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【特集3】妊娠できるだけでも羨ましいと言われますが、 果たして本当にそうなのでしょうか?

コラム 不妊治療

【特集3】妊娠できるだけでも羨ましいと言われますが、 果たして本当にそうなのでしょうか?

不妊治療を始めたら、いつかは終わりがくるもの。それが「妊娠・出産」であったなら、 とても喜ばしく幸せなこと。しかし、そうならない厳しい現実もあり、いつか決めなければならない治療のやめ時。ジネコユーザーの悩みに応援ドクターが答えてくれました。

2019.3.30

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※2019年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.41 2019 Spring」の記事です。


yukimakichanさん(42歳)からの相談
治療の限界を感じています
先日4度目の流産になりました。昨年、不妊症専門病院で抗リン脂質抗体症候群と判明したのち、体外受精で新鮮胚移植2回、妊娠せず。ホルモン補充周期凍結胚移植にて妊娠するも流産し、胎児の染色体異常が判明。少し休んでから凍結胚移植しても妊娠しませんでした。直近の流産は卵子の加齢による胎児の染色体異常と言われ、実際、採卵のたびに胚盤胞の数の減少、質の低下など悪化の一途です。周囲に「妊娠できるならまたトライしたら」「妊娠できるだけでも羨ましい」と言われますが、果たして本当にそうなのでしょうか。不育症治療をすれば我が子を抱ける可能性は85%と謳われていても、85%に入れない私は何なのか。命を育むことができない私が「我が子を抱きたい」と願ってはいけないのか。子どもがいる家庭を見ても永久的に平常心を保っていられるのか。主人の挙児希望を叶えるまで頑張り通さなかったことに後悔しないのかという思いもあります。金銭的にも限界を感じています。

お話を伺った先生のご紹介

宇津宮 隆史 先生(セント・ルカ産婦人科)


熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992 年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は8,600件を超える。

≫ セント・ルカ産婦人科

流産はたとえ1回でもショック。惑わされず、最善を尽くしてほしい


「妊娠できるのだから続ければいい」「妊娠できるだけでも羨ましい」は、悪気がないにしても当事者にとってはとても傷つく言葉ですね。次こそは結果が出るかもしれないという希望をもつ反面、またダメになるかもしれないと、妊娠まで進んだからこそ怖いという気持ちが大きくなってしまうものです。おそらく、相談者さんもとても傷ついたのだろうと推測できます。
体外受精の回数を重ねても、妊娠できなかったり流産を繰り返したことで、不育症専門病院を受診したとのことですが、ここに疑問があります。
不妊原因が抗リン脂質抗体症候群による不育症と診断されたあとに何度か体外受精を行い、妊娠判明後に不育症治療としてヘパリンとアスピリンを処方されていますが、やはり結果は流産。「不育症治療で85%の人が赤ちゃんを抱っこできる」と言うのなら、不育症の治療のため服薬したにもかかわらず流産したという事実をどうとらえるのでしょうか。
「不育症は何度もチャレンジすれば最終的には妊娠できる」という意見もあります。たとえ1回の流産でも皆がこれだけ苦しみ、次の妊娠が怖いというのに「どんどん妊娠すればよい、最終的にはうまくいくのだから」と言っているようなもので、どれだけ人間味のない方針かと私は思うのです。流産原因として胚の染色体異常を考えましょう。
一般的に妊娠の15%が流産し、その半分は児の染色体異常といわれており、当院の流産の70~80%は染色体異常でした。よって流産の8割は染色体異常であるので、流産しない可能性が高い良好な受精卵を1個見つけて移植できる着床前診断という選択肢をなぜ考えないのか。染色体が正常な胚だけを移植し、流産というつらい経験が1回でも少なくなる可能性が高い治療を提案するほうが自然な流れではないでしょうか。


知りたくないことまでわかる染色体検査は慎重に行うべき


不育症治療で改善しないのなら、そもそもの方針が間違っているということで、まずやるべきは夫婦の染色体検査です。しかし、この検査はよほど信頼に値する施設で行わなければなりません。当院では検査希望の夫婦には必ず二人そろってカウンセリングを受けてもらいますが、1時間ほど時間をかけて話をすると「やっぱり検査しません」という夫婦もいます。
染色体検査は遺伝子を調べるため血縁に関係し、変えることができない一生のものが明らかになります。流産原因を探るためだったのに、それ以外の病気や将来の病気が見つかる検査でもあります。夫婦どちらかに異常が見つかった時、どうするのか。知らないままというのも可能だが、知りたいか。最終的に検査を受ける・受けないは夫婦二人の同意のもとですが、何をどう決定して、その先どうするかを決める前には必ずセカンドオピニオンも受けなければなりません。染色体検査はそれほどのものであることをしっかりと認識しなければなりません。
40歳以上は卵子の老化が原因の染色体異常が8割はあり、妊娠できそうなきれいな受精卵が10個できても出産までたどり着けるのは1〜2個程度。着床前診断が今よりも受けやすくなる方向で議論が進んでいますが、確率的にはそういう年齢に達しているということも知っておかなければなりません。


最も優先すべきは二人の関係。悩んだら常に原点を思い出して


治療の回数や費用を決めるなど、区切りはもちろん必要です。しかし、納得したつもりでも、その結論を受け入れられるまでにはとても時間がかかります。当院でも、治療をやめた元患者さんの話を聞く会を開催していますが、5年、10年経ってようやく話せるようになったという人がほとんどです。後悔し、平常心を保てないことを当然だと受け止めながら時間が経つうちに、ふと、受け入れる瞬間が訪れるのでしょう。
夫婦の生きがいは子どもだけではありません。この人と一緒に暮らせたら楽しいだろうと思って結婚しましたよね。そして、次第に子どもがいたらいいなと考えるようになったけれど、できないから治療を始めたのではないでしょうか? 子どもは夫婦の生活のなかの楽しみの一つでしかないはずなのに、治療で二人の関係が悪くなったら元も子もありません。二人がどう過ごしてきたか振り返り、不妊治療の経験も時間もこの先の長い人生をどう生きていくのかにつなげていただきたい。夫婦二人の原点を決して忘れないでくださいね。


TOPICS
体外受精における初期胚は形態は良好でも約70%は染色体異常ですが、原因のほとんどが染色体不分離(染色体の対に数の過不足が生じること)といわれ、女性の年齢が上昇するほど確率が高くなります。着床前遺伝子診断では、受精後5日目の受精卵から4~5細胞を取り出して染色体検査を行い、異常がなければ子宮に移植。現状、実施には日本産科婦人科学会の症例ごとの承認が必要です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーをはじめ重い遺伝性疾患の遺伝子診断と、夫婦のどちらかが均衡型染色体構造異常の保因者かつ習慣流産を経験している場合と定められています。



出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.41 2019 Spring
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