相談者:タコの花嫁さん(30歳)
1人目の子どもは流産の後、1年半不妊専門クリニックに通った末、タイミング法を経て人工授精5回目に授かりました。現在2人目の妊娠を目指していますが、治療をはじめてからすでに2年半経ちます。これまでタイミング法を10回、人工授精を14回行いました。この間、通院1年ほどで妊娠反応がありましたが8週目で稽留流産しています。何か問題があるのでは?と思い、「検査をしたい」といった話をしましたが、病院側の回答は、「妊娠の経験があるから大丈夫。検査の必要はない」とのこと。どうなのでしょう?
経済的にステップアップは難しいということもありますが、病院側も「年齢もまだ若いし、今すぐ体外受精に進まなくても」という考えのようで、ステップアップを勧めてきません。だからといって何のアドバイスもくれないのでモヤモヤし、こちらにご相談しました。
病院側は「検査の必要はない」と言っていますが?
必要はないと思います。
言葉のあやですが、必要とは「必ず、要る」ということで、そういう意味にとらえれば、「必ず検査を受けた方が良いか」と言われれば、NOです。ご質問者さんは妊娠の経験もありますし、クリニックとは第1子からのお付き合いのようで通院歴も長い。
もしも子宮筋腫などの妊娠の妨げになっている病的因子があれば、すでにわかっているでしょうし、その上でやれる治療はもうなさっていることと思います。
検査をしても、それでわかった結果や数値が妊娠につながるとは限りません。
「この数値を高めれば必ず妊娠する」というわけではなく、多くは原因不明で、不確実性の下でなされるのが不妊治療です。また、検査には保険適応外のものもありますし、経済的負担にもなります。
妊娠は、奇跡の連続の上に成り立っています。運よく良い卵子が出て、タイミングよく卵管に入って健康な精子と出会い、着床することで妊娠が成立します。 第1子が幸運に恵まれて生まれたからといって、第2子も同じように妊娠するとは限らないのです。
しかし必要はありませんが、検査をする意義がない訳ではないと思います。事情が許せばもう一度洗い直すことは無意味とは思いません。何かあるかもしれません。
躊躇されていますが、ステップアップを考えるべき?
状態の良い卵子を選べる、
状態の良い精子を選んで受精させることができる、
着床しやすい時期を見極められる、
または着床しやすいように薬で整えてから子宮に戻せる、
とステップアップのメリットは少なくなく、妊娠の可能性は確実に増すと思います。
妊娠に必要な、卵子や精子の健康状態、受精の確認、子宮内膜の良い状態のときに戻すなど、ある程度人為的にコントロールすることができ、胚移植までは「順調に進んでいるか」の検証が可能なのが体外受精です。
人工授精では、月経があっても必ずしも排卵しているとは限りませんし、排卵していてもそれがどんな状態の卵子かも解りません。
ホルモン値の変動だけでは、卵子の状態なども解らないままで、その後の受精、着床も運にまかせるしかありません。
どこまでの治療をご希望されるかは、ご夫婦のお考えしだいです。
クリニックに対して“モヤモヤ”とした不信感をお持ちのようですが、「ステップアップしてでも早く2人目を授かりたい」という患者さんの明確なご要望があれば、担当医はご希望通りにします。
しかし、その病院では病院側から強くお勧めすることはないようですね。患者さんによっては背中を押してあげた方が決断できることもあるのですが、夫との意見の違いでストレスが増してしまう方もいて、難しいところです。
ご質問内容から、松本先生が気になった点はありますか?
ご質問者さんの、精神的ストレスが気にかかります。
なかなか思いが叶わず、不安と焦燥感、苛立ちと虚無感などがないまぜになっているのではないでしょうか。
これだけ努力されているのですから、結果が出ないという事実は受け止めにくいことでしょう。
また、「まだお若いから、妊娠経験もあるから大丈夫」という言葉は、客観的には“励ましの言葉”と受け取れますが、精神的にネガティブな状態にある今のご質問者さんにとっては、“無責任な言葉”としかとらえられないのも無理はありません。
もしも、現在の担当医に不信感がある、治療法を懐疑的に思う、というのであれば、転院を考えても良いかと思います。
転院すれば、費用はかかりますがイチから検査をするでしょう。
また、まだ30歳ですから、半年~1年ほど治療をお休みして、気分転換してストレスを解消し、その間に自然妊娠するよう夫婦仲を深めるといったことも有効と思います。妊娠には、心身ともに健康であることが大事です。ストレスは大敵と心得てください。
松本先生より まとめ
漫然と同じ治療を繰り返すことで、精神的ストレスを抱えているのでは?ステップアップを試みる、転院を考える、思い切って治療をしばらくお休みするなどして、まずは気分転換を!治療法も病院まかせにせず、「こうしたい!」という要望があれば願い出ましょう。
松本 和紀 先生(松本レディースクリニック 院長・理事長)
日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本生殖医学会生殖医療専門医。昭和54年、東京慈恵会医科大学卒。昭和58年、同大学院博士課程修了。昭和60年、医学博士号学位受領。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェロー「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年から、東京慈恵会医科大学産婦人科助手、同大産婦人科副医局長・医局長・産婦人科講師(不妊・生殖班班長)兼診療医長を経て、平成11年にクリニック開設。平成24年、医療法人社団愛慈会を設立しリニューアル。
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