胚のグレードは悪くないのに着床しないのはなぜ?
コラム 不妊治療
胚のグレードは悪くないのに着床しないのはなぜ?
皆さんの治療に関する相談を全国のドクターにお聞きして、誌面でアドバイスをお届けする人気企画「ジネコ セカンドオピニオン」。ジネコの応援ドクターが丁寧にお答えいたします
※2019年11月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter」の記事です。
- まるめっこ。さん(33歳)からの相談
▶着床障害で打つ手がなく、行き詰まっています - 胚盤胞移植を3回行いました。グレードは6AA、4AB、5BB。1回目が化学流産、そのほかは陰性でした。不育症検査でプロテインS活性が引っかかり、2回目の移植からバイアスピリンⓇを服用。ラクトフローラⓇも毎回使用しています。TH検査、ALICE検査も異常なしでした。3回目はブスコパンⓇやステロイド剤も服用しました。すべてAHA、SEET法を実施。先生には「CD138検査、夫婦の染色体検査以外には受ける検査はない」と言われています。胚のグレードも悪くなく、着床に関する検査もかなり受けたので、途方にくれています。ERA検査はエビデンスが疑問との調査をみて、実施は考えていません。上記の検査を受ける意義も含め、今後のアドバイスをお願いします。
- まとめ
- ●子宮内膜症によって着床しにくくなっている場合は、ダナゾール療法も有効です。
●低刺激法だけでなく調節卵巣刺激法に変えたり、移植法に変化をもたせて根気よく続けて。
まるめっこ。さんは子宮内膜症があるそうです。CD138免疫染色検査、夫婦の染色体検査のほかに必要な検査はないのでしょうか?
CD138検査は慢性子宮内膜炎を調べる検査です。まだ診断基準が確立しておらず、結果の判断が難しいかもしれません。慢性子宮内膜炎の病原菌を調べるALICE検査(感染性慢性子宮内膜炎検査)で問題ないとのことですので、必ずしもCD138検査を受ける必要はないと思います。ご夫婦の染色体検査は受けてみてもいいかもしれません。
子宮内の乳酸菌の割合を上げると着床・妊娠率が上昇するといわれています。すでにラクトフローラを使用されていますので、子宮内の乳酸菌が増えていることが期待されます。EMMA検査(子宮内マイクロバイオーム検査)で子宮の細菌環境を確認されてもいいでしょう。
また、受精卵(胚)に問題がないのに着床障害が疑われる場合は、適切な移植時期に良好胚が戻せていない可能性があります。「着床の窓(子宮内膜が胚を受け入れる時期)」を個々に特定するERA検査(子宮内膜着床能検査)が有効なこともあります。当院では、2019年8月からERA、EMMA、ALICEを行っています。
やはり着床障害なのでしょうか?
一般的に、40歳以上で4個以上の良好胚移植を最低3回繰り返しても着床しない場合を反復着床障害といいます。まるめっこ。さんは一度、妊娠反応が出ていますね。3回とも低刺激法で治療されていますが、その時にHCG注射を使用されていると、たとえ着床しなくてもお薬の影響で妊娠反応が出てしまうことがあります。着床障害かどうかを判別するのは難しいですね。
ほかにどのようなことが考えられますか?今後の治療法について教えてください。
子宮内膜症によって着床しにくくなっている可能性も考えられます。腹腔鏡手術を受けられていますが、子宮内膜症の病変はある程度は残っていると思います。当院ではこのような方に「ダナゾール療法」という排卵誘発法をご提案しています。ダナゾールは子宮内膜症を治療するお薬として古くから知られています。また、男性ホルモン作用があり、卵巣機能をよくするといわれています。通常はダナゾールを10〜12週間内服して採卵を行います。これまで受けられた低刺激法とは異なり、調節卵巣刺激法になりますので、採卵数を増やせるかもしれません。
移植方法も複数個移植や二段階移植、まだ凍結胚が残っているのでしたら、新鮮胚と凍結胚を組み合わせた移植法を試してはいかがでしょうか。どうしてもよい胚から戻していきますので、残った胚のグレードは低下していきますが、排卵誘発法や移植法に変化をもたせて根気よく治療を続けていけば、可能性はあると思います。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.44 2019 Winter
≫ 掲載記事一覧はこちら