凍結精子を使ってできた受精卵を再度凍結しても大丈夫?
コラム 不妊治療
凍結精子を使ってできた受精卵を再度凍結しても大丈夫?
「受精卵に影響はないのでしょうか? 食品とは凍結方法も違うし一緒ではないと思うのですが、疑問に思ったので教えていただきたいです。」
凍結精子を使ってできた受精卵を再度凍結しても大丈夫?
波多野 久昭 先生(ノア・ウィメンズクリニック)
相談者:どらみさん(35歳)
凍結精子を使った胚の凍結
顕微授精で第1子を授かり、現在第2子の治療をしています。第1子の時、体外受精の予定でしたが夫の都合がつかず、事前に凍結しておいた精子を使い顕微授精をしました。その時3つ受精卵ができて、新鮮胚移植で第1子を授かり、残りの2つを凍結しました。今回凍結していた受精卵の1つを使って移植し、判定待ちをしています。食品だと何度も解凍・冷凍をすると質が落ちますが、凍結精子を融解して顕微授精し再度凍結しても大丈夫なのか気になりました。受精卵に影響はないのでしょうか? 食品とは凍結方法も違うし一緒ではないと思うのですが、疑問に思ったので教えていただきたいです。
食品の場合一度解凍したものを再凍結するのは良くないとされていますが、体外受精、顕微授精ではどうなのでしょうか。
結論から言えば大丈夫です。精子の凍結は歴史的に受精卵の凍結より先に行われていて、1949年に最初の報告があります。精子の細胞は卵子よりも小さく、中には遺伝情報の染色体が入っているだけです。細胞質がないので、凍結してもダメージを受けるリスクが少ないのです。
卵子のほうは受精して発育し赤ちゃんをつくらないといけないので、細胞分裂するために必要なものが細胞質にたくさん入っています。水分が入っているので、同じような条件で凍結させるとダメージが起きやすいため、水分が結晶にならないように凍結しなくてはなりません。精子はそういうものが含まれていないので、昔から簡単に凍結できていたのです。
凍結した精子を使って顕微授精し、ちゃんと受精して育っているのであれば、それはフレッシュな精子で受精したものと基本的には同じです。ですから凍結精子を使ってできた受精卵を再度凍結しても問題ないということです。
胚の凍結方法について、詳しく教えていただけますか?
さきほどもお話ししたように、凍結する際には細胞の中の水分が結晶をつくらないようにしなくてはなりません。以前は受精卵を急速に凍結するとダメージを与えるのではないかと考えられ、徐々に水分を抜きながら温度も徐々に下げていくという緩慢凍結法で行われていました。しかし今は専用の培養液を使って受精卵を脱水状態にすることができるようになりました。受精卵を通常の培養液で胚盤胞まで育て、凍結するとなった時に専用の培養液に替えるのです。その後、液体窒素で急速に凍結します。
受精卵の状態は緩慢凍結法よりも急速に凍結するガラス化法のほうがいいとされています。当クリニックでも年間400~500件の受精卵を凍結していますが、凍結したことでダメになってしまうケースはその中で1件あるかどうかです。それは凍結した精子を使った場合でも変わりません。
凍結は細胞を「眠らせる」という感じになります。それぞれの細胞や臓器によって最適な凍結方法があります。今は人間を丸ごと凍結して生き返らせることはできませんが、凍結の技術がもっと進めば、凍結しておいて何年か後に眠りから覚める…ということも可能になるかもしれません。
凍結により受精卵が極端にダメージを受けていたら、融解した時に復活しません。どらみさんは凍結・融解した精子を使ってできた受精卵を再度凍結したことで質が悪くならないかを気にされていますが、受精して育ってきているなら、精子がもっている遺伝情報もしっかり育ってくれていると思って大丈夫。心配ないと思います。
波多野先生より まとめ
●精子の凍結の歴史は長く、ダメージを受けるリスクは少ないです
●着床して育ってきているなら凍結による質の低下の心配はありません
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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