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【医師監修】受精障害を考える

インタビュー 不妊治療

【医師監修】受精障害を考える

不妊の原因の一つである受精障害はどのような仕組みで起こるのでしょうか。検査方法やアプローチについて中村先生に伺いました。

2018.7.25

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受精障害の原因


妊娠ができない原因は多岐にわたります。


したがって、タイミングや人工授精などの一般的な不妊治療中におこる、


「本当に卵子と精子はちゃんと出会えているのかどうか…」、「受精した卵はちゃんと成長しているのだろうか…」


などの不安は身体の中で起こっているため、あくまで推測するしかありません。




しかし、身体の中で精子と卵子がちゃんと出会えていなかった場合、体外受精を行い精子と卵子を出会わせることで、受精やその後の胚の発育をある程度まで確認することができます。


あるいは、精子と卵子が出会えていても受精が上手くいっていなかったのかが発覚する場合もあります。


 


このような受精障害は、体外受精を行うことで初めて診断することができ、不妊症の中には、高度生殖補助医療(体外受精)に進んで初めて原因が判明するものもあるのです。




また、ひとくちに受精しにくいと言っても原因はいくつか考えられます。


男性の精子側に原因がある場合、女性の卵子側に原因がある場合、両方に原因がある場合、あるいは全く原因がわからないこともあります。



男性に原因がある場合


まず男性側の原因として挙げられるのは、受精に関わる能力がある精子数の問題です。


 


しかし、精液検査の結果は、禁欲期間、生活のストレス……こういったものがなくても、検査をするたびに結果が大きく変わるものです。


 


ただ妊娠するためには、形の良い元気よく動く正常な精子がある程度たくさんいることが、非常に重要です。


 


複数回行った精液検査の結果が、基準を大きく下回るのであれば、早いうちに顕微授精を検討した方が最終的には早い段階で妊娠・出産という結果に結びつくかもしれません。


 


基準には、液量(精液全体の液量)・濃度(1mlあたりの精子数)・運動率(動いている精子の割合)・奇形率(形の悪い精子の割合)などが挙げられます。


 


一般体外受精や人工授精の場合には、密度勾配遠心法という方法を用いて、精液を濃縮精製しています。


 


この作業により、比重の軽い異常精子を除外し、元気よく動く正常な精子を選別します。精製前の精液検査では問題なさそうであったのに、精製後にぐっと精子数が減っていたとしたら、それは精液検査は基準値内であったけれど、正常な精子の数が少なかった、ということになります。


 


受精するために、まず精子は卵子を取り囲む卵丘細胞を掻き分けて、透明帯を貫通することが必須です。精子の運動能力が低いと、精子が透明帯を貫通できず、受精できない可能性があります。


 


また、精子は受精までに様々な因子を放出します。中でも、卵子の細胞質に接した後に因子を放出し、卵子内のカルシウムを上昇させます。カルシウムは卵子内を波状に伝播していき、卵子を活性化します。


 


このカルシウムの波は繰り返され、一定時間続きます。その間に卵子内で様々な変化が起こり、受精が完了します。これらの因子が不足していたり、全く放出できなかったりすると、やはり受精は完了しません。


女性に原因がある場合


卵細胞質を取り囲み、保護する役割を持つ透明帯は、糖タンパク質で構成されています。これらは本人の体質や加齢等により肥厚化・硬化する場合があります。精子はその前進性でこの透明帯を突き破って受精を目指すのですが、過度に厚い・硬い透明体が受精を妨げている可能性があります。


 


また、透明帯の貫通した精子が卵細胞質に接着すると、様々な因子を放出します。そのうちのPLCζという因子は、卵細胞質内の小胞体に作用して受精を進行させていくのですが、小胞体がうまく刺激を受け取れないために受精が完了しない場合もあります。


 


これらが女性側の不妊の原因の一つになります。


受精障害に対するアプローチ


一般体外受精を行っても全く受精しない完全受精障害、正常形態の運動精子が少ない、精子の運動能力が弱い……など、これらの場合には顕微授精が効果的です。


 


一般体外受精では精子が卵子に侵入できていない場合や、逆に複数の精子が卵子に侵入する異常受精が起こる可能性があります。


 


一方、顕微授精では、卵子が成熟していることを確認した上、正常形態で運動性能の高い精子を1つ選び、卵子の内部へ注入します。そのため、一般体外受精とは違い、確実に卵子内に1つの精子を送り込むことができます。


 


あるいは、過去に体外受精をおこなったがほとんど受精をしなかった、精子の数が少ない…などを理由に顕微授精をおこなっても、受精が成立しない場合があります。このような症例の原因の一つが、精子と卵子の融合によって引き起こされるカルシウムイオンの増加反応が不十分な可能性による「卵子活性化障害」です。 


 


そういった場合カルシウムイオノフォアを用いたアプローチがあります。これは、カルシウムイオンの細胞内への取り込みを促進する培養液の一種です。カルシウムイオノフォアにより細胞内のカルシウムイオンを増加させ、卵子活性化を促します。


また、卵子活性化が正常に起こることで、受精反応、さらにはその後の胚の成長へとつながることが期待されます。


監修してくださった先生のご紹介

中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)


大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。

≫ なかむらレディースクリニック



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