性体験のある女性は気をつけたい! ヒトパピローマウイルス
インタビュー
女性の健康
性体験のある女性は気をつけたい! ヒトパピローマウイルス
子宮頸がんの原因ともなるヒトパピローマウイルス(HPV)の特徴や感染経路、感染を防ぐ対策を中島由美子先生に伺いました。
2019.3.6
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HPVは子宮頸がんの原因ともなるウイルスです。その特徴や感染経路、感染を防ぐ対策を下平レディスクリニック院長 中島由美子先生に教えていただきました。
HPVは100種類以上ある、ありふれたウイルス
ヒトパピローマウイルス(以下HPV)は、子宮頸がんの原因として知られているウイルスです。「特殊なもの」と思う方もいるかもしれませんが、100種類以上あり、私たちの生活の中にありふれているウイルスの1つです。HPVはどこにでもいて、人と人の皮膚粘膜がこすりあわされることで感染し、高リスク型の主な感染経路は性的接触です。
そのため、性器だけでなく、粘膜のある口から感染することもあるので、注意が必要です。コンドームは感染を80%くらいは防げるといわれていますが、完全に防ぐことはできません。1度でも性交渉の経験があれば男性も女性も、誰もが感染するリスクがあるといえます。性交渉を経験した女性の90%が生涯で一度はHPVに感染している計算になるともいわれています。
HPVは、がんの原因となる高リスク型と、尖形コンジローマなどのイボや良性腫瘍の原因となる低リスク型に分けられ、高リスク型にはおよそ15種類があります。日本人の子宮頸がんのおよそ65%は16型と18型が原因といわれています。16型はがんになる率が高いだけでなく、なった時の進行が早く、20歳代の浸潤子宮頸がん(Ⅰ期以上)の90%、30歳代の76%に16型・18型が検出されています。つまり若年女性の子宮頸がんの多くは、HPV16型または18型が原因となっていることになります。
感染してもすぐには自覚症状がないので要注意
HPVに感染しても特にこれといった症状がないので、検診を受けない限りは感染に気づくことがありません。ただ、多くの人は体の免疫機能が働き、ウイルスは2年くらいの間で消えてしまいます。一部の人で、HPVが排除されずに感染が持続することで細胞の遺伝子にウイルスの遺伝子が組み込まれて、異常な細胞を排除できなくなり、そのまた一部の人にがんが発生すると考えられています。そのため、感染からがんが発症するまでに数十年かかることもあります。
また、ウイルスを排除できずに異形成やがんを発症しても、初期は自覚症状がほとんどないため、なかなか気づかないというやっかいな点があります。性交渉の後に出血が続いたり、痛みが続いたりすることで婦人科を受診し、子宮頸がんが発見されるケースが多く見受けられます。
また、低リスク型HPVが原因で起こる尖圭コンジローマもかゆみや痛みはほとんどありません。
このように初期は自覚症状がないため、定期的に検診を受けて体の状態をチェックしておきましょう。子宮頸がんが発症する前の「軽度異形成」という状態で発見できた場合には、8割の人が手術をすることなく2年程度で寛解するので、早期発見が大切といえます。
子宮頸がん早期の場合には手術で悪い部分を切除
もしも検診の機会を逃していて、高度異形成や上皮内ガンとよばれる状態で発見された場合は、子宮頸部の悪い部分を円錐状に切除する方法で治療することができます。子宮を温存できるため、その後の妊娠、出産も可能です。
ただし子宮頸部が切除によって短くなるため、早産のリスクが高まるといわれています。
また、がんが上皮の下の基底膜を超えて広がっている場合には、子宮を摘出する手術、放射線治療など、病気の進行にあわせた治療方法があります。
尖圭コンジローマは塗り薬でイボを治療
尖圭コンジローマになってしまった場合は、クリームを塗ってイボを小さくする治療方法、電気メスなどで切除する外科的治療、液体窒素による冷凍療法などがあります。
多くの場合クリームによる治療が優先されますが、ただ普通の軟膏やクリームとは異なり、薬の成分が強いので、寝る前に患部にクリームを塗って翌朝はそのクリームを石鹸で洗い流すという作業を週3回、およそ3か月続ける手間がかかります。
また、液体窒素でイボを何度か凍らせて取り除く冷凍法や、イボの周りに麻酔をかけて切除するという外科的な治療方法は、早くイボを取りたい人には向いていますが、麻酔自体がとても痛く、そのために外科的な処置をためらう人も少なくありません。
また、妊娠中に尖圭コンジローマに感染すると、出産時に赤ちゃんに感染し、呼吸障害を引き起こす咽頭乳頭腫という病気になってしまう可能性もあります。妊婦さんがかかってしまった場合には、すみやかにかかりつけの産婦人科医に相談しましょう。
子宮頸がんワクチンの接種や定期的な検診で予防を
HPVに感染しないためには、初めて性交渉を経験する前の9~15歳ぐらいまでに子宮頸がんワクチンを接種し、抗体を作っておくといいでしょう。
現在、日本で接種できる子宮頸がんワクチンは、高リスク型の16型と18型の両方を予防する2価ワクチンと、その2種類に加えて尖圭コンジローマなどを起こす低リスク型の6型と11型も予防する4価ワクチンの2種類があります。いずれも3回接種しますが、接種する時期や間隔は異なります。どちらを接種するかは医療機関によって異なりますので、事前に聞いてみるといいでしょう。
HPVワクチンは、平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種とされました。今現在は、市や区町村から接種のお知らせは来ませんが、対象となる女子(自治体により異なりますが、中学1年から高校1年)は、公費の補助でワクチンを接種できます。3回で6~7万円もするワクチンなので、該当する年齢の間に助成を受けるのが得策だと思います。万一、接種後に重い副作用があった場合も、救済制度を利用して必要な補償が受けられる可能性があります。
ただ、ワクチンを打ったから万全というわけではありません。性交渉をするようになったら、年に1回は子宮がん検診を受けることが重要です。子宮頸がん予防のため検診を受けたところ違うトラブルが発見され、早期治療につながったという例もあります。「私は大丈夫」「若いから大丈夫」と思わず、20歳を過ぎたら自分の体をチェックするようにしましょう。
決まったパートナーとコンドームを使って性交渉を
子宮頸がんワクチン接種と定期的に検診を受けることが予防の大きな「柱」といえますが、普段の生活でも下記の点に気をつけることで感染するリスクを下げることができます。
1) 決まったパートナーと性交渉を
HPVに感染した人と性交渉を行うと、1回の性交渉でもかかってしまうことがあります。ただ、感染するリスクを下げるため、そして万一感染した場合に感染ルートを特定し、ともに治療していくために、決まったパートナーと性交渉をするようにしてください。
2) コンドームを使う
コンドームを使うと100%感染を防ぐことができるというわけではありませんが、感染率を低くする効果はあります。妊娠の希望がなく性交渉をする際にはコンドームを使うようにしましょう。
3) 禁煙を心がける
喫煙をすることでHPVにかかりやすくなることはありませんが、喫煙をしているとウイルス全般に対して免疫力が落ちる傾向にあります。それ以外にも喫煙によるリスクはあるので、禁煙を心がけましょう。
検診とワクチンで自分の体を守ってあげてください
HPVは、子宮頸がんやデリケートな部分にイボができる尖圭コンジローマの原因となるウイルスです。感染してもほとんどの人はウイルスを排除できますが、一部の人に持続感染がおこり、長い時間を経て、そのまた一部の人にがんが発生することになります。また、子宮頸がんを発症しても初期は自覚症状がありません。早く気が付けば十分に対処し予防や治療ができるので、定期的に検診を受けることがとても大切です。また、性交渉前に子宮頸がんワクチンを接種し、抗体を作っておくことも重要な予防法の1つです。
「あ~、あの時もっと気をつけていれば」と、かかってしまった後に後悔しないためにも、定期検診を受ける、子宮頸がんワクチンを接種するという2つの予防法で、自分の体をトラブルから守ってあげてくださいね。
中島 由美子 先生(下平レディスクリニック 院長)
1982年東京女子医科大学卒業、1986年同大学院卒業。その後東京女子医大病院、東京女子医大第二病院、至誠会第二病院などを経て、1995年下平レディスクリニック副院長に就任。2004年に同クリニック院長に就任。
エレガントな雰囲気で患者さんを和ませつつ、ひとりひとりに合った治療方法を提案してくれるのが大きな魅力。とても居心地がいいので、診察が終わっても長居してしまう患者さんも多いそう。
≫ 下平レディスクリニック
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