排卵障害、軽度のPCOSです。 どうすれば排卵しますか? このまま人工授精をトライ?
排卵障害、軽度のPCOSです。 どうすれば排卵しますか? このまま人工授精をトライ?
排卵障害、軽度のPCOSです。 どうすれば排卵しますか? このまま人工授精をトライ?
かぐや0707さん(29歳)
排卵障害で不妊治療をはじめて約半年。軽度のPCOSと診断されています。卵管造影検査など検査は一通り済ませ、排卵がうまく起こっていないことが原因だろうといわれています。AMHを測定したところ、3.2という数値で、同世代の女性より低いといわれました。ただ、いろいろ調べてみるとPCOSの人はそもそもAMHが高いと書いてありました。先生に聞くと「PCOSでもたまにAMHが低い人がいる」という的を得ない答えでした。タイミング周期を5回行っても妊娠に至らず、先日、クロミッド®の内服や排卵誘発剤の注射を3回行って人工授精をしたのに、排卵せず生理が来ました。どうすれば排卵するのでしょうか?このまま人工授精をトライする価値はあるのでしょうか?
ジネコ:かぐや0707さんの現在の治療について、どうお考えでしょうか?
向田先生:まず、かぐや0707さんに対して、PCOSという診断がきちんとされているかどうか疑問ですね。本当に彼女がPCOSで排卵障害なのか、どういう理由で排卵障害なのか…。しかし、確定診断の有無にかかわらず、排卵障害を解決する方法はいろいろあります。初めはクロミッド®等の内服剤による治療で、生理初期に1錠5日間から始め、2錠~3錠に増やす場合があります。その後はFSH/hMGなどの、排卵誘発剤を投与します。注射による方法もさまざまな種類があります。患者さんに応じて、それらを組み合わせたりして治療を進め、排卵を誘発していく必要があります。ただそれを、どのような治療に向けて行うかで、一つの卵胞発育を目指すのか、複数の卵胞を発育させるのか、に違いがあります。タイミング法や、精子を子宮内に注入する人工授精の場合、複数(5個以上)を作ってしまうと多胎やOHSSになる危険性がありますが、体外受精の場合は採卵を行うので、複数(10個程度)を目標とします。だから、この場合も、多量の排卵誘発剤を使っていないので、きちんと排卵できていないのかもしれません。また、ある程度、卵胞が大きくなれば、自然に排卵するところ、結局排卵しなかったというケースもあります。かぐや0707さんが、「注射を3回したのに排卵しなかった」とありますが、3回の注射ではうまくいかなかったということでしょう。彼女のような患者さんは、当クリニックにも少なからずいらっしゃいます。一般的な不妊治療も行っている婦人科クリニックでは、タイミング法か人工授精が治療の中心ですので、基本的に1~2個の卵胞発育を目指します。このような目標設定だと、マイルドな誘発方法(数回投与のみ)定だと、マイルドな誘発方法(数回投与のみ)になり、十分卵胞が発育しない可能性があります。逆に、卵胞が複数個(3個以上)になると、通常排卵を起こすために投与するhCGという薬剤の投与量を中止するか、他の薬剤に変更するなどして対応したりする可能性もあるので、適切な排卵が起こらない場合もあります。
ジネコ:では、血液検査で排卵しなかったとありますが、これはどういうことでしょうか?
向田先生:一般的に、排卵前は卵胞ホルモンであるエストロゲンが分泌され、排卵後には黄体ホルモンであるプロゲステロンが分泌されますが、この方の場合は排卵が起こらなかったため、プロゲステロンが分泌されず、高温期にならなかったか、血液検査で低い値であったと思われます。排卵が起こらず、プロゲステロンが分泌されていない状態では、タイミングや人工授精を行っても妊娠する可能性はないと言わざるを得ません。
ジネコ:PCOSでAMHの値が低いという彼女ですが、どう思われますか?
向田先生:一般的には、PCOSの人はAMHの値が高いと報告されています。このため、この方の排卵障害はPCOSが原因ではなく、脳下垂体の機能不全によるものかもしれません。そのうえ、卵巣予備能力の指標であるAMHが同世代と比べて低くなっているので、29歳という年齢だけれども妊娠していないのかもしれません。
ジネコ:今後どのような治療を進めたらよいか、アドバイスいただけますか?
向田先生:PCOや脳下垂体機能不全など、排卵障害の原因はさまざまですが、クロミッド®やFSH/hMG剤を用いた適切な排卵誘発管理により、ほとんどの症例において、排卵を起こすことは可能です。しかし、連日の誘発剤投与では多数(5個以上)の卵胞が育ってしまい、タイミングや人工授精の際の目標である1~2個の卵胞発育に向けることが難しい場合が多々あり、その際は体外受精に向けるほうが適切と思われます。またこの方の場合は、既にタイミング、IUIなどを6周期行っても妊娠していないので、体外受精などの次のステップに向けるほうが、妊娠・出産に至る確率は、かなり高くなると思われます。また、排卵障害がある症例では、卵の質に問題がある場合も少なくなく、採卵し、受精後に分割した受精卵を確認することができる体外受精はその点でも有用です。当クリニックは、体外受精を治療法の中心として診療しているため、体外受精ばかりすすめると言われますが……。一般的に、挙児を希望して2年以内に9割近いご夫婦にお子さんができるので、タイミングや人工授精を1年試みて結果が出なければ、次のステップに進むかをご夫婦でしっかり考える必要があると思います。特に、AMHが年齢による平均値以下の症例で30歳以上の方が自然妊娠を待って1~2年過ごすということは、せっかくの治療機会を失う可能性もあります。そのうえ、体外受精などの治療を行ったとしてもお子さんができるに至る保証はなく、妊娠・出産するまで問題ないとは言えないのが現実です。そこで、不妊治療を考える際に最も重要なのは年齢であり、この方のように29歳で治療を開始し、すぐに妊娠したとしても、出産時は30歳、その子が小学校に入る時には36歳です。そして、2人目、3人目となると、さらに年齢が進むことになります。ですから、そのための一番確率の高い方法を、ある程度の段階で早めに試しては、というのが僕の考えです。排卵障害があり、AMHが低いということですから、今後ももっと厳しい状況になりうるということも、十分に考えられます。AMHが低い、排卵障害があるという状態から考えるに、早期に次のステップにいくほうがいいと思います。
向田 哲規 先生
高知医科大学卒業。同大学産婦人科医局に入り、不妊治療・体外受精を専門にするため、アメリカ・マイアミ大学生殖医療体外受精プログラムに在籍、1990年からNY・NJ州のダイヤモンド不妊センターに在籍後、1996年より広島HARTクリニックに勤務し、現在院長として、臨床に従事する。大学時代、テニス部、ヨット部に所属し、現在もテニスのレベル維持のため、身長171㎝、体重60㎏、ウエスト73㎝、体脂肪ひとケタ台をキープするためにジムトレーニングで余暇のほとんどを過ごしているのだそう。