【特集】知識を最大の武器にして、納得のいく病院選びを【良い病院の選び方】
コラム 不妊治療
【特集】知識を最大の武器にして、納得のいく病院選びを【良い病院の選び方】
前号「不妊治療の実際」~2000人アンケート調査より~ では、不妊治療はクリニック選びが難しい! という実態が浮かび上がりました。いい病院を選ぶためにどんなデータや情報に注目するといいのか? 応援ドクターに取材しました!
※2020年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring」の記事です。
- Advice
- データの矛盾や整合性に気づき、
理解する力を身につけましょう
データを正確に読み、最善の病院を選びたい
日本産科婦人科学会(日産婦)が公開している“平均的な”妊娠率を知っていますか。年齢ごとの妊娠率などを常識として把握しておき、病院を選ぶ時にその施設が出しているデータと照らし合わせてみることです。すると、たとえば一般的には何%なのに、かけ離れた数値が出ていれば「これはおかしいんじゃないか」と判断がつきます。
当院では開院当初から情報公開を重要視しています。それは患者さんが治療を選択するうえで非常に大切なものだと考えているからです。しかし、患者さんがホームページなどで簡単に調べられるのがメリットである反面、データの見方がわからずに本当の情報かどうかの判断がつかないまま病院を選んでいることが多いのも事実。日産婦と各施設の公式サイトのデータが違うことも残念ながらあります。だからこそ、自身が勉強すること、そして注意して見ることで、気づけることがたくさんあるということを自覚しましょう。
治療周期あたり4%が胚移植あたりなら30%に!
その一つの目安として必ず確認していただきたいのが公開されているデータの分母と分子。妊娠率と一言で言っても分母が異なれば比較できません。分母は何か、分子は何か。それを提示しているかどうかが患者さんにとって一番重要な情報です。よく見かけるのは、分母=胚移植あたりの妊娠率ですが、胚移植ができる受精卵が得られれば、どの施設でも平均して30%は妊娠できます。通常の調節刺激周期法では、たいてい移植キャンセルはなく、移植周期数は治療周期数と同じで分母が移植周期あたりでも治療周期あたりでも 妊娠率は30%くらいですが、採れる卵子の少ない自然周期法や低刺激周期法では、胚移植あたりの妊娠率は30%くらいでも、分母を治療周期あたりにすると妊娠率は4〜7%といわれています。明らかに違いますよね。
通常、10〜15個の卵胞を育てることを目指して排卵誘発します。たとえば卵胞が10個できると、その中に卵子が入っている割合は8割で8個。受精率は体外受精でも顕微授精でも7割なので受精卵になれるのは8個中5個。そこから胚盤胞まで育つのは4割の1個か2個。10個採卵できれば1個は戻せるという計算です。ドロップアウトせずに胚盤胞まで育ったものを移植するのだから、胚移植あたりの妊娠率が高いのは当然と理解できるでしょう。一つのクリニックの年間のデータとしては同じものですが、分母が違えばこれだけの差が出ることを、ほとんどの人は知りません。だからこそ、「治療周期あたり」が重要であり、ご自身が通っている施設がそのデータを出していなければ問い合わせ、明確な答えがなければ転院をおすすめしたいですね。
いよいよ始まる着床前診断患者さん自身も勉強を
日本では、不妊治療を行っている施設が世界的に見ても多く、東京都内だけでも100を超えています。その中からどこを選ぶのかはとても難しく、テレビコマーシャルで見かける、街中で広告が目に入るなど、視覚的に訴えかけてくる施設を選ぶ人も多いでしょう。ほかの病気なら、日常的におすすめの病院を教え合ったりできますが、こと不妊治療に関しては生きた情報交換ができるチャンスは滅多にありません。だから自分で探すしかなく、間違った選び方をしてしまいがちです。生殖医療専門医でなくても治療ができるというのも問題ですが、患者さんがそれを知る由もありません。それに関しては我々生殖医療専門医、生殖医療専門施設の責任でもありますから、改善されるよう強く訴えていきたいと考えています。
今年、いよいよ着床前診断が行われるようになり、日本の生殖医療も新たな転換期を迎えるでしょう。遺伝子レベルで詳細なデータがわかるようになるということは、施設側は今まで以上に正確なデータを公開し、患者さん側もそのデータを読み解く力が必要になります。不妊治療は専門的な言葉も多く難しいと思っている人も多いでしょうが、知識をもつことは治療を受けるうえでとても大切なこと。初歩的なことから段階を追って、積極的に勉強していただきたいですね。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring
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