【医師監修】不育症について
コラム
不妊治療
【医師監修】不育症について
不妊の原因の一つである不育症はどうして起こるのでしょうか。リスク因子やアプローチについて中村先生に伺いました。
2018.10.3
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不育症って何?
「不育症」という言葉をご存知ですか?
不妊という言葉を聞く機会があっても、不育症という言葉を聞く機会はあまりないかもしれません。
不育症とは、妊娠はするけれども流産・死産・新生児死亡などを繰り返して結果的に子供を持てない場合のことを言います。
3回続けて流産してしまう「習慣流産」。あるいは、2回続けて流産してしまう「反復流産」はほぼ同意語にあたります。
しかし、これらには妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含まれません。
一方、不育症には「何回流産を繰り返すと不育症」というような定義がまだ存在しないため、この言葉はより広い意味で用いられます。
一般的には2回連続した流産・死産があれば不育症の可能性を考え、原因を探索する場合があります。
また、1人目を正常に分娩しても2人目、3人目が続けて流産や死産になった際、続発性不育症として検査をし、治療を行なう場合があります。
(2人目が不妊の場合は、不妊期間は出産後ではなく月経再開後から計算しますが、授乳中の期間は除きます。)
不育症を呼び起こす要因
では、不育症の原因はいったいどのようなものなのでしょうか。
様々な要因が考えられますが、
子宮の形が悪い子宮形態異常 7.8%
甲状腺の異常 6.8%
両親のどちらかの染色体異常 4.6%
抗リン脂質抗体症候群 10.2%
凝固因子異常として第XII因子欠乏症 7.2%
プロテインS欠乏症 7.4%
となっています。
また、不育症の例として、陽性率の高い抗リン脂質抗体の一種である抗PE抗体陽性者が、34.3%ですが、この抗体が本当に流産・死産の原因になっているかどうかは、未だ研究段階となっています。
その他、NK活性という免疫の力が亢進している症例もありますが、この検査の意義も未だ不明です。
検査をしても明らかな異常が判らない方が65.3%にも存在し、半数以上を占めています。
抗PE抗体陽性者を除いても約40%はリスク因子不明です。
この「リスク因子不明」というのは、正しくは「偶発的」と考えた方が良いのかも知れません。
流産の原因で最も頻度の高いものは赤ちゃん(胎児)の染色体異常で約80%に存在します。
つまり3回流産したことのある人で、赤ちゃんの染色体異常をたまたま3回くり返した人は0.8×0.8×0.8=0.512となり、51%を占めます。
つまり赤ちゃん以外の要因(抗リン脂質抗体、凝固異常、子宮異常、甲状腺異常、夫婦染色体異常)は約半数となります。
この偶発的流産・リスク因子不明(65.3%)の中で、51%は何のリスク因子もないカップルです。
これらのリスク因子を調べて原因がはっきりとした人は治療を行ないます。
原因がわからなかった、つまり、偶発的な流産をくり返したと思われる方は何も治療をしなくても、次回の妊娠で成功する確率は高いといえます。
流産回数と次回妊娠成功率との関係
過去に5回までの流産であれば、治療成功率はよいといえます。
ただし、6回以上の流産歴のある方は難治性で特別な治療法が必要かもしれません。
諦めずに妊娠に挑戦しよう
夫婦染色体異常、偶発的流産・リスク因子不明例では、カウンセリングが有効な場合があります。
以前は、夫婦染色体異常例では流産率が極めて高く、子どもを持てないと誤解されていました。
しかし、流産率は高くても、最終的には多くの方が子どもを持てることもわかってきています。
このことは明らかで、諦めずに妊娠することの重要さを示しています。
また、原因によっては、アスピリン療法(Asp)、ヘパリン療法(Hp)、ステロイド療法(ST)で、治療成績は良好であり、正しい診断と治療が必要なことがわかります。
原因不明例では、カウンセリングのみで、良好な治療成績であることがわかってきました。
したがって、決して悲観的にならずに、妊娠へ挑戦することが重要です。
中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)
大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。≫ なかむらレディースクリニック
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