本当に痛くない? 安全にできるの? 無痛分娩の疑問にお答えします
コラム 妊娠・出産
本当に痛くない? 安全にできるの? 無痛分娩の疑問にお答えします
無痛分娩のリスクが気になる人も納得できるメリットや安全性について、田中ウィメンズクリニックの田中康弘先生に伺いました。
日本でも徐々に広がってきた無痛分娩ですが、なかにはリスクばかりをを気にする人もいるようです。これまで1万5000例以上も無痛分娩を実施してきた田中ウィメンズクリニックの田中康弘先生に、メリットや安全性について伺いました。
40年以上前から無痛分娩に着目し、始めようと思った理由は?
当院は、局所麻酔(硬膜外麻酔)による無痛分娩を国内で最初(1973年)に始め、分娩の始まりからの無痛を世界に先駆けてとり入れた産科施設です。
お産というのはものすごく痛いものです。僕たちが子どもの頃には、まだ生活の中に痛みがたくさんありました。道が凸凹しているので転んでひざをすりむいて痛い、水道の水が冷たいのであかぎれがしみて痛いなど。でも、現代は快適・便利で、歯が痛くても傷ができてもすぐに痛みを止めることができる。だんだん痛みに対する抵抗力がなくなって、昔と同じお産だったら今のほうがずっと痛く感じるようになったのですね。
「母性を確立するためには産みの痛みがないとダメ」という陣痛有意議論を主張する人もいますが、今や、痛みに弱い人があえて痛みに耐えなければいけない時代ではありません。痛みのない分娩のほうが快適だし、安全にできると考えて無痛分娩に取り組んだのです。
僕が若い頃、アメリカではすでに硬膜外麻酔による分娩が行われていましたが、日本ではほとんど知られておらず、無痛分娩といえば全身麻酔が主流でした。麻酔科医から産婦人科医と専門を変えて開業をした頃、アメリカで行われている硬膜外麻酔をいち早く開始しました。
全身麻酔は、胎児にも麻酔がかかるので赤ちゃんへの影響も危惧されます。局所麻酔ならその負担を減らせるのが特長のひとつです。また、無痛分娩をとり入れることで計画分娩ができます。陣痛はお母さんの活動がおさまる頃に生じてくるので、そうなると分娩は夜になることが多くなるのですね。深夜だとスタッフもご家族も負担が大きく、緊急時にも対応しにくくなります。そこで、前日に入院して、翌日の明るいうち(診療時間内)に出産していただくシステムを作り、より安全、快適にお産ができるようにしたのです。
無痛分娩のメリット、デメリットは?
無痛分娩中、痛みはまったく感じない?
今、硬膜外麻酔による無痛分娩をとり入れている施設はたくさんあると思います。麻酔のさじ加減で妊婦さんの感覚が異なり、なかには「少し痛みがあった」というケースもあるようですね。
当院の場合、痛みはまったくありません。これまでに40年以上実施し、1万5000人程度が受けられていますが、「痛かった」というお声は1人もいません。みなさん必ず、「2人目の時も無痛分娩でお願いします」とおっしゃいます。安全に、それもまったく無痛の状態でできるのは、お産と痛みのことをよく知っている知識も経験も豊富な医師やスタッフのいる施設でなければできません。
人間の痛みを大きく分けると、胆石や生理痛、胃潰瘍などの内臓痛と、切り傷などの体耐性痛の2種類になります。お産はこの2つの痛みが合併している特殊なものです。最初は子宮が収縮する内臓痛で、あるところから体耐性痛が加わってきます。場所も1カ所ではなく、腹部、腰部痛に始まりお産が進むと下腹部、会陰部痛へと移動してくるのですね。そういったお産のしくみと痛みや麻酔のことをよくわかっていないと、痛みを100%とるのは難しいでしょう。