「葵 ~あおい」 Vol.1
おまじないのような、おまもりのような子宝草という植物を知っていますか?
子宝草をめぐる彼女たちのものがたりが、ウェブ『ジネコ』で始まります。
沢山のディスプレイが並び、ちょっとした緊張感の漂うディーリング・ルーム。
誰もが真剣な眼差しで画面の数値を追っている。
その中で男性陣に交じり、巧みなスピードでキーボードを叩いている沢村由美子はこの部門のチーフをしていた。
「ふうっ」と小さなため息を漏らし、由美子は背もたれに寄りかかった。
整った顔の眉間に皴を寄せ、自分の携帯電話に視線を走らせる。携帯を手に取り、席を立とうとしたが、動けない自分、いや動こうとしない自分がよくわかっていた。一時間前も一度は席を立ったが、携帯に登録された番号を覗いてから、その番号にかけるでもなく暫く逡巡した後に、再び席に戻ったのだ。
「先週から凄い稼ぎだな。チーフの読み通りじゃないですか」
由美子の横に立ち、部下の横山がコーヒーの入ったマグカップとサンドウィッチを置いた。
彼女の昼食は、いつもこうだった。最大で百億単位の資金をまかされている由美子にとって、ディスプレイを見ながらの食事はもう二年も続いている。カラダに良くないこと、そして精神的にも良くないことはわかっていた。
「ちゃんと、タマネギは抜いてありますから。女性敏腕ディーラーが、お子ちゃまサンドってのが笑えるな」
「減らず口、たたいてないの。ありがとう」
横山の顔を見ずに、画面の数値を追いながら由美子が言う。
「はいはい」
「〝はい”は一回でいいの、将来有望なディーラー君。でもその将来というのは、いつになるのかが読めないのよね」
笑いながら由美子が答えた。
「しかし、その猛烈ぶり、チーフのお尻には根っこが生えているって、みんな笑ってますよ」
「根っこも生えるわよ。どれだけ稼いだかで年収決まるから。特にうちは外資系の中でもとびきり厳しいからね」
由美子は、外資系証券会社のディーリング部門のチーフをしていた。前に勤めていた国内の会社は、多少のインセンティブはあったとしても微々たるもので、どちらかというと年功序列的な要素の強い会社だった。移籍したこの外資系では、ほぼフルコミッションに近いものがある。会社に利益をもたらし、その結果自分達の給料が決まる。だから稼げないディーラーは自ずと会社を去ることになる。
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