黄体機能不全でのIVF
五十嵐 俊夫 先生(いがらしクリニック)
相談者:シャネさん(29歳)
黄体機能不全でのIVF
不妊治療を4年続けています。かつては30歳までには出産したいと夢見ていましたが、かれこれ4年経ってしまい、30歳目前となってしまいました。周囲が次々と妊娠・出産するのを見て、毎日家で泣いてばかりで疲れてしまいました。夫にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。子連れを見てひがんでしまう自分もすごく嫌いで、子宝グッズが溜まる一方の生活にも飽き飽きしました。
これからIVF(体外受精)に進むつもりなのですが、私は黄体機能不全です。黄体機能不全の方で、体外受精で妊娠され、出産された方がいましたら、何度目のIVFで妊娠されたのかが知りたいです。
黄体機能不全はIVFの妨げになりますか。
IVFで黄体機能不全が問題になるのは、新鮮胚移植を行うときとホルモン補充周期で凍結胚融解移植を行うときです。この場合は誰でもみんな黄体機能不全になると考えられています。すでに不妊治療で通院されているのなら、今までのデータも参考にして担当医がきちんと黄体ホルモンを補充してコントロールしてくれるので、安心してください。黄体機能不全であっても、妊娠・出産された方はたくさんいらっしゃいますから、大いに希望を持ってIVFに進んでください。
黄体機能不全は不妊の原因になり得ますか。
一般的にはこれまで、基礎体温の高温期が12日より短い、0.3℃以上体温が上がらない、プロゲステロンの数値が10以下などであると、黄体機能不全と診断されてきました。そのため、改善のために黄体ホルモンを補充するなどしてきたのですが、実は近年では「黄体機能不全」という概念そのものがなくなりつつあります。
なぜなら、黄体ホルモンは1日の内でも変動が激しく、正確な数値を測るのがとても困難で、診断を下すのが難しいからです。2015年に発表された論文でも、「不妊を引き起こす独立した疾患としての黄体機能不全は確認されていない」と報告されました。
黄体機能の異常は存在しますが、甲状腺機能の異常、乳漏症といった疾患をともなわない限りは、黄体機能不全は治療の対象になりません。自然周期においても、「黄体機能不全症に対する治療を試みても、妊娠率の上昇は得られない」と論文は述べています。
つまり、甲状腺機能異常によるTSHの上昇や乳漏症によるプロラクチンの上昇は、黄体機能不全を起こし不妊の原因になり得ますが、それ以外は治療の対象とはならないのです。
今後の治療において、相談者さんにアドバイスを!
シャネさんは治療期間が4年で、「これからIVFに進む」とありますが、これまでどのような治療をされてきたのでしょうか? ご主人の精子データをはじめ、検査結果の記載がないので何とも言えませんが、必要な検査はきちんと受けて、担当医とよく話し合うことが大切です。もしかしたら、「まだ20代だから」とちょっと治療をお休みしたりされていたのかもしれませんね。きちんと通院したのに結果が出ずに「毎日泣いてばかり」ということでしたら、気持ちを前向きに切り替えてIVFに進んでください。
ストレスは、不妊はもちろん健康を脅かす大敵ですから、どうか明るい家庭を心がけ、ご主人とも仲良くしてください。
五十嵐先生より まとめ
黄体機能不全は、妊娠の妨げとなる決定的な疾患ではなくなりました。IVFに進むにあたってはホルモンのコントロールも同時に行われるので、黄体機能不全を問題視する必要はありません。心配し過ぎず、担当医とよく話し合って治療を進めてください。