チョコレート嚢胞の手術は本当に必要?
2017/5/18 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長)
相談者:ぷりんさん(会社員 / 28歳)
無排卵、高プロラクチン、黄体機能不全で不妊治療歴1年です。治療開始当初はなかったのですが、ここ2カ月ぐらいの間に卵巣に血の塊ができてしまい、MRIの結果、チョコレート嚢胞が左卵巣内に2つあることが分かりました。先生には今年中に腹腔鏡手術をした方が良いと言われ、正直動揺しています。
本当に手術が必要なのか?疑問に思うのです。私は一度も妊娠したことはありません。鍼にも通っていますが、鍼の先生には妊娠前に卵巣や子宮に傷をつけて欲しくないと言われました。最終的には自分が納得した上でどうするのかを決めたいと思い、ジネコ読者の皆様に手術のメリットとデメリットをお教え頂きたいと思い投稿しました。ちなみに、私はタイミング法とHCGの注射しかしたことがありません。手術をせずにステップアップに移行する方法もあるのかな?と思ったりもするのですが、実際にチョコレート嚢胞がある以上は意味がないのでしょうか?手術をしない方法もありますか?
腹腔鏡手術とはどのような手術ですか?
腹腔鏡手術は、お腹の中にカメラを入れてモニターを見ながら、細長い鉗子を用いて行う手術です。4カ所ほどで小指の幅ほどの小さな傷ですみ、体への負担がより少ない治療です。子宮の裏側にある小さな子宮内膜症病変まで拡大視でき、また、癒着剥離操作に伴う止血もピンポイントでできるので、子宮内膜症(チョコレート嚢腫)の治療に適しています。
チョコレート嚢胞と妊娠の関わりを教えてください。
チョコレート嚢胞は、卵巣の内部に発生する子宮内膜症病変で、その名前の通り内部に溶かしたチョコレートの様な液体が入っています。チョコレート嚢腫がある場合、子宮内膜症病変が卵巣以外にも存在することが多く、その病変が炎症を起こした結果、卵管が癒着して卵子をピックアップできなくなる可能性があります。また、お腹の中に炎症性の物質を発生させて卵子の質に影響します。
この方は手術をするべきでしょうか?
年齢の問題と体外受精を検討するかしないかによります。例えば、35歳の以上の方の場合、手術より体外受精を優先します。手術をすると卵巣機能が低下するためです。なによりも子宮内膜症の場合、卵管の癒着、ピックアップ障害が不妊の一番の原因になりますので、卵管をバイバスする体外受精が一番いい治療法です。
この方の場合、MRIで見つかったとのことですので、小さな嚢胞と推察します。ステップアップを検討されるのであれば、人工授精ではなく体外受精されるのがいいと思います。人工授精は卵管の癒着やピックアップ障害には効果がありません。
一方、自然妊娠にこだわるのであれば、30才前半で卵巣機能が十分に残っている場合なら、手術されるのも一つの方法です。卵巣の予備能が高くダメージも許容範囲内ですし、卵管の癒着剥離により妊娠率は上昇します。
いずれにしても、その方の年齢と、自然妊娠にこだわるのか、体外受精を検討するのか、それぞれの考え方にもよります。チョコレート嚢胞は長期間放置すると進行することがあり、さらに手術をしても再発する可能性が高い病変です。長く付き合っていく覚悟で、どのような不妊治療を希望するのかを考えられるとよいでしょう。
中村先生より まとめ
チョコレート嚢胞でも手術をせずに体外受精へのステップアップは可能です。手術をするかしないかは、ご本人の年齢と、自然妊娠にこだわるのか、体外受精を検討するのか、それぞれの治療に対する考え方にもよります