41歳という年齢だけで体外受精をすすめられるのは普通なのでしょうか?【40代の不妊治療】
コラム 不妊治療
41歳という年齢だけで体外受精をすすめられるのは普通なのでしょうか?【40代の不妊治療】
夫50歳、妻41歳で妊娠を考え始め、不妊専門医に相談したところ急に体外受精をすすめられた…。年齢で治療方針を決めるのは妥当なのかファティリティクリニック東京の小田原先生に伺います。
※2019年11月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter」の記事です。
- ルビーさん(41歳)からの相談
●相談内容 - 主人の連れ子や年齢(50歳)もあり、最近、妊娠できる体なのか診てもらいたく受診しました。そこで年齢を伝えると「すぐに体外受精をするほうがいい」といわれました。理由として卵巣は高齢になるほど妊娠できる可能性が低くなるとのこと。また、体外受精をしなければ私の卵子の状態もわからないといわれ、その時は合理的な考えなのかなと思いマニュアルだけもらい帰宅しました。そこで①年齢だけで体外受精(自然周期法)をすすめるのは性急では? ②体外受精を2回して無理だったら諦めたほうがいいといわれたが、これは妥当か? ③体外受精での妊娠、出産のリスクは伴うのか? また子どもに何か障害が出やすいか? について教えてください。
●これまでの治療データ
【検査・治療歴】
なし
【妊娠歴】
なし
【精子データ】
連れ子(2人)がいるため、過去に妊孕性はあり
【サプリメントの使用】
なし
- まとめ
- ●BMIが19未満の痩せすぎも不妊の原因に。
●卵子が採れていれば治療の継続は可能。
●刺激法の変更や初期胚の移植も試しては。
ーーまず、41歳で初めて不妊治療専門医に行って体外受精をすすめられることは唐突なのかどうかを教えてください。
ルビーさんが、今後本当に実子が欲しくなり「出産」をゴールと考える場合、やはり41歳という年齢はハンディになります。加齢と妊孕性について、なかなかイメージしづらいかもしれないので、妊娠を希望される方が妊娠に至るまでの月数についてお話ししましょう。20代前半では3周期、30代後半では12周期(1年間)、そして40歳を過ぎると16周期かかるというデータがあります。なぜ年齢を重ねるごとに時間がかかるかというと原因は卵細胞の質が低下するからです。そしてそのなかの大きな要因は、卵子の染色体異常になります。これは、体外受精をしたとしてももちろん同じことで、卵子1個あたりの染色体異常は増えます。
一方男性の不妊率については、年齢にあまり影響されません。それは、卵子は生まれもった数からどんどん減っていくのに対して精子細胞は日々新しいものができるからです。ルビーさんのご主人は50歳ということですが、過去にお子さんを授かっていらっしゃることを考えると過去に妊孕性はあったと思われます。当院でも40歳を超えた患者さんは多くいますので、決して諦める年齢ではありませんが、出産を望むのであれば、ルビーさんはやはり何周期も時間をかけて自然妊娠を待つよりも、最初から体外受精をすすめられるのは決して間違いではありません。現に、高齢なのに体外受精をすすめられなかったという訴訟問題も起きている昨今です。当院でしたら、このような情報も積極的にお伝えしたうえで、体外受精をおすすめしています。
──体外受精でも自然周期をすすめられたようですが、こちらはどうですか?
これについては、人それぞれ卵巣機能やホルモン数値が違うので、まずは最初のスクリーニング検査(血液検査、ホルモン検査、卵管造影検査など)を受けていただき、今ルビーさんにとって何個の卵子が必要になるのかを考えるべきですね。ただ、採卵1個に対して出産に至るまでの確率が35歳を過ぎるとまるで直滑降のように落ちていくというデータもあるので、年齢を考えると高刺激法でまずは1回の採卵でたくさん卵子を採り、凍結しておくという方法もひとつです。ただ、たとえばFSHの数値が高いなどの要因があれば、低刺激法を考えることもあります。また、自然周期か刺激周期かとなった場合、必ず卵子の質が落ちるか? という質問を受けますが、胚盤胞の状態で染色体異常の確率は変わらないというデータがあるので、その人にあった刺激法を考えるべきだと思います。
ーー41歳で体外受精を2回トライしたら諦めたほうがいいのでしょうか?
2016年の日本産科婦人科学会の年齢別の治療成績では、41歳ですと妊娠したとしても残念ながら半分は流産してしまい、実際の妊娠率は7%という結果です。体外受精をした場合、移植まで順調に進んだとすると妊娠率は22%になりますが、決して高い数字ではないので、2回で諦めるというのは難しいと考えます。
ただ、治療にはお金もかかりますし、すでにお子さんがいらっしゃること、赤ちゃんを産む選択をした場合、成人するころにご主人は退職を迎えているかもしれない…などの事情を考えたうえで、ご夫婦でどこまで治療を頑張るか、ラインを引くことを考えるのも必要ではないでしょうか。
ーー最後のご質問にある、体外受精での妊娠、出産のリスクがあるのか、また生まれてくる子どもに障害が出やすいなどは実際にありますか?
まず、体外受精でも自然妊娠でも40歳以上の妊娠、出産はリスクがあります。たとえば年齢を重ねるにしたがい血管が硬くなりやすいので、血流がうまくいかずに赤ちゃんの育ちが悪い、また子宮の伸展性が悪いと難産になりやすい、などもあります。そして体外受精自体もハイリスクだといわれていて、前置胎盤、前置血管の数値は5〜6倍になるといわれています。さらには、妊娠高血圧症、妊娠糖尿病、胎盤早期剥離、帝王切開の確率も上がってきます。
また、原因にかかわらず体外受精を受けると、最初に産科に行った時点で“ハイリスク”としてポイントでいうと3点加算されます。だからといって、諦める必要はまったくありません。なぜなら日本は世界でも高い水準の産科がそろっていて、周産期死亡率がとても低いからです。ですので、高齢出産の場合は、体制がきちんと整った産科を選び、妊娠後の血液検査、羊水検査、超音波検査などのスクリーニング検査できちんと経過を診てもらうことが必要ですね。
もう一点、生まれてくる赤ちゃんの先天性異常ですが、自然妊娠だと3%、体外受精だと3%ちょっとと若干高くなるようです。これは体外受精で培養したなどの要因ではなく、その方の治療を必要とした背景がかかわってくると考えられています。
ルビーさんの場合は、年齢はもちろんご家族の構成も考慮して、よくご主人とも相談されたうえで、治療を受けるべきかどうかをぜひ話し合ってみてください。
- 先生から
- 体外受精をすすめられるのは特別ではありません。
リスクも考えてご主人とぜひ、話し合いを。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter
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