体外受精で化学流産ばかり。どんな治療方法がありますか?
コラム 不妊治療
※2018年8月27日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn」の記事です。
ジジさん(36歳)からの相談
▶化学流産ばかりです
7回目の体外受精が陰性に終わって先が見えません。これまでの履歴は凍結胚盤胞を3回移植。うちホルモン補充の胚盤胞5ABは化学流産。ほか5BA、5BBは自然周期の移植でかすりもせず。グレード1の初期胚と5BBの胚盤胞を二段階移植するも陰性。他のクリニックに転院し、4回採卵、3回初期胚移植。いずれも化学流産でした。グレードAの胚盤胞が1つ残っています。不育症検査と子宮鏡以外の基本検査を行いましたが異常はありません。さらに他の不育症外来にも行ったところ、子宮内膜スクラッチしか方法がないようでした。それもダメだったら、これ以上方法はないのでしょうか?
Doctor’s advice
●子宮の着床環境を整えて、いい卵子に出会えれば妊娠の可能性は十分にあります。
●カウンセリングを気軽に利用してストレス解消を。これだけで道が開けることも。
化学流産について教えてください。
妊娠検査薬で陽性反応が出ても、その後、胎囊が確認されない状態を生化学的妊娠(化学流産)といいます。おもな原因は受精卵の染色体異常と考えられ、健康で若いカップルにも起こることから、日本産科婦人科学会では、胎囊が確認された妊娠成立後の流産のみをカウントするとしており、生化学的妊娠は流産回数に含まれません。
一方で生化学妊娠のなかにもごく初期の流産が隠れていることがあります。このような人には、自費になりますが不育症検査をおすすめしています。ただ、検査項目が多いため、検査をどこまで行い、また結果をどのように解釈するかは施設や先生の考え方によります。
流産に対する治療方法はありますか?
流産は受精卵側と母体側どちらの原因かによって治療法が異なります。受精卵側は染色体異常が大きな要因で、これに対する治療法は残念ながらありません。母体側は子宮の着床環境の問題が考えられます。その一つが慢性子宮内膜炎です。発熱や腹痛など自覚症状がないまま子宮内膜に炎症が広がり、習慣性流産や着床不全の原因になるといわれています。原因は特定されていませんが、炎症を引き起こす細菌の影響が考えられており、抗生物質による治療が行われます。また他に、内膜の環境を知るための子宮内フローラ(細菌叢)検査があり、治療としてはラクトフェリンの内服が挙げられます。もう一つは、免疫学的な問題です。妊娠の成立には、子宮内で受精卵を異物として排除しないように免疫寛容というシステムが働いています。これが機能しないと着床不全や初期の流産を引き起こしやすくなります。まだ治療法は確立していませんが、免疫抑制剤の内服や、移植時に免疫寛容を誘導するGMーCSF(マクロファージコロニー刺激因子)含有の培養液を使用し、妊娠率が向上したという報告があります。
さらに、いい受精卵を移植してもうまくいかない場合、インプランテーションウィンドウ(着床の窓)という子宮内膜が受精卵を受け入れる時期がずれている可能性があります。最適な着床の時期を知るためには、ERA(子宮内着床能検査)が有効です。子宮内膜組織の遺伝子検査によって移植時期がわかり、着床率の上昇が期待できます。
最後にアドバイスをお願いします。
なかなか結果につながらない状況でご不安だと思います。当院ではジジさんのような方に治療と並行してカウンセリングをおすすめしています。カウンセリングを受けることに心理的なハードルを感じる人も多いですが、日々ため込んでいる気持ちを誰かに聞いてもらい、ご自身を客観的に見つめることで気持ちが楽になり、妊娠につながることもあります。お話を聞いてくれる人であれば、カウンセラーでなくご主人でもいいですよ。
また、最後の受精卵で妊娠される人もいますし、次の採卵で状況が一変することも。当院でもいい受精卵を何度か移植しても結果が出なかった人が、再度採卵して出産されています。信頼できると感じたクリニックで、心をできるだけ平穏にして治療を続けてください。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn
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