不妊治療の現場と周辺 日本生殖補助医療標準化機関JISARTとは?その取り組みに迫る!2
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不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2
JISARTでは3年に1回、メンバー施設に施設認定審査を実施しています。今回は、その実態を探るべく、5月9日に行われた浅田レディースクリニックの審査にジネコスタッフが同行。
なかなか一般に公開されることのないその内容を、レポートします。
■ 現場をレポート
医師から受付事務まで審査員が厳しくチェック
去る5月9日、愛知県にある浅田レディースクリニックで、JISARTの施設認定審査が行われました。
審査チームは医師、看護師、胚培養士、心理カウンセラー、受付事務に加え、患者代表も参加。丸一日をかけて、JISARTの実施規定通りの運営が行われているか、各部門別に厳格な審査が行われました。
午前9時から始まった審査開始会議では、事前に提出した質問表の回答に対して質疑応答がなされ、今回の審査チームのリーダーであるミオ・ファティリティ・クリニックの見尾先生をはじめ、各部門の審査員から規定に基づいた質問が飛び交う場面も見られました。
その後、浅田先生の案内で審査員が院内を視察。4グループに分かれ、施設内の各部署の詳しい審査がスタート。
まず、医師部門では、診察室で、見尾先生からカルテの保存方法や、患者のプライバシー保持、処置室での注射の説明の仕方など、実施規定に基づいた審査の質問が浅田先生に投げかけられました。一方、隣室では看護師部門の審査が行われ、「患者を呼び出すときはどうしているのか?」など、実施規定に従ってやり方を確認し合い、よりよい診療のあり方やプライバシー保持についてチェックされていました。
培養室の審査は特に厳格!スタッフ教育にまで質問が
診察室をひと通りチェックした後は、高度不妊治療の重要な現場である培養室へ移動。ジネコスタッフも特別に許可をいただき、滅菌処置をして培養室へ入れていただきました。
ここでは、インキュベーター(培養器)の圧力や培養室内の換気法など、専門的な審査が行われました。見尾先生と、この日オブザーバーとして参加した京野アートクリニックの京野先生も、浅田レディースクリニックの設備を前に、実施規定の項目を確認しながら、培養士の説明に聞き入っておられました。もちろん設備だけでなく、サンプルの記録方法やスタッフの教育などについても、審査員から質問が及びました。
午後も引き続き部門別審査、さらに患者グループとの面談も行われ、3時にすべての審査工程が終了。審査メンバーによる審議が行われた後、結果を報告。今回は、改善事項はなしという結果でしたが、細かな点でいくつか改善提案が挙げられました。
浅田先生をはじめ、スタッフの方々も合意し、改善していく意思が発表され、長い施設認定審査が終了。このように、よりよい医療を提供するために、厳密な審査が行われているのです。
■ 施設認定審査について~医師の側から
施設同士が審査し合うのはとても有意義なことです 見尾 先生
今回、私は審査をする側で、来年は審査を受ける側になるわけですが、このように施設同士がお互いに審査をし合うというのは、とても有意義なことですね。自分たちの視点だけですと、どうしても一方向からの見方が優先しがちになります。しかし、不妊医療の本質で、一番大切なのは、患者さんに元気な赤ちゃんを授かっていただくことです。
JISARTに属する施設は、最善のかたちで患者さんの夢を叶えるために、各施設の工夫やこだわりを学び合い、患者さんの意見を聞き、改善すべき点は指摘し、より満足してもらえる施設を目指しています。本当に質のよい医療を提供するために、士気を高くし、自助努力を惜しまない団体だということを、多くの方々に知ってほしいですね。
看護師不足など、地域の現状も知らせることのできる機会 浅田 先生
今回で、当院は2回目の審査になります。このような審査システムがあることで施設全体のレベルが上がることはもちろん、医師にとっては他の施設の先生がいらっしゃることで、とてもよい情報交換の場にもなります。見尾先生は鳥取、京野先生は仙台ですから、普段なかなかゆっくりお話しできません。このような機会に、現場を見ていただきながら、スタッフ教育やリスクマネージメントなどの情報を交換できるので、お互い刺激になるなど、相乗効果がありますね。
また今回、当院の「メディカルアシスタント」という役職について審査側からご質問を受けましたが、これは地域の看護師不足という状況も深く関わっているもの。そのような名古屋の現状も知っていただけた、貴重な機会でした。
■ 施設認定審査について~施設認定の面から
患者さんにも参加していただき、よりよい施設づくりを 高橋 先生
JISARTが実施している施設認定の一番の利点は、「相手を知って己を知る」ということだと思います。
生殖補助医療はやはりまだ新しい分野なので、日本の医療のなかでは歴史が浅いです。治療法についてきちんと教える機関がないので、不妊治療に関わる医師やスタッフは、独学あるいは海外留学で学んでいるということで、マニュアルが統一されていないのです。施設同士の横のつながりはほとんどないので、自分たちの経験だけをもとにやっている、という施設が多いのが現状なんですね。
そこで、施設認定審査を行うことで、ほかの施設を視察する機会が生まれます。これは今までの日本の医療にはなかった、大変有意義な活動だと思います。
それに施設にとって、3年に1回、施設認定審査があるというのは、客観的に施設のチェックができる貴重な機会ですからありがたいことだと思います。審査メンバーはチェックリストをもとに、客観的に必要な指摘をしてくれますから。
また医師のみならず、すべての部門をチェックすることで、看護師や培養士などスタッフの自己啓発にもつながることは大きな利点でしょう。特に、事務部門の審査は日本特有のもので、JISARTのモデルとなったオーストラリアの制度では行っていません。技術面だけではなく、心理面、サービス面など、総合的な視点でそれぞれの専門家が厳しく審査を行っているのです。
審査には、患者さんにも参加していただいていますが、患者さん側の意見が一番参考になる、というのはどの施設でも共通した声です。医療も患者さんの意見を求めている。最終的には患者さんがよいクリニックを育てるので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。
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