顕微授精で前核1個だと異常受精なのですか?
コラム 不妊治療
顕微授精で前核1個だと異常受精なのですか?
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※2018年11月22日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter」の記事です。
- ねこのめさん(38歳)からの相談
前核が1個の異常受精卵って…… - 先日、2個の卵子に顕微授精しましたが、1個は異常受精により破棄となりました。電話での相談でしたが、前核が1個しかなかったため異常受精、とのことでした。気になっていろいろ調べましたが、前核がなかったり、3個以上の場合は異常とするケースもあるようですが、前核が1個というのは異常なのでしょうか? また、どういう場合に発生するのでしょうか。前核1個ということは精子が複数入ったわけでもなさそうですし、受精しなかったということでもないと思うのですが……。顕微授精の際に損傷したということはないでしょうか。顕微授精の失敗などを疑うのも病院に悪い気もして聞きづらいため、詳しく教えてほしいです。
- まとめ
- ●受精時に卵子の核が分離できず、全部外に出てしまった可能性が。
●1前核でも大きければ培養し、胚盤胞になれば正常受精ととらえます。
前核が1個というのはよくあることなのでしょうか。
もともと卵子には4個の染色体があって、排卵時に2個1組が外に放り出されます。そして、精子が入ると残りの2個のうちの1個がさらに放り出され、精子と卵子の核それぞれ1個ずつ2つそろうと正常受精ということになります。前核が1個ということは、おそらく受精時に卵子の核が全部出てしまったのではないでしょうか。
1前核は頻繁に起こるとはいえませんが、決してまれなことではありません。若い方でも起こりますが、印象としては35歳以上の方に多く見られるような気がしますね。高齢になるとどうしても受精の異常も起こりやすくなってしまいます。ねこのめさんは現在38歳。もしかしたら年齢も影響しているのかもしれません。
異常受精かどうかは見てすぐに判断できるのですか。
1前核でも2倍体など、ある程度大きさがあれば正常受精とされることがあります。精子と卵子の核の融合が早かった場合などは、見た目では核が1個に見えることがあるのですね。核は1個だけれど染色体の数が多いから大きくなってしまう。
このような場合は一応5日目まで培養して、胚盤胞になれば正常受精だったと考えます。異常受精の場合は培養しても受精卵は育ちません。
1前核の胚盤胞を移植した場合、最初から前核が2個あって正常受精と判断されたものと比べ、妊娠率や出産率はほとんど変わらないといわれています。
ねこのめさんが治療を受けている施設ではすぐに異常受精と判断されたようですが、これは明らかにサイズが小さかったからではないでしょうか。
「顕微授精の際に損傷したのでは」と心配されていますが。
体外受精では精子がうまく入らなくて1前核になる可能性はありますが、顕微授精は人の手で精子を入れます。うまく入らなかったという技術的な失敗は考えられません。また、訓練を受けた胚培養士が行うので、核を傷つけたり、つぶしてしまうというようなミスもあり得ないでしょう。精子の核はきちんと入っていると思うので、やはり卵子の核が全部出てしまったことが原因だと考えられます。
今後も異常受精は起こってしまうのでしょうか。
年齢が高いので起こらないとはいえませんが、まったく受精しないわけではなく、受精自体はしているので妊娠の可能性は十分あると思います。
ただ、移植の機会を増やせるように、もう少し卵子の数を確保できるといいですね。排卵誘発法などを工夫してみるのも妊娠への近道かと思います。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter
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