夫が高度生殖医療に反対。 タイミングだけで、 自然妊娠する可能性は?
コラム 不妊治療
夫が高度生殖医療に反対。タイミングだけで、自然妊娠する可能性は?
相談者:雪子さん(32歳)
どうしても自然妊娠したい!
夫が高度生殖医療に否定的で、頑なに反対しています。そのためステップアップはせずに、私の仕事の都合がつき、婦人科で排卵チェックを受けられる時だけは受け、あとはタイミングのみで頑張っています。すでに妊活を始めてから1 年半になりますが、まだ1 度も妊娠に至ったことがありません。生理周期は35 日と少し長いほうですが規則正しく、検査結果では排卵もあり、卵管造影検査でも問題はありませんでした。自然妊娠の確率は、30 代前半で10%ほどと聞いたことがあります。ならば、10 周期で妊娠するはずなのでは? このままタイミングだけを続けた場合、あと何周期すれば妊娠できるでしょうか? 自然妊娠を望まれた方で、1 年以上かかってやっとできたというケースはあるのでしょうか?
相談者の雪子さんは現在32歳。これといった治療はせずに、タイミング法のみで自然妊娠を望まれています。1年半経ちましたがまだ妊娠に至らず、今後何周期まで続けるべきか悩んでおられます。
美馬先生:「自然妊娠の確率は、30代前半で10%ほどと聞いたことがあります。ならば、10周期で妊娠するはずなのでは?」という質問ですが、私が把握しているデータでは、1回の月経周期での自然妊娠率は、25歳、30歳の女性では25~30%の確率です。
排卵がある月経周期でも必ず妊娠するとは限りません。妊娠が成立するには、卵管采が排卵卵子をきちんとピックアップして卵管内に取り込む、卵子や精子に十分な受精能があるなどのほか、受精卵の発育や子宮内膜への着床など、排卵以外に多くの条件があるためです。
一般的に女性の妊娠する力は35歳を境に急激に低下します。先ほど紹介した1回の月経周期での自然妊娠率でも、35 歳では18%、40歳では5%、45歳では1%と、年齢に比例して低くなってしまいます。当院もできるだけ自然妊娠に導きたいという考え方ですが、タイミング法6周期、人工授精6周期を目安としています。ここまでで妊娠しなかったご夫婦の場合、それ以上繰り返しても妊娠の確率は低くなるため、ステップアップを考えていただきます。
ただし、治療法を選ぶのはご夫婦です。人工授精を強く望むご夫婦のなかには10回目の人工授精で妊娠した方もいます。しかし、一般論でいうと、自然妊娠を望むとしても34歳ぐらいまでを目途にしてはいかがかと思います。
雪子さんは34歳になるまであと2年あります。その間、自然妊娠力を高めるために自身でできることはありますか。
美馬先生:一番大切なのは卵子の老化を防ぐために活性酸素の除去に努めることです。卵子の老化には、ミトコンドリアが活性酸素の作用で損傷を受けることが深く関与しているとわかっています。活性酸素が体内で過剰に発生しないように、心身のストレスは早めに解消し、栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠、軽い運動を心がけるなどの生活習慣がとても大切です。
雪子さんのように仕事をもつ女性は、働きすぎによるストレスをため込まないようにしてください。精子も加齢に伴って老化します。ご主人にも同様の注意をしていただきたいものです。
雪子さんご夫婦にアドバイスを。
美馬先生:ご主人の検査について触れられていませんが、精液検査がまだでしたら必ず受けてください。男女の不妊原因は半々で、50%は男性側に原因があるとされています。万一、ご主人の精液検査で軽度の男性不妊とわかった場合には、人工授精をすすめられると思います。
人工授精はタイミング法と同様に、一般不妊治療です。体内での自然な受精と妊娠を手助けする治療法ですから、体外で受精卵をつくる高度生殖医療に反対のご主人も納得するでしょう。
何よりも大切なのは、ご夫婦がよく話し合い、お互いの気持ちを理解することです。また、子づくりだけが目的の性行為ではなく、愛を確かめあう行為であって欲しい! 私は、コウノトリは仲の良いご夫婦に訪れると信じています。
美馬レディースクリニック 美馬 博史先生
東京慈恵会医科大学医学部卒。 同大学附属病院産婦人科、美馬産婦人科院長を経て現職。産科婦人科および不妊治療の臨床医としての長いキャリアを経て、妊孕性(妊娠する力)を守る大切さを訴え、体にやさしいホルモン治療、カウンセリング療法、抗酸化食事療法等を積極的に啓蒙。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter
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