赤ちゃんエッセイ:授乳表
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はじめての妊娠、そして出産。楽しみでもあり、不安も少し…。そんな初心者ママを応援したいとスキナベーブでは毎年、赤ちゃんエッセイコンテストを開催しています。エッセイには、先輩ママや専門家の方の体験談がいっぱい。元気になれるエッセイが、きっと見つかります。ジネコでは、これまでの受賞作品の中から素敵なエッセイをピックアップしてご紹介してまいります。
「じゃあ、何かあったら呼んで下さいね」
オムツの代え方と母乳の吸わせ方を簡単に説明すると、看護師さんは行ってしまいました。
仮死状態になり吸引でようやく生まれた息子。二人きりになった瞬間の緊張と不安は、今でも忘れられません。こんなに早く子育てが始まるとは。正直、もう少しゆっくりさせて貰えると思っていました。さっそく泣き出す息子に、おそるおそるおっぱいをくわえさせましたが、痛いばかりで、何か出ているのか、よく分かりませんでした。そう、ここから、幸せな幸せな子育て…ではなく、地獄の時間が始まったのです。後になって知りましたが、ここはおっぱい指導に関して、かなりのスパルタ病院でした。長時間、私を休ませることなく、すぐに授乳をさせたのも、その為です。
しかし、子供が生まれたからと言って、必要な分だけ、母乳がびゅーっとでるわけではありません。という事も、その時知ったのですが、吸わせても吸わせても、乳首がじわりとしめる程度にしか母乳はでませんでした。もちろん、息子はお腹が空いて泣きます。泣き止むのは、乳首を口にふくんでいる時間だけです。たまらずナースコールしました。
「全然、泣き止まないんです。」
するとベテラン婦長さんが言いました。
「大丈夫。赤ちゃんはね、お母さんのお腹から、お弁当持って生まれてくるのよ。母乳が出始めるまでの何日か、おっぱい飲めなくても、大丈夫。」
なぜか、婦長さんが部屋にいてくれるだけで、ほっとしましたが、「じゃ、とにかく吸わせて」と言って行ってしまうと、とたんに不安で悲しくなりました。
言われたとおり、とにかく吸わせ続けますが、息子を支える腕と首がパンパン。途中、乳首の先が切れて出血し始めると、そこを吸われる激痛がさらに私を弱気にさせます。もう、本当に、辛くて、産後3日間は、私も赤ちゃんと一緒に泣き続けました。お見舞いにきた人が驚くほど、目ははれ上がり、やつれていました。この顔を見れば、何か、手を差し伸べてくれるかもしれないと、ナースコールしますが、いつも答えは一緒です。
「水分、1日2リットル。ご飯をしっかり食べて、あとは、頑張って吸わせて!」
言われたとおり、毎日2リットルのお水を飲みました。ひたすら吸わせました。4日目の朝、明らかに昨日までとは違い、おっぱいが固くなっている事に気づきました。
「きた!」
ぎゅっと押してみますが、にじみ出る量は、昨日までと変わりません。その後、看護師さんが来て、中ででき始めた母乳をしっかり出すための、マッサージをしてくれました。これもまた激痛でしたが、ぽたぽたと落ち始める母乳が嬉しくて、痛い痛いと騒ぎながらも、ずっと笑っていました。マッサージが終わり、もう一度、吸わせてみると、息子ののど元が昨日までとは少し違う音をたてています。この日の夜、私ははじめて3時間、寝ることができました。
そして、退院の日。びっしりと書き込まれた授乳表を手渡されました。
「これはお母さんが頑張った証ですよ。よく頑張りましたね。」
私はとても誇らしい気持ちで授乳表を受け取り、息子のおでこにキスをしました。
「一緒に頑張ってくれて、ありがとう。」
あれから8年。未だに、その紙は私の宝物です。