不妊治療と少子化対策について
政党の方にお話をお聞きしました!
民主党政権が掲げるマニフェストの一つに、不妊治療保険適用があります。
各政党が不妊治療や少子化対策についてどう考えているかは、『ジネコ』読者にとってはとても気になるところです。
そこで今回は4つの政党の方々にお話をお聞きしました。
倶楽部ジネコでは、今後も他の党へも取材を続けていきます。
ゆとりある働き方、住まい方が可能な社会へ
子どもを産み、育んでよかったと思える社会を作るのが、政治の役目
鴨下 一郎 さん
1949年生まれ。衆議院議員、医学博士。79年日本大学大学院医学研究科修了。81年より心療内科の開業医として心の病気の診療にあたる。93年衆議院議員選挙に日本新党より初当選。以降、当選6回。安倍改造内閣、福田内閣で環境大臣。現在、自民党政調会長代理。
民主党の子ども手当ですが、子どもに焦点を当てたという点で評価はできますが、5兆円もの巨額なお金を使って、効果があるのでしょうか。「2万6千円もらえるから、もう1人産もう」とは、おそらくならない。むしろ待機児童や職場環境、住環境など、他の要因を望む声がはるかに大きいのですから、少子化対策になっていないのでは。
景気対策といわれても、半分が貯金に回ってしまった場合は、世の中にお金が回らない。借金を増やして、最終的に今の子どもたちがツケを払うことになります。
これに対して自民党は、待機児童の解決、預かり保育の拡充などサービス面にかかる費用、給食費など学校の経費、医療費と子どもが健全に育つうえで必要な経費を、現物で支給しようという考えです。これなら100%子どもに行きますし、5兆円もの巨額なお金はいりません。
今、住宅ローンのキャピタル・ロスに苦しむサラリーマン家庭は疲弊するばかりで、子どもをつくろうという発想すら生まれません。通勤ラッシュに苦しむ9時~5時の働き方から、IT技術を生かした在宅勤務など、根本から働き方を変えていかないと。
ローン問題の解決を国がお手伝いし、週末は田舎に買った家で自然と暮らし、週に数日、出社するなど、ゆとりある住まい方ができる社会へ、発想を転換しないといけない。
子どもは3歳まで、安定的な養育者が必要です。そうした子育てが可能な社会にすることが、子育て支援であり、少子化対策。ゆとりある家庭を築き、子どもを産み、育んで、幸せだったと思える状況を作るのが、政治の役目だと思います。
不妊治療も技術だけにとらわれるのではなく、社会という視点は大事でしょう。保険適用は、どこまで給付するかの問題はありますが、広範に適用していけるよう、7月の参議院選挙のマニフェストで、重点項目として打ち出す方針でいます。
少子化対策の第一歩は女性の健康を社会でどう守るか
女性の性をきちんと位置づける社会があってこそ
阿部 知子 さん
1948年生まれ。衆議院議員・小児科医。74年東京大学医学部卒業。小児科医として勤務後、99年、病院院長として管理者業務を経て、2000年衆議院議員選挙初当選。以後、当選3回。党政策審議会会長。
不妊治療を考える際、医療の技術に社会の仕組みが追いついているか、私はそこが一番の問題だと思います。そもそも日本において、女性の体=女性の一生の健康は、どのように受け止められているでしょうか。果たして、社会全体できちんと守る仕組みができているのかといえば、まだまだ心配なことばかりです。
まず第一に、社会が〝産む性〟としての女性の健康に、本来の意味の価値を置くことです。社会が女性の健康を守るという前提に立ったうえで、その具体的な表れとして、まず普通の出産を保険適用にするべきでしょう。
女性は出産のリスクから守られていなければいけないし、生まれた子どもたちも、もちろん守られていくべきだと思います。すべての女性と子どもに対して、国のきちんとした補償態勢とともに、総合的にサポートするケアシステムが確立されたうえで、不妊治療が行われるべきですし、不妊治療の保険適用が実施されるべきだと考えます。また、それはたとえば、万が一、障害児が産まれた場合にも同様です。その子を守ることが親の自己責任ではなく、障害のない子も障害のある子も、すべての子どもたちに「産まれてくれてありがとう」と誰もが言える社会にしていく必要もあると思います。
保険適用になれば技術レベルも上がるし、レセプトの開示が義務化されたので医療機関の質もチェックできる。こういう総合的な流れのなかで治療が進んでほしいと思います。
ただし妊娠だけが目的ではなく、いい出産をして、お母さんにも子どもにもいい人生を歩んでほしい。だからこそ、〝産めよ増やせよ=産む女〟でも、〝不妊=病気〟でもなく、出産が女性に、より健康に生きる素地を与え、子どもたちを受け入れる社会を作るという前提での、不妊治療であり、保険適用だと思います。
女性の性をきちんと位置づける社会、これは少子化対策にもいえることであり、まさに第一歩なのです。
国が基礎的なデータを収集体系的な法的措置を整えるべき
松 あきら さん
1947年生まれ。参議院議員、元女優。66年宝塚歌劇団入団、78年花組男役トップスターに。82年宝塚退団後、女優として活動。95年参議院選挙で初当選、以後、3期当選。現在、公明党副代表、女性委員長。参院法務委員長。
公明党は結党以来、児童手当や出産育児一時金の創設・拡充、乳幼児医療費の無料化など、一貫して子育て支援に取り組んできました。児童手当は1972年に、全国的な署名運動により実現にこぎつけ、その後も財源のメドを立てたうえで政府と折衝し、拡充を重ねてきました。
民主党は今、子ども手当や高校無償化などに取り組んでいますが、政策的には無理が目立ちます。昨今の財政事情から考えれば、巨額な予算を充てるために、他に痛みが出てくることが懸念されます。
今年度、民主党が実施する子ども手当は、民主党がマニフェストに掲げたように「全額国費」で行うものではなく、中身は今年度限りの児童手当の拡充策なのです。ゆえに公明党は保育施設拡充等を条件に法案に賛成しましたが、それは現金給付だけでなく、病児保育や学童保育等を支援する環境整備が必要だったからです。民主党の少子化対策は、財源の問題や子育て支援の現場の視点が欠けており、私は不十分だと思います。
公明党は前回の衆院選でも「人を育む政治」として、少子化対策を大きな重点項目として、マニフェストの柱に位置づけてきました。不妊治療も、少子化対策の一環と、位置づけをしっかりすべきだと思います。
助成制度へ最初に道筋をつけたのは公明党です。他党に先駆けて取り組み、私も自らの経験をもとに、助成の必要性を国会で訴えました。代理母やAIDの問題など、産婦人科の医師まかせではなく、国が基礎的なデータを収集し、体系的な法的措置を整えるべきだと思います。
アメリカは国の規制がほとんどなく州ごとの規制で、基本的には自己責任とされています。欧州はなんらかの法規制をしている国が多く、データも整っています。しかし日本は欧米と文化的背景も違いますから、国民が共通に理解し、納得できる法的整備を確立すべきだと考えています。
自公政権で進んだ「医療崩壊」を立て直すことが急務
研究開発費の助成と保険適用の方向へ
じみ 庄三郎 さん
1945年生まれ。参議院議員、医学博士。70年九州大学医学部卒業。ハーバード大学講師、九大第1内科講師を経て、83年衆議院議員選挙で自民党より出馬、初当選。以後、7期22年連続当選。07年、国民新党より参議院議員選挙に出馬、当選。現在、国民新党幹事長。
今こそ、小泉「骨太改革」が何をもたらしたのか、きちんと再確認すべきです。小泉改革は「小さな政府を目指す」と言った。一見よさそうに聞こえますが、必要な歳出を出さないというのが、その本質でした。
閣議決定で、「社会保障費を5年間で1兆1千億円(毎年2200億円)削減」を決め、実行した結果、患者や高齢者の医療負担が苦しくなったと同時に、医療崩壊を招いたわけです。私は医者ですから、これがわかっていた。だから国民新党は2年前、総医療費の引き上げを公約に掲げたのです。民主党ですら、医療費の圧縮を公約していました。高齢化社会が進むのに、医療費が削減されたらどうなるか。
今、産婦人科の成り手はいないし、産科がどんどん減ってきているのはすべて、低医療費政策でやってきたツケ。勤務医の年収は抑えられ、超過勤務で体はボロボロ。燃え尽き症候群そのものです。
だからまず、医療費を先進国の平均並みにしましょう、つまり「医療費のGDP比を、OECD先進国並みに引き上げる」と、国民新党は一貫して言ってきたのです。
もちろん、政権が代わって「社会保障費の毎年2200億円の削減」は廃止しました。医療費の引き上げも、3党政策協議に明記させました。とにかく医療の全体をきちっと立て直さないと、産科だけ、不妊治療だけよくなることはあり得ません。
そのうえで不妊治療を考えるなら、まず研究助成費を増やし、治療の研究開発をしっかりやることと、不妊治療に医療保険を適用するということ。これは、医者として国会議員として、やらなければいけないことだと思っています。
保険適用にしないと、不妊治療自体が公のものにならず、後ろめたさを抱えた悶々としたものになるし、お金持ちしか治療にかかれないというのは正常な社会ではありません。ともあれ、急務は全体的な医療を立て直すことですね。