かかるとどうなる?どうすればいい? 妊娠中の性感染症
インタビュー
妊娠・出産
かかるとどうなる?どうすればいい? 妊娠中の性感染症
心配事が多い妊娠期にさらに「性感染症」と診断されたら……。おおしおウィメンズクリニックの大塩達弥先生によると、最近妊娠中にかかる性感染症にある変化が起こっているそうです。その内容や症状について、詳しくお話を伺います。
2019.7.24
あとで読む
近年増えている「ウレアプラズマ感染症」に要注意
妊娠中に注意すべき性感染症というと、まずはクラミジア感染症を思い浮かべる方が多いかもしれません。確かに今でもクラミジア感染症にかかる妊婦さんは15%ほどいますが、ここ4~5年顕著にみられるのが「ウレアプラズマ感染症」です。このウレアプラズマ感染症にかかる妊婦さんが約40%。かなりの確率で起こっているのです。もうひとつがマイコプラズマ感染症で、かかる妊婦さんは約20%。ひと昔前と明らかに違って、今の3大性感染症は「ウレアプラズマ」「マイコプラズマ」「クラミジア」となっています。
さて、このウレアプラズマですが、非クラミジア性非淋菌性尿道炎の原因のひとつと言われています。ウレアプラズマは一般細菌や常在菌と言われることもありますが、細菌が多くなってくると炎症が強くなり、おりものが多くなる、頻尿になる、などの症状が現れます。人によっては気づかないことも多いのです。
当院では、妊娠13週で行うスクリーニング検査でわかる方が多く、ウレアプラズマ感染症にかかった妊婦さんの約30~40%の方がエラスターゼ(タンパク質を分解する酵素のひとつ)が上昇しています。エラスターゼが上昇すると、絨毛膜羊膜炎(赤ちゃんを包む卵膜が細菌感染して引き起こされる症状)になりやすく、前期破水や子宮収縮を引き起こして切迫早産や切迫流産につながる可能性があるのです。
ではウレアプラズマ感染症にかかった場合、どうすればいいかというと、ファーストチョイスはアジスロマイシンという抗菌薬を服薬することです。とにかく、細菌の数を減らし、エラスターゼをマイナスにすることが大切です。なかなか治りにくいのが特徴でもあるので、最低でも2週間は服薬してもらい、その後再検査を行います。当院では、服薬に加えて、腟洗浄も行うことで細菌の数を減らすようにしています。
マイコプラズマ感染症、クラミジア感染症も服薬を
マイコプラズマは、ウレアプラズマと同じく非クラミジア性非淋菌性尿道炎の原因のひとつとされています。クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマティスという細菌によって引き起こされるものです。どちらも、おりものが増えたり、頻尿になったりする自覚症状があります。この2つの感染症についても、まずは、細菌を減らすためにアジスロマイシンを服用して治療します。クラミジア感染症は、比較的治りやすいとは言われていますが、時々マイコプラズマと併発していることもあるので、しっかり検査してもらうことが大事です。いずれにしても、妊娠早期に発見することで、後々赤ちゃんへの影響も少なくなるので、早めの対策を心がけてください。
治療費についてですが、マイコプラズマ感染症もクラミジア感染症も保険が適用されます。しかし、先にお話ししたウレアプラズマ感染症の治療については、これだけかかる人が増えているにもかかわらず、まだ保険適用外とされています。ですから、万が一ウレアプラズマ感染症にかかってしまったら、自費治療しか選択肢がないのが実情です。
淋菌感染症、性器ヘルペスは赤ちゃんへの影響も
上記の3つの感染症よりかかる人が少ないとはいえ、気を付けたいのが淋菌感染症と性器ヘルペスです。
淋菌感染症は性行為によって淋菌に感染して起こります。性器が炎症を起こし、痛みや膿を生じることがあります。また、淋菌は喉頭や肛門など性器以外の場所に感染することもあります。淋菌にかかったらペニシリン系の抗生剤を服用します。しかし、この淋菌感染症にかかっているのに気が付かず、産道に淋菌が寄生して出産した場合、赤ちゃんに垂直感染を起こすことがあります。たとえば、結膜炎、肺炎、髄膜炎、尿道炎など……。また、卵管や子宮内膜に炎症を起こすと、早期破水や早産、流産にもつながるので注意が必要です。
昨年のことですが、淋病に感染したある英国人に抗生剤がまったく効かない「スーパー淋菌」というものが報告されました。発症後、アジスロマイシンとセフトリアキソンによる治療を受けましたが、効果がなかったとのことです。
もうひとつ胎児への影響で気を付けたいのが「性器ヘルペス」でしょう。単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって性器やその周辺に水疱や潰瘍などができます。この単純ヘルペスウイルスは、たとえば一度妊娠前に発症して治っていても、根治が難しく再発しやすいのが特徴です。万が一、妊娠後期に発症していた場合、新生児ヘルペスに注意しなければなりません。新生児ヘルペスとは、分娩時に母子感染し、赤ちゃんが皮膚、目、口腔内にヘルペス病変を起こす、脳炎を起こす、肝臓や肺にまで影響が及ぶ、など大変重大な症状が挙げられます。また、1/4の確率で赤ちゃんが死亡するという報告もあるので、十分な注意が必要です。性器ヘルペスがわかったらもちろん私たちは治療をしますが、特に出産直前にわかった場合は、帝王切開に切り替えています。
性感染症の知識が浸透していない日本の実情
今までお話ししてきた性感染症について、原因はもちろん性交渉によるものです。コンドームをつけずに性交渉をしている、またオーラルセックスをすることで菌が咽頭部に感染することもあります。また、妊娠前から不特定多数の人と性交渉をしていて感染症にかかっていることを知らずに妊娠してしまった、などの原因もあるでしょう。学校で性教育を学んでいるはずなのに、まったくその知識が浸透せず、性感染症にかかる人が増える一方であることは、大変残念なことだと思っています。当院でも、性交渉相手の素性も知らないまま、その後連絡も取れずに性感染症にかかってしまった人、妊娠してしまって中絶を余儀なくされる若い人もいる、という悲しい現実を日々見つめています。
たとえばアメリカなどでは性交渉によるHIV感染の訴訟なども起きていますが、日本はまだそこまでには至っていません。しかし、将来これが訴訟問題となったらその人の人生を狂わせかねないくらい、大変な罪になることもありえるのです。
感染症がわかった時点でパートナーも治療を
さて、万が一自分が性感染症にかかっていたら、もちろんパートナーにも治療をお願いしましょう。なかなか言い出しにくい、夫婦間でのトラブルを避けたい……などあるかもしれません。ただ、一生懸命治療しても、パートナーが同じ感染症を持っていて、また性交渉をすれば、せっかく治ったにもかかわらず、同じ感染症にかかってしまう……負の連鎖が繰り返されてしまいます。
そこで私が、おすすめするのは“夫婦のブライダルチェック”です。結婚前、妊娠前に、赤ちゃんが欲しいと思ったらブライダルチェックを受ける女性は増えていますが、男性で受ける方はほとんどいませんよね。ただ、これだけ性感染症が男女の間で広まっている今、安心して出産を迎えるために、ぜひ男性も性感染症のチェック、精子の検査も受けてほしいと願っています。泌尿器科に行きにくい……と及び腰になる男性が多いと思いますが、当院に来てもらえたら、ご夫婦でのブライダルチェックをどんどん受けていただきたいと思っています。
大塩 達弥 先生(おおしおウィメンズクリニック 院長)
日本大学医学部卒業 横須賀市立市民病院産婦人科、川口市立市民病院、関東逓信病院産婦人科、セントマーガレット病院産婦人科部長を経て、平成9年おおしおウィメンズクリニックを開設。クリニックは産科、婦人科だけでなく、不妊外来、胎児ドック、ピル外来、産後の美容・エステなど、女性をトータルでサポートしてくれる。日本産科婦人科学会専門医、日本母性衛生学会会員、母体保護法指定医、日本受精着床学会評議員、日本不妊学会会員。ほか、日本大学医学部産婦人科兼任、講師としても活躍中。
≫ おおしおウィメンズクリニック
あとで読む