秋山芳晃先生のセルフメンテナンス・チェック
コラム 不妊治療
秋山芳晃先生のセルフメンテナンス・チェック
健康的な体で、元気な赤ちゃんを産むためには今から何をしておけばいいのでしょうか。妊娠する前に知っておくこと・やっておくことを秋山レディースクリニックの秋山芳晃先生に教えていただきました。
Vol.4「子宮頸がん・乳がん」について
秋山 芳晃 先生(秋山レディースクリニック)
「子宮頸がん」とはどのようながん?
ウイルス感染が主な原因。若い世代の罹患も増加傾向に
「子宮頸がん」とは子宮の入り口近くにできるがんで、このがんに罹った人の90%以上からHPV(ヒトパピローマウイルス)が検出されるため、このウイルスの感染が主な原因となることがわかっています。
HPVは100種類以上あり、このうち15種類が子宮頸がんの原因になるといわれていて、主に性交渉により感染。性交渉の経験がある女性の約70%が生涯に一度は感染するありふれたウイルスで、感染は一時的でほとんどの場合は自然に消えるといわれていますが、ごく一部のケースで、感染が長期に持続すると数年から数十年後に子宮頸がんを発症するとされています。また、ウイルス以外では、喫煙もこのがんの危険因子であることがわかっています。
本来は40代の方に多い病気ですが、初交年齢(初めて性交を経験した年齢)の低年齢化により、最近は20~30代の比較的若い世代の患者さんも増加傾向にあるようですね。
検査としてはまず、細胞診というものを行います。子宮の入り口の表面を柔らかいブラシでこすり取り、その細胞を調べます。この検査で異常が疑われた場合、コルポ診という拡大鏡による子宮の入り口の観察や、組織診という子宮の入り口から小さく切り取った組織を調べる検査が必要になります。
子宮頸がんと不妊、治療は併行できる?
子宮本体は残す手術で妊娠・出産したケースも
不妊治療中に子宮頸がんの検診で異常が見つかったとしても、異形成と呼ばれるがんになる前の細胞変化の段階がほとんどです。異形成の程度によっては詳しい検査が必要になり、その間治療はお休みしたほうがよい場合もありますが、定期的に検査を行いながら不妊治療を続けているケースも多く見られます。
がんと確定診断がついた場合、病変部が上皮という表面部分までにとどまっている状態であれば、子宮の入り口の一部のみを切除し、子宮を残すことができます。病変が表面部を越えてしまった、いわゆる浸潤がんであれば子宮を全摘せざるを得ないのですが、最近では子宮本体は残し、子宮の入り口部分のみを大きく切除する手術で妊娠・出産できた患者さんの報告も。症例や治療法の選択によっては、ある程度がんが進行していても、希望をもてることもあるので、医師とよく相談していただきたいと思います。
「乳がん」になるリスクが高い人は?
妊娠・出産経験のない人や初産年齢が高い人は注意を
乳房には乳汁をつくる乳腺と乳汁を運ぶ乳管と呼ばれる組織がありますが、乳がんのほとんどは乳管からできます。年齢別で見ると30代から増え始め、40~50代が発症のピークに。わが国で増えているがんの一つで、最近20年で罹患数は約20倍になっています。
乳がんの発生にはエストロゲンという女性ホルモンが深くかかわっていることが知られており、初潮が早いことや閉経が遅いことでエストロゲンにさらされる期間が長くなり、リスクが高まります。
また、妊娠・出産を契機に乳腺の細胞が悪性化しにくい細胞に分化すると考えられており、妊娠や出産経験のある女性に比べて、ない女性は乳がんの発症リスクが高く、さらに初産年齢が高いほどリスクが高まる傾向にあります。ほかに閉経後の肥満や飲酒・喫煙などの生活習慣、良性乳腺疾患の既往、家族歴がある(母親、祖母、叔母などが乳がん)なども危険因子になるので、当てはまる方はより注意が必要でしょう。
検査は乳房を目で観察する視診、指で乳房や脇の下に触れてしこりの状態を調べる触診、マンモグラフィーと呼ばれる乳腺専用のX線検査・超音波検査があります。
このような初期検査で疑いがあり、さらに精密な検査で乳がんと診断された場合、進行状況によって乳房全体や部分的な切除手術、術後には放射線療法や抗がん剤治療、ホルモン療法などが必要になる場合があります。いずれにしても不妊治療中にがんが発見されたら、乳がんの治療を優先すべきだと思います。
治療後、乳腺外科の先生の許可をいただければ不妊治療を再開することができますが、女性ホルモンが含まれる薬や増えるような治療により経過が悪化することもあるので、慎重に行っていく必要があります。最近では、一部の医療機関において、乳がん治療に入る前に卵子を採って、未受精卵あるいは受精卵の状態で凍結保存し、将来の不妊治療再開に備えるという対策も可能になってきています。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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