良好な胚を何回移植しても陰性ばかり続きます
コラム 不妊治療
良好な胚を何回移植しても陰性ばかり続きます
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※2019年5月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer」の記事です。
- にこさん(28歳)からの相談
良好な胚を移植しても陰性ばかり - 体外受精のため2回採卵しました。1回目は評価の高い胚盤胞が1つでき、それを移植しました。陽性でしたが9週目で流産。調べたところ偶発的な染色体異常だったようです。2回目は評価の高い胚盤胞が7つ育ちましたが、陰性ばかり。良好といわれた胚盤胞なのに、何度も陰性って普通ですか? タイミング法や人工授精も経験しましたが、いつも化学流産でした。不育症や子宮鏡検査もしましたが、とくに問題なしとのこと。移植することに対して、自信がどんどん消失しています。
- まとめ
- ●2回目の移植以降に子宮内環境が変化し、反復着床不全になっている可能性が。
●ご夫婦の染色体異常、子宮内膜の状態を調べるオプション検査がおすすめです。
一般的に良好な胚を移植した場合の着床率を教えてください。また、にこさんのように良好な胚を移植しても陰性が続くのはなぜでしょうか。
当院では35歳未満の方にグレードの高い胚盤胞を移植した場合の着床率は70%です。
にこさんは、採卵1回目は胚盤胞が1つできたので新鮮胚移植をされた可能性があり、2回目は7つの胚盤胞が育っていますので、凍結融解胚移植と推測します。1回目の移植ではある程度まで育っていますから、2回目以降に子宮内膜に何らかの問題が生じ反復着床不全になった可能性があります。
反復着床不全について教えてください。
海外の定義になりますが、40歳未満の方が良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合は、反復着床不全と考えられます。そのおもな原因は「受精卵の問題」と「子宮内環境の問題」です。
受精卵の問題では、年齢に関係なく、ご夫婦のどちらかに「転座」や「逆位」と呼ばれる染色体異常が見つかることがあります。当院にもこういう方は時々いらっしゃって、珍しいケースではありません。染色体異常が見つかった場合は、受精卵の異常や流産の原因につながる可能性はあるものの、一方で諦めずに移植を繰り返していくことで、最終的に元気な赤ちゃんを授かる可能性も十分あります。ご夫婦の染色体検査をはじめ、今後は「PGD(着床前診断)」「PGS(着床前スクリーニング)」などで受精卵の染色体異常を調べて、正常な受精卵を移植する方法が有効な手立てになると思います。
次に子宮内環境の問題ですが、にこさんは子宮奇形の有無、免疫の異常、ホルモンの異常、血液の固まりやすさを調べる不育症検査では問題なしとのこと。でしたら、子宮内膜の着床に適した期間(着床の窓)を調べる「ERA(子宮内膜着床能検査)」、子宮内膜の細菌の種類と量のバランスを調べる「EMMA(子宮内マイクロバイオーム検査)」、不妊症・不育症の原因の一つとされる慢性子宮内膜炎を調べる「ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)」などの検査が有効かもしれません。
今後の治療についてアドバイスをお願いします。
すでに何度も移植されていますので、このまま何もせずに移植を繰り返すよりは、先ほどお話しした検査(ご夫婦の染色体検査、ERA、EMMA、ALICE)を受けられたほうがいいと思います。1回目の新鮮胚移植と2回目の凍結融解胚移植では「着床の窓」の開く時期が違っている可能性があります。たとえば、ERAで個々の着床時期を特定し、最適なタイミングに胚移植することで妊娠に至る可能性があります。また、ALICEで着床の妨げになるとされる子宮内膜炎が確認できれば、お薬の服用で改善できます。このような新しい検査を受けることで、有効な治療法が見つかることもありますから、一度検討されてみてはいかがでしょうか。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer
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