着床率を上げるための子宮内膜検査
コラム 不妊治療
着床率を上げるための子宮内膜検査
良質の胚を何度移植しても着床しない着床不全ですが、新しい検査により原因特定の可能性が高くなっています。この検査を2年前から導入している亀田IVFクリニック幕張の川井清考先生と、なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生にお話を聞きました。
※2020年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring」の記事です。
内膜日付診よりさらに精度を高めた先進検査
ERA(エラ)遺伝子レベルで最適な着床時期を解析
子宮内膜着床能とは、子宮内膜が受精卵を受け入れる状態のことを指し、受精卵が着床できる子宮内膜の受容可能な時期を「着床の窓」と呼んでいます。
体外受精において良好な受精卵を複数回移植しても妊娠に至らないなど、原因不明の反復着床不成功例ではこの「着床の窓」が最適な時期でないことがあります。ERA検査では、移植当日の子宮内膜が着床可能な状態にあるかどうかを遺伝子レベルで調べることができます。
子宮内膜の進み方を調べるという考え方は以前からあり、当院でも1990年代頃から内膜の組織を採って分析する日付診という検査を行ってきました。確かにこの検査で内膜の受容期を確認できるケースもあるのですが、読み切れない部分もあり、どうしたらいいのかと考えていた時にERAという先進的な検査がローンチされ、早速当院でも導入することにしました。
2018年にERA検査を開始し、これまで150例以上の実績があります。当院の場合、2回良好な受精卵を移植して結果が出なければ、ほぼ全員の患者さんがERA検査を受けています。決して特殊な検査ではなく、治療の流れに組み込まれているんですね。
1回の着床不全でも2割以上の人にずれを確認
検査料は薬代などを含めて約15万円前後。高額な印象がありますが、これをどう考えるか。移植の費用もだいたい同額くらいです。検査をせずに移植して失敗してしまうよりも、検査をして原因を1つ潰すことができて、それが妊娠への糸口になるかもしれないと考えると、価値は十分にあるのではないでしょうか。
アジアのデータでは1回の着床不全の段階で23%くらいの人が24時間以上の「着床の窓」のずれがあるという結果が出ています。このずれを考慮して移植することで着床・妊娠の確率が高まるというのは、当院のデータにも顕著に反映されています。ただし、受精卵の状態やずれの幅で移植の最適なタイミングも微妙に異なってきますから、医師側も解析結果を正しく理解し、各症例に合わせて細やかに判断する力を身につけることが必要になってくるかと思います。
「着床の窓」を特定するERA検査
形態が良好な受精卵を2回以上移植しても着床しない状態を「反復着床不全」といいます。その原因は、受精卵側、子宮側、その両方などさまざまです。その原因を特定する一つの方法として注目されているのが、子宮側の因子を調べる3つの検査「EndomeTRIO(ERA、EMMA、ALICE)」です。
ERAは最適な移植の時期である「着床の窓」を調べる検査です。これまで着床可能な時期である「着床の窓」が開くのは、黄体ホルモンの分泌が始まって5日目とされてきました。しかし、ERAによって5.5日目(12時間遅れ)や6日目(24時間遅れ)など、いわゆる着床の窓がずれている方が着床不全の方のうち約37%いることがわかりました。このような方には、検査で特定された移植の時期にあわせて、黄体ホルモン剤であるデュファストンⓇというお薬の開始時間をずらしたり、移植の日を調整して、着床率や妊娠率を高めることが期待できます。
治療が困難な着床不全にも高い確率でいい結果が!
当院では2018年から70名の難治性の反復着床不全の方(平均年齢38歳)にERAを実施し、約30%の方が妊娠されています。平均年齢や受精卵側の問題など子宮以外の原因も考えられるため、この結果はかなり高い確率といえます。
印象的だったのは、はじめてERAをご提案した40代の方の例です。一人目を新鮮初期胚で妊娠・出産されて、二人目を希望されていました。良好な胚盤胞を凍結していたのでそれを移植すれば、すぐに妊娠されると思っていましたが、2回移植しても結果が出ません。そこでERAを行ってみると「着床の窓」が12時間遅れていることがわかりました。ERAの結果に従ってデュファストンⓇを12時間早く開始し、移植するとすぐに妊娠されました。それまでは「12時間のずれは、誤差の範囲なのでは?」と半信半疑でしたが、その後も同様の結果が続いていて、検査の正確性を実感しています。
着床の窓以外の子宮内環境も同時にわかる「EndomeTRIO」
EndomeTRIO(エンドメトリオ)着床しやすい環境をつくるための3つの検査
EMMAとALICEは「着床の窓」以外の子宮内環境を調べる検査です。EMMAは子宮内膜の細菌環境を調べる検査です。子宮内は、ラクトバチルス(乳酸桿菌)という腟内にもいる常在菌が多い状態が好ましいとされています。また、ALICEは着床不全の原因の一つとされる慢性子宮内膜炎の原因菌を特定する検査です。原因菌の種類が特定できるので、より的確な抗生剤で確実に治療できます。
3つの検査は一つの検体で同時に行うことができます。検査方法は次世代シークエンサーという機械を用いた遺伝子解析によって行います。この方法は、従来にない特異度の高い(正確な)方法といえます。
これらの検査をする周期には移植の時と全く同じ手順で子宮内膜を調整します。そして、従来胚移植をしていた日に子宮内膜を少量採取します。つまり胚移植をしていた時と全く同じ条件、環境の子宮内膜を採取するわけです。結果は2週間程度でわかります。当院では良好な胚を2回以上移植しても妊娠が成立しない方におすすめしていますが、凍結している胚が少なく移植前の子宮内環境がご心配な方にも、着床率を上げるための選択肢の一つとして提案しています。移植を漫然と繰り返すのではなく、このような検査で早く原因を特定することが大切です。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring
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