日投与し、突然排卵しないようにして連日注射で卵巣を刺激します。一方、アンタゴニスト法は月経3日目くらいから連日注射を開始し、卵胞が14mm程度に育った頃からGnRHアンタゴニストを排卵誘発の注射と併用し、突然の排卵を抑えながら卵胞を成熟させます。アゴニストとアンタゴニストは名前は似ていますが、作用が少し異なる薬剤です。刺激周期では、超音波で卵胞の成熟を確認後、LHと似た作用をもつホルモン製剤のHCGの注射により、卵子の最終成熟を促します。


Q・自然周期と刺激周期どちらがいいの?   自然排卵とお薬を使った卵子に違いはあるの?


A・どの方法を選択するかは、卵巣の状態や年齢などによって異なります。

自然周期と刺激周期どちらにもメリット、デメリットがあります。自然周期は飲み薬が主体なので体への負担はほとんどありません。ただし、採卵できる卵子の数は少なくなります。刺激周期は採卵数は増えますが、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)などの副作用をともなうことがあります。
自然排卵と、お薬を使って排卵した場合の卵子の質に大きな違いはないと考えています。
どの方法を選択するかは、卵巣の状態や年齢などを考慮したうえで決めます。刺激周期で副作用があった人、または刺激周期で結果が出なかった人は自然周期を試してみるのもよい方法です。


Q・排卵誘発剤を使うと閉経が早くなるの?


A・お薬の使用にかかわらず、年齢とともに卵子の数は減少し、老化します。

お薬を使って排卵をうながすことで、閉経が早まることはありません。第1回でもお話ししましたが、女性は一生分(約700万個)の卵子をもって生まれます。出生時には200万個、思春期には20〜30万個になります。つまり、排卵するしないにかかわらず年齢とともに卵子の数は減少し、老化していきます。卵巣刺激で採取される卵子は卵子全体のほんの一部であり、本来自然に消滅する運命にあった卵子が排卵誘発剤によりセーブされ育っていると考えてください。


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