排卵に問題がないのになぜ人工授精で注射を使うの?
コラム 不妊治療
※2018年8月27日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn」の記事です。
あこさん(38歳)からの相談
▶人工授精の注射について
タイミングを6回した後、人工授精を1回しました。不妊専門の病院で一通り検査し、エンドトキシンで引っかかりましたが、薬で正常値になりました。ヒューナーテストも精子0、死骸0。精液検査も問題ありません。AMHは30歳くらいで排卵も正常です。今回、人工授精前にゴナールエフ®、排卵日にHCGを打ち、排卵を確認する時にプロゲデボー®注射とルナティス®を腟に10日間入れました。今まで正常な体温でしたが、今回は5日間も体温が上がりませんでした。とくに排卵に問題がないのに、なぜ人工授精の時にこんなに注射を打つのですか? デメリットはないですか? 自然な排卵での人工授精は望ましくないのですか? 注射の影響で体温が上がらないことはありますか?
Doctor’s advice
●注射剤は排卵個数を増やして妊娠の確率を上げる目的で使うことがあります。
●排卵誘発剤後に体温が上昇しない原因の多くは卵胞の発育に根本的な問題が。
人工授精で注射剤を使う目的やメリット、デメリットを教えてください。
注射剤は、排卵個数を増やして妊娠の確率を上げる目的で使うことがあります。ただ、排卵誘発剤は万能ではなく、人によってお薬が合う、合わないがあります。また、排卵個数を増やすということは、当然、多胎妊娠のリスクを伴います。そのため、お薬の種類や量、投与するタイミングをケースバイケースで見極めることが大切ですね。
あこさんのように、排卵誘発後に体温が上がらないのはなぜでしょうか?
体温の上昇には、黄体ホルモン(プロゲステロン)がかかわっています。排卵後の抜け殻になった卵胞(黄体組織)から分泌されるホルモンですが、そもそも卵胞がしっかり発育していないと、黄体ホルモンを分泌することができません。これには卵胞の発育に根本的な原因があることが多く、二つのことが考えられます。
一つは、排卵誘発剤がその人に合っていたかどうかです。あこさんはゴナールエフ®というFSH製剤を使用していますね。FSH製剤には、遺伝子操作によって生成されたFSHの純度が高い「遺伝子組み換え型」のほかに、閉経後の女性の尿から精製され、FSHと微量のLHを含んだ「天然型」があり、もともと体に備わっているFSHとLHの値によって選択されます。もしかすると、あこさんは天然型のようなLHを含んだものを必要としていて、卵胞の発育が不十分だったのかもしれません。
もう一つは、HCG注射を打つタイミングです。本来は卵胞が十分に成熟したのを確認してから注射を打ちますが、早く打ってしまうと卵胞が未熟なまま排卵することになり、黄体ホルモンが分泌されにくくなります。基本的には卵胞がしっかり育っていれば、排卵誘発後の体温はきちんと上昇すると思います。
自然排卵での人工授精も可能でしょうか? アドバイスをお願いします。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)が30歳ぐらいの値とのことですので、卵巣の予備能はいいと思います。もちろん自然な排卵の人工授精も選択肢のひとつで、ご希望であれば1〜2回されてもいいでしょう。
ただ、人工授精は1回目ですが、すでにタイミング6回の治療歴があり、年齢も38歳と比較的高くなってきています。排卵誘発剤を使って排卵個数を増やしたほうが妊娠の確率は高くなります。当院であれば、ゴナールエフ®よりも少し刺激が弱いクロミッド®を生理3日目から3〜5日間使用してHCG注射を打つか、ホルモンの状態をみてHMG注射の追加を検討します。早い時期に卵巣を刺激すると発育卵胞の個数は増えますが、タイミングが遅れると発育卵胞が自動的に選ばれてしまうため、そこから卵巣を刺激しても個数は増えにくくなります。排卵個数を増やすためには、月経開始後できるだけ早い時期に対処することが望ましいと思います。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn
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