夫がEDぎみ。2人目を人工授精したいけど…
奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜)
こはるさん(主婦/36歳)からの相談
●2人目不妊の治療について
主人は40歳、私はもうすぐ37歳です。結婚当初から主人がEDぎみでセックスは相当少なく、子どもは諦めていたところ4年前に自然に妊娠、出産しました。子どもが好きな主人は2人目が欲しいと言うので2年ぶりに子づくりしたのですが最後までいきませんでした。それ以来、完全に自信がなくなったようで子どもが欲しいとすら言わなくなりました。病院で夫婦での受診をすすめられたのですが、夫は行きたがらず、不妊治療など人工的なことをするくらいなら2人目は諦めると受診しませんでした。しかし、娘が赤ちゃんを欲しいと言い出し、夫が泌尿器科でバイアグ○をもらってきて1年半ぶりにしたのですが、勃起は継続しても射精はできませんでした。翌日に副作用があったようで、私も心配でもう薬は飲まないでほしいです。夫はHサイトなどで射精はできるようです。私はホルモンや排卵など問題ないようなので、タイミング法で人工授精まで挑戦してみたいです。人工授精もかなり痛いという話を聞くと、スポイトを使って自分でしてみようと思うのですが、時間の無駄でしょうか?
ED=勃起不全には薬物療法で、血流改善が有効に
EDとは勃起不全のことで、性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起ができないことで満足な性交が行えない症状のことです。そもそも勃起は、性的な興奮が神経を通じて男性器に伝わり、陰茎海綿体の動脈が拡張し血液が十分に送られることで起こります。一方、神経や血管がうまく機能せず、陰茎海綿体に血液が十分に送られなくなると勃起不全が起こりやすくなります。
EDは要因によって「器質性ED」と「機能性ED」の2つに分けられます。前者は加齢や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化によって起こるED。後者は精神的なストレスによって神経の性的興奮が男性器にうまく伝わらないことで起こるEDです。治療法としては、バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®といった薬物療法で血流の改善をうながします。さらに当院ではレスベラトロールというサプリメントを併用しています。レスベラトロールはぶどうの種や皮に含まれる抗酸化物質で、血管拡張作用があるといわれており、薬物療法と同じように血流改善が期待できます。
射精障害には有効な治療法がなく人工授精が第一選択に
おそらくご主人はEDではなく、射精障害だと思われます。射精障害はマスターベーションでは射精ができるのに、性交時に腟内に射精ができない状態をいいます。原因は精神的なストレスや誤ったマスターベーションの習慣によって起こるといわれています。ご主人の場合はタイミング法によるプレッシャーなどが原因で精神的なストレスがかかり、余計に射精ができなくなっているのかもしれません。残念ながら射精障害にはEDのような治療法がないため、赤ちゃんを希望される方は人工授精が第一選択になります。また、射精障害の方は精子所見も悪い傾向がありますので、そういう方には早めの体外受精や顕微授精をおすすめしています。そのほか当院では、心理カウンセラーによるカウンセリングをご夫婦で受けていただくこともあります。
近年、EDや射精障害といった男性不妊が原因で、人工授精を希望される方は増えています。なかでも射精障害はメンタル面が原因であることが多く、一般的にこのような悩みを抱えた男性は、自分自身に問題があるにもかかわらず検査を受けようとされず、奥様に非協力的でネガティブな傾向があるように感じます。赤ちゃんを授かるのはお二人の協力がなければできません。むずかしいかもしれませんが一つの目標に向かって、ご主人と一緒に取り組んでいくことが大切だと思います。
妊娠は夫婦の協力が大切二人できちんと話し合いを
2人目を希望されるのであれば、早くに人工授精をされるのがいいと思います。1人目を自然妊娠されており、その後のホルモン値なども問題ないとのことですので、精子さえ腟内に入ることができれば妊娠の可能性はあるでしょう。ただ、1人目を妊娠された時よりは、妊娠率が下がってくる年齢にさしかかっていますから、人工授精されるにしてもスピード感が重要になってきます。ご質問のスポイトの使用については感染のリスクもあり、医師の立場からはおすすめできません。
また、ご主人のお気持ちにもよりますが、泌尿器科の先生にきちんと診てもらってはいかがでしょうか。当院では毎月1回(土曜日)に泌尿器の専門医による男性不妊外来を行っています。このようなケースでは、女性側と男性側の両面の治療が大切になりますから、まずは泌尿器科で勃起不全、射精障害といった器質的な異常がないかを必ず確認してもらうようにしています。たとえば、EDの場合は高血圧、脂質異常症、糖尿病など内科的な疾患が隠れている可能性があります。糖尿病のコントロールをするだけで治るケースもあります。お二人でよくお話をされて、納得できる選択をしてください。
院内の静かな場所に設けられた採精ルーム。毎月1回(土曜日)、泌尿器専門医による男性不妊外来も行っています。
TOPIC
お薬の特性を理解し、自分に合った選択を
ED(勃起不全)の治療薬にはバイアグラ®、レビトラ®、シアリス®の3種類があります。それぞれに効き目、使用感、持続時間、副作用が異なります。特徴としては、バイアグラ®は服用後30分程度で作用し、血中濃度のピークは1時間後(持続時間は5〜6時間)。レビトラ®は服用後15分程度で作用し、血中濃度のピークは45分後(持続時間は5〜6時間)。シアリス®は1〜2時間でゆっくり作用し、24〜36時間持続します。即効性が高いものから、長く持続するマイルドなものまであり、自分に合ったお薬を選ぶことが大切です。ちなみに、これらのお薬は血流改善を目的としているため、EDとは原因が異なる射精障害には効き目はありません。
奥先生より まとめ
ご主人は射精障害の可能性が。早めの人工授精をおすすめします
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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