きちんと知りたい! 不育症のこと
奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜)
奥裕嗣先生に伺いました。
流死産の多くは染色体異常が原因
不育症とは、妊娠はしても流産、死産、早期新生児死亡などを2回以上くり返す場合をいいます。化学流産を回数に入れるかどうかは意見が分かれるところですが、個人的には入れたほうがいいと考えています。
妊娠経験がある方が流産する確率は38%といわれています。流産のおもな原因として染色体異常とそれ以外の原因がありますが、実は、その多くは受精卵の染色体異常(染色体の数の異常)です(図1)。染色体異常による流産の確率は、20代で約50%、30代で60〜70%、40代では80%以上(図2)。母体の年齢が高くなるほど増加する傾向にあります。つまり流産を2回以上くり返している40代の方は、染色体異常が原因である可能性が高くなります。
「染色体異常」「不育症」を判別できる絨毛染色体検査
そこで当院では、流産を1回でも経験された方に絨毛染色体検査をおすすめしています。これは、流産手術や死産の時に得られた検体から胎盤絨毛組織や胎児組織を採取・培養し、染色体の数や構造に異常が生じていないかを調べる検査です。
この検査によって「染色体異常」、または「それ以外の原因」のどちらかを判別することができます。たとえば、流産を2回以上くり返す方に染色体異常が見つかった場合、卵子の染色体異常がたまたま続いただけで、次に染色体異常でない卵子に出会えれば妊娠する可能性は十分あります。そのためそれ以外の原因である可能性は低くなります。一方で、1回の流産で染色体異常が見つからなかった場合は、母体側になんらかの原因が隠れていると考えられます。
不育症の原因は大きく5つ。原因によって治療が異なる
不育症の頻度は2〜5%で、その多くを流産が占めています。原因と検査はさまざまで、当院では大きく5つに分けています(表1)。(1)赤ちゃんを異物と勘違いする免疫の異常(2)赤ちゃんを養う血管・血液の異常(3)母体が赤ちゃんを攻撃する抗体の異常(4)染色体の構造に問題がある染色体の異常(5)そのほか甲状腺の異常などです。
そのなかでも頻度が高いのは、血管・血液の異常による抗リン脂質抗体症候群です。また、プロテインS欠乏症は報告によると10%程度の確率といわれていますが、当院では20%の確率で見つかっています。さらに、血液の循環に影響するアンチトロンビンⅢや、ロバートソン転座型とよばれる染色体異常(染色体の構造の異常)はご夫婦のどちらかに見つかることがあり、流産の原因の10%程度あります。
治療については不育症の原因によって異なります。たとえば、血管・血液の異常にはアスピリン療法やヘパリン療法を行います。とくにプロテインS欠乏症や抗リン脂質抗体症候群の場合はアスピリン療法、ヘパリン療法を単独で行うよりも、両方を同時に行ったほうが出産の確率は高くなるといわれています。また、免疫の異常にはプレドニン®というステロイドホルモンや、免疫を抑える働きがある柴苓湯(さいれいとう)という漢方薬を用いることもあります。免疫の異常には、NK(ナチュラルキラー)細胞活性を下げる効果がある加味逍遙散(かみしょうようさん)という漢方薬も有効です。
POINT
●流産の約60%は染色体異常の可能性が
●まずは絨毛染色体検査をおすすめします
●不育症の原因に応じた治療が必要です
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter
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