【特別企画:彼と彼女のもう一つの選択】特別養子縁組という選択肢を知ってほしい
コラム
不妊治療
【特別企画:彼と彼女のもう一つの選択】特別養子縁組という選択肢を知ってほしい
特別養子縁組という選択肢を知ってほしい「生後5日の息子を迎え入れ、私たち夫婦は幸せになりました」
2020.9.4
あとで読む
俳優の瀬奈じゅんさんと千田真司さん夫婦は2年半に及ぶ不妊治療を経て、
特別養子縁組で迎えた長男を育てています。
不妊治療の一つの選択肢として特別養子縁組制度があることを早い段階で知ってほしいと、
積極的に啓発活動にも取り組んでいます。お二人にお話を伺いました。
※2020年8月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.47 2020 Autumn」の記事です。
瀬奈じゅんさん
せな・じゅん/元宝塚歌劇団月組トップスター。2009年に退団後は女優として活躍。舞台やテレビ番組、ラジオなど多方面で活動。
千田真司さん
せんだ・しんじ/ダンサー、俳優。自らのスタジオを持ち、振付師としても活躍。2018年にandfamily株式会社を立ち上げ、特別養子縁組の啓蒙活動を始める。
※お二人の共著『ちいさな大きなたからもの~特別養子縁組からはじまる家族のカタチ』(方丈社)好評発売中。
特別養子縁組制度とは、何らかの理由で実親と暮らすことが難しい子どものための制度。15歳未満の子どもと、子どもが欲しい夫婦を縁組し、戸籍上の親子として子どもが安定した家庭環境で育つことができるよう定められたものです。瀬奈じゅんさん、千田真司さん夫婦はこの制度を利用し、生後5日目の男の子を迎え入れました。自分たちの仕事上、憶測による誤解が広まってしまうと後々、子どもが傷つくことになりかねない、そんな懸念から二○一八年に公表しました。
不妊治療のさなかに特別養子縁組制度を知る
舞台での共演で知り合い、結婚。その時、瀬奈さんは38歳。年齢的にも体外受精から始めたほうがいいという医師に従い、不妊治療を開始しました。しかし、思いのほかうまくいきませんでした。
治療を始めて半年経った頃、千田さんは「特別養子縁組という方法もあるんじゃないかな」と切り出します。ずっと不妊治療で苦しんでいる瀬奈さんを見てきたため、これ以上つらい思いをさせたくないと考え、別の選択肢もあることを伝えようとしたのです。しかし、瀬奈さんはその言葉を受け入れることができませんでした。「なぜ今、そんなことを言うの? あなたの子どもが欲しくて頑張っているのに」。思わずそう口走ってしまったそうです。
千田さんは、大事なのは瀬奈さんの気持ちと考え、待ちました。
「不妊治療は長くなればなるほどやめるタイミングを失います。ここまで頑張ってきたからやめようと思っても、次で授かる可能性がゼロではない。そこに賭ける気持ちもわかる。でも、どこかで話さないとって思っていました。結果的に妻を傷つけてしまいましたが」
信頼できる支援団体との出会い
半年後、瀬奈さんがようやく特別養子縁組の話に耳を傾けてくれるようになりました。不妊治療を続けながら、二人は特別養子縁組を斡旋する民間団体のホームページもチェック。早速、ある団体の養親希望者向けセミナーに参加することに。いくつかの団体のセミナーを受けるなか、信頼できる支援団体と出会うことができました。
「不妊治療を頑張ってきたことを肯定的にとらえてくれ、そのうえで特別養子縁組制度を考えるのは自然なことと言ってくれた。その言葉に救われました。信頼できると思い、お願いするならここにしようと決めました」(瀬奈さん)
そんななか、瀬奈さんが不妊治療をやめる決意をします。きっかけは友人からの懐妊報告でした。
「よかったねと心から祝福できました。でも、このまま不妊治療を続けていたら、大切な人のうれしい出来事を素直に受け入れられなくなる。それが怖かった」(瀬奈さん)
不妊治療をやめると決めてすぐ養子縁組に、とはならず、二人はさらに話し合いを続けます。大事なことだからです。同時に長い期間、強い薬を飲み続けていた瀬奈さんの体調を考慮してのことでした。
「やっと会えたね」待ちに待った新しい命
やはり子どもを育てたい、特別養子縁組制度で新しい命を迎えると決めた二人は、前出の信頼する支援団体に申請します。一歩前進したことに喜びを感じつつも、瀬奈さんはまだどこかで不妊治療中の精神状態を引きずっていました。
「でも、一つの命が誕生しましたと知らせを受けた瞬間、今までの苦しみがさっと消えました。窓から差す光の色、周りの景色が一気に明るくなりました」(瀬奈さん)
その5日後、二人は産院へ行き、赤ちゃんと対面します。
「不思議なのですが、もし彼女のお腹から生まれていたとしてもこの子でしかなかった気がしたんです。息子と出会った瞬間、僕らは救われました」(千田さん)
不妊治療前に知ってほしい特別養子縁組制度
現在はお互いに仕事をしながらも子育てを楽しむ瀬奈さんと千田さん。「少し前に、息子と初めてディズニーランドへ行ったのですが、人生で一番楽しいディズニーでした。これからも一緒にいろいろ体験できると思うだけでワクワクします。子どもを育てるということで得るもの、学ぶものってすごく大きいと実感しています」と千田さん。しかし、自分たちが特別養子縁組制度で幸せになれたからといって、ほかの人たちにすすめるつもりはないと言います。
「ただ、不妊治療を始めるならこの制度の存在を知っておいてほしいという思いはあります。不妊治療前に医師からこういう選択肢もあると聞いていたら、夫が養子縁組の話をした時も、もっと冷静に受けとめることができたと思うんです」(瀬奈さん)
夫婦で会社を興し、特別養子縁組制度の啓発活動を始めたのも、不妊治療の先にもう一つの選択肢があることを多くの人に知ってほしかったからだとも言います。
「養子だからと息子が指を差されない、そういう社会にしたいという思いもあります。とにかく正しくこの制度を知ってもらいたいし、認知度を高めたいです」(千田さん)
次なる課題は息子さんへの真実告知ですが、自分たちの都合ではなく、息子さんのタイミングで伝えたいと考えているそうです。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.47 2020 Autumn
≫ 掲載記事一覧はこちら
あとで読む