柴苓湯には体温を下げる作用があるのですか?
コラム 不妊治療
柴苓湯には体温を下げる作用があるのですか?
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※2019年11月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter」の記事です。
- あいぽんさん(28歳)からの相談
▶流産予防での柴苓湯服用について - 1年半の間に初期流産を2回経験。その後、不妊治療専門病院に通い始め、流産原因を調べましたが、異常なしとのこと。そして、流産予防で柴苓湯を処方されました。しかし、飲み始めた後の周期では子宮内膜や卵子の成長が今までにないくらい遅くなり、基礎体温は上がらず、生理も遅れ、月経血の量も少なかったんです。排卵はしたようですが、今までにないくらいの体の状態の悪さ……。服用について疑問をもち始めました。たまたま行った漢方薬局に相談したら、「柴苓湯は体温を下げることがあり、飲んで基礎体温の状態が悪いなら体に合っていないのでは」といわれました。柴苓湯は流産予防の変化球の治療ともいわれ、今は服用を見合わせています。
- まとめ
- ●柴苓湯は特に免疫に問題がある習慣性流産の人などに用いる漢方薬。
●漢方薬には内臓など深部の体温を下げる作用はありません。
柴苓湯とはどんな漢方薬なのですか。
柴苓湯は2つの漢方が合わさったお薬。柴胡というストレスを緩和する作用をもつ生薬があるのですが、それから成る小柴胡湯と五苓散の合方になります。
どんな方に処方されますか。
柴胡には炎症を落ち着かせるステロイド様の作用、五苓散にはむくみを取る作用があります。これらを合わせた柴苓湯の内服で免疫が調節されることを期待して、自己免疫疾患など特に免疫に問題があってなかなか妊娠できない方、妊娠しても流産してしまうような方に用いることがあります。
ステロイドというと少し怖いイメージを抱く方もいるかもしれませんが、柴苓湯はステロイドホルモンを直接分泌させるわけではなく、脳のレベルで調整することによって分泌を正しい方向へもってくのではないかと考えられています。
あくまでも「ステロイド様」の働きということで、ステロイド薬のようにムーンフェイスや肥満、ニキビなどの副作用が出ることはありません。
では、柴苓湯に関しては副作用を心配する必要はありませんか?
柴胡という生薬が入っている漢方薬は、まれに間質性肺炎を起こすことがあるという報告があります。症例としては非常に少ない。私は漢方医として20年ほど患者さんを診ていますが、一度も経験したことはありません。また、五苓散には利水作用があり、このお薬を服用すると尿量や排尿回数が増える方がいらっしゃいます。ただ利尿剤ではないので、体が脱水するまでどんどん尿を排出するわけではなく、水分が多い所は乾かして、乾いている所へは水分を与えてあげるような作用。心配される患者さんにはそのように説明しています。
体温を下げてしまう働きもあるのでしょうか。
柴苓湯には体温を下げたり、発汗させるなど、体温を調節する作用がある生薬は含まれていません。基本的に、深部の体温に影響する作用はどの漢方薬にもないのですね。葛根湯などは服用すると汗が出て体温が上がったり下がったりすることがありますが、それはあくまでも体表の温度。漢方薬を飲んで内臓の温度が下がることはないので、卵巣などに影響を与えることはありません。
柴苓湯が原因ではなく、もしかしたら流産が続いてしまったストレスが高じて不調を招いてしまったのでは? 漢方薬を含め、お薬を服用する時は医師の説明をしっかり聞き、安心した状態で飲むことが大切です。柴苓湯は不育症や習慣性流産の方だけでなく、多囊胞性卵巣症候群などがある不妊症の方にもおすすめのお薬。心配されることはないでしょう。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter
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