無痛分娩をしたいけれどリスクとは? 周囲に反対されたらどうするべき?
インタビュー
妊娠・出産
無痛分娩をしたいけれどリスクとは? 周囲に反対されたらどうするべき?
日本でも増えつつある無痛分娩。等々力産婦人科院長の鈴木啓太郎先生に、基礎知識やリスク、家族と話し合って同意を得るための対応をアドバイスいただきました。
2021.5.30
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硬膜外麻酔を使い、産む感覚を残しつつ痛みを緩和
「無痛分娩」の前に、基礎知識として通常のお産の流れについて知っておきましょう。
まず、陣痛が発来してから、赤ちゃんが出てくるのに十分なサイズの子宮口全開になるまでを「分娩第一期」と呼びます。
子宮口全開になるまで初産婦さんで一般的には約10時間、経産婦さんで5時間ほどかかり、その間はいきむことなく呼吸法などで陣痛の痛みを逃していきます。
その後、赤ちゃんが出てくるまでが「分娩第二期」。初産婦さんで約2時間、経産婦さんで1時間ほど要する場合が多いです。
ここでは痛みの波に合わせていきむことで赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんが産まれた後、胎盤が出てくるまでが「分娩第三期」です。かかる時間は初産婦さん、経産婦さんともに30分以内が標準です。
その間には、人により後陣痛といって子宮が収縮する痛みが生じます。
これらは個人差が大きく、長時間強い陣痛に苦しむ場合や、逆にごく短い時間で赤ちゃんの誕生にいたるケースもあり、事前の予測は難しいのが現状です。
陣痛発来から胎盤を娩出するまでの時間に感じている痛みを、麻酔薬の力で緩和させる方法が無痛分娩です。
無痛分娩で使われるのは、脊椎(背骨)の間から硬膜外という部分に麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」が現在の主流になります。
帝王切開や下半身の手術などで使われ、運動神経までも麻痺させる「脊髄くも膜下麻酔」とは異なり、いきむ感覚や産む感覚はそのままに、陣痛の痛みだけを和らげてくれるのが特徴です。
また、産まれてくる赤ちゃんに麻酔の影響はほとんどありません。
お産の流れ自体は自然分娩とほぼ同じですが、妊娠34週頃に無痛分娩が可能か確認する検査を受ける必要があります。
医療機関によって無痛分娩の体制はさまざまですが、当院では24時間対応しております。
また、麻酔薬投与のタイミングなどはそれぞれの妊婦さんや赤ちゃんの状態を細かく確認しながら決定しています。
吸引分娩になるケースが増加するリスクも
無痛分娩を選択した場合のリスクもきちんと知っておくことで、分娩施設を選ぶ際の判断材料になります。
リスクの内容と、例として当院での予防と対処をご紹介します。
たとえば痛みが和らぐ分、お産のすすみが悪くなるケースがあります。
そのため、「吸引分娩」になる率が、自然分娩に比べて多少アップします。
赤ちゃんの頭に金属やシリコン製カップを吸着させ引いて出すため、まれに頭皮の下に血が溜まる頭血種がみられますが、1カ月程で消えます。
また、分娩中に麻酔薬の副作用で妊婦さんが発熱することもあります。
母体が発熱すると、赤ちゃんの酸素消費量が増え、心拍数に影響することがあります。
その際は、母体を冷やしたり、分娩時間短縮のために陣痛促進剤を使用したりします。
その他、頭痛や吐き気、全身のかゆみがみられる場合がありますが、麻酔薬をやめてしばらくすると改善し、消失することがほとんどです。
また、妊婦さんの年齢が高くなるほど産道が開きづらく、陣痛がつきづらい傾向にあるので、無痛分娩にした場合にはさらにお産の進みが悪くなるというデメリットが考えられます。
だからといって「年齢が高めだから無痛分娩ができない」わけではありません。
お産の進み具合や麻酔薬の量を細やかにチェックし、万一の際は「母子の安全」最優先で適切な措置を行い、無痛分娩による事故を防ぐようにしています。
リラックスしてお産ができるなど多様なメリットがある
無痛分娩で得られるメリットはさまざまなものがあります。
まずは、陣痛が発来して子宮口全開になるまでの間をリラックスして過ごすことができるということです。
そのため、精神的や身体的な疲労が少なく、出産後の赤ちゃんのお世話もスムーズに行えます。
また、早めに仕事復帰を考えている、あるいは第2子以降の妊娠で、産後すぐに上の子の育児をしながら赤ちゃんのお世話をする場合にも、無痛分娩にすることで体力を温存できます。
さらに痛みや緊張に弱い方にも良いでしょう。無痛分娩にすることで筋肉が程よく弛緩して産道が開きやすくなるため、お産の進み具合が良くなるという効果もあります。
家族でメリット、デメリットの情報共有を
最近増えているのが、「無痛分娩にしたいけれど、実母や夫など家族に反対されて迷っている」というケースです。
まだまだ偏った情報や「無痛分娩=恐い」という認識の人も少なくありません。
その場合には、無痛分娩のメリットとデメリットについての正しい情報を入手し、それを家族間で共有してください。
そのために当院では、妊婦さんとそのパートナーの方向けに2カ月に1回「無痛分娩」の勉強会を開き、無痛分娩についての正しい知識や情報を伝えています。
そして分娩方法を決めるうえで一番重要なのは、妊婦さんの気持ちです。
実際に出産するのは、お母さまでもなく、パートナーでもなくご自身です。
自分の性格やどんな出産をしたいか、出産後の生活環境、無痛分娩にすることでプラスとなる費用などを考慮し、ご自身が希望する出産方法を選択してください。
●●●まとめ
どの分娩方法でも出産は偉大な仕事です
当院ではお産をする方の約65%の方が無痛分娩を希望していますが、日本全国でみると8~10%どまりです。確かにまだ日本では「おなかをいためてこそ母」という考えが、根強く残っている部分があります。
ただ私は、どんな分娩方法を選んでも出産という大きな山を乗り越えることに変わりはなく「偉大な仕事」と考えています。
ぜひ自信をもって、妊婦さんご自身にとって最良の分娩方法を選んでいただけたらと考えています。
院長 鈴木啓太郎 先生
日本産婦人科学会認定医、日本周産期新生児医学会 周産期専門医、日本産科麻酔学会会員、母体保護法指定医
1996年 東京慈恵会医科大学卒業後、大学病院、周産期センターに勤務後、2015年1月に「安心の医療」と「快適なマタニティライフ」をモットーにした等々力産婦人科を開業。穏やかな先生のお人柄と、丁寧でわかりやすい診察や解説に魅力を感じ、地元の目黒、世田谷、大田区はもちろんのこと、神奈川県内や多摩地区からも多くの患者さんが通っています。
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