Q:稽留流産(繋留流産)の兆候について教えて下さい
3年前の初めての妊娠が胞状奇胎となってしまい悲しい思いをしました。その後、生理が順調にやってこなくなり、ずいぶん長い間辛い日々を送りましたが、先日思いがけず妊娠が判明し、5wで胎嚢も確認されました。しかし、前回のこともあり、毎日お腹の中のあかちゃんが無事かどうかばかりを考えてしまっています。私の場合、腹痛や出血は全く無いので、流産の可能性があるとすれば、繋留流産になるんだと思いますが、繋留流産は本当に何の前兆も無く赤ちゃんが 死んでしまうのでしょうか?(ルッチさん・30歳)
A:まったく症状が出ない場合がほとんどで、診断もすぐには確定できません。(東京フェリシアレディースクリニック院長・小林 肇先生)
稽留流産(繋留流産)とは赤ちゃんがお腹の中で育たずに死んでしまい、子宮の中に留まってしまう状態のことをいいます。進行する流産であれば、出血があって育たなかった赤ちゃんや組織物が出てくるんですね。一部残るようであれば不全流産、完全に出てしまえば完全流産となります。兆候についてはまったく症状が出ない場合がほとんどで、診断もすぐには確定できません。今回のご妊娠では5週で胎のうが確認されたということで、そこまでの成長は順調にいっていると思います。ただし、5週目以降に赤ちゃんがちゃんと育つのかどうかは経過を見ていかないと何ともいえません。多くの場合、たとえば切迫流産なら下腹部痛などが起こって確認されるのですが、稽留流産の場合はご本人には症状が出ないので難しい部分があります。
どのように診断していくかというと、「成長の具合がちょっとおかしいな」と思ったら、通常2週間おきに診ていくところを1週間おきにするなど、医師も細かく観察していくようにしています。胎のうは1日1mm程度の割合で大きくなっていきますから、1週間のスパンで見たら赤ちゃんもかなり成長しているはず。現在5週でしたら、6週目にはある程度大きくなって、翌週には心拍も確認できるくらいになるでしょう。しかし、大きさが変わらず、心拍も確認できないということであれば、稽留流産の可能性が高いと判断されます。稽留流産とわかったら、昔はすぐに処置をしていたのですが、今は少し置いても問題がないということで、患者さんのご都合や心の準備を考えて、だいたい翌週くらいに流産手術を実施。患者さんの中には、気持ちや体を切り替えたいので「すぐに処置をしてください」という方もいらっしゃいます。
初めてのご妊娠の時に胞状奇胎になってしまったということですが、これは染色体異常で、染色体の数が何倍にもなってくっつき、泡のようになってしまうものです。もともと正常には育ちません。胞状奇胎の性質によってはパーツがどこかに残ってしまい、ホルモンを出し続けることも。次の妊娠に悪影響を及ぼす場合もあるので、その可能性も考え、手術で取った組織は病理検査に出してきちんと調べます。
流産はその多くが受精卵の染色体異常が原因だといわれています。すべての受精卵が正常な染色体を持って順調に進んでいくわけではないんですね。ただし、稽留流産も含め、流産が3回以上続くとお母さん側に問題があることも考えられます。2回でも年齢が高い方だったら、不育症などの検査を受けられることをおすすめします。順調に妊娠して出産される方は全体の3割ほど。それだけ命が育まれるのは大変なことだといえます。流産してしまうのは悲しいことですが、あまりご自分を責めず、次につながる体験の1つとして前向きに捉えていただきたいと思いますね。
小林 肇先生
東京フェリシアレディースクリニック院長
産婦人科専門医/医療安全学会評議員/日本医科大学卒業。ハーバード公衆衛生大学院修士課程卒業。ハーバード大学客員研究員(ハーバード大学関連医療機関の医療安全シミュレーショントレーニングを行うCenter for Medical Simulationにてスタッフとして従事)日本医科大学大学院で医療安全分野の研究にて博士号取得。医療分野以外ではグローバルコンサルティングファームであるマッキンゼーアンドカンパニーで活躍、NTTドコモ子会社の日本アルトマーク株式会社経営企画室長を経て、現在同社アドバイザー。その他ベンチャー企業のアドバイザーを勤める。