青葉レディースクリニック産婦人科医 小松一先生の妊娠前 に始める 母親教室
コラム 女性の健康
※2019年8月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn」の記事です。
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【第3回】卵巣囊腫について - 卵巣囊腫(のうしゅ)とは卵巣腫瘍の一つです。「囊」は「袋」という意味で、卵巣の中に袋ができて、その中に液体が溜まって、囊胞状の腫瘍になったものです。子宮筋腫と並び、最も発生頻度が高い婦人科腫瘍の一つです。
卵巣囊腫の種類について
卵巣囊腫は囊胞内の内容物の性状によって、大きく4つに分類されます。
【1】漿液(しょうえき)性囊胞…比較的、サラサラした無色に近い分泌液が充満し、多くは単一の囊胞として発生。最も多くみられるタイプです。
【2】粘液性囊胞…漿液と同じく無色に近い色調ですが、粘性の高い液体が充満しています。多房性といわれ、囊胞が多発していることが多いです。
【3】内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)…子宮内膜症が原因で、卵巣内にチョコレート状の古い血液が貯留しています。両側性で、多発していることもあります。卵巣周囲の臓器、卵管、子宮や腸、腹壁と癒着し、不妊症の原因となります。
【4】皮様囊腫…脂肪組織や毛髪、歯や骨の一部が入っている腫瘍で、奇形腫とも呼ばれます。若年で見つかることが多いですが、大きくなり、悪性転化をすることもあります。
症状、検査方法について
ほとんどは無症状で、大きく腫れると腹部膨満や、直接、腫瘤を触知することもありますが、多くは月経不順、不正性器出血、下腹痛を主訴として来院し、超音波検査で初めて発見されます。卵巣腫瘍では良性・悪性の鑑別が重要です。正診率は約90%といわれています。
超音波検査ではサイズ、内容物の性状のほか、囊胞が単一(単房性)、あるいは複数(多房性)であるかどうか、多房性の場合は隔壁が厚くないか、特に、腫瘍内部に充実部と言われる固形成分がないかどうかを入念にチェックします。卵巣囊腫の多くは良性腫瘍ですが、充実成分がある場合は悪性腫瘍や境界悪性腫瘍が疑われるため、腫瘍マーカー(血液検査)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの精密検査を実施します。
なお、排卵前の卵胞が腫れると「遺残卵胞」、排卵後の卵胞=黄体が腫れて内部に出血を生じると「黄体血腫」と呼ばれる、一見、腫瘍性病変を認めることがあります。いずれも機能性囊胞と呼ばれ、その多くは月経再開後に自然に縮小していきます。
また、閉経後に見つかった卵巣囊腫は自然に小さくなることはありませんので、今後、大きくならないか、定期検診が必要となります。
治療について
治療は外科的切除が第一選択です。小さな卵巣囊腫ではサイズや充実部の出現に注意して、3~6カ月ごとに定期検診をします。急に大きくなったり、内容物の性状に変化が起きたり、腫瘍マーカーが高値の場合は悪性転化も考えられるので、手術療法を前提として、精密検査を実施します。特に、径6cmを超えるような大きな卵巣囊腫では「茎捻転」といい、卵巣囊腫を含む卵巣が捻れて、劇烈な痛みが発生し、緊急手術が必要となることがあります。この場合、卵巣全体が壊死をしていると腫瘍だけでなく、卵巣全体を摘出しないといけなくなるため、手術の至適時期は慎重に検討する必要があります。
卵巣チョコレート囊胞では、大小にかかわらず、卵巣周囲に内膜症病変を認め、周囲の臓器と卵巣卵管が癒着していることがあります。この場合、卵管閉塞などにより、不妊の原因になることがありますので、なかなか妊娠しない場合は子宮卵管造影検査をして、卵管の疎通性、卵巣周囲の癒着の有無を確認したほうがいいでしょう。卵管が閉塞している場合はマイクロサージェリーで卵管を開通させ、腹腔鏡で癒着剥離をします。従来、妊娠に伴い、内膜症病変は軽快するといわれていましたが、最近、妊娠中に増悪する可能性が指摘されています。囊胞のサイズや位置によっては妊娠中、あるいは分娩中に破裂する場合があり、慎重な対応が求められます。
- 先生から
妊娠中の卵巣囊腫について - 排卵誘発治療後に見られる遺残卵胞や黄体血腫は大きいことがあり、これらは妊娠経過に伴い、縮小することが多いのですが、最近、「茎捻転」を起こし、緊急手術に至った症例を経験しました。痛みが強い場合はかかりつけ医に相談しましょう。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn
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