【特集】夫に治療の相談ができない
コラム 不妊治療
【特集】夫に治療の相談ができない
不妊治療では治療を始める前、治療中、治療のやめ時まで、さまざまな場面で選択が必要になります。しかし、そんな時に「ご主人に相談できない」という人も。男性に治療に参加してもらう方法は? 久保みずきレディースクリニックの石原尚徳先生に伺いました。
※2019年8月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn」の記事です。
- なちぃさん(34歳)からの相談
● 人工授精の限界 - 結婚して8年。昨年から不妊治療をしています。タイミング法では授からず、人工授精6回目で妊娠するも子宮外妊娠。治療を再開し、現在は人工授精8回目ですが、体外受精をすすめられました。費用に余裕もないので、体外受精に用いられる点鼻薬とHMGの毎日の注射で次の人工授精に向けて調整しています。もともと多囊胞性卵巣のため、注射の副作用で卵巣が腫れることがしょっちゅう。きっと人工授精では授からないんだなと思い、諦めて仕事に没頭するか悩みます。不妊治療を始めるのも、やめるのも結局一人で決めなければいけないのでしょうか。夫に相談しても曖昧な返事。皆さん、人工授精は何回までされましたか。
- 「不妊治療の流れ」まとめ
- 家族以外の専門的な知識をもつ、
第三者を仲介役に話し合いを
人工授精の目安を参考にそろそろ体外受精の検討を
人工授精の目安は、女性の年齢が35歳未満で、精子の状態に問題がない方については5〜6回です。その理由は、これ以上繰り返しても妊娠率が向上しなくなるためです。また、女性の年齢が35歳以上で、精子の状態が思わしくない方は、人工授精を2〜3回行ってから体外受精を検討します。
ご相談者のなちぃさんは、そろそろ体外受精を検討されたほうがいいですね。子宮外妊娠をしたということは、もともと卵管に原因があったと思います。子宮外妊娠をした片側の卵管については、摘出手術や切開手術などの治療をされているでしょうから、妊娠の見込みは薄くなっていると思います。さらに、卵管の片側に問題が見つかると、もう片側にも問題が隠れていることもあります。
人工授精で一度妊娠されていますので、「次は何とかなるかもしれない…」と、期待してしまうお気持ちもよくわかります。たとえば、「納得するまで試してみたい」というご本人の強い希望によっては、人工授精を10回程度まで繰り返すことは可能かもしれません。しかし、それも年齢が若い間に限られます。現在34歳とのことですし、すでに回数を重ねていますので、どこかで区切りをつけるべきなのかなと思います。
「不妊相談」などを利用してご夫婦でお話し合いを
なちぃさんのように、女性が一人で治療を選択したり、決断されることは多いと思います。最近は、初診時にご夫婦でお越しになる方が増えましたが、奥様のご希望を聞いて、ご主人が受け身で治療に参加されていることも多いようです。おそらく男性は、不妊治療への実感がわきにくいのだと思います。
男性に治療に参加してもらうためには、不妊治療について理解を深めてもらうことが大切です。ご夫婦の時間が合う時に、一緒に外来を訪れてみてください。そうすれば、ご主人は奥様がどんなふうに治療をされているのか、イメージしやすくなると思います。
ただ、なかには不妊治療について「夫婦で面と向かって話しにくい」という方もいらっしゃいます。そこで、当院では生殖医療相談士による「不妊相談」の活用をおすすめしています。家族以外の専門的な知識をもつ第三者(生殖医療相談士)が仲介役になり、ご夫婦それぞれのお気持ちを聞いて、一緒に解決策を見つけていきます。お話し合いの結果によっては、治療に進まれる方もいれば、治療を見直される方もいます。ご夫婦によって選択はさまざまです。
体外受精を迷われている方は、各施設で行っている「IVF(体外受精)セミナー」に、ご夫婦で参加されるのもいいでしょう。脳は男性と女性で差があるといわれ、同じ物事に対しても受け止め方がまったく違います。ですから男性には、「奥様の治療のリスクがどのくらいあるのか」、「どれだけの費用がかかるのか」といった、治療のリスクや成功率、費用、治療のスケジュールなどを具体的に示すことが大事だと思います。
そして、男性には奥様の話をよく聞いてあげてほしいと思います。女性は、ご主人に話を聞いてもらうことで、「協力してもらっている」と感じることもあるようです。不妊治療がお互いのストレスになり、ご夫婦の仲が悪くなるのが一番よくありません。時には奥様をデートに誘って気分転換させてあげることも大事。二人の時間を大切にしてください。
- 1. 人工授精の目安は5〜6回
- 人工授精の目安は、女性の年齢が35歳未満で、精子の状態に問題がない場合は5〜6回。女性の年齢が35歳以上で、精子の状態が思わしくない場合は2〜3回です。35歳以上になると、卵子の老化などによって、体外受精の妊娠率も少しずつ低下しはじめ、反対に流産率が上がってきます。早めにステップアップを検討しましょう。
- 2.「不妊相談」を気軽に活用して
- 不妊治療中のさまざまな悩みは一人で抱えずに、家族以外の専門的な知識をもつ第三者に相談しましょう。当院では、生殖医療相談士が「不妊相談」(祝日を除く毎週土曜日、午後〜)を行っています。治療について「夫婦で面と向かって話せない」というご夫婦をはじめ、「治療に不安や心配がある」という女性や男性、お一人でも気軽に活用してください。
- 3. 「IVFセミナー」にご夫婦で参加を
- 体外受精を迷っている時は、当院の「IVF(体外受精)セミナー」にご夫婦で参加してみてください。体外受精のリスクや妊娠率、治療スケジュール、費用など具体的な理解を深めることができます。当院は回数制限がないので、時間が合わせにくいご夫婦は個別の参加もできます。正しい知識を身につけて、ご夫婦で納得のいく選択をしてください。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn
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