7回の顕微授精に失敗原因は卵子? それとも精子?
山下 能毅 先生(宮崎レディースクリニック)
相談者:衣千夏さん(32歳)
顕微授精、過去7度の失敗の原因について
主人の無精子症で、過去7回顕微授精を行いましたが、すべて陰性。なぜ失敗したのか悩んでいます。やはり私の卵子が悪かったのでしょうか? 不育検査、子宮鏡検査などできる対策はすべてしました。シート法、2段階胚移植、ハッチング、エンブリオグルーでの培養、ヘパリン注射もダメでした。2回採卵を行い、1回目は45個(ほぼG2)、2回目は34個(G1が7個、G2が22個ほか)でした。先日、ほかの不妊治療病院で卵子が採れすぎると質が下がってよくないと指摘されましたが本当でしょうか? 検査結果で私には何も原因がなかったので、卵子も問題ないと勝手に思っていましたが、目の前が真っ暗です。今後も顕微授精をするために何ができますか?
顕微授精を7回されていますが結果が出ないそうです。
精子と卵子について、それぞれお話しします。おもな原因としてご主人の無精子症があります。原因は不明ですが、この場合はMDーTESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)で採取した精子で顕微授精する方法しか選択肢はありません。すでに2回行って精子を凍結保存されていらっしゃると思いますので、現状ではこれ以上の対応策はないと思います。
次に卵子についてです。衣千夏さんは2回の採卵で、1回目45個、2回目34個とありますが、毎回の採卵数が多いのが気になります。さらに、採卵数と卵子のグレードについては書かれていますが、実際に胚盤胞になった卵子がいくつあったのかなど、その後の経過が不明です。おそらく卵巣刺激が強すぎて、卵胞に未成熟の卵子がたくさんできてしまうPCOS(多嚢胞性卵胞症候群)の可能性が高いと思われます。PCOSは卵胞の発育障害だけでなく、卵子の質の低下や流産率を高める可能性が指摘されています。まずは卵巣刺激が少ないマイルド法で、卵巣をゆるやかに刺激して確実に成熟した卵子を採卵するといいと思います。
ほかに考えられることはありますか?
もし受精卵自体を疑うのであれば、タイムラプスで受精卵の発育スピード、分裂パターンを観察し、良好な胚盤胞を選別する方法があります。
着床の問題については、すでに卵管造影検査などさまざまな検査をされているようですが、着床率を高める方法として、GーCSF子宮内注入法があります。GーCSFは好中球の機能を高める作用があり、胚移植前の子宮内に注入することで子宮内膜を厚くし、その後の妊娠成績が改善したという報告があります。ちなみに、当院でもなかなか結果が出ない方に行っていますが成功率は20〜30%です。
さらに、凍結融解胚盤胞を移植する場合、着床に適したタイミングを調べるERA(子宮内膜着床能)検査もあります。一般的には、胚盤胞は5日目、初期胚は3日目で移植しますが、ERA検査では遺伝子レベルでそれぞれの人に合った移植日を調べることができます。ただし、検査機関がスペインにしかないため、時間と費用がかかるといったデメリットもあります。
今後、この方が妊娠できる可能性についてはいかがでしょうか?
まだ32歳とお若いですし、これだけ卵子が採れているのであれば、今後の可能性はあります。ご質問にも書かれているように、卵子が採れすぎると未成熟卵が増え、卵子の質が下がる傾向はあります。当院では、「採卵2〜3回を目安に子どもが1人授かれるつもりで頑張りましょう」とお伝えしています。この方もマイルド法で確実に成熟した卵子を採卵し、もう1回チャンレンジされてみてはいかがでしょう。
山下先生より まとめ
●採卵数が多いのはPCOSの可能性も。マイルド法で確実に成熟した卵子の採卵を
●胚や着床の問題ならタイムラプスによる移植胚の選別やG-CSF治療も有効です
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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