ステップアップのタイミング
2017/11/30 岡田英幹 先生(おかだウィメンズクリニック)
相談者:ポテコさん(30歳)
妊治療を始めて1年です。
卵管造影検査の結果、右側卵管狭窄、左側卵管閉塞の疑いで、今年の6月にFT(卵管鏡下卵管形成術)の手術を受けました。
手術後、卵管はどちらも通ったとのことでしたが、「卵管にダメージがあり(絨毛の凹凸が少ない)、繊維の浮遊も見られた」と言われました。
このような場合でも自然妊娠は可能なのでしょうか?
精液検査は異常なかったのですが、フーナーテストの結果が良くなかったので、手術後、人工授精も1回しましたが、妊娠しませんでした。
次回も、人工授精を予定していますが、早めに体外受精へステップアップするべきか悩んでいます。
卵管の狭窄や閉塞が起こる原因は?
卵管狭窄、閉塞が起こる原因の一つは、細菌の感染による卵管炎です。なかでも、性行為により感染するクラミジアは、感染しても自覚症状が出ない場合が多く、感染に気付かないまま卵管まで炎症が及び、卵管の狭窄、閉塞を起こしてしまうことがあります。
また、子宮内膜症が進行している場合や、以前に骨盤内の手術を行っている場合も卵管周りの癒着により、卵管狭窄、閉塞を起こしている場合があります。癒着があるかどうかは、内診や超音波検査でははっきりしないため、麻酔をした上で、腹腔鏡などにより、直接、骨盤内を観察し確認をすることもあります。
手術中の所見から卵管のダメージについてはどう思われますか?
卵管の内側の壁には微絨毛という軟らかい形態の細胞があり、卵子や受精卵を子宮まで運ぶという働きをしているのですが、細胞の凹凸が少ないということは、細胞がダメージを受け、その機能に問題がでている可能性があります。一度卵管全体に炎症が起きてしまうと、内側の細胞の働きは以前通りには回復しないことが多く、FT(卵管鏡下卵管形成術)により卵管の狭窄、閉塞が解除できても、なかなか妊娠に至らないという問題があります。
また、卵管周りの癒着が強い場合も、排卵した卵子をピックアップする機能に問題が起きていることがあり、妊娠が成立しない原因となります。
体外受精へのステップアップは早めの方がいいのでしょうか?
一般的には、FT(卵管鏡下卵管形成術)により卵管の開通が確認できた場合は、当然、自然に妊娠することも可能であり、半年間くらいは経過をみることが多いのですが、患者さんの年齢や狭窄、閉塞の原因、卵管鏡の所見などを考慮し治療方針を決めます。
ご質問の患者さんの場合、現在30歳であり、また両側とも卵管の通過が確認できたので、ある期間、一般的な不妊治療を行っていくことになると思います。
具体的には、フーナーテストの結果が良くないということなので、人工授精を何回か試すことがよいかと思いますが、経過中、再び卵管の狭窄、閉塞が起きることもあるため、時々卵管通水検査などで卵管がまた閉塞していないかを確認することは必要と思います。
また、ご希望があれば、クロミフェンなどの内服薬やhMG製剤などの注射で排卵誘発を行い、一度に複数の卵子を排卵させることで、卵子が卵管に取り込まれる確率を高めることを目的とした過排卵誘発治療を併用することもあります。
以上のような治療を行っても妊娠されない場合は、卵管性の不妊症として、体外受精を行うことがよいと思います。どのくらいの期間で体外受精治療に移るかは、ケースバイケースですが、人工授精を自然周期あるいは過排卵誘発周期で3-4周期行ったところで、考えて頂く方がいいのではないでしょうか。
岡田先生より まとめ
FT(卵管鏡下卵管形成術)を行って、人工授精を1回やったところで結論を出すのは、少し早い気がします。左右の卵管とも、FTで無事、通過したということであれば、3-4周期を目処に、自然周期や排卵誘発剤を併用した周期で人工授精を行ってみるのがいいのではないでしょうか。