不妊外来3周期目。治療のペースに疑問を抱いてます
コラム 不妊治療
不妊外来3周期目。治療のペースに疑問を抱いてます
不妊治療について本やネットで調べると、病院で受けている治療方針に疑問が生じたり納得がいかないと感じる人は少なくないようです。今の治療を不安に思った時、あなたはどうしますか? レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生に伺いました。
※2018年11月22日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter」の記事です。
- 相談者:ポメラニオさん(35歳)
● 治療のペースに疑問 - 産婦人科の不妊外来を訪ねましたが2周期目までは卵胞が確認できませんでした。①3周期目にして排卵障害を疑いホルモン検査を受診。やはり今回も卵胞は確認できず、②検査は、プロラクチンが負荷前40ng/ml、負荷後230ng/mlと高い数値でした。
てっきりすぐ薬が処方されるものと思いましたが、先生からは次の受診日の話と、次回も卵胞が見られなければ薬を使ってみましょうと言われただけでした。
検査結果ではプロラクチン値が高いうえ、卵胞も一度も見えなかったのに、③なぜ次の周期まで待たなければならないのか疑問です。
不妊治療についてネットや本で得た情報に比べ、私の治療ペースは遅いと感じ始め、もし最初から不妊治療専門の病院なら検査や処方もスムーズに進んだのではないかと焦っています。
さて、高プロラクチン血症に限らず、一般的に排卵誘発剤などの薬はすぐ処方されるものですか? また、治療方針・内容に疑問を感じた場合、転院を考えたほうがいいのでしょうか?
- ドクターにはこう聞いてみよう!
医師との信頼関係を築くためにも
治療方針の疑問は解消したい - 薬の処方や診察のタイミングなど、治療方針について疑問を感じたら、思い切って医師に質問を。医師を信頼して治療を進めるためにも、気になる点は率直に聞いて疑問を解消することが大事です。それが難しそうなら転院も視野に入れて。
最初に排卵障害の原因を確定し、的確な治療がなされるべき
①3周期目にして排卵障害を疑いホルモン検査を受診。
排卵障害があるということは何か原因があるということなので、最初に検査を行ってその原因を確定しなければいけません。排卵障害がある方に普通に卵胞チェックだけ行っていても、「また卵胞ができてこない」というのは当たり前のことです。
日本人の排卵障害で月経周期の長い方の6~7割が多囊胞性卵巣であり、原因としても最も多いものですが、この場合はクロミフェンを処方するほか、インスリンの抵抗性を調べて、抵抗性がある場合はメトホルミンという糖尿病のお薬を出します。クロミフェンが無効な場合は、注射を使って排卵誘発を行います。
また無月経については、エストロゲンの基礎分泌量が保たれていて比較的軽度な第1度無月経と、エストロゲン・プロゲステロンとも分泌が見られない第2度無月経に分類されます。第1度無月経の方は視床下部障害によるもので、クロミフェンで排卵ができると思いますし、第2度無月経の方は排卵誘発の注射を使わないといけません。
さらに、脳下垂体や甲状腺、卵巣の機能低下・異常も排卵を妨げる原因となります。原因に応じて的確な方法があり、治療方針も違ってくるのです。
ポメラニオさんが「不妊治療専門の病院なら検査も処方もスムーズに進んだのかな…」とおっしゃるのは、僕もまったくその通りだと思います。残念ながらこの3周期は無駄になってしまっているようです。
プロラクチン値が高く、適切な投薬治療が必要
②検査は、プロラクチンが負荷前40ng/ml、負荷後230ng/mlと高い数値でした。
プロラクチンとは、本来授乳期間中に乳汁の分泌を促進するホルモンですが、妊娠前にプロラクチン値が高いと、排卵障害や着床障害、流産の原因となります。薬による負荷テストでは、負荷後の値が80 ng / ml以上であったり、負荷前よりも8倍以上高くなっていたりする場合は、潜在性高プロラクチン血症と診断します。
ポメラニオさんの場合は負荷前の値も高く、血中のプロラクチン値を下げる薬を服用しなくてはいけません。週に1度服用するカバサール®、毎日服用するテルロン®、このどちらかの薬で治療が必要です。ポメラニオさんの言う通り、すぐにでも処方されるべきでしたね。
また、多囊胞性卵巣の方は潜在性高プロラクチン血症を合併している場合もありますので、負荷前値が15 ng / ml以上の場合は、負荷テストを実施したほうがよいと思います。
患者と医師、お互いの信頼で治療が進む
③なぜ次の周期まで待たなければならないのか疑問です。
一番の問題は、ポメラニオさんは不妊治療についていろいろと調べているのに、診察の場で質問ができていないことですね。疑問に思った時に、「プロラクチンのお薬を飲まなくてよいですか」「排卵誘発の薬の処方は必要ないですか」と聞いてみたらよかった。最初からコミュニケーションがうまくいっていないこともあり、聞きづらかったのかもしれませんね。医師の側としては毎回の診療の中で、もし疑問が出たら必ず解消してほしいという思いがあります。患者さんと医師がお互いに信頼してこそ治療は成り立つものと思っていますから。医師は「こうしたほうがいい」と治療を提案し、患者さんは医師を信頼してその治療を受けるので、もしその信頼関係が築けないとなると、病院を変えられたほうがいいかもしれません。
排卵障害がなく、タイミングを見るだけ、排卵のチェックだけ、というなら産科の病院でも技術は変わりませんが、ちょっと何か異常があってという場合は、不妊専門の病院で診てもらったほうがいいと思いますね。
- 質問しやすい雰囲気に、医師も配慮しています
- 患者さん一人ひとりの限られた診察時間を有効に使うため、質問用紙を外来受付に置いている奥先生。「質問がある時、それに書いてきてもらえばすぐにお答えします、と初診時に渡します。患者さんがあらかじめ質問をいくつも書き留めておくことで、その場でとりとめなく質問するよりも効率よく話ができ、僕も多くの質問に答えられます」。
忙しそうにしている医師にはついつい質問を躊躇する患者さんもいるはず。「どうしても忙しいと『早く』となりがちなので、自分の反省も込めて、診察を終える時には必ず『何かご質問はありますか』と患者さんに聞くようにしています。帰ろうとされていても僕が聞くと『はい、質問いいですか?』ということがあるので、聞きやすい雰囲気というのは大事ですね」。
医師は患者さんに対してベストな選択肢を提案しても、それを強制はしない。治療を納得して受けるかどうかは患者さんに選ぶ権利がある、とおっしゃる奥先生。そうであるからこそ、患者さんからも積極的に質問し、納得することが治療を進めるうえで不可欠だといえます。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter
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