【特別対談】精子力を考える
コラム 不妊治療
【特別対談】精子力を考える
世界の精子数が減少しているといわれるなか、注目を集めているのが精子機能の研究です。獨協医科大学埼玉医療センター 泌尿器科医 岡田弘先生とHORACグランフロント大阪クリニック 森本義晴先生に精子力を上げる取り組みについてお伺いしました。
※2019年5月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer」の記事です。
- まとめ
- 今こそ精子の力を見直す時。
男性も自分の精子に関心を!
世界の精子数が減少している?!
ーー今、世界の精子数はどうなっているのでしょうか?
岡田先生●正確な精子数を把握することは難しいのですが、世界50カ国の精子データを集計したメタアナリシス(調査期間:1970〜2010年)によると、この40年間で精子濃度は52%、総精子数は59%減少しています。原因は一時期、環境ホルモンの影響とも言われましたが、本当のことはわかっていません。
森本先生●環境的な要因をはじめ、社会がますます複雑になり、人々のストレスは増える一方です。いろんな要因が絡み合い、精子数が減少しているのではないでしょうか。
ーーそれぞれの医療現場での印象はいかがですか?
岡田先生●国内には男性不妊の人が約80万人いるとされ、当センターの診察数は年間1000〜2000人で推移しています。もともと男性不妊の患者さんを対象にしていますので、大きな変化は感じにくいですね。
WHO(世界保健機関)の検証では、不妊原因の約半数は男性側にあり、お子さんがいないカップルの割合は5組に1組となっています。ただ、このデータからは、お子さんを望んでいたのか、いなかったのか、といった詳しい背景まではわかりません。
森本先生●不妊治療に30年以上携わっていますが、これまで男性側に要因がある症例は30%程度でした。しかし、最近はその割合が50〜60%と高くなっています。私の印象では、男性不妊は間違いなく増えていると思いますね。
35歳を分岐点に精子は老化していく
ーー近年、精子についてわかってきたことはありますか?
岡田先生●精子が卵子を活性化する能力を調べた結果、後で詳しくお話ししますが、ある特定の人が35歳を超えると、その能力が低下することがわかっています。
森本先生●卵子の中に入った精子は、その後、卵子が精子を受け入れるための活性化のトリガーになっていて、その役割は大きいですよね。
岡田先生●極端な話をすると、男性は精子力が「高いグループ」と「低いグループ」に分けられます。高齢になってもお子さんを授かれるのは前者の人。一方、後者の人は妊娠の可能性そのものが極めて低い人です。しかし、精子力が低いグループのなかでも、早期であれば妊娠の可能性があります。その分岐点が35歳という年齢です。精子は毎日つくられるので、加齢の影響を受けにくいというのが定説でしたが、過去に妊娠歴のない、精子力の低いグループの人に関しては、加齢が少なからず影響することが明らかになってきました。
森本先生●体外受精の妊娠率は50~60%程度で、近年はそれ以上の成果が出ていません。それは男性側の要因が関わっているからで、岡田先生の最新研究では、男性も早めの妊活が必要だとわかりました。産婦人科医も精子への認識を改め、泌尿器科医と連携して妊娠率を押し上げていくことが大切です。
岡田先生●男性は早めの精液検査をおすすめします。まずは自分の精子の状態に関心をもつことが大事で、できれば結婚前の男性にも検査していただきたい。さらに、奥様からもご主人に「検査してみたら?」と躊躇せず言える時代が来るといいですね。
森本先生●たとえば、進行性の無精子症は、最初の精子所見が正常でも1年後に精子数がゼロになることがあります。これを早期発見できれば、精子をストックすることもできますよね。
岡田先生●また、精巣がんの確率は10万人に1人ですが、不妊症の患者さんでは1000人に1人の確率で見つかっています。ただ、精巣は体の外側にあるので、初期のがんならエコーですぐに発見できます。
森本先生●そういう意味でも受診の機会が増えるのはいいことですね。
採取した精子の運搬に有効な「トランスポーターS」とは
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer
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